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半田滋さんの論説『よみがえる国家総動員』を読む

 今晩(2015年5月20日)配信した「メルマガ金原No.2096」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
半田滋さんの論説『よみがえる国家総動員』を読む

 東京新聞の論説兼編集委員である半田滋さんについては、過去何度もこのメルマガ(ブログ)で取り上げてきました。以下のブログ(半田滋氏著『僕たちの国の自衛隊に21の質問』を読む/2014年11月18日)の末尾で主な過去記事をご紹介していますので、お時間のある時にでもご一読いただければ幸いです。
 
 昨年(2014年)の4月、青年法律家協会和歌山支部主催の講演会に半田さんをお招きし、終演後の懇親会でたまたま半田さんの隣の席になった私は、思えばぶしつけなことながら、「東京新聞定年後はどこかの大学で教えられるのですか?」という質問をしてしまいました。半田さん(1955年生)ほどの実績を積まれた方なら、是非招きたいという大学もあるだろうと思ったからですが、半田さんの答えは、「教職に就いたら自衛隊の現場を取材できなくなるので」という理由から、研究者への転職には否定的でした。
 私は、現場から離れたくないというジャーナリスト魂はもちろんのことながら、半田さんの自衛隊に対する愛情を強く実感したものでした。
 
 その半田さんは、論説兼編集委員として、昨年は「半田滋編集委員のまるわかり・集団的自衛権」を連載し、さらに今年の4月には、なんと署名社説を連載(!)するなど、縦横に健筆をふるっておられます。
 
 
 そして、今日(5月20日)、同紙の「私説・論説室から」に、半田さんが書かれた「よみがえる国家総動員」という短文が掲載されました。
 末尾の「たいへんな思いをするのは「戦地の自衛隊さん」だけではない。」という締めの言葉が端的に示すとおり、国会に上程された戦争法案(政府は「平和安全法制整備法」及び「国際平和支援法」と呼称)が、「自衛隊員」だけに直接の影響があると思ったら大きな間違いであることに私たちの注意を喚起してくれる記事だと思いますので、これをご紹介しつつ、若干の補注を付します。
 
 これまでも、さしでがましいとは思いつつ、「私説・論説室から」に掲載された半田さんの文章に私が補注を付したことが2度ばかりありました。
 
 
 ただし、今回は、前2回ほど私自身のこの問題についての勉強が進んでいませんので、これから皆さんと一緒に理解を深めていくための基礎資料をご紹介するだけにとどまっていることをご了解ください。
 なお、以下、引用する半田さんの文章は青字、私が書き加えた補注は黒字、私が独自に引用した文章は茶色で表記しています。
 

東京新聞 【私説・論説室から】 2015年5月20日
よみがえる国家総動員
 
 先の大戦でたいへんな思いをしたのは「外地の兵隊さん」だけではなかった。国家総動員法のもと、国民とその持ち物が政府により徴用され、やがて空襲が始まった。
 
 多分、ほとんどの国民は日本史の教科書でその名前を目にしたことはあっても、法律の条文そのものを読んだことのある人はほとんどいないでしょう。
 正直に言えば、私自身、半田さんの今日の文章を読んだ後、ネット検索で探し出して初めて読みました。
 
 
 昭和13年の近衛文麿内閣が成立させたこの法律は、ざっと流し読みしただけでもすぐ分かりますが、第4条「政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ帝国臣民ヲ徴用シテ総動員業務ニ従事セシムルコトヲ得但シ兵役法ノ適用ヲ妨ゲズ」に始まって、「政府ハ戦時ニ際シ国家総動員必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ」これこれのことができるという規定が第26条まで延々と続いており、およそ政府が「戦時(戦争ニ準ズベキ事変ノ場合ヲ含ム以下之ニ同ジ)」であり、「国家総動員上必要アル」と認定しさえすれば、国会の同意もなく、およそどんなことでも出来るという恐るべき法律です。今さらながら恐ろしくなります。
 
 安倍晋三内閣が国会提出した安全保障法制にも「国家総動員体制」が明記されている。存立危機事態、すなわち他国を守るための武力行使が追加された武力攻撃事態法特定公共施設利用法の両改正案を読めば分かる。
 
 法案そのものを読んでも訳が分かりません。ということで、これも分かりにくいのですが、新旧対照表をとりあえずご紹介しておきます。
 
 
 他国の戦争であっても時の政権が日本存立の危機であると判断した場合、首相が対処基本方針を定めることになる。この方針に従い、港湾、飛行場、道路、海域・空域、電波について、自衛隊と米軍など他国の軍隊の利用が優先される。
 
 自衛隊や他国軍への協力が義務付けられるのは中央省庁や都道府県庁、市町村役場だけではない。協力が責務とされる指定公共機関として日銀、日本赤十字、NHK、民放、通信、電力、ガス、商船、航空、JR、私鉄、バスなど百五十二社・機関が並び、改正案にそっくり引き継がれた。国民は「必要な協力をするよう努める」とされている。
 
 武力攻撃事態法特定公共施設利用法は、日本が武力攻撃を受けた際の対処策のはずである。これを「他国の防衛」にまで広げるのだから「銃後の国民」も無関係ではいられない。たいへんな思いをするのは「戦地の自衛隊さん」だけではない。 (半田滋)

 つまりこういうことですね。平成4年のPKO協力法以降、着々と整備が進んできた有事法制により、以上のようなある種の「国家総動員体制」が既に構築されているが、それらは、日本が武力攻撃を受けた際の対処として認められるものであったはずであるのに、そこに「存立危機事態(我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態)」なる概念を付け足すことにより、法律上、いともたやすく他国防衛のために国民を動員できるという構造の法体系が出現してしまうということなのです。

 どうでしょう、少しはのみこめたでしょうか。
 実は、今次の「戦争法案」が理解しにくい原因のかなりの部分は、現行の有事法制についての知識が不足していることにあるのではないかと(自らを省みて)思います。
 そのような状況であるからこそ、半田滋さんのような信頼できるジャーナリストによる分かりやすい論説が今ほど求められている時はないのだと思います。
 

(付録)
「ラブソング・フォー・ユー(LOVESONG FOR YOU)」 作詞作曲:ヒポポ大王 演奏:ヒポポフォークゲリラ