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憲法学者の矜恃~長谷部恭男氏と小林節氏の記者会見を視聴して(6/15)

 今晩(2015年6月16日)配信した「メルマガ金原No.2123」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
憲法学者の矜恃~長谷部恭男氏と小林節氏の記者会見を視聴して(6/15)

 昨日(6月15日)行われた長谷部恭男氏(早稲田大学教授)と小林節氏(慶應義塾大学名誉教授、弁護士)のお2人による日本外国特派員協会(12時30分~)と日本記者クラブにおける記者会見を、昨日に引き続きあらためてご紹介します。
 
 まず会見動画ですが、12時30分から外国特派員協会で行われた会見について、昨日はビデオ・ニュースドットコムの映像をご紹介しましたので、今日は、外国特派員協会(FCCJ)公式チャンネルの動画を埋め込んでおきます。
 また、午後3時から日本記者クラブで行われた動画については、昨日と同じく日本記者クラブの公式チャンネルのものですが、昨夜アップされた直後に視聴した際には音声と画像の同期に問題があると思ったのですが、どうやら修正されているようです。
 
Yasuo Hasebe & Setsu Kobayashi: "Has Constitutional Change Hit the Buffers?"
 

小林節 慶応大学名誉教授、長谷部恭男 早稲田大学法学学術院教授 「憲法と安保法制」① 2015.6.15
 

 外国特派員協会における会見では、冒頭のスピーチはお2人とも英語で話されており(長谷部氏は4分~16分、小林氏は16分~22分)、正直、通訳が付いてお2人が日本語で答えられた質疑応答の部分しか理解できないのですが(もっとも長谷部教授はかなりの部分英語で答えており、時には自分で自分の発言を日本語に“通訳”しておられますが)、幸い、かなり詳細にその内容をレポートしてくれている記事がありますので、それをご紹介しておきます。
 
 
 
 詳細は、会見動画及び上記レポートで確認していただければと思うのですが、私が注目したのは、小林節さんが準備しているという憲法訴訟についてです。その部分(43分~)を一部文字起こししてみます。
 
小林節氏 弁護団の一員として訴訟の準備をしています。それは、法律が有効になった瞬間から、今まで日本になかった戦争の危険、海外で戦争する危険が具体化するんですね。だから、平和に生きる権利というのが、憲法の前文と9条で保障されているならば、それが、今は海外派兵できないから守られてるんですけど、法律が出来た瞬間から、それは犯されたという理解をして、国民誰でもですね、集団で政府に対して、違憲行為で平和が傷つけられたという訴訟を今準備しています。かなり、技術的には難しい。その次の段階は、実際に、具体的に海外派兵の命令がくだった時、その部隊の一員がそこから逃げ出して、懲戒処分を受けて、それが違憲無効だと訴える。一番悲劇的なのは、実際に海外派兵に行って死んだ人がいた場合、その遺族が、違憲な戦争で家族が殺されたと訴える、この準備を我々は既に始めております。
 
 この準備中の訴訟というのが、慶應義塾大学法学部において小林節教授の門下生であった山中光茂三重県松坂市長が中心となって活動してきたピースウイングが主体となって取り組む集団訴訟のことでしょう
 ピースウイング公式サイトのトップページから引用します。
 
いよいよ、ピースウイングは、弁護団結成に向けて活動が始動しました。
(抜粋引用開始)
 
去る平成27年4月23日の記者会見により、弁護団結成を全国に発信したピースウイングです。
 小林節氏( 憲法学者慶應義塾大学名誉教授 )を弁護団長に、全国から参加弁護士を募っていきます。
これと同時進行で、皆様からの委任状と訴状の作成を進めていただけることになりました。訴訟の時期に
ついては小林節氏に一任しますが、進捗状況は事務局から逐次発信させていただきます。
 これからの作業は、訴訟という事で専門的な知識を必要とします。事務局としても、できる限り知識をつけ情報を共有しながら、可能な範囲で弁護団のお手伝いをしていくこととなります。数少ない事務局スタッフですが、「次の世代にいい日本を残すため」市民の想いを「結果」にするべく、精一杯の努力を続
ける決意です。
(引用終わり)
 
 小林節団長の昨日の発言からすると、提訴のタイミングは、戦争法制が強行可決されて成立した後、それらの法律が施行された時点を基準時として、それから間を置かずに提訴するということではないかと推測します。
 募集される原告の資格などは分かりませんが、私なら、日本に常居所を有する人であれば国籍、年齢を問わず、ということにするでしょうね。もちろん、日本国憲法前文の「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」を根拠とする憲法訴訟になるだろうと思いますので、国籍要件は不要だと考えるからです。もっとも、様々な法的論拠を主張するためには、日本国籍保有者に限定した方が主張を構成しやすいという一面はあるでしょうが(まあ、
私が決めることではありませんが)。
 ということは、現在審議中の戦争法案を廃案に追い込み、次の選挙で自公連立政権を打倒すれば、結局提訴に至らずということになるのでしょうから、まずはそれが当面の目標ですね。
 
 次に日本記者クラブでの会見についてです。こちらの方は、まず冒頭にお2人から基調発言があり(小林節氏が1分~30分、長谷部恭男氏が30分~54分)、その後約40分が質疑応答です。
 こちらの方が、お2人のまとまった考えがよく分かるという利点があります(日本語だし)。
 
 こちらの会見についての詳しいレポートとして、以下の記事をご紹介しておきます(特派員協会での会見についても触れられています)。
 
 
 日本記者クラブでの会見で私が最も注目した長谷部恭男教授の発言を以下に文字起こししてみます(41分~)。自衛隊による後方支援と外国軍隊による武力行使との一体化について述べられた部分(の一部)です。
 
長谷部恭男氏 現在国会に提出されている諸法案によりますと、自衛隊による外国軍隊への後方支援に関して、従来の戦闘地域、そして非戦闘地域の区別は廃止され、しかも、自衛隊は弾薬の供与、そして発進準備中の航空機への給油、これも新たに行えることとされております。弾薬の供与や発進準備中の航空機への給油が、なぜ外国軍隊の武力行使との一体化ではないのか、不思議であります。まさに、一体化そのものではないでしょうか。より一般的には、自衛隊の活動が外国軍隊の武力行使と一体化しているか、それについては従来、4つの要素、つまり他国の活動の現況、自衛隊の活動の具体的内容、他国が戦闘行動を行う地域と自衛隊の活動地域との地理的関係、そして両者の関係に密接性、この4点に照らし、これを「大森4要素」、大森政輔先生の名前をとって言われるものでありますが、総合的に判断すべきものとされてきました。ただ、こうした具体の状況に即した総合的判断を例えば現場の指揮官がその都度その場で行うことは至難の業なので、だから戦闘地域と非戦闘地域を区別をする、そして一律の判断が出来るよう、ある程度の余裕を見て、自衛隊の活動地域を区分しよう、そういう配慮に基づいてこの区分はなされてまいりました。現在の法案が示しております「現に戦闘行為が行われている現場では、自衛隊の活動は実施しない」、この条件では、刻々と変化する戦闘の状況に対応して、一体化が起こったか、起こらないのか、その判断を適切に行えるはずはございません。具体的な状況によっては、外国軍隊との武力行使の一体化につながる恐れがきわめて高いと言わざるを得ないと思います。
 ここでは、先週6月11日の憲法審査会におきまして、その議論の中でなされました私に対する謂われのない批判についてコメントしておきたいと思います。これは、私が武力行使の一体化の問題について、戦闘地域と非戦闘地域の区分が憲法9条の直接の要請であると誤解をしており、それは私が安全保障の問題について専門的知識、これを熟知していないことに由来しているのであるという、そういう批判でございます。しかし、私は戦闘地域と非戦闘地域の区分が憲法9条の直接の要請であると述べたことはありません。速記録を見れば分かるとおり、私は、外国軍隊の武力行使自衛隊の活動の一体化、これが生ずるか否かは、先ほども述べましたいわゆる大森4要素、これを具体的状況に照らして総合的に判断した上で答えが出るのだと言っておりますが、ただそれは、現場の指揮官等にとっては至難の業、だから、余裕を見た上で正確な線引きをする、その配慮から戦闘地域と非戦闘地域の区分をしたのだ、と明確に指摘をしております。だからこそ、私はこの区分を廃止すると、武力行使の一体化をもたらす恐れがきわめて強い、という持って回った言い回しを致しました。この区分が憲法9条の要請なのであれば、この区分の廃止は直ちに憲法違反だ、と言えば済む話なのであります。そんなことを私は、6月4日審査会では申してお
りません。
 そうした誤解を私がしているという指摘は、自民党公明党に属する複数の与党議員によってなされております。つまりそれらの議員は、私の発言を素直に普通に理解すれば思いつくはずのない解釈を私の発言に対して押しつけた上で、私が従来の政府見解を誤解したという、謂われのない批判をしているわけであります。しかも、そのうちでも公明党の議員は、私がそうした誤解をしたのは、私が安全保障について
熟知していない、つまり素人だからだという指摘も加えております。
(略)
 別の言い方をいたしますと、今の与党の政治家の方々は、参考人が自分にとって都合の良いことを言った時は専門家であるとし、都合の悪いことを言った時は素人だという侮蔑の言葉を投げつける。自分たちが是が非でも通したいという法案、それを押し通すためならどんなことでもなさるということなんでしょうか。
 
 文字起こしを省略した部分(46分~)では、オックスフォード大学出版局から刊行された「比較憲法大事典」(2012年)の「war powers(戦争権限)」という項目を長谷部教授が(もちろん英文で)執筆していることの紹介や、長谷部教授が参考人として賛成の意見を述べた特定秘密保護法の速やかな廃止を勧告したりという興味深いエピソードが繰り出されていますので、是非動画でご確認ください。
 
 6月11日の憲法審査会における与党議員による長谷部教授に対する「謂われのない批判」がいかなるものであったか、私自身はまだ裏付けがとれていません。
 時間に余裕のある方で、「調べてみよう」という方がおられたら、まだ公式の会議録は掲載されていませんので、中継動画でご確認ください。
 
 
 ただ、「しかも、そのうちでも公明党の議員は、私がそうした誤解をしたのは、私が安全保障について熟知していない、つまり素人だからだという指摘も加えております。」は少し気になりましたので、当日発言した公明党の議員が誰かと調べてみました。すると、北側一雄氏、國重徹氏、濱地雅一氏の3人が発言していました(ちなみに、全員弁護士です)。
 全ての発言を見る時間はなかったのですが、北側副代表以外の2人の若手議員の発言はチェックしました。その結果、どうも濱地雅一議員の質問が長谷部教授を激怒させた可能性が高いのではないかと思いますので、皆さんにも視聴していただきましょうか。全部で6分程度の短いものです。
 
【安保】濱地雅一(公明党) 憲法審査会 2015年6月11日
 

浜地雅一議員(5分~) なぜこういうことが起きるかというと、やはり安保法制というのは非常に複雑に出来ておりまして、よく条文を読み込みながら、また現状のですね、安全保障の環境をやはり熟知しながら行わないと、やはり読み違うんだなというのを感じました。
 
 濱地議員は、2006年に司法試験に合格ということなので修習は61期ですかね。その程度の法曹経験でこういう発言が出来るというのは実に良い度胸と言うべきで、これが議員バッヂの威力というものでしょうか。
 同議員が長谷部教授の会見を見たら(いくら何でももう見たでしょう)どう思ったでしょうか。同教授の「曲解」だと、あくまで自己弁護を繰り返しているようなら、この議員にまともな未来はないと思いますけどね。
 
 今日は、「憲法学者の矜恃」シリーズ(?)の第3弾をお送りしました。6月4日の3人の参考人の発言の波紋を、自民党公明党が自ら進んで拡げる結果になっていることが露わになった昨日の会見でした。与党の議員らが「学者のプライド」をみくびり切っていたそのツケをこれからどんどん払わされることになるでしょう。このような動きを全て戦争法案成立阻止のための力として結集しなければと思います。