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あらためて「存立危機事態」の解釈を問う~木村草太説と公明党(北側一雄氏)の認識

 今晩(2015年6月13日)配信した「メルマガ金原No.2120」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
あらためて「存立危機事態」の解釈を問う~木村草太説と公明党北側一雄氏)の認識

 今日の午後は、今月下旬(6月27日)に頼まれている緊急学習会(憲法9条を守る有功・直川(いさお・のうがわ)の会主催/チラシ)用のレジュメを書くつもりでいたのですが、気になりながら、これまで視聴する時間のなかった動画をまず見てみようと思ったのが間違い(?)で、それからそれへと関心が広がってあちこちのサイトを博捜しているうちに日が暮れてしまいました。インターネット恐るべし

 ということで、レジュメは後回しにすることにし、今日色々視聴したサイトのうちのいくつかを紹介が
てら、レジュメを書くための参考にもなりそうなことを考えてみたいと思います。
 
 まず、今日の午後、私が視聴した動画の1つをご紹介します。ジャーナリストの神保哲生さんが、憲法学者の木村草太さん(首都大学東京准教授)に安保法制関連法案についての意見をきいた6月3日(水)収録の動画です。
 
ビデオニュース・ドットコム 2015年6月3日収録
現在の政府答弁では安保法制に正当性は見いだせない(1時間10分)

(番組案内から引用開始)
 国会で集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案の審議が続いているが、憲法学者の木村草太首都大学東京准教授は6月3日、国家の存立危機事態であれば自国が攻撃を受けていなくても武力行使は可能とする政府の立場について、「存立危機の意味がまったく説明されていない」として、ここまでの政府
の説明を聞く限りでは、安保法制には憲法上の正当性は見いだせないとの見方を示した。
 木村氏は野党がさまざまな事例をあげて、「この場合は武力行使ができるのか」を問い質すと、安倍首相や中谷防衛相は「新3要件を満たせばできる」としか説明していない。しかし、そもそも武力行使の要件が新3要件なのだから、「これは新3要件を満たすのか」との問いに「新3要件を満たせばそうだ」と答えて
いるに過ぎない。
 「これでは憲法上の正当性を何ら説明できていない」と木村氏は語った。
 安保法制をめぐる国会議論の問題点や、存立危機事態を始めとする新たな政策上の概念の正当性につい
て、気鋭の憲法学者の木村草太氏にジャーナリストの神保哲生が聞いた。
(引用終わり)
 
 いつもは要領良く内容をまとめてくれているビデオニュース・ドットコムの番組案内ですが、今回だけ
は、何を1時間10分も論じているのか、多分上の文章を読んだだけではよく分からないでしょう。
 ただし、その分かりにくさのかなりの部分は、今回の戦争法案自体に含まれている、どさくさまぎれに
何でも放り込んでしまったことから来る分かりにくさに由来していることもまた間違いありません。

 そもそも、国会論戦が始まった段階で木村准教授へのインタビューを収録・公開した神保さんの意図は、この訳の分からない法案を出来る限り整理して、問題の核心がどこにあるのかを早急に明らかにし
たいということであったのだろうと推測します。
 そういう意味から言うと、自衛隊の活動を3つのカテゴリー(防衛行政、外交協力、軍事活動)に分けて説明するあたりは(9分~)、常識的なことなのでしょうが、頭の整理のために参考になりますが、今日取り上げようというのは、(上記カテゴライズとも関係はしますが)「存立危機事態」についてです。
 
 もともと、昨年7月1日の閣議決定国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について)が行われた直後から、そこに書かれた「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った。」について、木村草太さんは独特の(ご本人からすればごく素直な、ということになるのでしょうが)解釈をしてこられたということを振り返るためには、昨年の7月にビデオニュース・ドットコムに出演し、神保哲生さん、宮台真司さんと語り合った際の木村さんの動画を再視聴すべきでしょう。
 
ビデオニュース・ドットコム 2019年7月19日公開
木村草太氏:国会質問で見えてきた集団的自衛権論争の核心部分(54分)
 

 ただし、視聴には時間がかかるので、これをご紹介した私のブログ(「閣議決定」についての木村草太氏の見解に耳を傾ける(ビデオニュース・ドットコム)/2014年7月22日)をご参照いただければ
と思います。
 そこでも引用したビデオニュース・ドットコムの番組案内文章を再引用します。
 
(抜粋引用開始)
 憲法学者の木村草太首都大学東京准教授は、この国会審議で政府が今回行った集団的自衛権の容認は、実はこれまでの憲法解釈を変更し、これまでは足を踏み入れることが認められていなかった「集団的自衛権」の領域に足を踏み入れるものではないことが明らかになったと指摘する。閣議決定で「集団的自衛権」と呼んでいるものは、実際は個別的自衛権集団的自衛権が重複する領域にある事象で、今回政府はそれを必死になって探し出し、それを集めたものを無理矢理「集団的自衛権」と呼んでいるだけであって、
実際はこれまでの個別的自衛権の範囲を一切超えるものではないと木村氏は言うのだ。
(引用終わり)
 
 そして、今回の法案に書き込まれた「存立危機事態」についての木村草太さんの解釈も、昨年から一貫したものです。6月3日ビデオニュース・ドットコム出演の際にも以下のように説明しています(31分~)。
 
「存立危機事態の文言を自然に読むと、外国への武力攻撃が、我が国への武力攻撃への着手になっていると、そういう意味であるというふうに読むのが、文言的には自然であるということですね」「例えば、日本が防衛出動していて、米軍と一緒に防衛上のオペレーションをとっていたと、そこへ米艦への攻撃があったとしましょう。これはもう、日本を守るための作戦行動をとっている米艦への攻撃なので、これは完全に日本に対する武力攻撃の着手ですね。というような状況を想定した文言になっているんですね。」「これは相当にきつい文言なので、そう読まざるを得ないことになります」
 
 ここで、存立危機事態の定義を、武力攻撃事態法改定案から引用しておきましょう。
 
武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案(新旧対照表76頁~)
 
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 武力攻撃 略(現行通り)
二 武力攻撃事態 略(現行通り)
三 武力攻撃予測事態 略(現行通り)
四 存立危機事態 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立
が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう。
(以下略)
 
 さて、木村准教授の解釈は、文理解釈を基本としており、それなりに筋が通っているような気もする一方、7月1日閣議決定についての解釈の時と同様、どうもそのままには受け取れないなあ、という違和感があります。
 それは、ホルムズ海峡の機雷掃海にあくまでこだわる安倍晋三首相や、自分が何を言っているのか本当に理解しているのか時として疑わしい中谷元防衛相の答弁から推測される政治家の思惑からは一応離れた法律解釈論として、存立危機事態とは「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」することによって、同時に我が国に対する武力攻撃の着手があったという事態を意味するという木村説にはやは
り無理があると思うのです。

 たしかに、武力攻撃事態法(改定案)の第2条4号の定義規定だけを読んで木村説に耳を傾けると、正しい解釈のような気がするのですが、仮にその解釈に立つとすると、「存立危機事態=武力攻撃事態」、より正確に言えば「存立危機事態<武力攻撃事態」ということになるのであって、そうであれば、なぜ武力攻撃事態とは別に存立危機事態という新たな類型を設け、武力攻撃事態と存立危機事態とを並立させ、各事態発生の認定、それに対する対処等を別々に規定しなければならないのかということについて、合理
的な説明をつけかねるのではないか、ということが根本的な疑問です。

 さらに、自衛隊法改定案によれば、武力攻撃事態と存立危機事態のいずれにも共通して適用される規定が多いものの、武力攻撃事態には適用されるが、存立危機事態は明文で適用除外となっている以下のよう
な諸規定があります。
  第77条の2(防護施設構築の措置)
  第80条(海上保安庁の統制)
  第92条(防衛出動時の公共の秩序の維持のための権限)
  第92条の2(防衛出動時の緊急通行)
  第103条(防衛出動時における物資の収容等)
自由法曹団「逐条検討・戦争法制 安全保障一括法案を斬る!」(2015年6月3日)7頁参照
 これらは、いずれも日本の領域(領土、領海等)内における防衛出動を前提とした規定であることからすれば、改定自衛隊法は、存立危機事態において、我が国の領域内に自衛隊を防衛出動させることなど想定しておらず、もっぱら海外派兵することを念頭に置いていることは明らかでしょう。
 もちろん、存立危機事態でありかつ武力攻撃事態でもあるということがあり得ることは、政府・与党協議でも明示されていたところですが、とにかく今般の法制の建て付けとしては、木村草太説のように、存立危機事態が全て武力攻撃事態に包摂される(存立危機事態<武力攻撃事態)というのではなく、重なる部分はあるものの、それぞれ別個の適用範囲を持つ2つの円というのが正しい解釈であろうと思います。
 つまり、
 ①存立危機事態ではあるが武力攻撃事態ではない事態
 ②存立危機事態であるとともに武力攻撃事態でもある事態
 ③存立危機事態ではないが武力攻撃事態である事態
という3つの事態があることを前提に、今次の戦争法案における存立危機事態の解釈としては、②だけで
あるという木村説はとりがたく、①+②だろうというのが私の理解です。
  
 そして、公明党北側一雄氏(副代表、与党協議における公明党の責任者)自身が、①+②説に立つことが6月4日の衆議院憲法審査会で明らかになったということを、6月9日のTBSラジオ「荻上チキ Session-22」に長谷部恭男早大教授とともにゲスト出演した木村草太氏が語っておられましたので(その後の長谷部恭男教授(早稲田大学)~TBSラジオと高知新聞インタビューから/2015年6月11日)、その動画を再視聴してみました。
 
【安保】2015年6月4日 憲法審査会 質疑:北側一雄(公明党)
 

 木村さんが言われたのは多分上記動画の2分~の部分ですね。文字起こししてみます。
 
「個別的自衛権というふうに表現するのか、集団的自衛権と表現するのか、そもそも個別的自衛権集団的自衛権という言葉自体もですね、憲法規定には何にも書いていない、また、日本の安保法制の中にも何にも書いてない。書いてあるのは国連憲章のですね、中に書いてある言葉なわけですね。国際法上の観念なわけです、あくまで。そういう中でどこまで自衛の措置が許されるのかっていうことを突き詰めて議論した時に、従来の個別的な自衛権、我が国に対する武力攻撃があった、着手があったという場合はもちろんですけども、必ずしもそこがですね、着手があったとは国際法上は言えないような場面においても、憲法13条にうたわれていますですね、国民の権利が根底から覆される、国民の権利がですね、生命、自由、幸福追求の権利を最大限尊重するという憲法13条規定からももともと自衛の措置のですね、根拠になっているわけでございますけども、そういう規定からすると、その限界がどこにあるかというのは、その個別的自衛権とか集団的自衛権という観念のですね、世界ではなくて、やはり13条から考えると、国際法上一部集団的自衛権が根拠となる場合もあるのではないかと、こんな議論があったわけですね。」
 
 なお、6月11日に行われた衆議院憲法審査会において、北側一雄氏があらためて公明党としての意見表明をしています。
 公明新聞の記事と衆議院TVの動画にリンクしておきます。
 
 
 
【安保】北側一雄(公明党) 憲法審査会 2015年6月11日

  
 さて、これで「存立危機事態」についての解釈が明確になった、ということには全然ならず、公明党がどう言おうが、いったんこんな法律を作ってしまえば、時の政権の恣意的解釈でいかようにでもなる、恐るべ
きフリーハンドを与えることは明らかだろうと思います。

 なお、最後に一言すれば、木村准教授がこのような法案の成立を推奨しているのでは全くないというこ
とは(存立危機事態を含め)、くれぐれもお断りしておかなければなりません。
 木村草太説があればこそ、私自身、「存立危機事態」についての理解を深めることができたと感謝して
いるのです。
 さて、27日の学習会のレジュメも書かなければならないので、今日はこの辺にしておきます。
 
(参考動画)
木村草太さん講演「憲法集団的自衛権
ピースおおさかの危機を考える会 連続講座 第8回

ピースおおさかの危機を考える会 連続講座
第8回 侵略表現を消すピースおおさかを問う
2015年3月24日18時15分? エル大阪
※7月1日・閣議決定についての解説は1時間08分~の部分です。