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安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(1)~とにかく読むだけは読まなければ(資料編)

 今晩(2015年10月4日)配信した「メルマガ金原No.2232」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(1)~とにかく読むだけは読まなければ(資料編)

 9月19日未明に安保関連2法が成立してから2週間以上が経過し、成立前後のどたばたの中で、じっくり検討する時間もなく横目で眺めていただけだった問題について、少なくとも基本的な資料を集めて目を通すだけの余裕が生まれました。
 それは、安保関連2法案についての、5党合意(9/16)、附帯決議(9/17)、閣議決定(9/19)です。
 
朝日新聞デジタル 2015年9月16日13時08分
自衛隊派遣時の国会関与強化で正式合意 与党と野党3党

(抜粋引用開始)
 一方、自公両党と、野党の次世代の党、日本を元気にする会、新党改革の3党の党首は16日午前、国会内で会談した。野党3党の求める自衛隊派遣時の国会の関与強化について、安倍内閣の閣議決定や国会の付帯決議によって担保することで合意した。3党は法案に賛成する方針。安倍晋三首相(自民党総裁)は会談後、「できる限り多くの政党の支持を得たいと思っていた。合意が成立したことは本当に良かった」と記者団に語った。公明の山口那津男代表も合意を受け、「採決の前提が整っている」と語った。与党は3党の賛成で、「採決強行」との印象を薄める狙いがある。 
(引用終わり)
 
 上記朝日の記事にしてもそうですが、多くの報道が、合意の内容を詳細に検討することもせず、これで採決に踏み切る環境が整ったという表面的な観測を述べたに過ぎないものであり、このニュースを知った国民(の中の特に安保法案反対派)も、深く考えもせずに「この期に及んで、名目だけの附帯決議と引き換えに賛成するとは情けない」というような受け取り方が一般的だったように思います。正直、私の感想もそのようなものでした。
 従って、「日本を元気にする会」松田公太代表が、いくら「心腸寸断の思い」と訴えても、反対派からの共感はほとんど得られなかった模様です。
 
 確かに、法案そのものの修正ならともかく、店晒しになって、決議されたこと自体誰も思い出さないような附帯決議などいくらでもありますから(憲法改正国民投票法の附帯決議18項目はどうなった!)、国民的反対が根強い法案を与党が数の力で押し通す際のアリバイ作り、リップサービスくらいにしか附帯決議が受け取られていなくても仕方がない一面はたしかにあります。

 しかし、よくよく上記の記事を読めば、附帯決議だけではなく閣議決定によって担保することを合意したとされており、このような合意は今まで(私自身は)聞いたことがなく、これはこれで注目すべき合意であって、単に一笑に付すのは正しくないのでは?という考えが一瞬頭をよぎりながらも、9月19日の法案成立、それに対する抗議声明や緊急集会の開催、そしてこれからの法律廃止に向けた運動の再構築などに気を取られ、5党合意を再確認するだけの余裕を持てないでいました。
 
 そうしていたところ、昨日(10月3日)アップされた神保哲生さんと宮台真司さんによるニュース・コメンタリーでこの問題が取り上げられており、興味深く視聴し、これはやはりじっくりと検討する必要があると確信し、まずは検討の前提となる資料を集めることにしました。
 
ビデオニュース・ドットコム
ニュース・コメンタリー(2015年10月03日)
最後の最後にとても重要な付帯決議が付いていた


(番組案内・引用開始)
 集団的自衛権の行使を可能にする安保関連法案の参院の審議が大詰めを迎える中、最終局面で法案に重要な付帯決議がつけられていた。野党による問責や不信任案などを連発したぎりぎりの抵抗が続くなかで行われた修正協議に対しては、「野党の分断工作」「強行採決と言われないための姑息な小細工」などと批判を受けたが、実際は法案の核心に関わる重要な変更点が含まれていた。
 修正協議は自民・公明の与党と、次世代の党、日本を元気にする会、新党改革の3野党の間で行われた。合意した修正内容を法案に反映させるためには再度衆議院での採決が必要となることから、今回は付帯決議として参議院で議決したものを、閣議決定することで法的効力を持たせる方法が採用された。
 3野党といっても、いずれも議員が1名から5名しかいない弱小政党であり、その多くはもともと自民党から分派した議員だったこともあり、野党陣営から見れば敵に塩を送る行為との批判は免れない面はあったが、だとしても実効性のある修正を実現したことについては、名を捨てて実を取りにいったと肯定的に評価することもできるものだった。
 具体的な付帯決議の内容としては、武力攻撃には国会の例外なき事前承認が必要とされた点や、武力行使は国会の終了決議があれば速やかに終了しなければならないこと、提供できる弾薬は拳銃、小銃、機関銃などに限ること、自衛隊の出動は攻撃を受けた国の要請を前提とすることなどが含まれた。
 自衛隊の派遣には例外なく国会の事前承認が必要になったことで、来年の参院選与野党が逆転すれば、事実上自衛隊の派遣や武力行使ができなくなることになった。
 また、存立危機事態という抽象的な概念では、何が達成されれば武力行使を終了するかの基準が曖昧で戦闘が泥沼化する恐れがあるとの批判があったが、付帯決議で国会が武力行使の終了を決議すれば直ちに終了することが定められたことで、少なくとも一つの客観的な出口が提供された。
 弾薬提供の規定についても、国会審議では「論理的には核兵器でも提供できる」などといった暴論が飛び交ったことから、あくまで緊急の場合に兵士の身を守るための拳銃や小銃の弾薬に限定することが盛り込まれ、大量破壊兵器はもとよりクラスター爆弾劣化ウラン弾などの戦略的な弾薬は含まれないことも明記された。
 ただし、付帯決議に集団的自衛権の行使には攻撃を受けた国からの要請が必要となることが明記されたことで、国家の存立が危ぶまれるぎりぎりの事態で最後の手段として行使されるべき集団的自衛権が、その実は他国からの要請がなければ使えないという、「存立危機事態」という概念そのものの矛盾点も露呈することとなった。
 「敵に塩を送る行為」との批判を受けながらも、ある程度実効性のある妥協や修正を引き出した今回の付帯決議をどう見るべきかを、ジャーナリストの神保哲生社会学者の宮台真司が議論した。
(引用終わり)
 
 さて、何はともあれ、5党合意、附帯決議、閣議決定を読まないことには話になりません。少し長くなりますが、上記3点をそれぞれ引用します。
 まずは、9月16日の5党合意からです。
 
 
平成二十七年九月十六日
 
5党は以下の三点について合意した。
 
一、別紙「平和安全法制に関する合意事項」を合意する
二、別紙「平和安全法制に関する合意事項」を以下の手続きで担保する
   一 政府答弁
   二 附帯決議
   (三 国会決議)
   四 閣議決定
(注)閣議決定の内容は、「この政党間合意の趣旨を尊重する」「適切に対処する」ことを明らかにするものとする
三、別紙「平和安全法制に関する合意事項」において、今後検討すべき事項については、協議会を設置した上、法的措置も含めて実現に向けて努力を行う
 
内閣総理大臣 
自由民主党 総裁
    安 倍 晋 三
公明党 代表
    山 口 那津男
日本を元気にする会 代表
    松 田 公 太
次世代の党 代表
    中 山 恭 子
新党改革 代表
    荒 井 広 幸

(別紙)
平和安全法制に関する合意事項  
 
平成27年9月16日  
 
日本国憲法の下、戦後70年の平和国家の歩みは不変。これを確固たるものとする。二度と戦争の惨禍を繰り返さない。不戦の誓いを将来にわたって守り続ける。
国連憲章その他の国際法規を遵守し、積極的な外交を通じて、平和を守る。国際社会の平和及び安全に我が国としても積極的な役割を果たす。
・防衛政策の基本方針を堅持し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならない。平和安全法制の運用には国会が十全に関与し、国会による民主的統制としての機能を果たす。
 
 このような基本的な認識の下、政府は、本法律の施行に当たり、次の事項に万全を期すべきである。
 
※以下、1~9の各項目の内容は下記の参議院附帯決議と同一なので省略。
(引用終わり) 
 
 以上の5党合意に基づき、翌9月17日に行われた参議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会において、以下の附帯決議を付した上で安保関連2法案が採決されました(ということになっています)。
 もっとも、あの混乱状態ですから、附帯決議の読み上げを聞いた者など誰もいなかったかもしれませんが。
 ただし、「日本を元気にする会」の山田太郎議員は、野党議員に原稿を何度も「捨てられたり、破られたり」しながら、自分が読み上げたと主張しています
 
 
平成二十七年九月十七日
 
参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会
 
 日本国憲法の下、我が国の戦後七十年の平和国家の歩みは不変であった。これを確固たるものとするため、二度と戦争の惨禍を繰り返さないという不戦の誓いを将来にわたって守り続けなければならない。
 その上で、我が国は国連憲章その他の国際法規を遵守し、積極的な外交を通じて、平和を守るとともに、国際社会の平和及び安全に我が国としても積極的な役割を果たしていく必要がある。
 その際、防衛政策の基本方針を堅持し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならないことを改めて確認する。さらに、両法律、すなわち平和安全法制の運用には国会が十全に関与し、国会による民主的統制としての機能を果たす必要がある。

 このような基本的な認識の下、政府は、両法律の施行に当たり、次の事項に万全を期すべきである。
 
一、存立危機事態の認定に係る新三要件の該当性を判断するに当たっては、第一要件にいう「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」とは、「国民に我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況」であることに鑑み、攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、その規模、態様、推移などの要素を総合的に考慮して、我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険など我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民がこうむることとなる犠牲の深刻性、重大性などから判断することに十分留意しつつ、これを行うこと。
 さらに存立危機事態の認定は、武力攻撃を受けた国の要請又は同意があることを前提とすること。また、重要影響事態において他国を支援する場合には、当該他国の要請を前提とすること。
二、存立危機事態に該当するが、武力攻撃事態等に該当しない例外的な場合における防衛出動の国会承認については、例外なく事前承認を求めること。
 現在の安全保障環境を踏まえれば、存立危機事態に該当するような状況は、同時に武力攻撃事態等にも該当することがほとんどで、存立危機事態と武力攻撃事態等が重ならない場合は、極めて例外である。
三、平和安全法制に基づく自衛隊の活動については、国会による民主的統制を確保するものとし、重要影響事態においては国民の生死に関わる極めて限定的な場合を除いて国会の事前承認を求めること。
 また、PKO派遣において、駆け付け警護を行った場合には、速やかに国会に報告すること。
四、平和安全法制に基づく自衛隊の活動について、国会がその承認をするに当たって国会がその期間を限定した場合において、当該期間を超えて引き続き活動を行おうとするときは、改めて国会の承認を求めること。
 また、政府が国会承認を求めるに当たっては、情報開示と丁寧な説明をすること。また、当該自衛隊の活動の終了後において、法律に定められた国会報告を行うに際し、当該活動に対する国内外、現地の評価も含めて、丁寧に説明すること。
 また、当該自衛隊の活動について百八十日ごとに国会に報告を行うこと。
五、国会が自衛隊の活動の終了を決議したときには、法律に規定がある場合と同様、政府はこれを尊重し、速やかにその終了措置をとること。
六、国際平和支援法及び重要影響事態法の「実施区域」については、現地の状況を適切に考慮し、自衛隊が安全かつ円滑に活動できるよう、自衛隊の部隊等が現実に活動を行う期間について戦闘行為が発生しないと見込まれる場所を指定すること。
七、「弾薬の提供」は、緊急の必要性が極めて高い状況下にのみ想定されるものであり、拳銃、小銃、機関銃などの他国部隊の要員等の生命・身体を保護するために使用される弾薬の提供に限ること。
八、我が国が非核三原則を堅持し、NPT条約、生物兵器禁止条約化学兵器禁止条約等を批准していることに鑑み、核兵器生物兵器化学兵器といった大量破壊兵器や、クラスター弾劣化ウラン弾の輸送は行わないこと。
九、なお、平和安全法制に基づく自衛隊の活動の継続中及び活動終了後において、常時監視及び事後検証のため、適時適切に所管の委員会等で審査を行うこと。
さらに、平和安全法制に基づく自衛隊の活動に対する常時監視及び事後検証のための国会の組織の在り方、重要影響事態及びPKO派遣の国会関与の強化については、両法成立後、各党間で検討を行い、結論を得ること。
 
 右決議する。
(引用終わり)
 
 そして、9月19日未明の参議院本会議において採決が行われた訳ですが、当然、5党合意に署名した野党3党の各議員は、法案に賛成しました。
 参議院では、1人1人の議員の議案に対する賛否の投票結果が記録・公開されていますので、参考までに、以下に、自民党公明党以外で賛成した議員を抜き出しておきます。「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」についての投票結果をご紹介しますが、「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案」についても同様の投票結果でした。

自民党公明党以外で賛成した参議院議員
日本を元気にする会・無所属会
 アントニオ猪木井上義行、田中茂、松田公太山口和之山田太郎
(注)田中茂議員は「日本を元気にする会」所属ではない。また同じく無所属の行田邦子議員は反対した。
次世代の党
 江口克彦中野正志中山恭子浜田和幸和田政宗
新党改革無所属の会
 荒井広幸、中野達男
(注)新党改革所属は荒井広幸議員のみ。
各派に属しない議員
 松沢成文脇雅史
 
 さらに、9月19日、5党合意に基づき、「平和安全法制の成立を踏まえた政府の取組について」が閣議決定(持ち回り)されました。
 
 
1 我が国は、戦後一貫して日本国憲法の下で平和国家として歩んできた。専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を守るとの基本方針を堅持してきた。また、我が国は、国際連合憲章を遵守しながら、国際社会や国際連合を始めとする国際機関と連携し、それらの活動に積極的に寄与している。こうした我が国の平和国家としての歩みは、これをより確固たるものにしなければならない。
 我が国を取り巻く安全保障環境の変化に対応し、政府としての責務を果たすためには、まず、十分な体制をもって力強い外交を推進することにより、安定しかつ見通しがつきやすい国際環境を創出し、脅威の出現を未然に防ぐとともに、国際法にのっとって行動し、法の支配を重視することにより、紛争の平和的な解決を図らなければならない。
 その上で、いかなる事態においても国民の命と平和な暮らしを断固として守り抜くとともに、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の下、国際社会の平和と安全にこれまで以上に積極的に貢献するためには、切れ目のない対応を可能とする国内法制を整備しなければならない。
2 このような認識は、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成26年7月1日閣議決定)において示されたとおりであり、政府は、同閣議決定に基づいて検討を進めた結果、我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案及び国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案を平成27年5月14日に閣議決定し、国会に提出し審議をお願いしたところである。
3 その結果、平成27年9月16日に、自由民主党公明党、日本を元気にする会、次世代の党及び新党改革の5党により、別添の「平和安全法制についての合意書」が合意され、同月17日、参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会において、同合意書の内容が附帯決議として議決された上で、同月19日、参議院本会議において可決成立した。
4 政府は、本法律の施行に当たっては、上記3の5党合意の趣旨を尊重し、適切に対処するものとする。
(引用終わり)
 
 以上で、今回の5党合意、附帯決議、閣議決定を読み終えました。
 次にやるべきことは、合意事項の各項目の分析ですが、あまりに分量が多くなってしまったので、それはまた次の機会に譲ることにします。つまりエンドマークは「続く」です。
 

(忘れないために)
 「自由と平和のための京大有志の会」による「あしたのための声明書」(2015年9月19日)を、「忘れないために」しばらくメルマガ(ブログ)の末尾に掲載することにしました。
 
(引用開始)
  あしたのための声明書
 
わたしたちは、忘れない。
人びとの声に耳をふさぎ、まともに答弁もせず法案を通した首相の厚顔を。
戦争に行きたくないと叫ぶ若者を「利己的」と罵った議員の無恥を。
強行採決も連休を過ぎれば忘れると言い放った官房長官の傲慢を。
 
わたしたちは、忘れない。
マスコミを懲らしめる、と恫喝した議員の思い上がりを。
権力に媚び、おもねるだけの報道人と言論人の醜さを。
居眠りに耽る議員たちの弛緩を。
 
わたしたちは、忘れない。
声を上げた若者たちの美しさを。
街頭に立ったお年寄りたちの威厳を。
内部からの告発に踏み切った人びとの勇気を。
 
わたしたちは、忘れない。
戦争の体験者が学生のデモに加わっていた姿を。
路上で、職場で、田んぼで、プラカードを掲げた人びとの決意を。
聞き届けられない声を、それでも上げつづけてきた人びとの苦しく切ない歴史を。
 
きょうは、はじまりの日。
憲法を貶めた法律を葬り去る作業のはじまり。
賛成票を投じたツケを議員たちが苦々しく噛みしめる日々のはじまり。
人の生命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる独裁政治の終わりのはじまり。
自由と平和への願いをさらに深く、さらに広く共有するための、あらゆる試みのはじまり。
 
わたしたちは、忘れない、あきらめない、屈しない。
 
     自由と平和のための京大有志の会
(引用終わり)
 

(付録)
『世界』 作詞・作曲:ヒポポ田 演奏:ヒポポフォークゲリラ