今晩(2015年7月6日)配信した「メルマガ金原No.2143」を転載します。
なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
半田滋さんの論説『存立危機はいつ起こるか』を読む
東京新聞論説兼編集委員・半田滋さんの「論説を読む」シリーズ(?)の第4弾です。 過去3回は以下のとおり。
2013年9月25日
半田滋さんの論説『条約無視して解釈改憲か』を読む
2014年4月26日
半田滋さんの講演から学んだこと(付・半田滋さんの論説『首相の奇妙な状況認識』を読む)
2015年5月20日
半田滋さんの論説『よみがえる国家総動員』を読む
半田滋さんの論説『条約無視して解釈改憲か』を読む
2014年4月26日
半田滋さんの講演から学んだこと(付・半田滋さんの論説『首相の奇妙な状況認識』を読む)
2015年5月20日
半田滋さんの論説『よみがえる国家総動員』を読む
今回は、今日(7月6日)の東京新聞「私説・論説室から」に掲載された「存立危機はいつ起こるか」を取り上げて読んでみます。
巻末に半田さんがFacebookタイムラインで紹介された「半田滋編集委員のここが変だよ安保法制」(東京新聞に現在第7回まで掲載)にリンクをはっており、その記事が全て今日の論説を読み解くための注釈の役割を果たしてくれますので、是非そちらの方もお読みください。
もっとも、そうするといよいよ、私がわざわざ補注を加えるまでもないことになりますが。
なお、以下、引用する半田さんの文章は紺色、私が書き加えた補注は黒色、私が引用した文章は茶色で表記しています。
巻末に半田さんがFacebookタイムラインで紹介された「半田滋編集委員のここが変だよ安保法制」(東京新聞に現在第7回まで掲載)にリンクをはっており、その記事が全て今日の論説を読み解くための注釈の役割を果たしてくれますので、是非そちらの方もお読みください。
もっとも、そうするといよいよ、私がわざわざ補注を加えるまでもないことになりますが。
なお、以下、引用する半田さんの文章は紺色、私が書き加えた補注は黒色、私が引用した文章は茶色で表記しています。
集団的自衛権行使を含む安全保障法制の国会論議で、安倍晋三首相がこだわるのがホルムズ海峡の機雷除去だ。石油が通る海峡の封鎖は武力行使の新三要件のうち、第一要件の「日本の存立が脅かされ、国民の生死にかかわる明白な危険」に当たるというのだ。
存立危機事態についての定義規定をおさらいしておきましょう。武力攻撃事態法あらため(略称をどうするんだろう?)「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(案)」第2条4号です。
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 武力攻撃 略(現行通り)
二 武力攻撃事態 略(現行通り)
三 武力攻撃予測事態 略(現行通り)
四 存立危機事態 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう
(以下略)
一 武力攻撃 略(現行通り)
二 武力攻撃事態 略(現行通り)
三 武力攻撃予測事態 略(現行通り)
四 存立危機事態 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう
(以下略)
この存立危機事態の源流が、昨年7月1日の閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」3、(3)であることは言うまでもありません。念のために振り返っておきましょう。
(引用開始)
こうした問題意識の下に、現在の安全保障環境に照らして慎重に検討した結果、我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を
全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った。
(引用終わり)
こうした問題意識の下に、現在の安全保障環境に照らして慎重に検討した結果、我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を
全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った。
(引用終わり)
半田さんの「国民の生死にかかわる明白な危険」という表現はややはしょり過ぎですが、字数に制限のあるコラムの中で、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」などと書いていられないでしょうから、やむを得ないでしょうね。
資源エネルギー庁によると、日本の石油備蓄は六月末現在で二百二日分。民間備蓄は湾岸戦争などで五回、取り崩したが、国家備蓄は放出例がない。政府はどの時点で存立危機事態を認定するのだろう。機雷がまかれた時点、石油備蓄量が不安になった時点、石油が高騰して経済に影響が出た時点だろうか。
ここまで読んできて、半田さんが存立危機事態を認定する「基準時」を問題にしていることが分かります。
存立危機事態かどうか、誰が判断するのかと言えば、もちろんそれは政府です。
根拠規定は「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(案)」の第9条1項です。
存立危機事態かどうか、誰が判断するのかと言えば、もちろんそれは政府です。
根拠規定は「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(案)」の第9条1項です。
第九条 政府は、武力攻撃事態等又は存立危機事態に至ったときは、武力攻撃事態等又は存立危機事態への対処に関する基本的な方針(以下「対処基本方針」という。)を定めるものとする。
この存立危機事態に「至ったとき」とは、具体的にどの時点かを問題にしている訳です。
機雷がまかれた時点では十分な備蓄があり、第二要件の「他に適当な手段がない」に該当しないはずだ。米本土からの石油輸出を禁止してきた米国に解禁を求める方法もある。
しかし、岸田文雄外相は先月二十九日の衆院特別委で自衛隊の「掃海能力は極めて高いので何もしないとは考えられない」と述べ、機雷がまかれた時点を示唆した。存立危機事態の認定に「国際貢献」を含めるなら、それ自体が第一要件の趣旨から逸脱する。
東京新聞 2015年6月30日 朝刊
「機雷掃海」「米艦防護」 2事例追及に窮する政府
(抜粋引用開始)
安全保障関連法案に関する二十九日の衆院特別委員会では、他国を武力で守る集団的自衛権行使の具体例として安倍晋三首相が挙げる「中東・ホルムズ海峡での機雷掃海」「公海上の米艦防護」という二つの事例をめぐって論戦が交わされた。野党側が、行使しなければならない理由が不明確だと追及したのに対し、政府は説得力のある説明をしなかった。(金杉貴雄)
機雷掃海をめぐっては政府はホルムズ海峡が機雷で封鎖され、日本へのエネルギー供給が長期間途絶えれば、集団的自衛権行使の要件を満たす場合があると説明してきた。停戦前の機雷掃海は機雷をまいた国への敵対行為で、国際法上は武力行使にあたる。
民主党の後藤祐一氏は、同海峡が封鎖されれば、各国が掃海艇を派遣するのは確実で、日本が参加しなくても機雷は除去されると指摘。このため停戦前の機雷掃海は、武力行使の要件のうち「国民を守るために他に適当な手段がない」という要件を満たさないとして追及した。
これに対し、岸田文雄外相は「日本が何もしないのは考えられない。わが国の掃海能力は高いので、行うのは当然だ」と強調したのにとどまり「他に手段がない」とする根拠を説明しなかった。
(略)
(引用終わり)
「機雷掃海」「米艦防護」 2事例追及に窮する政府
(抜粋引用開始)
安全保障関連法案に関する二十九日の衆院特別委員会では、他国を武力で守る集団的自衛権行使の具体例として安倍晋三首相が挙げる「中東・ホルムズ海峡での機雷掃海」「公海上の米艦防護」という二つの事例をめぐって論戦が交わされた。野党側が、行使しなければならない理由が不明確だと追及したのに対し、政府は説得力のある説明をしなかった。(金杉貴雄)
機雷掃海をめぐっては政府はホルムズ海峡が機雷で封鎖され、日本へのエネルギー供給が長期間途絶えれば、集団的自衛権行使の要件を満たす場合があると説明してきた。停戦前の機雷掃海は機雷をまいた国への敵対行為で、国際法上は武力行使にあたる。
民主党の後藤祐一氏は、同海峡が封鎖されれば、各国が掃海艇を派遣するのは確実で、日本が参加しなくても機雷は除去されると指摘。このため停戦前の機雷掃海は、武力行使の要件のうち「国民を守るために他に適当な手段がない」という要件を満たさないとして追及した。
これに対し、岸田文雄外相は「日本が何もしないのは考えられない。わが国の掃海能力は高いので、行うのは当然だ」と強調したのにとどまり「他に手段がない」とする根拠を説明しなかった。
(略)
(引用終わり)
動画は以下のとおり。
衆議院インターネット審議中継(衆議院TV)
2015年6月29日 (月) 平和安全特別委員会 (7時間20分)
1/2 午前 後藤祐一(民主党)衆議院 平和安全特別委員会 平成27年6月29日
2015年6月29日 (月) 平和安全特別委員会 (7時間20分)
1/2 午前 後藤祐一(民主党)衆議院 平和安全特別委員会 平成27年6月29日
2/2 午前 後藤祐一(民主党)衆議院 平和安全特別委員会 平成27年6月29日
午後 後藤祐一(民主党)衆議院 平和安全特別委員会 平成27年6月29日
以上の内、岸田外相の問題答弁は、午前の質問の2本目の動画(6分~)で視聴できます。一部文字起こしします。
岸田文雄外務大臣 存立危機事態が発生した段階で、我が国として認定した段階でですね、我が国として何も対応しないということは、まず考えられません。そういう事態が発生したことにあたってですね、我が国として、対応しない、これはまず考えられません。我が国としてですね、そうした事態に対して、しっかり対応をする。国民の命や暮らしがかかってる訳ですから、これは当然のことであります。その要件においてですね、他国がそれを対応するからいいのではないか、その要するに、他に手段がないという部分に該当しないのではないかというご質問だと思いますが、その第2要件のご質問だと思いますが、その事態を認定するにあたってですね、我が国の国民の命や暮らしが危機にさらされている訳ですから、我が国として、その段階で対応する。これ当然のことです。ですから、機雷の掃海にあたってもですね、他国と同時に我が国が対応する、これが当然のことだと思います。特にですね、我が国の掃海能力、これは国際的にも大変高い訳ですので、我が国がですね、その時点で何も対応しない、他国に任せる、それは考えられないと考えます。
後藤議員が質問している第2要件というのは、7.1閣議決定において「これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないとき」とされた部分、「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(案)」では、政府の対処基本方針について規定された第9条2項1号ロなどを参照ください。
岸田外相は、要するに武力行使の第1要件たる存立危機事態と認定した以上は、何も対応しないということは考えられないと答弁した訳で、それなら第2要件など不要ということか?とならざるを得ません。自分の言っていることの意味が分かって答弁しているのでしょうか?
岸田外相は、要するに武力行使の第1要件たる存立危機事態と認定した以上は、何も対応しないということは考えられないと答弁した訳で、それなら第2要件など不要ということか?とならざるを得ません。自分の言っていることの意味が分かって答弁しているのでしょうか?
ホルムズ海峡に面し、核開発を進めてきたイランは主要六カ国と問題解決の議論を進めており、海峡封鎖は非現実的となっている。存立危機事態とは軍事による国際貢献、すなわち海外における武力行使に道を開くことに真の狙いがあるのかもしれない。(半田滋)
半田さんが言いたいのは、今の政権には、第2要件も第3要件も眼中になく、存立危機事態だという認定さえすれば何でもできると考えているのではないか、ということではないでしょうか。
実際、存立危機事態という認定をして自衛隊に防衛出動を命じれば、自衛隊の有する全ての装備を海外での武力行使のために使えてしまうのです(理論上の可能性としては)。
はたして国民のうちのどれだけの人がそのことを理解しているのでしょうか?
実際、存立危機事態という認定をして自衛隊に防衛出動を命じれば、自衛隊の有する全ての装備を海外での武力行使のために使えてしまうのです(理論上の可能性としては)。
はたして国民のうちのどれだけの人がそのことを理解しているのでしょうか?
(東京新聞「半田滋編集委員のここが変だよ安保法制」)
2015年5月31日
戸惑う自衛隊員 任務・派遣先 明示なく
戸惑う自衛隊員 任務・派遣先 明示なく
2015年6月4日 第2回
ホルムズの機雷除去 原油確保へ 米に追従
2015年6月7日 第3回
武力行使の範囲 3要件 政権の判断次第
2015年6月8日 第4回
集団的自衛権 行使例の機雷除去 敷設国から攻撃、戦闘も
2015年6月10日 第5回
自衛隊員の自殺 活動地域拡大 危険増す
2015年6月14日 第6回
「傍論」都合よく引用
2015年6月21日 第7回
「安保環境の変化」 首相次第で変わる見方
ホルムズの機雷除去 原油確保へ 米に追従
2015年6月7日 第3回
武力行使の範囲 3要件 政権の判断次第
2015年6月8日 第4回
集団的自衛権 行使例の機雷除去 敷設国から攻撃、戦闘も
2015年6月10日 第5回
自衛隊員の自殺 活動地域拡大 危険増す
2015年6月14日 第6回
「傍論」都合よく引用
2015年6月21日 第7回
「安保環境の変化」 首相次第で変わる見方