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原発事故子ども被災者支援法は何のために制定されたのか?~復興庁と原子力規制委員会のやりとりを読む

 今晩(2015年7月24日)配信した「メルマガ金原No.2161」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
原発事故子ども被災者支援法は何のために制定されたのか?~復興庁と原子力規制委員会のやりとりを読む

 去る7月10日、復興庁が、原発事故子ども被災者支援法(東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律)に基づき、「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針の改定(案)」についてのパブリックコメントを実施すると発表(8月8日まで)ことは既にご紹介しました。
 
 
 
 今日は、その問題についての非常に重要な関連情報が、OurPlanet-TVによって報じられていますので、多くの人に知っていただきたいと思い、ご紹介することとしました。
 
 まず前提として、原発事故子ども被災者支援法は、基本方針を策定又は変更しようとするときは、「あらかじめ、その内容に東京電力原子力事故の影響を受けた地域の住民、当該地域から避難している者等の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。」(同法5条3項、5項)と定めており、パブリックコメント(任意的)の実施の他、7月17日に東京都で、翌18日に福島市で、復興庁による「説明会」が行われたのも、この規定に基づくものです。
 両説明会の模様は、OurPlanetTV1によるアーカイブ映像で視聴できます。
 
子ども被災者支援法基本方針改正に関する説明会(東京)
 

子ども被災者支援法基本方針改訂説明会(福島)
 


 「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針の改定(案)」は、「支援対象地域に関する事項」として、「原発事故発生から4年余りが経過した現在においては、空間放射線量等からは、避難指示区域以外の地域から避難する状況にはなく、支援対象地域は縮小又は撤廃することが適当であると考えられる。(略)原発事故発生から4年余りが経過し、避難先での生活が定着化する人もいる中、被災者が、帰還又は他の地域への定住のいずれを選択するかを新たに判断するためには、一定の期間を要することから、当面、放射線量の低減にかかわらず、支援対象地域の縮小又は撤廃はしないこととする。」と規定し、さらに「被災者生活支援等施策に関する基本的な事項」として、「福島県においては、避難指示区域以外からの避難者に対する応急仮設住宅の供与期間を1年延長した上で、平成29年3月末までとした。このことは、Ⅱのとおり、空間放射線量が大幅に低減していること等とも整合的である。政府としては、被災者がいずれの地域においても安心して生活を営むことができるよう、適切に対応していく。」とするなど、「支援対象地域(その地域における放射線量が政府による避難に係る指示が行われるべき基準(金原注:年間有効線量20ミリシーベルト)を下回っているが一定の基準以上である地域をいう。)」(同法8条1項)がもはや存在しないと言わんばかりであり、説明会でも、この点について多くの批判の声が上がっていました。
 
 今回(7月23日)、復興庁が6月下旬における復興庁と原子力規制委員会(規制庁)とのやりとりの文書を出さざるを得なくなったのも、説明会において、復興庁側が、現在の支援対象地域は「避難する必要のある状況ではない」とする見解を原子力規制委員会から事前に得ていると説明したことを追及された結果です。
 この間の取材の経緯をまとめたOurPlanet-TVの記事を是非お読みください。
 
支援対象地域「避難する状況にない」~規制庁が独自見解
(抜粋引用開始)
 「原発事故子ども・被災者支援法」基本方針改定案の作成に際し、原子力規制庁が復興庁に対し、支援対象地域は「避難する必要のある状況ではない」とする見解を示していたことがわかった。規制庁の記者ブリーフィングの中で明らかにした。官僚組織である原子力規制庁が、規制委員会の会議などを経ず、独自に線量基準などに関わる見解を示すのは極めて異例。多くの原発被災者に影響する方針転換だけに、激
しい反発を呼びそうだ。
 問題となっているのは、復興庁が今月7月7日に示した「原子力子ども被災者・支援法」基本方針の改定案。支援対象地域は「避難する状況にない」と明記していることについて、復興庁の浜田副大臣は、17日に開催された住民向け説明会で、規制庁の見解が基だと説明。また翌18日には、復興庁法制班の佐
藤紀明参事官が、原子力規制庁が作成したというペーパーを読み上げて、住民から批判を浴びていた。
 原子力規制庁によると、復興庁が6月24日に原子力規制庁に対し、支援対象地域の状況について質問を送付。これに対し、規制庁の放射線対策・保障措置課が回答を作成。翌25日に復興庁に返答した。規
制庁は、子ども被災者支援法の基本方針改定のために活用することは認識していたという。
(引用終わり)
 
「自主避難者の支援は不要」~規制委・田中委員長がお墨付き
(抜粋引用開始)
 「原発事故子ども・被災者支援法」基本方針改定案の作成に際し、支援対象地域が「避難する状況ではない」と規制庁がお墨付きを与えていた問題で、原子力規制委員会田中俊一委員長も内容を把握し、了承していたことがわかった。記者会見で田中委員長は「自主避難は、自分は嫌だからっていうので避難し
た人」とした上で、国が自主避難者を支援する必要はないとの考えを示しました。
 「原子力子ども被災者・支援法」基本方針の改定に際し、復興庁の浜田副大臣は6月24日、田中俊一委員長宛のメールを送付。「線量は下がっている傾向にあり、子ども被災者支援法に基づく支援対象地域の縮小廃止を検討すべき段階にある。科学的に縮小廃止にすべき状況であることの確認をしておきたい」と質問した。これに対し、放射線対策・保障措置課の角田英之課長は、田中委員長と池田長官に相談した
上で内部で回答を作成。田中委員長の了承を経て、翌日復興庁に返送した。
 東京電力福島原発事故の線量基準などについて、規制庁の放射線対策・保障措置課がこのような対応をとったのははじめて。公開の会議を開催せず、「規制庁」というクレジットで回答をした理由について、規制庁は、「モニタリングの結果という事実関係と原子力対策本部が示している避難指示解除の条件である20ミリシーベルトとつきあわせて考えた時に、専門的な判断によるものではなく、事実関係として明らかに避難する必要のある状況ではないと判断ができると考えて規制庁のクレジットで回答したと説明す
る。
 田中委員長は「年間20ミリシーベルト以下になれば、国際的に見ても、そこに住みながら、線量の低減化を図るということを言われていて、それでいいと申し上げている。」と回答。
 「もともと自主避難というのは、99%、97~98%以上の人がそこに住んでいた時に、自分は嫌だからっていうので避難したわけですから、それを国がどういう訳か、支援するというふうになっちゃった」と、自主避難者の住宅支援をしてきた国を批判。避難指示区域以外の避難に対しての支援策は必要ないとの考えを強調した。
(引用終わり)
 
自主避難者は非科学的?~復興庁が支援法を完全否定
(抜粋引用開始)
 復興庁は23日、「原発事故子ども・被災者支援法」基本方針改定案の作成をめぐり、浜田昌良副大臣原子力規制委員会田中俊一委員長宛てに送付していた文書などを公開した。支援対照地域について明確な線量基準を設定しないまま、一方的に「避難する状況にはない」と断定し、法律を無効化しようとす
る復興庁の強い姿勢が浮き彫りとなった。
 原子力規制委員会の田中委員長宛に復興庁の浜田副大臣がメールを送付したのは6月24日。「今回の改定において縮小・廃止を打ち出すことも考えられるが、社会的影響が大きいため困難」であるとした上で、「少なくとも、福島県による自主避難者に対する応急仮設住宅の提供の終了を明記するとともに、科
学的には、支援対象地域は縮小・廃止すべき状況であることの確認をしておきたい。」と記載していた。
(略)
 文書の発出元となった浜田昌良副大臣京都大学大学院修士課程中退し、通商産業省(現:経済産業省)に入省。2004年に参議院議員通常選挙公明党から出馬し当選。 第1次安倍内閣で外務大臣政務官
、第2次安倍内閣で復興副大臣に就任していた。
 一方、文書を作成した佐藤紀明参事官は自治省に入省。国民生活白書の執筆、総合規制改革事務局の立ち上げ、情報公開制度の普及や指導、中心市街地の活性化など幅広い分野を担当。ツイッターで暴言を吐
き更迭された水野靖久前参事官の後任として、2013年に復興庁に着任した。
(引用終わり)
 
 何と評したら良いか言葉に迷いますが、とにかく、ここでは公表された復興庁と原子力規制委員会(規制庁)とのやりとりの文書を全文引用しますので、是非これを読んでください。そしてその上で、原発事故子ども被災者支援法をもう一度読み直していただきたいのです。いかに議員立法とはいえ(そういえば、浜田副大臣も、公明党参議院議員として賛成したはずですが)、政府による法律無視の態度はひどいと言わざるを得ません。まあ、憲法を無視しよういう政権なのだから、一片の議員立法によって成立した法律を無視することなど何でもないのかもしれませんが。しかし、私たち国民がそれを許してはいけません。
 
(2015年6月24日付 復興庁浜田昌良副大臣から田中俊一原子力規制委員会委員長宛依頼)
原子力規制委員会委員長
 田中 俊一 殿
 
 子ども被災者支援法基本方針では、現在、支援対象地域を福島県中通り浜通りの市町村としている。
 子ども被災者支援法では、支援対象地域は、放射線量に基づき毎年見直すこととされている。通常、線量は自然減衰や除染で低減していくと考えられることから、支援対象地域は、基本的には縮小していくことが想定されていたと考えられる。実際にも、線量は事故後減少傾向にあるか、又は下がった状態で安定
しており、支援対象地域の縮小・廃止を検討すべきものと考えられる。
 本来であれば、今回の改定において縮小・廃止を打ち出すことも考えられるが、社会的影響が大きいため困難であるものの、少なくとも、福島県による自主避難者に対する応急仮設住宅の提供の終了を明記す
るとともに、科学的には、支援対象地域は縮小・廃止すべき状況であることの確認をしておきたい。
 ついては、専門家から改めて、支援対象地域の線量は、現在、既に避難するような状況ではない旨の見
解を確認いただきたいと考えている。
 また、これは、支援対象地域は避難すべき状況であると主張される自主避難者への科学的反論をも示す
ものになると考えている。
 なお、独立行政委員会である原子力規制委員会のご意見を頂くことにより、客観的な公平性・妥当性を担保できると考えているところである。
 
          平成 27年 6月 24日
           復興副大臣 浜田 昌良
 
(2015年6月25日付 原子力規制庁から復興庁浜田昌良副大臣宛回答)
 復興副大臣
  浜田 昌良 殿
 
 平成27年6月24日の子ども被災者支援法に関連する支援対象地域に関するレターの記載内容に関して、福島県の現状における空間線量率の状況等を以下に述べる。 
 原子力規制委員会においても、定期的な航空機モニタリング福島第一原子力発電所から80km圏内を
中心とした空間線量率や、土壌への放射性物質の沈着量の測定等を実施してきた。
 支援対象地域は、そもそも避難指示がかかっていない区域であり、現状のこの地域における空間線量率
は、当然のごとく、上記の避難指示解除準備区域よりも低いことは以下のサイトに示している。
・航空機モニタリングによる測定結果
福島第一原子力発電所から80km圏内を中心とした空間線量率や土壌への放射性物質の沈着量等の測定
結果
福島県に配置した約4000基のモニタリングポスト含む全国のモニタリングポストの10分ごとの空
間線量率の測定結果
 福島第一原子力発電所の事故から4年以上が経過した現在、これらの調査から得られた結果を見ると、多くの避難指示準備解除区域においても、空間線量率から積算される実効線量は、避難指示準備解除区域
の基準となる20ミリシーベルトを大きく下回る状況である。
 加えて、福島県複数の市町村が、個人線量計による測定結果を公表しており、それによると、一部の
地域を除いて、支援対象地域の住民の大部分の年間個人被曝線量は、1ミリシーベルトを下回っている。
 このように、支援対象地域の空間線量率や、個人線量計による測定結果等の科学的なデータから見ると
、現在、避難する必要のある状況ではない。

          平成27年6月25日
          原子力規制庁