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“戦争法案”学習会用レジュメ(第2版)

 今晩(2015年7月9日)配信した「メルマガ金原No.2146」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
戦争法案”学習会用レジュメ(第2版)
 
 去る6月27日、近隣の地域9条の会(守ろう9条有功・直川の会)の“戦争法案”学習会の講師を務めたものの、準備がはなはだ不十分で、次回の学習会(7月16日に頼まれている)までに、その時使ったレジュメ(自衛隊員を“戦死”させてよいのか?戦争法案の本質を理解する~ある地域9条の会学習会用レジュメ)を早急に書き直さねばと思ったことは、その日のメルマガ(ブログ)に書いたとおりです(
半田滋さんの最近の講演から学ぶ~“戦争法案”学習会講師を頼まれた弁護士のために)。
 その次回の学習会まであと1週間と迫り、何とかレジュメを改訂しました。もっとも、これはレジュメというよりは、講演用台本兼資料集のようなものですが、せめてこれ位は準備しておかないと、まともな話はできないということで、冗長に過ぎることは承知の上でまとめたものです。
 とはいえ、書きたいと思いながら取り上げられなかったことも多く、まだまだ不満足なものですが、残された時間が限られている状況の中、走りながら考え、書き足していかねば仕方がないでしょう。
 
 前回のレジュメを掲載してからまだ間がないにもかかわらず、その改訂版(というか増補版というか)をメルマガ(ブログ)に掲載するのは、レジュメを書くのに時間がかかり、メルマガ(ブログ)を書いている時間がなくなったことも重要な一因ですが、あわせて、全国でこれから“戦争法案”についての学習会講師を頼まれている皆さんの参考に少しでもなればということもあります。
 
 なお、レジュメ自体は「である調」で統一していますが、今回のメルマガ(ブログ)掲載版は、少しでも読みやすいようにと考え、「ですます調」に書き改めました。
 また、今回も、由良登信弁護士が作成された戦争法案一覧表(第2版)を手元に置きながらこのレジュメを書きましたので、皆さんも、この一覧表を見ながら、以下のレジュメをお読みいただければと思いま
す。
 

          “戦争法案”の本質を理解するために
 
                                     弁護士 金 原 徹 雄
 
(本日のお話の大筋)
第1部 総論
 1 戦争法案はどこが「憲法違反」なのか?
 2 戦争法案の背景としての日米同盟
第2部 各論
 3 武力攻撃事態と存立危機事態(個別的自衛権集団的自衛権
 4 重要影響事態(世界中どこへでも~後方支援って兵站でしょうが)
 5 国際平和共同対処事態(協力支援と言い替えても結局兵站でしょう)
 6 PKOはどう変わる?(危険な業務も次々と追加)
 7 グレーゾーン事態(現場の判断でいつの間にか戦争に?)
第3部 まとめ
 8 日本の若者を米国の尖兵としないために(日本国憲法成立史を振り返る)
 9 今からでも遅くはない

第1 “戦争法案”はどこが「憲法違反」なのか?                
1 集団的自衛権の行使は憲法第9条(とりわけ2項)に違反する 
 自衛隊はなぜ合憲と言えるのでしょうか?
 憲法第13条が保障する「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」が「国政の上で、最大の尊重を必要とする」とされていることから考えれば、我が国が他国から武力攻撃を受けた場合にその急迫不正の侵害を排除し、国民の権利を守ることは、国の責務として憲法もこれを容認している。従って、上記の目的を達成するための必要最小限の実力は、憲法第9条2項が保持を禁じた「陸海空軍その他の戦力」にはあたらない。自衛隊は、そのような必要最小限の実力にとどまっているので合憲である。
 以上が、自衛隊発足以来、2014年7月1日午後の閣議決定に至るまで、日本国政府が維持し続けてきた論理です。
 いわゆる1972年(昭和47年)政府見解というのは、上記の論理を前提として、「そうだとすれば、わが憲法の下で武力行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合
に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。」と明確に断じたものだったのです。
 大半の憲法学者が、昨年7月1日の閣議決定と今次の“戦争法案”が、従来の合憲性判断の枠組では説明できず、それを超えてしまったもので違憲であるとしているのは以上のような理由によります。
 これを別の面から評すれば、集団的自衛権の行使ができるとする解釈は、自衛隊の存立を正当化する憲法上の根拠を喪失させ、単なる私兵におとしめるものだと言わなければならなりません。
※注 6月4日の衆議院憲法審査会に出席して安保関連法案を違憲と断じた3人の参考人長谷部恭男早大教授、小林節慶大名誉教授、笹田栄司早大教授)は、いずれも自衛隊合憲論者です。合憲論者「であっても」違憲としたという理解は正確ではありません。合憲論者「だからこそ」違憲と判断するしかなかったということなのだということを是非理解してください。

2 後方支援、協力支援は武力の行使を禁じた憲法第9条(特に1項)に違反する
 以下の各論(特に第3、第4)で論ずる予定ですが、法案が規定する米軍等への後方支援(重要影響事態法案)、協力支援(国際平和協力法案)は、「我が国周辺の地域」(周辺事態法)という地域的制限を廃し(世界中どこへでも)、非戦闘地域でなければ実施しないという制限も撤廃し(現に戦闘行為が行われていなければ良い)、武器の輸送、弾薬の提供、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を解禁するなど、兵站(ロジスティック)と言うしかないものであり、米軍等による武力行使と一体となる可能性が非常に高い、あるいは一体化そのものであって、武力の行使を禁じた憲法第9条1項に違反することになります。
 なお、憲法第9条1項は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と定めていますが、これは、不戦条約(1928年)以来の伝統的慣用から、一般に侵略戦争の放棄を定めた規定と解されているのですが、第9条2項が「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」として、戦争(含武力行使)を行うための物的手段と法的権限を否認していることから、侵略目的でないとしても、「武力の行使」一般が禁じられていると解するのが通説です(また通説は、日本が侵略を受けた場合に個別的自衛権を行使することは認められていると解釈します)。
※注 この点に関する判例としては、2008年4月27日、イラク特措法に基づいて米兵等の空輸を行
っていた航空自衛隊の活動を憲法9条1項に違反すると判断した名古屋高裁判決があります。

3 憲法第73条(内閣の権限)に違反する
 日本国憲法は、近代立憲主義に基づく権力分立制をとっており、各国家機関にいかなる権限を付与するかの基本は憲法自身によって定められています。そして、行政権を担う内閣に与えられた権限を明記しているのが憲法第73条なのですが、この規定をどのように読んでも、日本が武力攻撃を受けた訳でもないのに海外で戦争する(武力を行使する)権限を内閣に与えたと読める規定は存在しません。
 戦前(大日本帝国憲法体制下)天皇大権とされていたもののうち、行政権は内閣に、立法権は国会に、司法権は裁判所にそれぞれ帰属することになりましたが、どこにも継承されなかった大権があります。それは、以下の各条項です。
 
第11条 天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス
 第12条 天皇ハ陸海軍ノ編制及常備兵額ヲ定ム
 第13条 天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ条約ヲ締結ス(条約締結権は内閣に)
 第14条 天皇ハ戒厳ヲ宣告ス
  2 戒厳ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
 すなわち、この1946年に行われた憲法改正の経緯から考えても、内閣に戦争する権限などないこと
は明らかなのです。
※注 ちなみに、自民党日本国憲法に緊急事態条項を新設すべきと主張していますが、事実上、明治憲法第14条の天皇大権を内閣に付与しようというものであると理解できます。
 
第2 戦争法案の背景としての日米同盟
1 全ては米国の命じるままに(その1)
 IS(イスラム国)対策もあり、米国とイランの関係が改善に向かいつつある国際情勢などそっちのけで、あくまでホルムズ海峡での機雷掃海にこだわる安倍晋三首相の態度をいぶかしく思う人は、まず2012年8月に米国のシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)が公表した「米日同盟―アジアの安定を保持する―」(通称第3次アーミテージ・レポート)に目を通すべきでしょう。
 以下、同レポート(筑紫建彦氏訳)からの引用です。
 「日本の集団的自衛の禁止における一つの変化は、その皮肉に十分に対処することになるだろう。政策の転換は、司令部の統一や、より軍事的に攻撃的な日本、あるいは日本の平和憲法の変更を求めるべきではない。集団的自衛の禁止は、この同盟にとって障害物である。3・11は、われわれの両軍が、必要な場合にはその能力を最大化できることを示した。われわれの軍隊が平和時、緊張、危機、そして戦争という安全保障の全領域で完全に協力して対応することを許すのは、それぞれの政府当局であるだろう。」
 「役割と任務の新たな見直しにおいて、日本は、日本の防衛および地域的な不測の事態において米国とともに行う防衛を含む責任分野を拡大すべきである。この同盟は、日本の領域をかなり超える、より強健で、共有され、共通運用可能な「情報・監視・偵察」の能力と作戦を要求している。米軍と自衛隊が、平和時、緊張、危機および戦争という安全保障の全局面において十分に協力して対応することを許すのは、日本側の責任当局であろう。」
 「ホルムズ海峡を封鎖するというイランの意図が言葉で示され、またはその兆候が出た際は、日本は単
独でこの地域に掃海艇を派遣すべきである。日本はまた、航海の自由を確保するため、米国と協働して南シナ海の監視を増やすべきである。」
 「東京(日本政府)は、2国間および国家の安全保障上の秘密を防護するため、防衛省の法的権限を強化すべきである。」
 「PKOへのより十分な参加を可能にするため、日本は、必要な場合には武力をもって市民や他の国際的平和維持要員を防護することを含めるため、平和維持要員の許容範囲を拡大すべきである。」
 ジャパン・ハンドラーズからの指令書(御託宣と言っても良い)に忠実であることを何より優先している総理大臣の姿を我々は国会中継で目撃させられている訳です。
※注 オバマ大統領から極端に「冷遇」されたことで話題となった第2次安倍政権、最初の首相訪米時(2013年2月)、「Japan is back(日本は戻ってきました)」と題する演説をさせてもらったのが戦略
国際問題研究所(CSIS)であったということ、聴衆の中にいる重要人物(と首相が考える人々)に向かって安倍首相が以下のようなお愛想を述べたことは忘れるべきではありません。
 「昨年、リチャード・アーミテージ、ジョゼフ・ナイ、マイケル・グリーンやほかのいろんな人たちが、日本についての報告を出しました。そこで彼らが問うたのは、日本はもしかして、二級国家になってしまうのだろうかということでした。
 アーミテージさん、わたしからお答えします。日本は今も、これからも、二級国家にはなりません。それが、ここでわたしがいちばん言いたかったことであります。繰り返して申します。わたくしは、カムバックをいたしました。日本も、そうでなくてはなりません。」

2 全ては米国の命じるままに(その2)
 1997年9月に改訂された第2次日米ガイドライン(日米防衛協力のための指針)は、主として朝鮮
有事を想定し、日米防衛協力の具体的内容を定めたものであり、これを具体化するために制定された主要な法律が周辺事態法(1999年)でした。
 その日米ガイドライン18年ぶりに改定されました(2015年4月27日)。
 5月15日に衆議院に提出された戦争法案は、この新ガイドラインによって米国に約束した内容を実現するためのものであり、しかも、安倍首相は、法案の中身がまだ 閣議決定によって確定してもいない2015年4月29日、米国連邦議会上下両院合同会議において、「米国の」議員に対して以下のように約束しました。
 「日本はいま、安保法制の充実に取り組んでいます。実現のあかつき、日本は、危機の程度に応じ、切れ目のない対応が、はるかによくできるようになります。この法整備によって、自衛隊と米軍の協力関係は強化され、日米同盟は、より一層堅固になります。それは地域の平和のため、確かな抑止力をもたらすでしょう。戦後、初めての大改革です。この夏までに、成就させます。」
 従って、ガイドラインの問題点は戦争法案の問題点とほとんど同じです。ただし、日米安保条約との関係についてのみ若干指摘しておきたいことがあります。
 以下、新日米ガイドラインからの引用です。
「Ⅰ.防衛協力と指針の目的
 平時から緊急事態までのいかなる状況においても日本の平和及び安全を確保するため、また、アジア太平洋地域及びこれを越えた地域が安定し、平和で繁栄したものとなるよう、日米両国間の安全保障及び防衛協力は、次の事項を強調する。
 ・切れ目のない、力強い、柔軟かつ実効的な日米共同の対応
 ・日米両政府の国家安全保障政策間の相乗効果
 ・政府一体となっての同盟としての取組
 ・地域の及び他のパートナー並びに国際機関との協力
 ・日米同盟のグローバルな性質」

3 日米安保条約は「過去の遺物」か?
 現行の日米安保条約(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約/1960年)の中核的な規定は5条と6条です。以下、引用します。
「第五条1項
 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。     
 第六条1項
 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するためアメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。」
 
5条1項がいわゆる「日本有事」、6条1項がいわゆる「極東有事」と言われるものです。
 それでは、「日本国の施政の下にある領域」(要するに日本が実効支配している領土・領海という意味で、尖閣は含まれるが竹島や北方4島は含まれない)でもなく、「極東」とも言えない地域で日本が米軍に協力する条約上の根拠は何か?ということになれば、「根拠はない」と答えざるを得ません。
 そもそも、1997年版日米ガイドラインが「日米同盟関係は、(略)アジア太平洋地域における平和
と安定を維持するために引き続き重要な役割を果たしている。」と謳っていたこと自体、「極東」と「アジア太平洋地域」では範囲が違い過ぎたのに、今度のガイドラインでは、それさえも取り払い、「アジア太平洋地域及びこれを越えた地域」(要するに世界中どこでも)としており、両国政府の(しかも2+2というごく少数の閣僚の)合意だけで、日米安保条約の枠組外のことをやると宣言しているのです。
 日米同盟は、今や日米安保条約体制とは全く別のものに変質を遂げています。
 

2 存立危機事態とは?
 
第二条第四号「存立危機事態 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう。」
 昨年7月1日閣議決定にいういわゆる第1要件がこれです。

3 誰が存立危機事態だと認定するのか?
 
第九条第一項「政府は、武力攻撃事態等又は存立危機事態に至ったときは、武力攻撃事態等又は存立危機事態への対処に関する基本的な方針(以下「対処基本方針」という。)を定めるものとする。
 第九条二項一号 対処基本方針に定める事項は、次のとおりとする。
 ロ 事態が武力攻撃事態又は存立危機事態であると認定する場合にあっては、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がなく、事態に対処するため武力の行使が必要であると認められる理由」
(→いわゆる第2要件)
    
4 存立危機事態と認定したら政府はどうするのか?
 
自衛隊法七十六条(防衛出動)「内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。
 一 略(武力攻撃事態)
 二 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」
※注 武力行使のためのいわゆる新3要件の内、最後の第3要件を定めるのが自衛隊法第88条ですが、これは今回改正されず、そのままです。
 
自衛隊法第八十八条「第七十六条第一項の規定により出動を命ぜられた自衛隊は、わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる。
2 前項の武力行使に際しては、国際の法規及び慣例によるべき場合にあつてはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならないものとする。」
 
5 存立危機事態を合憲的に解釈する学説(木村草太説)について
 首都大学東京の木村草太准教授(憲法学)は、存立危機事態とは、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が同時に我が国への武力攻撃の着手となっている事態を「存立危機事態」と解釈すべきであり、そうであるならば合憲であると主張しています。
 しかしながら、そうだとすると、なぜ武力攻撃事態とは別に存立危機事態という新たな類型を設け、武
力攻撃事態と存立危機事態とを並立させ、各事態発生の認定、それに対する対処等を別々に規定しなければならないのかということについて、合理的な説明をつけかねる上に、自衛隊法改定案によれば、武力攻撃事態には適用されるが、存立危機事態は明文で適用除外となっている規定が、いずれも日本の領域内における防衛出動を前提とした規定であることからすれば、改定自衛隊法は、存立危機事態において、我が国の領域内に自衛隊を防衛出動させることなど想定しておらず、もっぱら海外派兵を念頭に置いていることは明らかであり、木村説は成り立たないと考えます。
 
第4 重要影響事態(世界中どこへでも~後方支援って兵站でしょうが)
1 これも名前が変わる(名は体を表す)
 
「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」
   ↓ 
 「重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」
 様々な「事態」が入り乱れる“戦争法案”を、丸ごと一挙に理解しようとしても無理です。私のお勧めの方法は、「鍵」となる法案を選び出してまずその理解に努め、その理解をベースとして、それ以外の法
案に検討を及ぼしていくというものです。
 集団的自衛権行使との関係で、存立危機事態を認めた武力攻撃事態法改定案に注目が集まりがちですが、私が今般の“戦争法案”の「鍵」だと考えているのは周辺事態法あらため重要影響事態法案です。
 存立危機事態を認定した上での防衛出動命令をいきなり発令するとは考えにくく、自衛隊を戦地に送るとすれば、まず米軍等への後方支援活動でしょう(自衛隊法改定案第84条の5)。
 これまでの主な自衛隊の戦地派遣は、テロ特措法による海上自衛隊のインド洋派遣、イラク特措法による陸上自衛隊航空自衛隊の派遣などでしたが、それらの特措法の基本となったのが周辺事態法(1999年)です。戦闘地域、非戦闘地域の区別などは、この周辺事態法の規定を基にして各特措法に盛り込まれたのでした。

2 周辺事態と重要影響事態はどこが違うのか?
(1)周辺事態(現行法)→
そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(周辺事態法第1条)
    ↓
  重要影響事態(改定法案)→
そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(重要影響事態法案第1条)
(2)注目その1 「我が国周辺の地域における」を削除し、世界中いかなるところでも自衛隊に米軍等
の後方支援等ができるようにしています。
(3)注目その2 重要影響事態の定義(上記(1))をもう一度よく読んでください。「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」というと、何か非常に切迫した具体的事態のように思えるかもしれませんが、その次に「等」という文字が入ることにより、その前に書かれた事態は単なる「例示」に過ぎないことになり、実質的に意味があるのは、「等」の後に書かれた「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」だけということになるのです。この文言自体は現行法と同じですが、現行法は、これに「我が国周辺の地域における」という限定句がかかっているのに対し、改定案はこれを削除しようというのですから、政府の裁量の余地は格段に広がることになります。
  
3 重要影響事態かどうかは誰が判断するのか
 言うまでもなく政府です。具体的には、内閣総理大臣は、重要影響事態に際して次に掲げる措置(金原注:後方支援活動等)のいずれかを実施することが必要であると認めるときは、当該措置を実施すること及び対応措置に関する基本計画(以下「基本計画」という。)の案につき閣議の決定を求めなければならない。」(重要影響事態法案第4条1項本文)とされています。
 以上の基本計画に基づく後方支援活動等の対応措置には国会の承認が必要とされていますが、「ただし、緊急の必要がある場合には」事後承認で良い(重要影響事態法案第5条)ことになっています。
 
4 何をするのか
(1)「後方支援活動 合衆国軍隊等に対する物品及び役務の提供、便宜の供与その他の支援措置であって、我が国が実施するものをいう。」(重要影響事態法案第3条1項2号)
 現行の周辺事態法で認められている類似の活動は「後方地域支援」ですが、「後方支援活動」とは似て非なるものです。
 そもそも、後方地域支援が行われる「後方地域」とは、「我が国領域並びに現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる我が国周辺の公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。以下同じ。)及びその上空の範囲をいう。」(周辺事態法第3条1項3号)であって、日本国の領域以外では、我が国周辺の公海及びその上空だけが活動範囲とされ(後方地域)、しかも、その後のテロ特措法、イラク特措法にも引き継がれた非戦闘地域でなければ実施しないという制限が課されたものでした。
 以上を前提として行われる「後方地域支援」が、「周辺事態に際して日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行っているアメリカ合衆国の軍隊(以下「合衆国軍隊」という。)に対する物品及び役務の提供、便宜の供与その他の支援措置であって、後方地域において我が国が実施するものをいう。」(周辺事態法第3条1項1号)であって、重要影響事態法案が実施しようとしている「後方支援活動」とは、質的にも量的にも全く異なります。
 ちなみに、「後方支援活動及び捜索救助活動は、現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいいう。以下同じ。)が行われている現場では実施しないものとする。ただし、第七条第六項の規定により行われる捜索救助活動については、この限りでない。」(重要影響事態法案第2条3項)とされており、この枠組みは、「国際平和共同対処事態」でも踏襲されています。
 さらに、後方支援と後方地域支援の相違点を挙げれば以下のとおり。
〇支援活動の対象が、米軍のみならず、「その他の国際連合憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊その他これに類する組織」(重要影響事態法案第3条1項1号)にまで拡大されています。
〇具体的な後方支援としてなし得る活動の内容は別表第1で定められていますが、現行周辺事態法の別表と読み比べれば、その支援活動が大幅に拡大されていることが分かります。具体的には、
① 現行法別表第1(備考)では「物品の提供には、武器(弾薬を含む。)の提供を含まないものとする。」とされていたものが、改定案では「物品の提供には、武器の提供を含まないものとする。」となっており、これは「弾薬は提供できる」と読むことになります。
② 現行法別表は、「物品及び役務の提供には、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を含まないものとする。」と備考に記載されていますが、改定案ではこの部分は削除されており、このような活動も後方支援としてなし得ることになります。
(2)
「捜索救助活動 重要影響事態において行われた戦闘行為によって遭難した戦闘参加者について、その捜索又は救助を行う活動(救助した者の輸送を含む。)であって、後方地域において我が国が実施するものをいう。」(重要影響事態法案第3条1項3号)
(3)船舶検査活動
「この法律において「船舶検査活動」とは、重要影響事態又は国際平和共同対処事態に際し、貿易その他の経済活動に係る規制措置であって我が国が参加するものの厳格な実施を確保する目的で、当該厳格な実施を確保するために必要な措置を執ることを要請する国際連合安全保障理事会の決議に基づいて、又は旗国(海洋法に関する国際連合条約第九十一条に規定するその旗を掲げる権利を有する国をいう。)の同意を得て、船舶(軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶であって非商業的目的のみに使用されるもの(以下「軍艦等」という。)を除く。)の積荷及び目的地を検査し、確認する活動並びに必要に応じ当該船舶の航路又は目的港若しくは目的地の変更を要請する活動であって、我が国が実施するものをいう。」(重要影響事態等に際して実施する船舶検査活動に関する法律案第2条)

第5 国際平和共同対処事態(協力支援と言い替えても結局兵站でしょう)
1 法案の狙い
 今般の“戦争法案”の中で、唯一の新規立法「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案」(政府は「国際平和支援法」と略称)は、かつてのテロ特措法やイラク特措法を恒久法化するという側面と、周辺事態法あらため重要影響事態法案と並んで、あらゆる事態において、「切れ目なく」自衛隊が米軍等に協力できるようにするというものです。

2 国際平和共同対処事態とは何か?
 「国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、かつ、我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの」(国際平和支援法案第1条)。

3 発動のための要件 
(1)いわゆる多国籍軍に対する支援を可能とする法案であり、その多国籍軍(諸外国の軍隊等)は、「国際社会の平和及び安全を脅かす事態に関し、次のいずれかの国際連合の総会又は安全保障理事会の決議が存在する場合において、当該事態に対処するための活動を行う外国の軍隊その他これに類する組織(略)をいう。」(国際平和支援法案第3条1項1号本文)とされていますが、その国連決議は、「当該外国が当該活動を行うことを決定し、要請し、勧告し、又は認める決議」(同号イ)だけではなく、「イに掲げるもののほか、当該事態が平和に対する脅威又は平和の破壊であるとの認識を示すとともに、当該事態に関連して国際連合加盟国の取組を求める決議」(同号ロ)でも良いとされており、非常に要件はゆるやかです。
(2)国会の事前承認が必要とされており、例外規定はありません(国際平和支援法案第6条)。

4 何をするのか
(1)協力支援活動「諸外国の軍隊等に対する物品及び役務の提供であって、我が国が実施するものをい
う。」(国際平和支援法案第3条1項2号)
 名称こそ違え、実質的には、重要影響事態法案における後方支援活動と同一内容の活動ができます。
(2)捜索救助活動(同法案第3条1項3号)
 これも、重要影響事態法案における捜索救助活動と同じ。
(3)船舶検査活動 重要影響事態の場合と根拠法も同一。
 要するに、「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」と何とか言えれば重要影響事態法が、それは無理でも「国際社会の平和及び安全を脅かす事態」であって、何らかの国連決議がある場合には国際平和支援法が適用可能となり(たいがいの国際紛争はどちらかにあたる可能性が高いでしょう)、米国から要請あり次第、いつでも自衛隊を後方支援活動(又は協力支援活動)等のために派遣できる「切れ目のない」体制を整える法制であることに本質があります。
 法文上、「後方支援活動(協力支援活動)」という概念を使用していても、要するに、国際的・軍事的には兵站(ロジスティック)に他ならず、米軍等の武力行使と一体化し、あるいは武力行使の一部を担うことになり、憲法第9条(1項)に違反するということは前述のとおりです。
 なお、後方支援と武力行使の関係について、小林節慶大名誉教授が6月4日の衆議院憲法審査会で述べた卓抜な比喩をご紹介しておきます。
 「小林節参考人 長谷部(恭男)先生は、一体化のおそれが極めて高くなるとおっしゃいましたが、僕
は一体化そのものだと思うんです。
 つまり、兵たんなしに戦闘というのはできませんから。要するに、アメリカのコンバット部隊が最前線でドンパチやっていて、あとの機能は全部日本が引き受けることができる法案になっています。ということは、例えは悪いですけれども、長谷部先生が銀行強盗に行くとき、僕が車で送迎して、強盗は彼で、私は何もしていません。共犯は正犯に準ずるわけですから、一緒に強盗したことになるんですよね。そういう意味では、これは露骨な戦争参加法案でありまして、もうその一事だけでも、私はついていけません。」
 
第6 PKOはどう変わる?(危険な業務も次々と追加)
1 国連平和維持活動
(1)定義
 「国際連合平和維持活動 国際連合の総会又は安全保障理事会が行う決議に基づき、武力紛争の当事者(以下「紛争当事者」という。)間の武力紛争の再発の防止に関する合意の遵守の確保、紛争による混乱に伴う切迫した暴力の脅威からの住民の保護、武力紛争の終了後に行われる民主的な手段による統治組織の設立及び再建の援助その他紛争に対処して国際の平和及び安全を維持することを目的として、国際連合の統括の下に行われる活動であって、国際連合事務総長(以下「事務総長」という。)の要請に基づき参加する二以上の国及び国際連合によって実施されるもののうち、次に掲げるものをいう。
 イ(略)
 ロ(略)
 ハ(略)」(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律改定案第3条1号)

 従来からのPKO活動ですが、定義規定の中に「住民の保護」を明示したことが注目されます。
(2)新たに追加された主要な業務(同法案第3条5号)
① 
防護を必要とする住民、被災民その他の者の生命、身体及び財産に対する危害の防止及び抑止その他特定の区域の保全のための監視、駐留、巡回、検問及び警護(同号ト)
② 補給(武器の提供を行う補給を除く)(同号ツ)
③ 
国際連合平和維持活動又は国際連携平和安全活動を統括し、又は調整する組織において行うイからツまでに掲げる業務の実施に必要な企画及び立案並びに調整又は情報の収集整理(同号ネ)
④ (いわゆる「駆け付け警護」)
ヲからネまでに掲げる業務又はこれらの業務に類するものとしてナの政令で定める業務を行う場合であって、国際連合平和維持活動、国際連携平和安全活動若しくは人道的な国際救援活動に従事する者又はこれらの活動を支援する者(以下このラ及び第二十六条第二項において「活動関係者」という。)の生命又は身体に対する不測の侵害又は危難が生じ、又は生ずるおそれがある場合に、緊急の要請に対応して行う当該活動関係者の生命及び身体の保護(同号ラ)
(3)任務遂行のための武器使用
 新たに追加された上記①住民保護・治安維持活動、④駆け付け警護の業務に従事する自衛官は、
「やむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で」「武器を使用することができる。」(同法案第26条1項、2項)
 任務の危険性に応じて武器使用基準を緩和した規定であるが、そもそもそのような危険な任務に自衛隊を派遣することの是非が問われなければなりません。
(4)国会の承認
 停戦監視、治安維持等、一定の業務を行う場合には、(国会が開会中であれば)事前に国会の承認を求めなければならない(同法案第6条7項)。
 
2 国際連携平和安全活動
(1)定義
 「国際連携平和安全活動 国際連合の総会、安全保障理事会若しくは経済社会理事会が行う決議、別表第一に掲げる国際機関が行う要請又は当該活動が行われる地域の属する国の要請(国が行う要請又は当該活動が行われる地域の属する国の要請(国際連合憲章第七条1に規定する国際連合の主要機関のいずれかの支持を受けたものに限る。)に基づき、紛争当事者間の武力紛争の再発の防止に関する合意の遵守の確保、紛争による混乱に伴う切迫した暴力の脅威からの住民の保護、武力紛争の終了後に行われる民主的な手段による統治組織の設立及び再建の援助その他紛争に対処して国際の平和及び安全を維持することを目的として行われる活動であって、二以上の国の連携により実施されるもののうち、次に掲げるもの(国際連合平和維持活として実施される活動を除く。)をいう。
 イ(略)
ロ(略)
 ハ(略)」(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律改定案第3条2号)
 今回、新設されたいわゆる「国際貢献」活動ですが、PKOとは異なり、「国際連合の統括の下に行われる活動であって、国際連合事務総長の要請に基づき参加する」という要件を欠いています。
 2014年末までアフガニスタンで活動したNATO軍を主体としたISAF(国際治安支援部隊)などが想定されます(のかどうかと共産党の志位委員長が質したのに対し、安倍首相は明確な答弁をしませ
んでした~否定もしませんでしたが)。
(2)何を行うか
 同法案第3条5号(国際平和協力業務)に列挙された業務は、国連平和維持活動(PKO)でも国際連携平和安全活動でも共通であり、また、武器使用基準も共通に適用されます。国会承認についても同じ規定が適用されます。
 
第7 グレーゾーン事態(現場の判断でいつの間にか戦争に?)
1 在外邦人の保護措置等
 「防衛大臣は、外務大臣から外国における緊急事態に際して生命又は身体に危害が加えられるおそれがある邦人の警護、救出その他の当該邦人の生命又は身体の保護のための措置(輸送を含む。以下「保護措置」という。)を行うことの依頼があつた場合において、外務大臣と協議し、次の各号のいずれにも該当すると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、部隊等に当該保護措置を行わせることができる。
一 当該外国の領域の当該保護措置を行う場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たつており、かつ、戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。第九十五条の二第一項において同じ。)が行われることがないと認められること。
二 自衛隊が当該保護措置(武器の使用を含む。)を行うことについて、当該外国(国際連合の総会又は安全保障理事会の決議に従つて当該外国において施政を行う機関がある場合にあつては、当該機関)の同意があること。
三 予想される危険に対応して当該保護措置をできる限り円滑かつ安全に行うための部隊等と第一号に規定する当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力が確保されると見込まれること。
2 内閣総理大臣は、前項の規定による外務大臣防衛大臣の協議の結果を踏まえて、同項各号のいずれにも該当すると認める場合に限り、同項の承認をするものとする。
3(略)」(自衛隊法改定案第84条の3)
 真偽は判然としませんが、自衛隊による在外邦人保護措置が新設されると聞き、官僚に「自衛隊拉致被害者北朝鮮から救出できるようになるのか?」と質問した自民党議員がいたという嘘のような話があります。仮に事実とすれば、こういう議員の賛否で採決される法律にはたして正当性があるのだろうかと疑わざるを得ません(そもそも大本の法案が憲法違反だということを脇に置いてもです)。
 
2 合衆国軍隊等の部隊の防護のための武器の使用
 「自衛官は、アメリカ合衆国の軍隊その他の外国の軍隊その他これに類する組織(次項において「合衆国軍隊等」という。)の部隊であつて自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動(共同訓練を含み、現に戦闘行為が行われている現場で行われるものを除く。)に現に従事しているものの武器等を職務上警護するに当たり、人又は武器等を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条又は第三十七条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。
2 前項の警護は、合衆国軍隊等から要請があつた場合であつて、防衛大臣が必要と認めるときに限り、自衛官が行うものとする。」(自衛隊法改定案第95条の2)
 問題百出の今回の“戦争法案”の中にあっても、少なくとも10本の指には確実に入る問題条文です。
 元来、昨年政府・与党協議において、政府が提示したいわゆる「15事例」の中に、「事例3 弾道ミ
サイル発射警戒時の米艦防護」というのがあり、そこでは集団的自衛権行使が必要という文脈で議論されていたはずなのに、法案が出来てみると、米軍の「武器等の防護」を行う「自衛官」の判断による「武器使用」に矮小化されてしまっていました。なお、刑法第36条は正当防衛、第37条は緊急避難についての規定です。
 そもそも、この条文の主語は「自衛隊」ではなく「自衛官」なのであり、武器を使用するかどうかの判
断は、結局現場の指揮官に丸投げするということに帰着するのであって、こんな無責任な規定が許されて良いのだろうかという疑問と怒りがわいてきます(文民統制云々以前の問題だと思います)。
 日本の領域に奇襲攻撃がかけられた訳でもないのに、国家安全保障会議も閣議も開かれず、内閣総理大臣防衛大臣も知らないうちに戦争が始まっていたということになりかねません。 
 
第8 日本の若者を米国の尖兵としないために(日本国憲法成立史を振り返る)
1 ポツダム宣言受諾からサンフランシスコ平和条約まで
 日本の戦後体制は以下のような経緯をたどって形成されました。この程度の知識は日本人にとって必須です(仮に総理大臣が知らないとしても)。
 1945年7月26日、米・英・中3国が日本に対してポツダム宣言を発する(対日参戦の後にソ連
加わった)
 1945年8月14日、日本政府、ポツダム宣言を受諾(終戦の詔書
 1945年9月2日、日本政府及び大本営全権が降伏文書に署名
 1946年11月3日、日本国憲法公布(翌年5月3日施行)
 1951年9月8日、サンフランシスコにおいて対日平和条約及び旧日米安保条約吉田茂全権が署名(いずれも翌年4月28日発効)
 1956年12月18日、日本が国際連合の80番目の加盟国となる
 
2 押し付け憲法論の誕生
 1946年1月24日、幣原喜重郎首相が3時間にわたり、マッカーサー元帥と2人だけで会談した。
 同年2月1日、毎日新聞憲法改正草案要綱(松本委員会案)の1つをスクープ。
 同年2月3日、マッカーサー、GHQ民政局長に憲法草案の起草を命じるに際し、3原則を示す(
マッ
カーサーノート)。
 同年2月8日、日本政府がGHQに松本委員会の「憲法改正要綱」を提出。
 同年2月13日、GHQは日本政府が提出した要項を拒否し、GHQ草案を手交した。
 
3 一つの仮説「幣原喜重郎、総理大臣の孤独な闘い」
 まず、平野ノート(1951年2月、幣原元首相から平野三郎衆議院議員が聴き取った内容を、平野氏が後年整理して政府の憲法調査会に提出したもの)から引用します。
 「マッカーサーは非常に困った立場にいたが、僕の案は元帥の立場を打開するものだから、渡りに舟と
いうか、話はうまく行った訳だ。しかし第九条の永久的な規定ということには彼も驚いていたようであった。僕としても軍人である彼が直ぐには賛成しまいと思ったので、その意味のことを初めに言ったが、賢明な元帥は最後には非常に理解して感激した面持ちで僕に握手した程であった。
 元帥が躊躇した大きな理由は、アメリカの戦略に対する将来の考慮と、共産主義者に対する影響の二点であった。それについて僕は言った。 
 日米親善は必ずしも軍事一体化ではない。日本がアメリカの尖兵となることが果たしてアメリカのため
であろうか。原子爆弾はやがて他国にも波及するだろう。次の戦争は想像に絶する。世界は亡びるかも知れない。世界が亡びればアメリカも亡びる。問題は今やアメリカでもロシアでも日本でもない。問題は世界である。いかにして世界の運命を切り拓くかである。日本がアメリカと全く同じものになったら誰が世界の運命を切り拓くかである。
 好むと好まざるにかかわらず、世界は一つの世界に向って進む外はない。来るべき戦争の終着駅は破滅的悲劇でしかないからである。その悲劇を救う唯一の手段は軍縮であるが、ほとんど不可能とも言うべき軍縮を可能にする突破口は自発的戦争放棄国の出現を期待する以外にないであろう。同時にそのような戦争放棄国の出現もまた空想に近いが、幸か不幸か、日本は今その役割を果たしうる位置にある。歴史の偶然は日本に世界史的任務を受けもつ機会を与えたのである。貴下さえ賛成するなら、現段階における日本の戦争放棄は対外的にも対内的にも承認される可能性がある。歴史の偶然を今こそ利用する秋である。そして日本をして自主的に行動させることが世界を救い、したがってアメリカをも救う唯一つの道ではないか。」

4 象徴天皇制戦争放棄
 3で紹介した平野ノートの内容をどこまで信用できるかについては色々意見があるようです。しかし、マッカーサー回顧録等、それなりに信用すべき根拠もあるため、憲法9条幣原喜重郎発案説(もしくは、幣原・マッカーサー合作説)は、通説とまでは言えないものの、かなりの有力説と言ってもよいのではな
いでしょうか(半藤一利氏も、2~3年前からこの説を支持するようになりました)。
 この説のポイントは、当時の幣原首相にとっての最大の課題が、天皇制を維持し、昭和天皇戦争犯罪人としての訴追から免れさせることにあったことを踏まえ、それを連合国に確実に承認させるための交換条件として(あるいは「切り札」として)、後に憲法9条として結実する戦争放棄、軍備放棄を提案したと解する点にあります。
 結局、1946年2月3日に示されたマッカーサー3原則が、最終的に日本国憲法の第1章(象徴天皇制)、第2章(戦争の放棄)などとなって結実することになるのですが、日本政府がポツダム宣言受諾に際して最後まで「国体の護持」(天皇制の維持)にこだわったこととあいまって、象徴天皇制戦争放棄が不可分一体のものであったことは、異論をはさむ余地のない歴史的事実というべきなのです。
 
5 2人の総理大臣
 私自身は、憲法9条幣原喜重郎発案説にかなり傾いています。マッカーサーが回顧録でそう述べているということはもちろん有力な根拠ですが、そう解することによって、はじめて様々な事実(ピース)が落ち着くべきところに落ち着き、日本の戦後体制という絵柄を完成させることができると思うからであす。
 そのことを前提としてですが、1人で最高権力者マッカーサーと対峙し、天皇制を守るとともに、将来の
日本の若者が「アメリカの尖兵」となって命を失う運命から救い出した総理大臣と、米国議会で演説させてもらって悦に入り、国会の同意もないうちに自衛隊員の命を差し出すことを米国に約束してきた総理大臣と。日本国民は、この対比を絶対に忘れないで欲しいと思います。
 
第9 今からでも遅くはない
1 様々な「共同」を地方でも。
2 女性たちは立ち上がりつつある。男性もこれに続こう。
3 間断なく声を上げ続けよう。「声明」、「デモ」、「集会」
4 1人1人があきらめず、出来ることをやり抜く。
 最後のセクションは、講師である私が解説するのではなく、皆さん自身が考え、かつ実践しなければな
らない課題です。レジュメを見だしだけにとどめたのはそういう理由からです。  
                                            以 上