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国民安保法制懇による緊急声明(5/15)「米国重視・国民軽視の新ガイドライン・「安保法制」の撤回を求める」

 今晩(2015年5月16日)配信した「メルマガ金原No.2092」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
国民安保法制懇による緊急声明(5/15)「米国重視・国民軽視の新ガイドライン・「安保法制」の撤回を求める」

 5月14日に閣議決定され、翌15日に衆議院に提出された戦争法案(政府は「平和安全法制整備法」及び「国際平和支援法」と呼称)、さらに言えば、その大本である「日米防衛協力のための指針(新日米ガイドライン)」については、既に様々な団体が抗議声明を出していますが(末尾にそのいくつかを紹介しました)、私が当面最も注目していたのは国民安保法制懇の見解でした。
 国民安保法制懇は、既にこれまでに、
2015年9月29日 報告書「集団的自衛権行使を容認する閣議決定の撤回を求める」
という2つの報告書及び声明を発表していますが、それぞれ、昨年7月1日の閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」及び同年10月8日「日米防衛協力のための指針の見直しに関する中間報告」の問題点を指摘するとともに、その意味づけについての総括がすとんと胸に落ちるものであり、真の学識経験者の叡智を結集した貴重な成果として参考にさせていただいてきました。
 
 その国民安保法制懇が、昨日(5月15日)午後5時から、衆議院議員会館において「抗議の緊急記者会見+市民集会」を開き、緊急声明を発表しました。記者会見には、メンバーのうちの5名、柳澤協二氏(元内閣官房副長補)、樋口陽一氏(東京大学名誉教授)、小林節氏(慶応義塾学名誉教)、愛敬浩二氏(名古屋大学教授)、伊藤真氏(弁護士)が出席しました。
 その会見の動画が視聴できますのでご紹介します。
 
20150515 UPLAN【緊急記者会見】国民安保法制懇・抗議の緊急記者会見+市民集樋口陽一小林節ほか

1分~ 伊藤真
 
 「緊急声明」朗読
10分~ 柳澤協二氏
 今回の緊急声明は、昨年12月1日の声明に引き続き、柳澤さんが取りまとめの中心となったのだろうと思います。
 以下に全文引用する緊急声明について、柳澤さんから補足説明がなされています。
21分~ 樋口陽一
 米国で先行して約束してきたということは、憲法43条(両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。)を無視したふるまい。
 5.15事件(1932年)の日にあえてこのような法案を国会に提出するというのは、それほど挑戦的なのかそれとも現代史に無知なのか。
29分~ 小林節
 安保法制は、法的にも(憲法9条2項がある以上、日本は海外で戦争はできない)、政治的にも(「非戦の大国」としての70年間という遺産をかなぐり捨てテロの危険を招く)、経済的にも(現在の自衛隊の任務を拡大するというのに経費が増えないはずがない)間違っている。
35分~ 愛敬浩二氏
 安保法制によって、内閣法制局の権威が失墜してしまった。
安保法制を実際に運用するためには軍事審判所が必要であり、そのためには明文改憲が必須である(「お試し改憲」の真の目的は9条2項の削除というよりも、軍事審判所創設
が主目的ではないか)。
 従来「憲法に違反するから出来ません」と言っていたことについて、「憲法上可能ですが、やりたくありません」と言えるか?政治家にそれだけの覚悟があるか?
41分~ 伊藤真
 法の下克上に歯止めをかけるのは市民1人1人でなければならない。
 言葉を抽象化し過ぎてはならない。「武器の使用」「自衛の措置」とは具体的に何をすることか想像力を働かせる必要がある。
46分~ 質疑応答
 
 今後、安保法制の問題点を細かく検討していく作業が必要となりますが、その前提として、問題の本質がどこにあるのかという見極めを持つことは必須です。
 その意味から、昨日発表された国民安保法制懇の緊急声明を是非1人でも多くの方にお読みいただきたいと思います。
 
(引用開始)
               ~国民安保法制懇・緊急声明~
       米国重視・国民軽視の新ガイドライン・「安保法制」の撤回を求める

                            
                            平成27年5月15日
                            国民安保法制懇
 
 政府は、昨年7月1日の集団的自衛権行使容認の閣議決定及び本年4月末の「日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)」を受けて、これを実現するための、いわゆる「安保法制」を国会に提出した。 国民安保法制懇は、昨年の閣議決定が非論理的なものであり、政府の権限を逸脱した不当な憲法解釈の変更であり、憲法に反するものとして批判してきた。今回の「安保法制」と称される一連の法律改正は、それを制度として実現するためのものであり、我々はその違憲性を重ねて強く指摘し、その撤回を求める。 新ガイドライン・「安保法制」の問題点は多岐に渡るが、以下の点にしぼって、問題点を指摘する。
 
1 国民主権議会制民主主義下のあるべき立法についての基本認識の欠如について
 「安保法制」は、「切れ目なく」米国の軍事行動を支援することをうたった新ガイドラインを実行するためのものであるが、このような安全保障・国防に関わる方針の大転換を、政府は、国民の理解や国会での十分な審議なしに実現しようとしている。
 それが米国に奉仕することを主目的としていることは、安倍晋三首相自らが4月末の訪米時に、オバマ大統領との会談において、新ガイドラインが「日米同盟の新時代」を画する歴史的意味を持つことを自画自賛し、その裏付けとなる新安保法制を今夏までに成立させることを、米議会における演説で事実上公約したことに如実に表れている。
 安全保障・国防に関わる方針の大転換は、大多数の国民の理解と国会における超党派の実質的合意なくして実現することは不可能である。それにもかかわらず、国会における説明も議論もないまま、同盟国米国との合意を先行させ、これを既成事実として事後的に国会に法案を提出し、その成立時期まで制約しようとする姿勢は、健全な相互批判と粘り強い合意形成によって成り立つはずの民主主義日本の「存立を脅かす」ものと言わなければならない。
 
2 新ガイドライン・「安保法制」の内容の問題について
(1)新ガイドライン・「安保法制」は、自衛隊派遣の地理的制約をなくし、米国を中心とする国際秩序維持に無制限に、「切れ目なく」協力するものとなっている一方、国会による統制は著しく脆弱なものとなっている。
 新ガイドラインには、平時からの政策調整、運用調整及びさまざまな事態に対応する共同計画の策定がうたわれており、今後、そのプロセスを通じて中東、南シナ海などで生起する可能性があるさまざまな事態における対米協力があらかじめ合意されるとともに、「安保法制」に言うところの国会承認を求める段階に至って初めて国会と 国民の前に明らかにされることになる。
 さらに、その国会承認は、両院に7日以内の議決を要求するのであるから、一歩誤れば国の将来に災いをもたらしかねない各種事態に関する国策が、実質14日間の国会審議で決められることになる。
 現実には自衛隊の派遣等に対する国会による統制は極めて脆弱であり、議会制民主主義による歯止めが全く期待できないという点で問題である。
(2)新ガイドライン・「安保法制」が目指す自衛隊の海外における武器使用権限の拡大により、自衛隊は、他国軍隊と同じROE(交戦規則または部隊行動基準)に従って行動することとなり、事実上の軍隊へと変質することになるが、これは明らかに憲法9条違反である。
 「安保法制」では、武器使用の基準や危害許容要件について、警察官職務執行法と同様の規定が設けられている。他方、国家意志に従い海外における事実上の交戦を行うことによって生じる殺傷・破壊について、その責任は指揮官にあるのか実行者たる隊員にあるのか、あるいは派遣を命じた政治家にあるのか、さらに、誰が、いかなる根拠で起訴あるいは不起訴の処分を行うのかといった法手続きは、軍隊の保有を禁じた現憲法の下で想定することはできないのであって、この意味でも、「安保法制」が憲法と矛盾した法制となることを強く指摘しなければならない。     
 また、従来、非戦闘地域において自己保存のための武器使用に限定すれば足りる任務に従事してきた自衛隊は、事実上の戦闘を前提とした任務をも与えられることとなり、隊員は、従来の任務に比べ質的に異なる高度な危険にさらされることになることについても、厳しく批判しておかねばならない。
(3)新ガイドライン・安保法制が予定する「平時からの米艦船等の防護」は、昨年5月に安倍首相に提出された「安保法制懇」報告書においては、集団的自衛権の行使と位置づけられていたものである。しかるに、今回の安保法制では、これを「受動的・限定的な武器使用」と認識して平時からの自衛隊の権限としている。
 このことの意味は、極めて重大である。すなわち、従来は日本有事の際の共同防衛の一環として米艦防護ができるにとどまっていたものを、平時の共同パトロールや情勢緊迫時の威嚇的軍事演習の際、国会承認も、政治の命令すら待たずに現場の判断で、米艦を攻撃する相手と交戦することを認めるものであるからである。
 新ガイドラインに合意した日米双方の閣僚が述べていたように、南シナ海における中国の軍事行動に対抗するものとして自衛隊が米艦等の防護を行うとすれば、それは、日本国民が知らないうちに、日本が中国との戦争状態に入る恐れがあることを意味している。
 「安保法制」は、なし崩し的に国民を戦争の犠牲に引きずりこむ危険性を高めるものであって、到底許されるものではない。
(4)日本が多くを負担し、米国は条約上最低限度の義務を確認したにすぎない新ガイドラインは、日米間の不平等を新たな段階に深化させるものと言わざるを得ない。
 今回のガイドラインについて、離島防衛に対するアメリカのコミットメントを確認したと評価する向きもあるが、ガイドラインでは、離島を含む陸上攻撃への対処について、「自衛隊が主体となって行い、米軍は支援・補完をする」旨定められた。
 自衛隊の役割をグローバルに拡大する一方で、日米安保条約の中核となるアメリカの日本防衛義務については、何ら具体的に述べられてはいないのである。
 「抑止力」が高まる、との宣伝がされているが、現実には我が国の負担が飛躍的に高まり、日米間の不平等がさらに深化するという点で問題は極めて深刻である。
 
3 結論
 新ガイドライン・「安保法制」は、日本が、政策と現場の両面を通じて米国の戦略により一層深く組み込まれ、米国の要請に従って、平時から「切れ目なく」戦争のリスクを引き受けるとの対米合意であり、それを制度化するための国内法制である。
 こうした合意・制度は、その政治的手順を含めて憲法の下の法秩序と相容れず、自衛隊に多くの犠牲を強いるばかりでなく、国民に戦争のリスクを強いるものであって、断じて容認することはできない。
 「安保法制」の撤回を強く求める。
                                        以 上
 
国民安保法制懇
 愛敬 浩二(名古屋大学教授)
 青井 未帆(学習院大教授)
 伊勢崎賢治東京外国語大学教授)
 伊藤 真(弁護士)
 大森 政輔(元内閣法制局長官
 小林 節(慶応義塾学名誉教)
 長谷部恭男早稲田大学教授)
 樋口 陽一(東京大学名誉教授)
 孫崎 享(元外務省国際情報局長)
 柳澤 協二(元内閣官房副長補)
(引用終わり)
 
※(金原注/5月16日)
 末尾のメンバー列記の中に、早稲田大学最上敏樹教授(国際法)のお名前が見当たりません。これが単なるミスによる脱落なのか、それとも何らかの理由があってのことか、今のところ分かりません。
 
(5月14日・15日に発表された声明・談話のいくつか)
日本弁護士連合会「安全保障法制改定法案に反対する会長声明」
横浜弁護士会「日米防衛協力のための指針の改定合意に反対する会長声明」
戦争をさせない1000人委員会「声明・戦争法案の閣議決定を弾劾する」

全日本民主医療機関連合会「声明・戦争法案の閣議決定に強く抗議し、撤回を求める」
全国保険医団体連合会「抗議声明・ふたたび白衣を戦場の血で汚さない 戦争立法(安保法制)閣議決定は撤回せよ」
全日本教職員組合「声明・憲法原則を踏みにじる「戦争法制」の閣議決定に抗議する」
日本教職員組合「安全保障関連法案の閣議決定に抗議する書記長談話」
全国労働組合総連合「事務局長談話・戦争立法の閣議決定に強く抗議する」