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月刊レファレンス(2015年3月号)の小特集「集団的自衛権」掲載論文4点のご紹介

 今晩(2015年9月10日)配信した「メルマガ金原No.2209」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
月刊レファレンス(2015年3月号)の小特集「集団的自衛権」掲載論文4点のご紹介

 5月15日に政府が国会に提出した安全保障関連法案が、来週9月16日にも参議院強行採決されるのではないかとか、いや、政府与党は衆議院での再議決を検討しているのではないかとか、まことに緊迫した情勢のただ中にある今、集団的自衛権についての論文をじっくりと読んでいるような余裕はないという人が多いでしょうし、正直言って、私にもそのような時間はありません。
 ただし、いずれにせよ、9月27日には国会の会期末を迎えます。国会法12条2項の規定(会期の延
長は、常会にあつては一回、特別会及び臨時会にあつては二回を超えてはならない。)により、これ以上延長されることはありません。
 仮に、参議院での採決もしくは衆議院での再議決によって、安保関連法が成立してしまったとしても、そこから新たな闘いをさらにグレードアップしていかねばならない訳で、その中では、集団的自衛権についての理論的検討の深化も当然必要となってきます。

 今日は、法案の帰趨がどうなろうと、必ず必要となる以上の作業のための有益な資料となり得る論文(4点)をご紹介したいと思います。
 
 これまでも、国立国会図書館が発行する月刊レファレンス(「各分野の国政課題の分析、内外の制度の紹介、国政課題の歴史的考察等、国政の中長期的課題に関する本格的な論説を掲載した月刊の調査論文集」と説明されています)に掲載された論文を、このメルマガ(ブログ)でご紹介したことが何度かありました。
 今日ご紹介するのは、「レファレンス 2015年3月号(通算No.770)」に掲載された小特集「集団
自衛権」を構成する4本の論文です。
 
 
 
 
 
 それぞれの論文の冒頭に「主要記事の要旨」が掲載されていますので、おおよその内容についての「あ
たりをつける」ことができますが、この小特集には、論文執筆者の1人でもある等雄一郎(ひとし・ゆういちろう)氏による「緒言」が付いていて、各論文の「議論の主旨と意義」が要領良くまとめられており、参考になると思われますので、以下に「緒言」全文を引用します。
 
小特集「集団的自衛権」〈緒言〉
国立国会図書館 調査及び立法考査局     
専門調査員 外交防衛調査室主任  等 雄一郎

(引用開始)
 安倍晋三政権は、2014(平成 26)年 7 月 1 日、新たな安全保障法制の整備のための基本方針を閣議決
定した。これを基に集団的自衛権の限定的行使容認を中核とする法案策定作業が進んでいる。
 わが国を取り巻く国際安全保障環境が厳しさを増していることや数十年に及ぶ政府の憲法第 9 条解釈が閣議決定によって変更されたことなどから、集団的自衛権の限定的な行使の是非が主に国内法的な法律論や軍事技術論の観点から盛んに論じられてきた。ただし、今後の日本の安全保障政策を大きく規定する大改革となる可能性のある今回の安全保障法制の議論において、まだ論じ尽くされていない論点や課題も少なくない。この小特集には、近年の議論において周辺的にしか論じられてこなかった論点や課題について論じる 4 つの論文を収めた。各論文の議論の主旨と意義について簡単に紹介する。
 
レファレンス2015年3月号 第1論文、栗田真広「同盟と抑止―集団的自衛権議論の前提として―」は、国際政治学・戦略論から集団的自衛権の議論を理論的に検討するものである。栗田論文によれば、同盟による抑止において、同盟相手国による共同防衛公約(コミットメント)の履行の確実性が重要な要素となる。同盟関係は基本的に「取引」の関係にあり、「取引」における「価値」の一形態である防衛公約の履行を確実にするため、その対価となる「価値」として、同盟上の安全保障協力の提供拡充は選択肢の1つといえる。他方、同盟相手国の公約を確実にするための同盟協力強化は、自国に関係のない戦争に「巻き込まれる」リスクを伴い、特に同盟関係において国力の劣る「ジュニア・パートナー」にとっては、これを回避しつつ公約の履行をいかに確保するかが課題となる。また、同盟強化は、被抑止国との間に「安全保障のディレンマ」を招く可能性もあるが、被抑止国の意図の精査及び信頼醸成措置(CBM)の構築が重要となる。このように栗田論文は抽象度の高い議論を展開するが、現実を単純化してモデル化することによって論点を明確化することにもなっている。集団的自衛権の行使容認による抑止力向上が強調される中で、栗田論文は、日米同盟のあり方を理論的に説明するとともに抑止力向上の意味と結果の両方を原理に立ち返って考える手がかりとなる。栗田論文は集団的自衛権に関する議論の奥行きを増すことに資するだろう。
 
 第2論文、下中菜都子・樋山千冬「集団的自衛権の援用事例」は、国際法の立場から集団的自衛権を援用した各国の国家実行について比較検討する。国際連合国連)憲章第51 条は集団的自衛権の行使国に国連安全保障理事会安保理)への報告義務を課す。1956 年のソ連ハンガリー派兵から2014年の「イスラム国」(ISIL)関連の米国等によるイラク支援及びシリアでの軍事行動まで計15の報告事例における集団的自衛権行使に関する説明を概観し、1986 年の国際司法裁判所(ICJ)ニカラグア判決を基にそれらの評価を試みるのが下中・樋山論文である。ニカラグア判決が示した集団的自衛権行使の要件のうちの「犠牲国による要請」とは、必ずしも集団防衛条約締結の必要はなく、事後に正統政府による真正の要請があればよいが、要請の真正性に疑義のある事例も複数ある。同じく要件のうちの「武力攻撃」には、一国の正規軍による他国への攻撃のみならず、テロ組織等の非国家主体による攻撃も含み、集団的自衛権の行使の対象となる。なお、国連憲章第7 章に基づく非軍事的強制措置の実施と集団的自衛権の行使は併存が可能である。近年のわが国の安保法制整備の議論がミクロな視点に偏りがちな現況に対し、下中・樋山論文は集団的自衛権に関する「世界標準」の議論の潮流を示すことによって、議論の幅を広げることにつながるだろう。
 
 第3論文、等雄一郎「日米関係から見た集団的自衛権論議―日米防衛協力の進展と集団的自衛権―」は、日米関係の中で集団的自衛権がどのように議論され、それがどのように日本の安全保障政策に影響を与えてきたかを概観するものである。旧安保条約を改定した1960 年の新安保条約は、日本が基地(物)を提供して米国が軍隊(人)を提供する「物と人との協力」という日米関係の基本構図を旧条約から引き継いだ。一方、1954年に集団的自衛権の行使を違憲とする政府見解が明確にされたのに続き、1972年に国際法集団的自衛権を保有するが、他国に加えられた武力攻撃を実力で阻止するという意味においてその行使は憲法上認められないという、その後の日本政府の基本見解が確立された。冷戦構造の変容と日本経済の興隆を背景に1978 年に日米防衛協力のための指針(ガイドライン)が策定され、日米関係が「人と人との協力」の構図に移行し始めた。日本は集団的自衛権不行使原則を堅持しつつも、国際安全保障環境改善の分野でPKO協力法を制定する一方、1997年の新ガイドライン策定を機に日本周辺有事での対米協力の法的枠組みを整備した。
 21世紀に入ってテロや大量破壊兵器の拡散等の脅威が強まり、日本は特別措置法によって対米協力と国際安全保障環境への人的貢献を行ってきた。等論文は、集団的自衛権論議において、対米関係だけではなく、憲法第9条に基づく実力行使に対する制約が果たしてきた意義とそうした制約による政策選択の不自由度の増大の両者を比較検討する視点の重要性を指摘する。
 
 最後の論文、浅井一男「海上事故防止協定(INCSEA)による信頼醸成―過去の事例と日中海空連絡メカニズムの課題―」は、集団的自衛権を正面から扱うものではない。近年の集団的自衛権論議白熱の背景にある日中の東シナ海における緊張の高まりに対して、日中間の海上事故防止を通じたCBMによる対応の可能性と限界を探ろうとするものである。海上におけるコミュニケーション強化やルール共有等によって相手の行動の予測可能性を高めて誤解や不信に基づく紛争を予防するCBMの先行例として、浅井論文は米ソ海上事故防止協定(INCSEA)、日ロINCSEA及び米中軍事海洋協議協定(MMCA)の3つを取り上げ、その概要と評価の紹介を行う。米ソINCSEAとこれをモデルとした日ロ INCSEAが各々両当事者間のコミュニケーション強化を定めて、事故防止や信頼醸成に役割を果たしているのに対し、米中MMCAは海洋法に関する認識ギャップを原因に両当事者が協定に共通利益を見出せずに有効に機能していない。日中間では、東シナ海における両国の緊張の高まりを受けて、海空連絡メカニズムの早期の運用開始を目指して協議が進められている
 浅井論文は、CBMが国家安全保障にとって補助的手段であることを踏まえた上で、相手国の意図に不確実性がある場合には、抑止力向上策と併用するのが望ましいと提言する。
 
 この小特集が今後の国会審議に少しでも資することになれば幸いである。
(引用終わり)
 
 私は、まだ栗田真広「同盟と抑止―集団的自衛権議論の前提として―」をざっと読んだだけなのですが、それでも、「同盟強化とコミットメント」、「抑止と信頼性」、「『見捨てられ』と『巻き込まれ』」、「安全保障のディレンマ」「安定-不安定のパラドックス」など、「同盟と抑止」に関わる基本モデルを理解する上で、非常に参考となりました。
 皆さんも、是非時間を作ってお読みになることをお勧めしたいと思います。