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「『突破』された民主主義のセーフティネット」(ビデオニュース・ドットコム)を1週間遅れで視聴した

 今晩(2015年9月25日)配信した「メルマガ金原No.2224」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「『突破』された民主主義のセーフティネット」(ビデオニュース・ドットコム)を1週間遅れで視聴した

 9月19日未明の安全保障関連法案参議院採決から間もなくちょうど1週間が経とうとしています。そ
のうちの5日間はシルバーウィークで休みだったという人もいるでしょう。しかし、休みどころではなく、どうすれば安保法案成立阻止のために盛り上がった機運を持続させることができるかということを考え続けた人も多いのではないでしょうか。もちろん、これで決まりという特効薬がある訳ではありませんが、既に様々な人が違憲の安保法制廃止に向けた具体的な動きを始めています。
 小林節さん(慶應義塾大学名誉教授、弁護士)を弁護団長とする違憲訴訟に期待している人もいるでしょう。
 日本共産党が提唱した「国民連合政府」構想の具体化を願っている人も多いでしょう。
 しかし、何より重要なことは、1人1人が当事者意識を持って自ら行動していくことに尽きると思います。
 
 そして、今後の運動を見通すためにも、9月19日に一応のクライマックスを迎えた日本の民主主義の「終焉」を振り返り、その「再生」の道筋を見定めることが是非必要です。とはいえ、第二次安倍晋三政権の誕生(2012年12月)にまで遡り、今に至る経過をたどるのは(重要なことではあっても)多くの人にとっては手に余ることでしょう。
 このような際に、信頼できるジャーナリストや学者の総括的意見を是非参考にしたいと思うものです。
 
 この1週間、というよりも私の場合、法案成立の1週間前である9月12日から「怒濤の日々」が続いており、そのため、法案成立の数時間前(9月18日)に収録された神保哲生さん(ビデオニュース・ドットコム)と宮台真司さん(首都大学東京教授・社会学)によるニュース・コメンタリーに気がつくのが遅くなってしまいましたが、1週間遅れでようやく視聴することができました。
 神保さんと宮台さんのトークはいつも刺激的ですが、戦後70年の節目の年に迎えた戦後民主主義の「死」と「再生」を語るのに、これほどふさわしい「時」はなかったというのが私の感想です。
 今後私たちが安保法制廃止の活動を進めていくための基盤を確固としたものとするためにも、私たちの目の前で起きた信じられない事態の本質を理解することは必須であり、そのために非常に有益な視点を提供してくれる番組として、是非多くの方に視聴をお勧めしたいと思います。

ビデオニュース・ドットコム ニュース・コメンタリー(2015年09月19日) 
「突破」された民主主義のセーフティネット

 
(番組案内・引用開始)
 野党が問責や不信任案を連発し、ぎりぎりの抵抗を続ける中、集団的自衛権の行使を可能にする安保関
連法案は9月19日の未明に参院で可決し、成立した。
 しかし、法案の可決に至る過程で、政権によって数々の民主主義のセーフティネットが突破されてしま
ったことの影響はあまりに大きい。今日本は民主主義のセーフティネットに大きな穴が開いている状態にあることを、われわれは認識する必要があるだろう。
 そもそも安倍政権は当初、憲法9条の改正を目指していた。しかし、そのハードルが高いと見るや、現
憲法の下で集団的自衛権の行使を可能にするための解釈改憲へと舵を切った。
 そして、そのためにはまず、内閣の法の番人の機能を果たしていた内閣法制局を押さえこむ必要があった。内閣法制局は内閣の一部局だが、時の政権が自分たちに都合よく憲法を解釈しないように、内閣を監
視する機能を果たしていた。
 ところが安倍首相は内閣が法制局長官の任命権を持つことを利用して、現行憲法下でも集団的自衛権の行使が可能との持論を持つ外務官僚の小松一郎氏を新しい長官に任命した。こうして長年にわたり民主主
義のセーフティネットの機能を果たしてきた内閣法制局は、突破された。
 安倍政権は他にも、民主社会で重要なセーフティネットの機能を果たす報道機関にも、様々な形で介入することで、報道機関の権力監視機能を骨抜きにした。これでまた、セーフティネットがもう一つ突破さ
れた。
 しかし、この2つが突破されたとしても、国会が正常に機能していれば、権力の暴走は防ぐことが可能
だ。安倍政権の閣僚は国会審議においても、矛盾した答弁を繰り返した。衆参両院の国会審議を通じて、安保関連法案のいくつもの問題点が浮き彫になっていった。
 にもかかわらず安倍政権はここでも、「突破」の道を選んだ。法案の問題点や矛盾点が次々と露呈しているにもかかわらず、国会の審議で一定の時間が消化されると、「審議は尽くされた」として、両院で過半数を握る与党の独断で審議を打ち切り、採決する道を選んだ。国会を数の力で突破しようとする政権与党と、何としても突破を防がなくてはならない野党の間で激しい攻防が繰り広げられたのが、今週の異常
ともいえる国会での与野党の対立だった。
 内閣法制局が突破され、報道機関のチェック機能が突破され、そして最後は民主政の最後の砦とも呼ぶ
べき国会が突破された。
 民主主義の数々のセーフネットは実際には統治権力の暴走を防ぐために、政権を縛るネットとして存在
する。しかし、セーフティネットは破られた。
 議会という最後のセーフティネットが破られた今、われわれ市民社会はいかにして統治権力を縛って行
けばいいのだろうか。ジャーナリストの神保哲生社会学者の宮台真司が議論した。
(引用終わり)
 
 上記の番組案内を書いたのは神保哲生さんでしょう。以上は、神保さんから見た9月18日に日本が直面していた事態の本質です。
 これに対して宮台さんは、基本的には神保さんに同意しながらも、別の視点から安倍政権の「実態」を指摘していきます。宮台さんは、憲法の精神(制憲者の精神)を蔑ろにし、憲法、法律をブラックリストとして読む、すなわち、「憲法にも法律にも『やっちゃいけないって書いてないもん』、だからやるんだよ」という人間たちが、「ありえない」ことを「合法的」と称してやっているのだと問題の本質を喝破されます(11分~17分)。
 
 なお、この番組の後半では、参議院審議で何が見えてきたのかという法案の問題点をおさらいしており(22分~)、非常に有益です。ただし、一般の視聴者にとって、多くの問題が明らかになったということは理解できても、何が問題の本質かを十全に理解するためには、法案やそれに先立つ閣議決定、さらには集団的自衛権そのものなどについての予備知識が必要であることは事実です。
 今後、安保法制廃止運動を推進していく中で、なお「理論武装」を強化していく必要性はいささかも低下していないと私は考えています。その意味からも、学習会の講師を務める可能性のある人にとってこそ、(特に後半は)非常に有益な示唆が得られると思います。
 このセクションのために用意されたクリップボードを転記すると以下のとおりです。
 
法案の疑問点
●存立危機なのに要請が必要
●邦人乗船は必須ではない
自衛隊員の安全確保―法案に明記なし
●ほかに手段がない―法案に明記なし
●必要最小限―法案に明記なし
 
 国会審議をずっと熱心にウォッチしてきた人には、このボードの記載だけで「ああ、あの論点か」ということが分かるでしょうが、一般の人にそれを期待するのは難しいはずです。これからの講師予定者はしっかり勉強しましょう。(ちなみに、下の2項目は、いわゆる「新3要件」の第2要件と第3要件ですが、これが安保法制には「ない」という問題です)。
 
(付記・動画紹介)
 最後に、この番組の中で、9月16日に外国特派員協会で行われたSEALDsの記者会見の模様がちらっと流れたのですが、中央公聴会でも公述して非常に有名になった奥田愛基さんだけではなく、一緒に出席した本間信和さんの話にも非常に感心しました(他に柴田万奈さんも出席)。
 外国特派員協会の公式動画をご紹介しておきますので、是非視聴してください。
 
Aki Okuda, Nobukazu Honma and Mana Shibata: Japan's New Found Student Activism

 

(忘れないために)
 「自由と平和のための京大有志の会」による「あしたのための声明書」(2015年9月19日)を、「忘れないために」しばらくメルマガ(ブログ)の末尾に掲載することにしました。
 
(引用開始)
  あしたのための声明書
 
わたしたちは、忘れない。
人びとの声に耳をふさぎ、まともに答弁もせず法案を通した首相の厚顔を。
戦争に行きたくないと叫ぶ若者を「利己的」と罵った議員の無恥を。
強行採決も連休を過ぎれば忘れると言い放った官房長官の傲慢を。
 
わたしたちは、忘れない。
マスコミを懲らしめる、と恫喝した議員の思い上がりを。
権力に媚び、おもねるだけの報道人と言論人の醜さを。
居眠りに耽る議員たちの弛緩を。
 
わたしたちは、忘れない。
声を上げた若者たちの美しさを。
街頭に立ったお年寄りたちの威厳を。
内部からの告発に踏み切った人びとの勇気を。
 
わたしたちは、忘れない。
戦争の体験者が学生のデモに加わっていた姿を。
路上で、職場で、田んぼで、プラカードを掲げた人びとの決意を。
聞き届けられない声を、それでも上げつづけてきた人びとの苦しく切ない歴史を。
 
きょうは、はじまりの日。
憲法を貶めた法律を葬り去る作業のはじまり。
賛成票を投じたツケを議員たちが苦々しく噛みしめる日々のはじまり。
人の生命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる独裁政治の終わりのはじまり。
自由と平和への願いをさらに深く、さらに広く共有するための、あらゆる試みのはじまり。
 
わたしたちは、忘れない、あきらめない、屈しない。
 
     自由と平和のための京大有志の会
(引用終わり)
 

(付録)
『自分の感受性くらい』 原詩:茨木のり子 作曲・演奏:中川五郎