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安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(5)~逐条的に読んでみた④(4項)

 今晩(2015年10月11日)配信した「メルマガ金原No.2240」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(5)~逐条的に読んでみた④(4項)
 好評なのかどうかよく分かりませんが、9月16日に自由民主党公明党、日本を元気にする会、次世代の党、新党改革の5党間で締結された「平和安全法制に関する合意事項」を考えるシリーズ、逐条的に読み進めてきて、今日は4項です。
 9月16日の「合意事項」も翌17日の参議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会での「附帯決議」もほぼ同内容ですが、9月19日の閣議決定「平和安全法制の成立を踏まえた政府の取組について」が「趣旨を尊重し、適切に対処するものとする。」としたのは、直接的には「5党合意」についてであって「附帯決議」ではありませんので、以下には9月16日の「平和安全法制に関する合意事項」を引用します。
 なお、引用した「合意事項」は茶色で、私が書いた補注は黒色で、私が引用した文章は紺色で表記してあります。
 
4 平和安全法制に基づく自衛隊の活動について、国会がその承認をするにあたって国会がその期間を限定した場合において、当該期間を超えて引き続き活動を行おうとするときは、改めて国会の承認を求めること。
 政府が国会承認を求めるにあたっては、情報開示と丁寧な説明をすること。
 当該自衛隊の活動の終了後において、法律に定められた国会報告を行うに際し、当該活動に対する国内外、現地の評価も含めて、丁寧に説明すること。
 また、当該自衛隊の活動について、180日ごとに国会に報告を行うこと。
 
 合意事項の4項は、全部で4つの文章からなっています。ここでは、平和安全法制全般にわたる国会による承認と政府の国会への報告について定められています。
 これまでのこのシリーズの中では、存立危機事態の国会承認(2項)、重要影響事態の国会承認(3項第1文)、駆け付け警護の国会報告(3項第2文)を読んできました。
 以下、1文ずつ読んでいきましょう。
 
第1文 平和安全法制に基づく自衛隊の活動について、国会がその承認をするにあたって国会がその期間を限定した場合において、当該期間を超えて引き続き活動を行おうとするときは、改めて国会の承認を求めること。
 
 そもそも、国会に承認するかしないかを判断する権限があるのなら、(明文はなくても)期間を限定して承認することも出来て当然だろう(これを法律家の業界では「もちろん解釈」と言います)と言えるような気はするものの、別異の解釈もあり得ない訳ではなく、にわかに判断はつけにくいところです。
 例えば、重要影響事態法5条1項本文「基本計画に定められた自衛隊の部隊等が実施する後方支援活動、捜索救助活動又は船舶検査活動については、内閣総理大臣は、これらの対応措置の実施前に、これらの対応措置を実施することにつき国会の承認を得なければならない。」に基づいて承認を求められた国会が、衆参両院で調整の上、両院において、「承認の日から2年間に限って承認する。内閣総理大臣は、この期間を超えて〇〇〇〇活動(例えば後方支援活動)を実施しようとする場合には、期間満了前に国会にあらためてその承認を求めなければならない。」という議決をした場合にどうなるのか?ということについての確認を5党間で行い、閣議決定がその「趣旨を尊重し、適切に対処する」こととしたというもので、それなりに一定の意義はあるのかなと思います。
 もっとも、両院の調整がつかず(あるいは行わず)、衆議院が「無条件承認」、参議院が「2年間限定承認」の議決をした場合にどうなるのか?という疑問について、合意事項3項第1文は何も語っていません。「少なくとも2年間については両院の承認がある」と解し、「2年間限定」で国会の承認が得られたということになるのか(これは相当に苦しい解釈のように思いますが)、両院不一致で結局承認が得られなかったことになるのか、という解釈問題は残されています。
 この合意は、現在の国会のように、衆参両院で与党が圧倒的に多数の議席を占めている場合には、あまり発動される可能性があるようには思えませんが、例えば、参議院与野党議席数が伯仲し、少数野党がキャスティングボードを握るような情勢下では、政治的妥協の産物として、「期間限定承認」ということがあり得るかもしれません。
 
第2文 政府が国会承認を求めるにあたっては、情報開示と丁寧な説明をすること。
 
 これは、読んだとおりの内容で、仮にこれが法文に書き込まれたとしても、要するに訓示規定以上の意味はありません。
 とはいえ、国会が承認を求められる事態というのは、ほぼ全て「防衛に関する事項」「外交に関する事項」「特定有害活動の防止に関する事項」「テロリズムの防止に関する事項」(特定秘密保護法別表)に関わる事項の固まりであって、政府が適切な情報開示を行うかどうかについて、はなはだ疑念が持たれるところであるので、あえて野党が盛り込むことを求めたという趣旨に解しておきましょう。
 
第3文 当該自衛隊の活動の終了後において、法律に定められた国会報告を行うに際し、当該活動に対する国内外、現地の評価も含めて、丁寧に説明すること。
 
 普通、国会の承認を得て行った自衛隊の活動については、その終了後に国会に報告することが義務付けられています。例えば、重要影響事態法では以下のように規定されています。
 
(国会への報告)
第十条 内閣総理大臣は、次の各号に掲げる事項を、遅滞なく、国会に報告しなければならない。
一 基本計画の決定又は変更があったときは、その内容
二 基本計画に定める対応措置が終了したときは、その結果
 
 しかし、この条項を読んでも、政府が国会に提出すべき「結果報告書」に何を記載しなければならないのかはさっぱり分かりませんよね。5党合意の4項第3文は、その点についての指針ではあるのですが、「当該活動に対する国内外、現地の評価」という例示によって何を期待しているのか、私にはいまひとつイメージがわいてきません。
 例えば、重要影響事態における後方支援活動を例として考えれば、国外や現地の評価というのは、米軍や米国政府の「評価」を書き込むということでしょうか?もしもそうだとすると、それにどんな意味があるのだろうか?
 PKO協力法国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律)7条2項も、「実施計画に定める国際平和協力業務が終了したとき」には「当該国際平和協力業務の実施の結果」を「遅滞なく、国会に報告しなければならない。」と定めていますが、この場合の「現地の評価」という場合の「現地」とは具体的に「誰?」のことなのか判然としません。
 いずれの場合にも、自衛隊を派遣したことについての事後的検証(日本はめったにやりませんが)を行う枠組みを作るのであれば、どう考えても立法措置が必要でしょうし(5党合意の9項第2文がそのために設けられているのですが)、第一、「遅滞なく」提出することが求められている「報告」が、そんなに時間を要する作業を前提としているとはとても解されませんからね。
 結局、「丁寧に説明する」という心構えを求めているという以上の意味をくみ取ることは難しいようです。
 
第4文 また、当該自衛隊の活動について、180日ごとに国会に報告を行うこと。
 
 これは、第2文、第3文とは異なり、具体的な行為を政府に約束させたと解される合意事項です。
 この180日ごとの国会への報告義務は法文には規定されておらず、今回の5党合意とそれを踏まえた閣議決定によって新たに政府に課された義務です(「5党合意の趣旨を尊重し、適切に対処する」ということですが、まあ、一種の義務と言ってもよいでしょう)。
 この4項第4文の規定は、これにすぐ続く合意事項5項「国会が自衛隊の活動の終了を決議したときには、法律に規定がある場合と同様、政府はこれを尊重し、速やかにその終了措置をとること。」が実効的に運用される前提としての、政府による国会に対する適時適切な情報提供を制度的に保証するという意味合いを持っており、5党合意全体の中でも、かなり重要な合意事項の1つではないかと思います。
 また、この180日ルールは、合意事項9項第1文「平和安全法制に基づく自衛隊の活動の継続中及び活動終了後において、常時監視及び事後検証のため、適時適切に所管の委員会等で審査を行うこと。」を実施するにあたっても、重要な意義を持ち得ると思います。
                                           (続く)
 

(忘れないために)
 「自由と平和のための京大有志の会」による「あしたのための声明書」(2015年9月19日)を、「忘れないために」しばらくメルマガ(ブログ)の末尾に掲載することにしました。
 
(引用開始)
  あしたのための声明書
 
わたしたちは、忘れない。
人びとの声に耳をふさぎ、まともに答弁もせず法案を通した首相の厚顔を。
戦争に行きたくないと叫ぶ若者を「利己的」と罵った議員の無恥を。
強行採決も連休を過ぎれば忘れると言い放った官房長官の傲慢を。
 
わたしたちは、忘れない。
マスコミを懲らしめる、と恫喝した議員の思い上がりを。
権力に媚び、おもねるだけの報道人と言論人の醜さを。
居眠りに耽る議員たちの弛緩を。
 
わたしたちは、忘れない。
声を上げた若者たちの美しさを。
街頭に立ったお年寄りたちの威厳を。
内部からの告発に踏み切った人びとの勇気を。
 
わたしたちは、忘れない。
戦争の体験者が学生のデモに加わっていた姿を。
路上で、職場で、田んぼで、プラカードを掲げた人びとの決意を。
聞き届けられない声を、それでも上げつづけてきた人びとの苦しく切ない歴史を。
 
きょうは、はじまりの日。
憲法を貶めた法律を葬り去る作業のはじまり。
賛成票を投じたツケを議員たちが苦々しく噛みしめる日々のはじまり。
人の生命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる独裁政治の終わりのはじまり。
自由と平和への願いをさらに深く、さらに広く共有するための、あらゆる試みのはじまり。
 
わたしたちは、忘れない、あきらめない、屈しない。
 
     自由と平和のための京大有志の会
(引用終わり) 
 

(付録)
『For a Life』 作詞:中川五郎 作曲:PANTA 演奏:中川五郎