安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(3)~逐条的に読んでみた②(2項)
今晩(2015年10月7日)配信した「メルマガ金原No.2236」を転載します。
なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(3)~逐条的に読んでみた②(2項)
(これまでの連載)
2015年10月4日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(1)~とにかく読むだけは読まなければ(資料編)
2015年10月5日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(2)~逐条的に読んでみた①(前・1項)
(これまでの連載)
2015年10月4日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(1)~とにかく読むだけは読まなければ(資料編)
2015年10月5日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(2)~逐条的に読んでみた①(前・1項)
9月16日に自由民主党、公明党、日本を元気にする会、次世代の党、新党改革の5党間で締結された「平和安全法制に関する合意事項」を考えるシリーズ、前回から逐条的に読み込むことを始め、今日はその2項です。
9月16日の「合意事項」も翌17日の参議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会での「附帯決議」も同内容ですが(前文は「附帯決議」でやや修文されています)、9月19日の閣議決定「平和安全法制の成立を踏まえた政府の取組について」が「趣旨を尊重し、適切に対処するものとする。」としたのは、直接的には「5党合意」についてであって「附帯決議」ではありませんので、以下には9月16日の「平和安全法制に関する合意事項」を引用します(項目を示す数字がアラビア数字か漢数字かの違い程度ですが)。
なお、引用した「合意事項」は茶色で、私が書いた補注は黒色で、私が引用した文章は紺色で表記してあります。
2 存立危機事態に該当するが、武力攻撃事態等に該当しない例外的な場合における防衛出動の国会承認については、例外なく事前承認を求めること。
現在の安全保障環境を踏まえれば、存立危機事態に該当するような状況は、同時に武力攻撃事態等にも該当することがほとんどで、存立危機事態と武力攻撃事態等が重ならない場合は、極めて例外である。
現在の安全保障環境を踏まえれば、存立危機事態に該当するような状況は、同時に武力攻撃事態等にも該当することがほとんどで、存立危機事態と武力攻撃事態等が重ならない場合は、極めて例外である。
まず、防衛出動と国会承認について定めた(改正前の)自衛隊法の規定(改正法は未施行なので、現在は改正前規定がそのまま効力を持っているのですが)はこうなっています。
自衛隊法(昭和二十九年六月九日法律第百六十五号)
(防衛出動)
(防衛出動)
第七十六条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃(以下「武力攻撃」という。)が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律 (平成十五年法律第七十九号)第九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。
2 内閣総理大臣は、出動の必要がなくなつたときは、直ちに、自衛隊の撤収を命じなければならない。
2 内閣総理大臣は、出動の必要がなくなつたときは、直ちに、自衛隊の撤収を命じなければならない。
これが、今回の安保法制でどうなったかというと、以下のとおりです。これを要約すれば、
〇内閣総理大臣は、従来の武力攻撃事態及び武力攻撃切迫事態に加え、存立危機事態の場合にも自衛隊に防衛出動を命じることができるようになった。
〇ただ、そのためには事態対処法9条により国会の承認を得なければならない(これは従来通り)。
ということになります。
〇内閣総理大臣は、従来の武力攻撃事態及び武力攻撃切迫事態に加え、存立危機事態の場合にも自衛隊に防衛出動を命じることができるようになった。
〇ただ、そのためには事態対処法9条により国会の承認を得なければならない(これは従来通り)。
ということになります。
改正自衛隊法
(防衛出動)
第七十六条 内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律第九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。
一 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態
二 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
2 略
(防衛出動)
第七十六条 内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律第九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。
一 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態
二 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
2 略
それでは、国会承認についてはどのように定められているのかを確認しておきましょう。事態対処法9条というのは非常に長い条文ですが、防衛出動という国家の最重要事態についての国会承認に関わる条文ですから、一度は読んでおきたいものです。とはいえ、いきなり読み始めても訳が分からないかもしれませんので、特に1項~4項、7項等(とりわけ4項)に注目して読んでください。
なお、条文の階層及び読み方は、
第九条
4(項)
一(号)
という風になっています。
なお、条文の階層及び読み方は、
第九条
4(項)
一(号)
という風になっています。
武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(改正事態対処法)
(対処基本方針)
第九条 政府は、武力攻撃事態等又は存立危機事態に至ったときは、武力攻撃事態等又は存立危機事態への対処に関する基本的な方針(以下「対処基本方針」という。)を定めるものとする。
2 対処基本方針に定める事項は、次のとおりとする。
一 対処すべき事態に関する次に掲げる事項
イ 事態の経緯、事態が武力攻撃事態であること、武力攻撃予測事態であること又は存立危機事態であることの認定及び当該認定の前提となった事実
ロ 事態が武力攻撃事態又は存立危機事態であると認定する場合にあっては、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がなく、事態に対処するために武力の行使が必要であると認められる理由
二 当該武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処に関する全般的な方針
三 対処措置に関する重要事項
3 武力攻撃事態又は存立危機事態においては、対処基本方針には、前項第三号に定める事項として、次に掲げる内閣総理大臣の承認を行う場合はその旨を記載しなければならない。
一 防衛大臣が自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第七十条第一項又は第八項の規定に基づき発する同条第一項第一号に定める防衛招集命令書による防衛招集命令に関して同項又は同条第八項の規定により内閣総理大臣が行う承認
二 防衛大臣が自衛隊法第七十五条の四第一項又は第六項の規定に基づき発する同条第一項第一号に定める防衛招集命令書による防衛招集命令に関して同項又は同条第六項の規定により内閣総理大臣が行う承認
三 防衛大臣が自衛隊法第七十七条の規定に基づき発する防衛出動待機命令に関して同条の規定により内閣総理大臣が行う承認
四 防衛大臣が自衛隊法第七十七条の二の規定に基づき命ずる防御施設構築の措置に関して同条の規定により内閣総理大臣が行う承認
五 防衛大臣が武力攻撃事態等及び存立危機事態におけるアメリカ合衆国等の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律第十条第三項の規定に基づき実施を命ずる行動関連措置としての役務の提供に関して同項の規定により内閣総理大臣が行う承認
六 防衛大臣が武力攻撃事態及び存立危機事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律第四条の規定に基づき命ずる同法第四章の規定による措置に関して同条の規定により内閣総理大臣が行う承認
4 武力攻撃事態又は存立危機事態においては、対処基本方針には、前項に定めるもののほか、第二項第三号に定める事項として、第一号に掲げる内閣総理大臣が行う国会の承認(衆議院が解散されているときは、日本国憲法第五十四条に規定する緊急集会による参議院の承認。以下この条において同じ。)の求めを行う場合にあってはその旨を、内閣総理大臣が第二号に掲げる防衛出動を命ずる場合にあってはその旨を記載しなければならない。ただし、同号に掲げる防衛出動を命ずる旨の記載は、特に緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがない場合でなければ、することができない。
一 内閣総理大臣が防衛出動を命ずることについての自衛隊法第七十六条第一項の規定に基づく国会の承認の求め
二 自衛隊法第七十六条第一項の規定に基づき内閣総理大臣が命ずる防衛出動
5 武力攻撃予測事態においては、対処基本方針には、第二項第三号に定める事項として、次に掲げる内閣総理大臣の承認を行う場合はその旨を記載しなければならない。
一 防衛大臣が自衛隊法第七十条第一項又は第八項の規定に基づき発する同条第一項第一号に定める防衛招集命令書による防衛招集命令(事態が緊迫し、同法第七十六条第一項の規定による防衛出動命令が発せられることが予測される場合に係るものに限る。)に関して同法第七十条第一項又は第八項の規定により内閣総理大臣が行う承認
二 防衛大臣が自衛隊法第七十五条の四第一項又は第六項の規定に基づき発する同条第一項第一号に定める防衛招集命令書による防衛招集命令(事態が緊迫し、同法第七十六条第一項の規定による防衛出動命令が発せられることが予測される場合に係るものに限る。)に関して同法第七十五条の四第一項又は第六項の規定により内閣総理大臣が行う承認
三 防衛大臣が自衛隊法第七十七条の規定に基づき発する防衛出動待機命令に関して同条の規定により内閣総理大臣が行う承認
四 防衛大臣が自衛隊法第七十七条の二の規定に基づき命ずる防御施設構築の措置に関して同条の規定により内閣総理大臣が行う承認
五 防衛大臣が武力攻撃事態等及び存立危機事態におけるアメリカ合衆国等の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律第十条第三項の規定に基づき実施を命ずる行動関連措置としての役務の提供に関して同項の規定により内閣総理大臣が行う承認
(金原注:以下の各項は従来通りの規定である)
6 内閣総理大臣は、対処基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
7 内閣総理大臣は、前項の閣議の決定があったときは、直ちに、対処基本方針(第4項第一号に規定する国会の承認の求めに関する部分を除く。)につき、国会の承認を求めなければならない。
8 内閣総理大臣は、第六項の閣議の決定があったときは、直ちに、対処基本方針を公示してその周知を図らなければならない。
9 内閣総理大臣は、第七項の規定に基づく対処基本方針の承認があったときは、直ちに、その旨を公示しなければならない。
10 第四項第一号に規定する防衛出動を命ずることについての承認の求めに係る国会の承認が得られたときは、対処基本方針を変更して、これに当該承認に係る防衛出動を命ずる旨を記載するものとする。
11 第七項の規定に基づく対処基本方針の承認の求めに対し、不承認の議決があったときは、当該議決に係る対処措置は、速やかに、終了されなければならない。この場合において、内閣総理大臣は、第四項第二号に規定する防衛出動を命じた自衛隊については、直ちに撤収を命じなければならない。
12 内閣総理大臣は、対処措置を実施するに当たり、対処基本方針に基づいて、内閣を代表して行政各部を指揮監督する。
13 第六項から第九項まで及び第十一項の規定は、対処基本方針の変更について準用する。ただし、第十項の規定に基づく変更及び対処措置を構成する措置の終了を内容とする変更については、第七項、第九項及び第十一項の規定は、この限りでない。
14 内閣総理大臣は、対処措置を実施する必要がなくなったと認めるとき又は国会が対処措置を終了すべきことを議決したときは、対処基本方針の廃止につき、閣議の決定を求めなければならない。
15 内閣総理大臣は、前項の閣議の決定があったときは、速やかに、対処基本方針が廃止された旨及び対処基本方針に定める対処措置の結果を国会に報告するとともに、これを公示しなければならない。
(対処基本方針)
第九条 政府は、武力攻撃事態等又は存立危機事態に至ったときは、武力攻撃事態等又は存立危機事態への対処に関する基本的な方針(以下「対処基本方針」という。)を定めるものとする。
2 対処基本方針に定める事項は、次のとおりとする。
一 対処すべき事態に関する次に掲げる事項
イ 事態の経緯、事態が武力攻撃事態であること、武力攻撃予測事態であること又は存立危機事態であることの認定及び当該認定の前提となった事実
ロ 事態が武力攻撃事態又は存立危機事態であると認定する場合にあっては、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がなく、事態に対処するために武力の行使が必要であると認められる理由
二 当該武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処に関する全般的な方針
三 対処措置に関する重要事項
3 武力攻撃事態又は存立危機事態においては、対処基本方針には、前項第三号に定める事項として、次に掲げる内閣総理大臣の承認を行う場合はその旨を記載しなければならない。
一 防衛大臣が自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第七十条第一項又は第八項の規定に基づき発する同条第一項第一号に定める防衛招集命令書による防衛招集命令に関して同項又は同条第八項の規定により内閣総理大臣が行う承認
二 防衛大臣が自衛隊法第七十五条の四第一項又は第六項の規定に基づき発する同条第一項第一号に定める防衛招集命令書による防衛招集命令に関して同項又は同条第六項の規定により内閣総理大臣が行う承認
三 防衛大臣が自衛隊法第七十七条の規定に基づき発する防衛出動待機命令に関して同条の規定により内閣総理大臣が行う承認
四 防衛大臣が自衛隊法第七十七条の二の規定に基づき命ずる防御施設構築の措置に関して同条の規定により内閣総理大臣が行う承認
五 防衛大臣が武力攻撃事態等及び存立危機事態におけるアメリカ合衆国等の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律第十条第三項の規定に基づき実施を命ずる行動関連措置としての役務の提供に関して同項の規定により内閣総理大臣が行う承認
六 防衛大臣が武力攻撃事態及び存立危機事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律第四条の規定に基づき命ずる同法第四章の規定による措置に関して同条の規定により内閣総理大臣が行う承認
4 武力攻撃事態又は存立危機事態においては、対処基本方針には、前項に定めるもののほか、第二項第三号に定める事項として、第一号に掲げる内閣総理大臣が行う国会の承認(衆議院が解散されているときは、日本国憲法第五十四条に規定する緊急集会による参議院の承認。以下この条において同じ。)の求めを行う場合にあってはその旨を、内閣総理大臣が第二号に掲げる防衛出動を命ずる場合にあってはその旨を記載しなければならない。ただし、同号に掲げる防衛出動を命ずる旨の記載は、特に緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがない場合でなければ、することができない。
一 内閣総理大臣が防衛出動を命ずることについての自衛隊法第七十六条第一項の規定に基づく国会の承認の求め
二 自衛隊法第七十六条第一項の規定に基づき内閣総理大臣が命ずる防衛出動
5 武力攻撃予測事態においては、対処基本方針には、第二項第三号に定める事項として、次に掲げる内閣総理大臣の承認を行う場合はその旨を記載しなければならない。
一 防衛大臣が自衛隊法第七十条第一項又は第八項の規定に基づき発する同条第一項第一号に定める防衛招集命令書による防衛招集命令(事態が緊迫し、同法第七十六条第一項の規定による防衛出動命令が発せられることが予測される場合に係るものに限る。)に関して同法第七十条第一項又は第八項の規定により内閣総理大臣が行う承認
二 防衛大臣が自衛隊法第七十五条の四第一項又は第六項の規定に基づき発する同条第一項第一号に定める防衛招集命令書による防衛招集命令(事態が緊迫し、同法第七十六条第一項の規定による防衛出動命令が発せられることが予測される場合に係るものに限る。)に関して同法第七十五条の四第一項又は第六項の規定により内閣総理大臣が行う承認
三 防衛大臣が自衛隊法第七十七条の規定に基づき発する防衛出動待機命令に関して同条の規定により内閣総理大臣が行う承認
四 防衛大臣が自衛隊法第七十七条の二の規定に基づき命ずる防御施設構築の措置に関して同条の規定により内閣総理大臣が行う承認
五 防衛大臣が武力攻撃事態等及び存立危機事態におけるアメリカ合衆国等の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律第十条第三項の規定に基づき実施を命ずる行動関連措置としての役務の提供に関して同項の規定により内閣総理大臣が行う承認
(金原注:以下の各項は従来通りの規定である)
6 内閣総理大臣は、対処基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
7 内閣総理大臣は、前項の閣議の決定があったときは、直ちに、対処基本方針(第4項第一号に規定する国会の承認の求めに関する部分を除く。)につき、国会の承認を求めなければならない。
8 内閣総理大臣は、第六項の閣議の決定があったときは、直ちに、対処基本方針を公示してその周知を図らなければならない。
9 内閣総理大臣は、第七項の規定に基づく対処基本方針の承認があったときは、直ちに、その旨を公示しなければならない。
10 第四項第一号に規定する防衛出動を命ずることについての承認の求めに係る国会の承認が得られたときは、対処基本方針を変更して、これに当該承認に係る防衛出動を命ずる旨を記載するものとする。
11 第七項の規定に基づく対処基本方針の承認の求めに対し、不承認の議決があったときは、当該議決に係る対処措置は、速やかに、終了されなければならない。この場合において、内閣総理大臣は、第四項第二号に規定する防衛出動を命じた自衛隊については、直ちに撤収を命じなければならない。
12 内閣総理大臣は、対処措置を実施するに当たり、対処基本方針に基づいて、内閣を代表して行政各部を指揮監督する。
13 第六項から第九項まで及び第十一項の規定は、対処基本方針の変更について準用する。ただし、第十項の規定に基づく変更及び対処措置を構成する措置の終了を内容とする変更については、第七項、第九項及び第十一項の規定は、この限りでない。
14 内閣総理大臣は、対処措置を実施する必要がなくなったと認めるとき又は国会が対処措置を終了すべきことを議決したときは、対処基本方針の廃止につき、閣議の決定を求めなければならない。
15 内閣総理大臣は、前項の閣議の決定があったときは、速やかに、対処基本方針が廃止された旨及び対処基本方針に定める対処措置の結果を国会に報告するとともに、これを公示しなければならない。
これらの規定を一読しただけでは、国会承認を得るためにはどうすれば良いのか、事前承認が必要なのか、それとも事後で良いのか、ということがすぐには理解できないかもしれません。
これは、今回の改正でそうなったというよりは、事態対処法の元々の規定からして分かりにくいものだったのですが。
とにかく、私の理解しているところに従い、武力攻撃事態又は存立危機事態と国会承認の関係について整理してみます。
これは、今回の改正でそうなったというよりは、事態対処法の元々の規定からして分かりにくいものだったのですが。
とにかく、私の理解しているところに従い、武力攻撃事態又は存立危機事態と国会承認の関係について整理してみます。
①「特に緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがない場合」
武力攻撃事態又は存立危機事態であって、表記の要件を満たす場合には、国会の承認を得ることなく、内閣総理大臣は自衛隊に防衛出動を命じることができます(事態対処法9条4項2号)。ただし、その旨を対処基本方針に記載しなければなりません。
そして、その防衛出動を命じることが記載された対処基本方針を閣議決定の上、国会に承認を求めなければなりません。この場合、既に自衛隊は防衛出動しているでしょうから、結局、国会には事後承認を求めることになります。
国会によって対処基本方針が不承認となった場合には、既に出動していた自衛隊は直ちに撤収させなければなりません(11項)。
武力攻撃事態又は存立危機事態であって、表記の要件を満たす場合には、国会の承認を得ることなく、内閣総理大臣は自衛隊に防衛出動を命じることができます(事態対処法9条4項2号)。ただし、その旨を対処基本方針に記載しなければなりません。
そして、その防衛出動を命じることが記載された対処基本方針を閣議決定の上、国会に承認を求めなければなりません。この場合、既に自衛隊は防衛出動しているでしょうから、結局、国会には事後承認を求めることになります。
国会によって対処基本方針が不承認となった場合には、既に出動していた自衛隊は直ちに撤収させなければなりません(11項)。
②「特に緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがない場合」とはいえない場合
武力攻撃事態又は存立危機事態であって、緊急性の要件を満たさない場合には、事態対処法9条4項1号に基づき、対処基本方針に「内閣総理大臣が防衛出動を命ずることについての自衛隊法第七十六条第一項の規定に基づく国会の承認の求め」を行うことを記載した上で、閣議決定を経て(6項)、国会の承認を求めます(7項)。
これが事前承認です。
承認が得られれば、「対処基本方針を変更して、これに当該承認に係る防衛出動を命ずる旨を記載」(10項)し、自衛隊に防衛出動を命じることになり、もしも承認が得られなければ、「対処措置は、速やかに、終了」しなければなりません(11項)。
武力攻撃事態又は存立危機事態であって、緊急性の要件を満たさない場合には、事態対処法9条4項1号に基づき、対処基本方針に「内閣総理大臣が防衛出動を命ずることについての自衛隊法第七十六条第一項の規定に基づく国会の承認の求め」を行うことを記載した上で、閣議決定を経て(6項)、国会の承認を求めます(7項)。
これが事前承認です。
承認が得られれば、「対処基本方針を変更して、これに当該承認に係る防衛出動を命ずる旨を記載」(10項)し、自衛隊に防衛出動を命じることになり、もしも承認が得られなければ、「対処措置は、速やかに、終了」しなければなりません(11項)。
なお、仮に対処基本方針がいったん承認されたとしても、「国会が対処措置を終了すべきことを議決したときは」、内閣総理大臣は、対処基本方針の廃止につき、閣議の決定を求めなければなりません(14項)。
以上の事前承認、事後承認については、武力攻撃事態であっても存立危機事態であっても、全く同様の手続に付されることになっています(法律では)。
しかるに、5党合意の合意事項2項では、「存立危機事態に該当するが、武力攻撃事態等に該当しない例外的な場合における防衛出動の国会承認については、例外なく事前承認を求めること。」とし、さらにだめ押し的に、「現在の安全保障環境を踏まえれば、存立危機事態に該当するような状況は、同時に武力攻撃事態等にも該当することがほとんどで、存立危機事態と武力攻撃事態等が重ならない場合は、極めて例外である。」という解釈規定まで置いています。
この合意事項2項を素直に読めば、存立危機事態と認定できる場合というのは、ほとんど武力攻撃事態等でもあるのだが、ごく例外的に武力攻撃事態等ではないが、存立危機事態であるという場合がある。そこで、そのような場合には必ず事前の国会承認を求めなければならず、「特に緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがない場合」などとして自衛隊に防衛出動を命じてはならない、ということになりますね。
しかるに、5党合意の合意事項2項では、「存立危機事態に該当するが、武力攻撃事態等に該当しない例外的な場合における防衛出動の国会承認については、例外なく事前承認を求めること。」とし、さらにだめ押し的に、「現在の安全保障環境を踏まえれば、存立危機事態に該当するような状況は、同時に武力攻撃事態等にも該当することがほとんどで、存立危機事態と武力攻撃事態等が重ならない場合は、極めて例外である。」という解釈規定まで置いています。
この合意事項2項を素直に読めば、存立危機事態と認定できる場合というのは、ほとんど武力攻撃事態等でもあるのだが、ごく例外的に武力攻撃事態等ではないが、存立危機事態であるという場合がある。そこで、そのような場合には必ず事前の国会承認を求めなければならず、「特に緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがない場合」などとして自衛隊に防衛出動を命じてはならない、ということになりますね。
この合意事項の解釈上特に注意すべきは、「武力攻撃事態等」の「等」が何を指しているのかです。合意事項自体には、「武力攻撃事態等」についての定義は置かれていませんので、事態対処法等における定義を踏襲していると解するのが常識的な受け取り方であり、同法1条の「武力攻撃事態等(武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態をいう。)」のとおりに解釈すべきでしょう。
ちなみに、同法2条では、武力攻撃事態、武力攻撃予測事態について、以下のように定義されています(この部分は改正されていません)。
ちなみに、同法2条では、武力攻撃事態、武力攻撃予測事態について、以下のように定義されています(この部分は改正されていません)。
事態対処法
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 武力攻撃 我が国に対する外部からの武力攻撃をいう。
二 武力攻撃事態 武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態をいう。
三 武力攻撃予測事態 武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう。
武力攻撃事態と武力攻撃予測事態とで何が違うかといえば、武力攻撃事態においては自衛隊に防衛出動を命じることができるのに対し(自衛隊法76条1項)、武力攻撃予測事態にあっては、防衛招集命令あるいは防衛出動待機命令等は発令できるが(自衛隊法77条、事態対処法9条5項等)、防衛出動は命じられないということが大きな相違点です。
ところで、事態対処法9条1項によれば、対処基本方針を定めなければならないのは、「武力攻撃事態等又は存立危機事態に至ったとき」ですから、武力攻撃予測事態も含むことになり、予測事態であっても当然国会に承認を求めなければなりません。しかも、予測事態の段階で自衛隊に防衛出動を命じることはできませんから、この場合は必ず国会に事前承認を求めることになります(武力攻撃予測事態だけであればですが)。
以上を前提に5党合意の合意事項2項を読み直してみると、結局、以下の3類型に分けられることになります。つまり、
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 武力攻撃 我が国に対する外部からの武力攻撃をいう。
二 武力攻撃事態 武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態をいう。
三 武力攻撃予測事態 武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう。
武力攻撃事態と武力攻撃予測事態とで何が違うかといえば、武力攻撃事態においては自衛隊に防衛出動を命じることができるのに対し(自衛隊法76条1項)、武力攻撃予測事態にあっては、防衛招集命令あるいは防衛出動待機命令等は発令できるが(自衛隊法77条、事態対処法9条5項等)、防衛出動は命じられないということが大きな相違点です。
ところで、事態対処法9条1項によれば、対処基本方針を定めなければならないのは、「武力攻撃事態等又は存立危機事態に至ったとき」ですから、武力攻撃予測事態も含むことになり、予測事態であっても当然国会に承認を求めなければなりません。しかも、予測事態の段階で自衛隊に防衛出動を命じることはできませんから、この場合は必ず国会に事前承認を求めることになります(武力攻撃予測事態だけであればですが)。
以上を前提に5党合意の合意事項2項を読み直してみると、結局、以下の3類型に分けられることになります。つまり、
①存立危機事態でありかつ武力攻撃事態である場合
→場合によっては事後承認でも良い。
②存立危機事態でありかつ武力攻撃予測事態である場合
→場合によっては事後承認でも良い。
③存立危機事態であるが武力攻撃事態等(武力攻撃事態又は武力攻撃予測事態)ではない場合
→例外なく事前承認を求めなければならない。
→場合によっては事後承認でも良い。
②存立危機事態でありかつ武力攻撃予測事態である場合
→場合によっては事後承認でも良い。
③存立危機事態であるが武力攻撃事態等(武力攻撃事態又は武力攻撃予測事態)ではない場合
→例外なく事前承認を求めなければならない。
ということになると解されます。
従って、5党合意の2項について、存立危機事態における防衛出動は全て国会の事前承認を要することになったと解するのは明らかに誤りです。特に、上記の②の場合、「存立危機事態でありかつ武力攻撃予測事態である場合」には、5党合意によっても、政府の判断による(国会の事前承認なしでの)防衛出動(もちろん、存立危機事態を根拠とする)が可能です。
従って、5党合意の2項について、存立危機事態における防衛出動は全て国会の事前承認を要することになったと解するのは明らかに誤りです。特に、上記の②の場合、「存立危機事態でありかつ武力攻撃予測事態である場合」には、5党合意によっても、政府の判断による(国会の事前承認なしでの)防衛出動(もちろん、存立危機事態を根拠とする)が可能です。
5党合意の2項を実際の想定事例にあてはめてみれば、ホルムズ海峡有事を存立危機事態と認定したとすれば、「例外なく事前承認を求めること」が求められるが、朝鮮半島有事であれば、武力攻撃予測事態でもあり得る可能性が高く、国会の事前承認なしでの防衛出動を阻止することは難しいといったところでしょうか。
いずれにせよ、5党合意によって何が合意されたのかを、緻密に検討しておくことは無駄ではないはずと思って作業を始めたのですが、このペースでいくとなかなか終わりそうもありませんね。
この5党合意についての私の総括的な意見は、9項までの逐条解釈を終わった後のまとめで書いてみたいと思います。
(続く)
この5党合意についての私の総括的な意見は、9項までの逐条解釈を終わった後のまとめで書いてみたいと思います。
(続く)
(忘れないために)
「自由と平和のための京大有志の会」による「あしたのための声明書」(2015年9月19日)を、「忘れないために」しばらくメルマガ(ブログ)の末尾に掲載することにしました。
「自由と平和のための京大有志の会」による「あしたのための声明書」(2015年9月19日)を、「忘れないために」しばらくメルマガ(ブログ)の末尾に掲載することにしました。
(引用開始)
あしたのための声明書
あしたのための声明書
わたしたちは、忘れない。
人びとの声に耳をふさぎ、まともに答弁もせず法案を通した首相の厚顔を。
戦争に行きたくないと叫ぶ若者を「利己的」と罵った議員の無恥を。
強行採決も連休を過ぎれば忘れると言い放った官房長官の傲慢を。
人びとの声に耳をふさぎ、まともに答弁もせず法案を通した首相の厚顔を。
戦争に行きたくないと叫ぶ若者を「利己的」と罵った議員の無恥を。
強行採決も連休を過ぎれば忘れると言い放った官房長官の傲慢を。
わたしたちは、忘れない。
マスコミを懲らしめる、と恫喝した議員の思い上がりを。
権力に媚び、おもねるだけの報道人と言論人の醜さを。
居眠りに耽る議員たちの弛緩を。
マスコミを懲らしめる、と恫喝した議員の思い上がりを。
権力に媚び、おもねるだけの報道人と言論人の醜さを。
居眠りに耽る議員たちの弛緩を。
わたしたちは、忘れない。
声を上げた若者たちの美しさを。
街頭に立ったお年寄りたちの威厳を。
内部からの告発に踏み切った人びとの勇気を。
声を上げた若者たちの美しさを。
街頭に立ったお年寄りたちの威厳を。
内部からの告発に踏み切った人びとの勇気を。
わたしたちは、忘れない。
戦争の体験者が学生のデモに加わっていた姿を。
路上で、職場で、田んぼで、プラカードを掲げた人びとの決意を。
聞き届けられない声を、それでも上げつづけてきた人びとの苦しく切ない歴史を。
戦争の体験者が学生のデモに加わっていた姿を。
路上で、職場で、田んぼで、プラカードを掲げた人びとの決意を。
聞き届けられない声を、それでも上げつづけてきた人びとの苦しく切ない歴史を。
きょうは、はじまりの日。
憲法を貶めた法律を葬り去る作業のはじまり。
賛成票を投じたツケを議員たちが苦々しく噛みしめる日々のはじまり。
人の生命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる独裁政治の終わりのはじまり。
自由と平和への願いをさらに深く、さらに広く共有するための、あらゆる試みのはじまり。
憲法を貶めた法律を葬り去る作業のはじまり。
賛成票を投じたツケを議員たちが苦々しく噛みしめる日々のはじまり。
人の生命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる独裁政治の終わりのはじまり。
自由と平和への願いをさらに深く、さらに広く共有するための、あらゆる試みのはじまり。
わたしたちは、忘れない、あきらめない、屈しない。
自由と平和のための京大有志の会
(引用終わり)
(引用終わり)