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日本経団連「防衛産業政策の実行に向けた提言」(9/15)は第3次アーミテージ・ナイレポートとセットで読むべき

 今晩(2015年9月16日)配信した「メルマガ金原No.2215」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
日本経団連「防衛産業政策の実行に向けた提言」(9/15)は第3次アーミテージ・ナイレポートとセットで読むべき

 一昨日(9月14日)、メルマガ(ブログ)に「日本経団連の武器輸出に関する「提言」(9/10)を読んだ人いますか?」という記事を書いたその翌15日、タイミング良くというか何というか、日本経団連公式サイトに「防衛産業政策の実行に向けた提言」が掲載されました。
 産経ニュース朝日新聞デジタルの記事は、結局、「フライング」だったのだろうか?それとも、経団連による意図的な「観測気球」に両社が利用されたのか?
今朝の朝日新聞デジタルには以下のような記事が載っていました。
 
朝日新聞デジタル 2015年9月16日05時00分
武器輸出の推進を提言 経団連、防衛産業強化求める

(抜粋引用開始)
 経団連は15日の幹事会で、武器など防衛装備品の輸出を「国家戦略として推進すべきだ」とする提言を了承し、正式決定した。自衛隊の活動範囲が今後広がることを見込んで、政府に防衛産業の基盤強化を求めている。しかし、その前提となる安全保障関連法案への国民的な理解は広がっておらず、経団連の性急な姿勢には批判も出ている。
(略))
 提言を作成したのは、三菱重工業の宮永俊一社長が委員長を務める経団連の防衛産業委員会。防衛産業に関わる約60社が属する。
(略)
 経団連の担当者は「積極的に共同開発などを進めないと、最先端の装備品を国内で作れなくなる」と理解を求めるが、経済同友会の小林喜光代表幹事は15日、「僕自身は積極的に防衛産業をプロモート(促進)することはあまり考えたことがない」と述べた。(小林豪
■武器輸出三原則の撤廃後、政府が決めた武器輸出や共同開発
<昨年7月> 
米国に地対空ミサイル「PAC2」の部品を輸出。三菱重工業が製造
戦闘機に搭載するミサイルを英国と共同開発 
<今年5月> 
豪州との潜水艦の共同開発に向け、同国の選定手続きに名乗りを上げる。三菱重工業川崎重工業が参画 
<今年7月> 
イージス艦用表示装置の共同生産に向け、米国にソフトウェアと部品を輸出。三菱重工業富士通が生産
(引用終わり)
朝日新聞デジタル無料会員登録(無料会員でも1日3本までの記事を閲覧可)
 
 引用箇所のかなりの部分は会員登録しなければ読めないのですが、9月10日に「経団連は10日、武器など防衛装備品の輸出を「国家戦略として推進すべきだ」とする提言を公表した。」という記事を掲載して読者をやきもきさせたにもかかわらず、6日前の記事など無かったかのように、何食わぬ顔で「しらばっくれている」のだから、上記の程度引用する位のことは当然許される(?)というのが私の考えです。
 
 さて、2日前に「ということで、今日のところは、「裏付未了」につき、「出来ればいずれこの問題を取り上げたい」という予告編だけで終わりです。」と書いた手前、紹介しない訳にはいかなくなりました。
 時あたかも、参議院の「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」において、主要野党が強く反対する中、総括質疑を行って強行採決するのではという緊迫した情勢の中でこの「提言」を紹介することになったのは、ある意味「天の配剤」でないこともありません。
 この「提言」がいつ頃から検討されていたのか分かりませんが、おそらく当初の予定では、安保関連法案が成立した後、防衛装備庁が新設される10月1日までの間に公表することが目指されていたのではないかという気がします。
 私たちは、安倍内閣による安保関連法案(戦争法案)を何としてでもこの国会中に成立させるという強行姿勢を後押ししているのは、「米国に対する公約」だろうと考えてきましたし、それはそうに違いないでしょうが、もう1つ、重要なファクターが、三菱重工業を筆頭とする「防衛産業」からの圧力であったことに、はからずも気がつくきっかけを与えてくれたという意味での「天の配剤」です。
 正直、私もまだ十分に読み込む時間は持てておらず、ざっと流し読みしただけですが、特に気になる部分を何カ所か引用します。
 皆さんも、リンク先で出来れば全文をお読みください。
 
防衛産業政策の実行に向けた提言(2015年9月15日)
一般社団法人 日本経済団体連合会

(抜粋引用開始)
 
北朝鮮の弾道ミサイルや核兵器の脅威に加え、中国は軍事力を広範かつ急速に強化し、ロシアも日本近海における活動を再度活発化するなど、わが国を取り巻く安全保障環境は一層厳しくなっている。また、国家安全保障戦略で示された国際協調主義に基づく積極的平和主義によるわが国の国際貢献が、災害派遣なども含めて求められている。
 現在、国会で審議中である安全保障関連法案が成立すれば、自衛隊の国際的な役割の拡大が見込まれる。自衛隊の活動を支える防衛産業の役割は一層高まり、その基盤の維持・強化には国際競争力事業継続性等の確保の観点を含めた中長期的な展望が必要である。
(略)
 防衛関係費の減少傾向は2013年度より止まったが、防衛生産・技術基盤の維持・強化に直接的な効果がある航空機、艦船、車両、火器・弾薬などの主要な国産装備品の調達予算は増えていない。特に、現行の中期防衛力整備計画のもとでは、オスプレイやAAV7(Amphibious Assault Vehicle:水陸両用車両)などの高額な装備品が短期的に海外から導入され、国産の装備品の調達が大幅に減少している。
(略)
 防衛装備品の開発や生産には、特殊かつ高度な技能・技術力・設備等が必要である。防衛需要に対応した技術開発や基盤維持等の投資のためには一定の予見可能性が求められるが、中長期的な施策やロードマップが明確でない。
(略)
 防衛装備品の海外移転は国家戦略として推進すべきである。装備品の移転に際して、装備品の供与だけでは相手国の要求が満たせない場合、オフセット要求への対応、装備品の運用、教育・訓練等の提供なども行う必要がある。また、民間企業が関わるプロジェクトとなるため、適切な収益の確保も重要な要素である。さらに、装備移転の相手国の装備調達や、契約、知的財産権の制度等に関する情報を収集する必要がある。そうした仕組みは民間企業だけでは構築できないため、日本版FMS等の制度を設計して対応することも必要である。具体的には、官民が連携・協議して、お互いの役割とリスク分担を定め、対外投資支援制度、情報保全体制、機微性の判断プロセスを構築するとともに、一定の輸出手続等の簡素化を行うべきである。
※オフセットとは、装備品等の取引の際に、購買国への見返りとして、供給国が何らかの代償を与えること。
※FMS(Foreign Military Sales:対外有償軍事援助)は、米国政府が同盟国や友好国等に対し、政府間ベースで装備品等を有償で提供する制度。
(略)
 防衛装備移転三原則に基づき、わが国は戦闘機F-35の製造等に参画している。米国に対しては、昨年7月にペトリオットミサイル部品の移転、本年7月に護衛艦のイージス・システムの製造等に係るソフトウェアおよび部品の移転が決定された。また、昨年7月にイギリスとの空対空ミサイルの共同研究が決定され、11月から開始されている。オーストラリアに対しては、本年5月に将来潜水艦の共同開発・生産の実現可能性の調査のため技術情報の移転が決定された。インドとは、わが国のUS-2(救難飛行艇)の輸出について協議されており、フランス等との交渉も進展している。
(略)
 このため、防衛装備庁は、装備品に関する適正な予算を確保し、人員の充実を図るとともに、企業の技術革新と効率性を両立させる仕組みと関係省庁を含めた官民による緊密な連携を基にした装備品や技術の海外移転の仕組みを構築することにより、陸海空の装備品の調達および国際共同開発・生産や海外移転を効果的に進めるべきである。
 その際、企業が安定的かつ持続的に装備品の開発・生産を行うため、企業の適切な採算・キャッシュフローの確保が求められる。
(略)
(a) 国際共同開発・生産の直近の事例は戦闘機F-35であり、全てのユーザー国間で部品等を融通し合う多国間の枠組み(ALGS:Autonomic Logistics Global Sustainment)が構築されている。わが国の企業は、F-35の機体の最終組立・検査、エンジン、ミッション系アビオニクス(電子機器)の製造に参画している。今後、自衛隊向けのF-35の製造を行っていくが、他国向けのF-35の製造への参画を目指すべきである。
 F-35製造参画企業の基本的枠組みは、既に米国をはじめF-35開発への出資国によって構築されている。開発に参加できなかったわが国の企業が後から参画するためには、政府支援を受けている開発出資国の企業に対する価格競争力とともに、製造設計権を持つ海外企業によって決定される生産機数の変動への対応が求められる。
 また、昨年12月、米国はアジア太平洋地域におけるF-35の整備拠点を日本およびオーストラリアに設置することを決定した。F-35の維持・整備におけるわが国の役割分担を明確化し、防衛生産・技術基盤の維持・強化につなげるべきである。
 本プログラムには、わが国は後から参加したことおよび他国向け機体の製造・整備がわが国と世界の安全保障に資するという観点から、国としての戦略と長期ビジョンを策定するとともに、製造・整備基盤の経費負担等の支援を行い、F-35の生産への参画および維持・整備事業を積極的に推進することが必要である。
(b) 本年5月、オーストラリアに対して、将来潜水艦の共同開発・生産の実現可能性の調査のため技術情報の移転が国家安全保障会議において決定された。オーストラリアの評価プロセスにおけるわが国の提案の選定#9に向けて、官民が連携して対応すべきである。また、生産段階から維持・整備段階に至る現地企業の活用や技術移転の内容を決定し、官民の役割やリスク分担を定めた仕組みの構築を行うとともに、政府による産業振興、保険、資金支援、輸出管理等の広範な支援体制などを目指すべきである。
(c) わが国としてのASEAN全体に対する国際貢献として、装備品や技術の移転が重要な手段となる。南シナ海におけるMDAMaritime Domain Awareness:海洋監視)能力の強化が必要であり、これはASEAN各国に共通する課題でもある。既にODAインドネシアに巡視船を供与しているが、装備品の供与や共同開発と運用や維持も含めた提供が必要である。このため、MDAの基盤となる情報通信インフラ技術等の供与や共同開発が求められる。
 上記(a)~(c)までの事例を始めとして、二国間や多国間の戦略的パートナーシップを構築するため、インフラパッケージ輸出の仕組み等を活用し、内閣官房防衛省、外務省、経済産業省等の関係省庁と企業が戦略の意義や事業の見通しを共有し、外為法の円滑な運用をはじめ装備品や技術の移転を推進していくことが重要である。また、これらの経験を活かし将来のプログラムへつなげる仕組みの構築も長期的観点から重要である。
(引用終わり)
 
「提言」PDF
 
 PDFファイルにして本文10頁の「防衛産業政策の実行に向けた提言」を流し読みしていて、私がどういう感想を抱いたかというと、「この文章の押しつけがましさにはおぼえがある」というものでした。
 その「おぼえがある」文章とは、山本太郎議員による質疑ですっかり有名になった第3次アーミテージ・ナイレポート(2012年)です。
 
原文“The U.S.-Japan Alliance anchoring stability in asia”
Richard L. Armitage ・ Joseph S. Nye
 
翻訳『米日同盟―アジアの安定を保持する―』
リチャード・L・アーミテージ、ジョセフ・S・ナイ 筑紫建彦訳 
その①
その② 
 
 「提言」と言いながら、あたかも提言する方が相手方(日本国政府)よりも上位にあると思わせるこれらの文章の筆致は、米日語の違いはあれ、私にとっては「同じもの」と感じられたという次第です。
 皆さんも是非両者を読み比べていただければと思います。そして、この2つの文書を熟読すれば、誰が考えても憲法違反の法律を成立させようとしている政治権力の背後にあってこれを操る者(彼らだけではありませんが、その内の最も重要な者)の存在に否応なく気がつくことでしょう。
 

(付録)
『時代は変わる』(2015年9月15日/国会前)
作詞・作曲:ボブ・ディラン 日本語詞:高石友也 演奏:中川五郎