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wakaben6888のブログ

憲法を大事にし、音楽を愛し、原発を無くしたいと願う多くの人と繋がれるブログを目指します

豊下楢彦氏の新著『昭和天皇の戦後日本 〈憲法・安保体制〉にいたる道』を読む

 今晩(2015年8月22日)配信した「メルマガ金原No.2190」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
豊下楢彦氏の新著『昭和天皇の戦後日本 〈憲法・安保体制〉にいたる道』を読む

 元関西学院大学教授の豊下楢彦(とよした・ならひこ)氏のお名前を初めて知ったのは、岩波新書『集団的自衛権とは何か』(2007年7月刊)の刊行後間もない時期に同書を入手して読んだ時でしたから、相当に「遅れていた」と言わざるを得ませんでした。
 その時点では、同じく岩波新書から『安保条約の成立―吉田外交と天皇外交―』(1996年12月刊)が刊行されて学界や言論界の話題を集めてから既に10年以上が経過していたのですから。


 『集団的自衛権とは何か』は、第1次安倍政権が安保法制懇(第1次)を使って集団的自衛権行使容認に踏み出そうとする切迫した時期に執筆されたにもかかわらず、その1つ1つ事実を積み重ねながら、そこから論旨明快な結論を紡ぎ出していく学者としての手腕に感嘆したことは忘れられません。
 
 やがて、『安保条約の成立―吉田外交と天皇外交―』や、その続編ともいうべき『昭和天皇・マッカーサー会見』岩波現代文庫/2008年7月刊)を読むに及び、豊下氏の国際政治学者としての業績が枢軸国の敗戦とその戦後占領体制の研究(『イタリア占領史序説-戦後外交の起点』(有斐閣/1984年11月)からスタートし、やがて戦後日本の「新たな国体」成立に昭和天皇がいかに関与したかに研究の重点が移って行ったということを知るに及び、こちらのラインこそ、政治学者・豊下氏の主たる研究領域であり、集団的自衛権についての研究は、密接な関連はあり、かつ重要性は劣るものではないけれど、あえて言えばその余滴と言えなくもないという風に思いました。
 



 そして、豊下氏は、2014年9月に『昭和天皇実録』が公開されるに及び、それを読み込んだ上で、
戦後政治史と昭和天皇に関する研究の集大成となる著書を執筆されていたのでしょう。ついにその成果として、『昭和天皇の戦後日本 〈憲法・安保体制〉にいたる道』(岩波書店/2015年7月刊)が刊行されました。
 
 
 
 私もまだ入手して間がなく、特に前2著との異同を云々できるほど読み込めておらず、おおざっぱな感想に過ぎませんが、本書は、これまで上記主要2著及び関連論文によって展開した「豊下仮説」を総まとめするとともに、随所で『昭和天皇実録』を引用することによって「仮説」の裏付けとするという方針によって書かれているようです。
 従って、前2著(『安保条約の成立―吉田外交と天皇外交―』、『昭和天皇マッカーサー会見』)を読み込んでいる者にとっては、個々の事実に関して新たな発見が得られるということではなく、「豊下仮説」の展開と帰趨について、自らの理解を再構築するためにこそ役立つ著書なのだろうと思います。
 ちなみに、「豊下仮説」の要点を、本書の「序『昭和天皇実録』の衝撃」の中で、著者自身、以下のように要約されています(?頁)。
 
(引用開始) 
 以上に見たように、昭和天皇は日本の敗戦から講和条約の締結に至るまでに、天皇制の維持それ自体が危機に瀕するような、二つの重大かつ深刻な危機に直面した。まず第一の危機として、憲法改正作業の成り行き次第では天皇制が廃止される危険性があり得たし、さらに東京裁判の展開次第では昭和天皇自身が
訴追される恐れもあった。そこには、退位を迫る内外からの圧力が加わった。
 こうした、敗戦に伴う深刻な危機を、新憲法の成立と東京裁判の決着という形で乗り越えた昭和天皇が、とりわけ1947年以降に直面することになった第二の危機が、内外の共産主義による天皇制打倒という脅威であった。この脅威に対抗するために天皇がなりふり構わずに選択したのが、米軍による天皇制の
防衛という、安保体制の形成に他ならなかった。
(引用終わり)
 
 ここで、本書の構成を知っていただくため、目次を引用します。
 
(目次引用開始)
序 『昭和天皇実録』の衝撃
 
第Ⅰ部│昭和天皇の〈第一の危機〉――天皇制の廃止と戦犯訴追
第一章│「憲法改正」問題
1 「天皇事業」としての憲法改正
2 マッカーサーへの「謝意」
3 なぜマッカーサーは急いだのか
第二章│「東京裁判」問題
1 天皇への「叛逆者」
2 「勝者の裁判」の先例
3 英語版「独白録」のゆくえ
4 対立する弁護の論理
第三章│「全責任発言」の位置づけ
1 「史実」となったマッカーサーの回想
2 「東条非難」の筋立て
3 円滑な占領遂行
 
第Ⅱ部│昭和天皇の〈第二の危機〉――共産主義の脅威
第一章│転換点としての一九四七年
1 「天皇制打倒」の脅威
2 「米国のイニシアティヴ」を求めて
3 なぜ「沖縄メッセージ」なのか
4 「領土は如何でもよい」
5 「芦田メモ」と昭和天皇
第二章│昭和天皇の「二つのメッセージ」
1 マッカーサーの「極東のスイス」論
2 池田勇人蔵相の「拝謁」
3 天皇の「口頭メッセージ」
4 天皇の「文書メッセージ」
第三章│「安保国体」の成立
1 日本側の準備作業
2 米国の「根本方針」
3 「非公式チャネル」の展開
4 吉田茂首相の「全権固辞」
5 天皇の「大義への貢献」
第四章│立憲主義昭和天皇
1 内乱への恐怖
2 天皇の「行動原理」とは何か
3 なぜ「退位」できなかったのか
 
第Ⅲ部│〈憲法・安保体制〉のゆくえ――戦後日本の岐路に立って
第一章│昭和天皇と〈憲法・安保体制〉
1 昭和天皇憲法認識
2 昭和天皇歴史認識
第二章│岐路に立つ戦後日本
1 「戦後レジームからの脱却」
2 「東京裁判史観」をめぐる相剋
3 歴史認識問題の起点
第三章│明仁天皇の立ち位置
1 「歴史の風化」に抗して
2 新憲法と日本の伝統
3 明仁天皇歴史観
4 あるべき日本の立脚点
 
あとがき
主要参考文献
(引用終わり)
 
 なお、現在の第2次安倍晋三政権によってもたらされた危機に関わる問題については、主に第Ⅲ部において語られています。豊下氏の明仁天皇に対する高い評価は、『昭和天皇マッカーサー会見』でも明らかでしたが、本書ではその部分がさらに敷衍され、第Ⅲ部第三章で詳細に述べられています。
 安倍政権やその支持組織である日本会議明仁天皇との不思議な関係の本質について述べた部分を、やや長くなりますが引用します(294~295頁)。
 
(引用開始)
 このように、安倍政権を支える「日本会議」や自民党にあっては、天皇を敬慕し尊重することが、国家
のあり方の大前提に据えられているのである。ところが、こうした立場を踏まえるとき、実に奇妙なことではあるが、安倍首相も自民党も「日本会議」も、重要な問題で、ことごとく「御意」に反する方針を掲げ行動しているのである。歴史認識問題しかり、靖国問題しかり、国旗・国家問題しかりである。さらに言えば、自民党憲法改正草案では、第三条において「国旗は日章旗とし、国家は君が代とする。日本国民は、国旗及び国家を尊重しなければならない」との「義務規定」さえ記されている。まさに、明仁天皇が批判した米長邦雄の立ち位置に他ならない。
 改めて確認しておけば、明仁天皇の考え方は、「日本国憲法下の天皇の在り方の方が天皇の長い歴史で見た場合、伝統的な天皇の在り方に沿うものと思います」というものである。つまり、現行憲法こそが日本の伝統に沿うものであり、「昔の日本では、人々は天皇に対し多様な見方を持っていました」と述べるように、「多様性」こそが日本の文化の根底にあり、従って「強制」は許されてはならない、という認識なのである。
 それでは、「皇室の敬慕」とか「天皇の元首化」など、天皇を尊重するような立場を表明しながら、なぜかくも公然と「御意」に反する方向がめざされ行動が繰り返されるのであろうか。それは結局のところ、天皇の「政治利用」という立場にたっているからである。さらに言えば、「1930年代から終戦までの間」の国家体制への“郷愁”が根底にあるからである。自由で民主主義の体制が前提におかれながら、「日本国民は、国旗及び国家を尊重しなければならない」と、学校のレベルをこえて一般社会にまで「尊重義務」を課し、「国家の論理」によって個人の思想・信条にまで深く介入するような国家のあり方が提起されているところに、問題の本質が鮮明に示されている。
(引用終わり)
 
 日本の戦後体制と昭和天皇を考えることは、本書第Ⅲ部で明らかにされているとおり、「戦後日本の岐路」を考える上での立脚点を定めるということに他なりません。豊下氏の他の著書と同様、本書『昭和天皇の戦後日本 〈憲法・安保体制〉にいたる道』も、是非ご一読をお薦めします。
 
(付記)
 なお、豊下楢彦氏は、昨年7月、古関彰一氏との分担執筆による『集団的自衛権と安全保障』(岩波新書)を発行されています。

 同書の執筆自体は7月1日閣議決定前になされたものですが、同閣議決定の直後にダイヤモンド・オンラインのインタビューに応じた記事が今でも読めます。閣議決定の欺瞞性が非常に論理的に、そして分かりやすく解説されていますのでご紹介します。1年以上前のインタビューですが、今でも誰もが読むだけの価値があります。
 
 
(あしたの朝 目がさめたら(弁護士・金原徹雄のブログ 2)から)
2010年11月14日(2013年4月19日にブログに転載)
豊下楢彦氏が書かれた国民必読の3冊
 


(付録)
『一台のリヤカーが立ち向かう』 作詞・作曲・演奏:中川五郎