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安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(8)~逐条的に読んでみた⑦(7項、8項)

 今晩(2015年10月18日)配信した「メルマガ金原No.2247」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(8)~逐条的に読んでみた⑦(7項、8項)

(これまでの連載)
2015年10月4日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(1)~とにかく読むだけは読まなければ(資料編)
2015年10月5日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(2)~逐条的に読んでみた①(前文・1項)
2015年10月7日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(3)~逐条的に読んでみた②(2項)
2015年10月9日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(4)~逐条的に読んでみた③(3項)
2015年10月11日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(5)~逐条的に読んでみた④(4項)
2015年10月13日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(6)~逐条的に読んでみた⑤(5項)
2015年10月15日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(7)~逐条的に読んでみた⑥(6項)
 
 去る9月16日、自由民主党公明党、日本を元気にする会、次世代の党、新党改革の5党間で締結された「平和安全法制に関する合意事項」、これを踏まえた翌17日の参議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会での「附帯決議」及び9月19日の閣議決定「平和安全法制の成立を踏まえた政府の取組について」を読み解こうという連載も、ようやく終盤に差し掛かりました。今回は、後方支援活動(重要影響事態法)及び協力支援活動(国際平和支援法)とし行われる「物品及び役務の提供」(具体的には「弾薬の提供」と「武器の輸送」)をいかに制限するかという条項(7項及び8項)についてです。
 なお、9月16日の「合意事項」も翌17日の参議院特別委員会での「附帯決議」もほぼ同内容ですが、9月19日の閣議決定が「趣旨を尊重し、適切に対処するものとする。」としたのは、直接的には「5党合意」についてであって「附帯決議」ではありませんので、以下には9月16日の「平和安全法制に関する合意事項」を引用します。
 いつも通り、引用した「合意事項」は茶色で、私が書いた補注は黒色で、私が引用した文章は紺色で表記してあります。
 
7 「弾薬の提供」は、緊急の必要性が極めて高い状況下にのみ想定されるものであり、拳銃、小銃、機関銃などの他国部隊の要員等の生命・身体を保護するために使用される弾薬の提供に限ること。
 
8 我が国が非核三原則を堅持し、NPT条約、生物兵器禁止条約化学兵器禁止条約等を批准していることに鑑み、核兵器生物兵器化学兵器といった大量破壊兵器や、クラスター弾劣化ウラン弾の輸送は行わないこと。
 
 7項と8項は密接に関連していますので、並べて読んでいただきましょう。
 7項は「弾薬の提供」について、8項は「武器の輸送」についての規定です。
 
 まず、前提として、今回の安保法制の中で、「弾薬の提供」や「武器の輸送」が問題となるのは、先にも触れたように、重要影響事態法(周辺事態法の「改正」法)に基づく後方支援活動及び国際平和支援法(テロ特措法やイラク特措法の恒久法化)に基づく協力支援活動とし行われる「物品及び役務の提供」ですので、その法制がどうなったのかをまず確認しましょう。

 最初に重要影響事態法に基づく後方支援活動です(重要影響事態についての総括的な解説は、連載(4)「逐条的に読んでみた③(3項)」に掲載しています)。
 
重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律
(重要影響事態への対応の基本原則)
第二条 政府は、重要影響事態に際して、適切かつ迅速に、後方支援活動、捜索救助活動、重要影響事態等に際して実施する船舶検査活動に関する法律第二条に規定する船舶検査活動(重要影響事態に際して実施するものに限る。以下「船舶検査活動」という。)その他の重要影響事態に対応するため必要な措置(以下「対応措置」という。)を実施し、我が国の平和及び安全の確保に努めるものとする。
2~6 略
 
(定義等)
第三条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 合衆国軍隊等 重要影響事態に対処し、日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行うアメリカ合衆国の軍隊及びその他の国際連合憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊その他これに類する組織をいう。
二 後方支援活動 合衆国軍隊等に対する物品及び役務の提供、便宜の供与その他の支援措置であって、我が国が実施するものをいう。
三、四 略
2 後方支援活動として行う自衛隊に属する物品の提供及び自衛隊による役務の提供(次項後段に規定するものを除く。)は、別表第一に掲げるものとする。
3 略
 
 「物品及び役務の提供」とは少し離れますが、私が重要影響事態法の条文の解釈上、気になっている箇所を引用しましたので、どこが気になるのかだけ指摘しておきます。
 それは、重要影響事態(そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態/重要影響事態法1条)において、日本が後方支援活動を行う対象たる「合衆国軍隊等」を定義した3条1項1号です。この内前段は、「重要影響事態に対処し、日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行うアメリカ合衆国の軍隊」と規定していますが、「日米安保条約の目的の達成に寄与する活動」とは、具体的に何を指しているのでしょうか?
 実は、重要影響事態法の前身である周辺事態法(まだ来年の3月までは効力を持っていますが)3条1項1号では、日本が行う後方地域支援の対象を「周辺事態に際して日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行っているアメリカ合衆国の軍隊」としているのです。周辺事態法が1997年の第2次日米ガイドラインを具体化するために制定されたものであることからも分かるように、同法は主に朝鮮有事を想定した法律であり、そこで書かれている「周辺事態に際して日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行っているアメリカ合衆国の軍隊」は、日米安保条約4条「締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。」が想定するいわゆる極東有事を念頭に置いた規定であると解釈すべきものでしょう。
 以上のように解するとすれば、周辺事態法の改正法たる重要影響事態法3条1項1号で使われている「日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行うアメリカ合衆国の軍隊」が、周辺事態法のそれと文言が同一であるにもかかわらず、全く別異に解釈すべき理由はないというべきではないかと思います。
 とすると、極東有事とはとても言えない地域において活動する米軍の後方支援をしようとしても、重要影響事態法は使えないのではないのか?という疑問が生じるのです。
 もちろん、立法者の意思がそうであったはずはなく、世界中とこでも「切れ目なく」米軍に対する後方支援活動ができるようにしたいということなのでしょうが、重要影響事態法をそのように解釈するには、次の2つの方法しかないと思われます。
 第1の解釈 重要影響事態法3条1項1号にいう「日米安保条約の目的」というのは、日本有事(5条)や極東有事(4条)に限られず、2015年4月の第3次日米ガイドラインにおいて、「アジア太平洋地域及びこれを越えた地域が安定し、平和で繁栄したものとなるよう」と合意されたとおりに内容が変更されたと解釈する。すなわち、法文には「日米安保条約」とあるが、これを実質的には「日米防衛協力のための指針」と読み替える解釈です。
 第2の解釈 重要影響事態法3条1項1号後段「その他の国際連合憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊その他これに類する組織」の中に、「アメリカ合衆国の軍隊」も含むと解釈する方法です。
 第1の解釈は、法律解釈の常道から逸脱しており、第2の解釈も、文理的に無理があるように思うのですが、皆さんのご意見はいかがでしょうか?
 
 思わず、横道に逸れてしまいました。
 「物品及び役務の提供」に話を戻します。
 重要影響事態法3条2項は「後方支援活動として行う自衛隊に属する物品の提供及び自衛隊による役務の提供(略)は、別表第一に掲げるものとする。」と定めており、具体的な内容は別表第一に規定されています。
 煩をいとわず、別表第一を全部読んでおきましょう。別表では、種類・内容の順に記載されています。
 
別表第一
補給 給水、給油、食事の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供(従来通り)
輸送 人員及び物品の輸送、輸送用資材の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供
(従来通り)
修理及び整備 修理及び整備、修理及び整備用機器並びに部品及び構成品の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供
(従来通り)
医療 傷病者に対する医療、衛生機具の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供
(従来通り)
通信 通信設備の利用、通信機器の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供
(従来通り)
空港及び港湾業務 航空機の離発着及び船舶の出入港に対する支援、積卸作業並びにこれらに類する物品及び役務の提供
(従来通り)
基地業務 廃棄物の収集及び処理、給電並びにこれらに類する物品及び役務の提供
(従来通り)
宿泊 宿泊設備の利用、寝具の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供(新設)
保管 倉庫における一時保管、保管容器の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供
(新設)
施設の利用 土地又は建物の一時的な利用並びにこれらに類する物品及び役務の提供
(新設)
訓練業務 訓練に必要な指導員の派遣、訓練用器材の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供
(新設)
 
 以上のとおり、補給から基地業務までは、周辺事態法と全く同一内容ですが(ただし、後述の備考が大問題)、新たに宿泊以下の4類型が加わりました。これは、もともと周辺事態法における後方地域支援が、「我が国領域並びに」非戦闘地域である「我が国周辺の公海(略)及びその上空の範囲」(周辺事態法3条1項3号)で行うこととされていたため、外国領土での活動を想定していなかったからです(テロ特措法も基本的に同様)。

 そして、最大の問題は別表第一の備考です。
 何が問題かは、重要影響事態法の備考と、同法が施行されるまではまだ効力を持っている周辺事態法の別表第一の備考とを比較しなければ分かりません。
 
(これまでの規定)
周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律(平成十一年五月二十八日法律第六十号)
別表第一
備考
一 物品の提供には、武器(弾薬を含む。)の提供を含まないものとする。
二 物品及び役務の提供には、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を含まないものとする。
三 物品及び役務の提供は、公海及びその上空で行われる輸送(傷病者の輸送中に行われる医療を含む。)を除き、我が国領域において行われるものとする。
 
(「改正」された規定)
重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律
別表第一
備考
物品の提供には、武器の提供を含まないものとする。
 
 重要影響事態法は、周辺事態法の改正法ですから、改正後の規定の解釈にあたっては、改正前の規定からあえて削除した部分がある場合には、そのことを前提として新規定を解釈するのが常道です。
 すなわち、従来は「物品の提供には」「含まない」とされていた「武器」には、「弾薬を含む。」ということが明記されていたにもかかわらず、それをあえて削除する改正を行ったということは、武器は提供できないが、弾薬なら提供できる、ということにしたと読むことになります。
 もっとも、そうすると、「弾薬の提供」が、別表第一に定められた補給から訓練業務までの11種類の業務のどれにあたるのかが問題となりますが、どう考えても「補給」でしょうね。しかし、「弾薬の提供」が、「給水、給油、食事の提供」に「類する物品及び役務の提供」ということになるのだろうか?日本語の文理からして、相当に苦しいと思うけれど。
 そして、「戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備」は「物品及び役務の提供には」「含まない」という規定をまるごと削除したということは、そのような活動も「物品及び役務の提供に」含むことにしたと解釈せざるを得ません。
 なお、周辺事態法別表第一備考三は、後方地域支援が、「我が国領域並びに」非戦闘地域である「我が国周辺の公海(略)及びその上空の範囲」で行われることになっていたことから設けられていた規定です。
 
 ここで、国際平和支援法における「物品及び役務の提供」に関する規定を引用しておきます。
 
国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律
(基本原則)
第二条 政府は、国際平和共同対処事態に際し、この法律に基づく協力支援活動若しくは捜索救助活動又は重要影響事態等に際して実施する船舶検査活動に関する法律(平成十二年法律第百四十五号)第二条に規定する船舶検査活動(国際平和共同対処事態に際して実施するものに限る。第四条第二項第五号において単に「船舶検査活動」という。)(以下、「対応措置」という。)を適切かつ迅速に実施することにより、国際社会の平和及び安全の確保に資するものとする。
2~3 略
 
(定義等)
第三条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 諸外国の軍隊等 国際社会の平和及び安全を脅かす事態に関し、次のいずれかの国際連合の総会又は安全保障理事会の決議が存在する場合において、当該事態に対処するための活動を行う外国の軍隊その他これに類する組織(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律第三条第一号に規定する国際連合平和維持活動、同条第二号に規定する国際連携平和安全活動又は同条第三号に規定する人道的な国際救援活動を行うもの及び重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律第三条第一項第一号に規定する合衆国軍隊等を除く。)をいう。
イ 当該外国が当該活動を行うことを決定し、要請し、勧告し、又は認める決議
ロ イに掲げるもののほか、当該事態が平和に対する脅威又は平和の破壊であるとの認識を示すとともに、当該事態に関連して国際連合加盟国の取組を求める決議
二 協力支援活動 諸外国の軍隊等に対する物品及び役務の提供で あって、我が国が実施するものをいう。
三 略
2 協力支援活動として行う自衛隊に属する物品の提供及び自衛隊による役務の提供(次項後段に規定するものを除く。)は、別表第一に掲げるものとする。
3 略
 
別表第一
補給、輸送、修理及び整備、医療、通信、空港及び港湾業務、基地業務、宿泊、保管、施設の利用、訓練業務 略(重要影響事態法別表第一と同内容)
建設 建築物の建設、建設機械及び建設資材の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供
備考 物品の提供には、武器の提供を含まないものとする。
 
 別表を比較すると、重要影響事態法と国際平和支援法はほぼ同一ですが、わずかに、国際平和支援法に基づく協力支援活動としての「物品及び役務の提供」には、「建設」が付加されています。
 なお、別表の備考「物品の提供には、武器の提供を含まないものとする。」については、立法の経緯から見て、重要影響事態法と別異に解釈する余地はほぼないでしょう。
 従って、国際平和共同対処事態における協力支援の場合にも、弾薬の提供や「戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備」は可能(テロ特措法ではいずれも禁じられていました)と読むことになります。
 
 以上を前提として(長かったですね)、もう一度、5党合意の7項・8項を読んでみましょう。
 
7 「弾薬の提供」は、緊急の必要性が極めて高い状況下にのみ想定されるものであり、拳銃、小銃、機関銃などの他国部隊の要員等の生命・身体を保護するために使用される弾薬の提供に限ること。
 
8 我が国が非核三原則を堅持し、NPT条約、生物兵器禁止条約化学兵器禁止条約等を批准していることに鑑み、核兵器生物兵器化学兵器といった大量破壊兵器や、クラスター弾劣化ウラン弾の輸送は行わないこと。
 
 7項は、今回の法改正で解禁された「弾薬の提供」を極力狭く絞り込む合意であり、8項は、別表の「輸送」業務の武器に関する限定です。
 そこで、上掲の重要影響事態法の3条2項及び別表第一をもう一度読んでいただきたいのですが、「自衛隊に属する物品の提供」としての「武器の提供」は、周辺事態法でも重要影響事態法でも禁じられていますが、「弾薬の提供」は出来ることになりました(国際平和支援法でも同様です)。
 他方、「武器・弾薬の輸送」はどうでしょうか。従来から「人員及び物品の輸送、輸送用資材の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供」は出来ることになっており、これは今回も変わっていません(国際平和支援法でも同様の「輸送」が出来ます)。
 ということで、合意事項の7項は、備考の「改正」によって可能となった「弾薬の提供」について、8項は、別表の「輸送」の一部である「武器の輸送」(もちろん、武器は自衛隊に属するものであってはいけません)について、なし得る範囲を制限した合意という位置付けとなります。
 
 ところで、なぜこういう合意事項が締結されるに至ったかと言えば、国会答弁における政府答弁の混乱ぶりのために、「弾薬の提供」「武器の輸送」がどこまで拡大するか分からないという深刻な懸念が生じたためです。
 そのきっかけを作った参議院特別委員会における福島みずほ議員(社民党)と中谷元防衛大臣による武器と弾薬をめぐる二度にわたる質疑と答弁を会議録で振り返っておきましょう。なかなか冷静に読み進めるのが難しい「珍答弁」が続出します。
 
第189回国会 参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会
会議録 第5号 平成二十七年七月三十日(木曜日)

(抜粋引用開始)
福島みずほ 次に、後方支援についてちょっとお聞きをいたします。国際平和支援法、重要影響事態安全確保法と周辺事態確保法なんですが、これを見て、明らかに削除をした。
一つお聞きをいたします。今までは、「武器(弾薬を含む。)の提供を含まない」となっていたのが、武器の提供は含まないとなっていて、弾薬の提供は可能としました。また、二項の給油やいろんなこともできないというのを、これは削除して、つまり、武器の提供以外は何だってできる、弾薬も医薬品も食料も何もかもできるとしたんですね。これ、とりわけ弾薬は武器じゃないですか。これは何なんですか。
中谷元防衛大臣 弾薬の提供ですよね、それをできるようにいたしました。
福島みずほ 答えてください。
中谷元防衛大臣 弾薬は武器じゃありません。弾薬は弾薬です。
福島みずほ 冗談はやめてください。だって、今まで周辺事態法は「武器(弾薬を含む。)」と書いていたんですよ。「武器(弾薬を含む。)」、弾薬は武器に入っているというのが今までの見解じゃないですか。何でそれが、弾薬の提供ができるんですか。解釈変えたんですか。
中谷元防衛大臣 ちょっといきなりの質問でございまして、確認をいたしますが、言葉の定義でございます。今般の平和安全法制においては、自衛隊は、弾薬、これを他国の軍隊等に提供することが可能になります。新たに提供可能となる弾薬とは、武器とともに用いられる火薬類を使用した消耗品でありまして、例えば拳銃弾、小銃弾などでございます。これに対して、提供対象とならない武器とは、直接人を殺傷し、又は武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装置でありまして、例えば拳銃、小銃、機関銃など、消耗品ではないものでございます。また、誘導ミサイル、機雷、魚雷につきましては、これまでも我が国の有事の際には提供できる弾薬の範囲には含まれず、今回もこれの変更はないということでございます。
福島みずほ いや、答えてないですよ。今まで周辺事態法でできないとされていたんですよ。「武器(弾薬を含む。)」、提供はできない、それから、「戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を含まないものとする。」、これ、一体化だからできないとされていたんじゃないですか。何でいつの間にか弾薬はできるとなるんですか。だって、「武器(弾薬を含む。)」となっていたら、今までの概念は武器の中に弾薬は入っているわけでしょう。何で提供できるんですか。一体化になるじゃないですか。
中谷元防衛大臣 今回の法律の制定時でありますが、まず、現行法の制定時においては米軍からのニーズがなかったということで、弾薬の提供と戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機への給油、整備について、支援内容、これから除いていたわけでありますが、その後、日米の防衛協力、これが進展をし、またガイドラインの見直し、これを進められた協議の中で、米側からは、これらを含む幅広い後方支援、これの期待が示されたということでございます。現に、南スーダンのPKOにおきましても、参加している陸上自衛隊の部隊が国連からの要請を受けて韓国の部隊のために弾薬提供を行ったというようなこともございまして、今回、実際の支援のニーズが生じているということで、弾薬の提供、そして、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機への給油、整備について実施するように措置をする必要があるというふうに考えたわけでございます。
福島みずほ ふざけた答弁ですよ。米軍からのニーズがあったら、じゃ、武器を提供するんですか。今の答えは米軍からのニーズと言っていますが、違うでしょう。そうじゃなくて、今までは集団的自衛権の行使はできない、そして兵たん、いわゆる後方支援だって一体化はできない、だから戦争に直結するようなものはできないというふうにして規定していたんですよ。それを、米軍のニーズと言ったら、米軍のニーズがあれば、じゃ、武器の提供だってやることになりますよ、中谷さん。全然論理的じゃないですよ。憲法の下にも立っていないですよ。
(引用終わり)
 
第189回国会 参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会
会議録 第7号 平成二十七年八月四日(火曜日)

(抜粋引用開始)
福島みずほ そして次に、後方支援というときに、弾薬は提供できるが武器は提供できない。それで、劣化ウラン弾やそれからクラスター爆弾は弾薬であって武器でない。本当ですか。クラスター爆弾劣化ウラン弾は武器でしょう。
中谷元防衛大臣 劣化ウラン弾クラスター弾も、これは弾薬でございます。
福島みずほ 冗談じゃないですよ。じゃ、消耗品は弾薬であるという変な定義、この間おっしゃいましたね。だったら、ミサイルそれから大砲弾、これ弾薬ですか。
中谷元防衛大臣 ミサイルにつきましては、これは日米のACSAに基づく手続の取決めにおきまして、米国の国内の理由によりまして協議をいたしているわけでございますが、あえて当てはめるとすれば、弾薬に当たると整理することができるわけでございます。
福島みずほ ミサイル、人工衛星も全部、ミサイルも弾薬だとおっしゃった。全部弾薬とおっしゃって、これすごいことですよ。こんなインチキを許してはならないですよ。つまり、今までは弾薬(武器)も含んで提供できなかったんですよ。後方支援できなかった。それを、弾薬はできる、ニーズがあるからとやって、クラスター爆弾劣化ウラン弾もミサイルも全部弾薬だなんて、定義がおかしいですよ。こんなインチキ、僕ちゃんの僕ちゃんによる僕ちゃんのための定義を、うそついちゃ駄目ですよ。こんなあり得ない定義を言って、ミサイルも弾薬だなんて言っちゃ駄目ですよ。総理、いかがですか。
安倍晋三内閣総理大臣 弾薬と武器の定義についてはもう既に防衛大臣から答弁したとおりでございますが、クラスターについては、これはもう禁止条約に日本は加盟をしておりますから、クラスター爆弾については日本は所有をしておりませんから、そもそも所有をしておりませんから、このクラスター爆弾を提供するということはあり得ないわけでありまして、劣化ウラン弾もそうであります。これは、先ほど福島議員が、まるで日本がそれを提供するかのごとくおっしゃったから、今、ないということを申し上げているところでございます。消耗品については、これは弾薬という範囲に入っているということでございます。
福島みずほ ミサイルは弾薬ですか。
中谷元防衛大臣 先ほど御説明しましたけれども、まず、ミサイルにつきましては、日米のACSA、これの手続において物品の相互提供の対象としておりません。また、重要影響事態等におきましても他国の軍隊に対する提供の対象としては想定はしていないということでありますが、先ほどお話をいたしましたように、弾薬と武器の定義にあえて当てはめるとすれば、弾薬に当たるという整理をすることができるということでございます。
福島みずほ 私も法律家ですから、ミサイルも劣化ウラン弾クラスター爆弾も弾薬だというのは驚きです。日本はクラスター禁止条約に批准をしておりますが、これまでも運び、これまでも提供できるって、こんなふうに言っていたら何だってできますよ。ミサイルは武器じゃないんですか。クラスター爆弾とそして劣化ウラン弾は武器じゃないんですか。武器と弾薬をこんなふうにやって、何でもできるとしたら駄目ですよ。まさに本当に言葉遊びをやって、何でもできるってするのは駄目ですよ。
(引用終わり)
 
 「弾薬の提供」や「戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備」を出来るようにするのは、かつて(周辺事態法制定時)は「米軍からのニーズがなかった」が、今は米側から「期待が示された」からだという中谷防衛大臣の答弁(7月30日)って、正直といえば正直ですが、とんでもないことですよね。福島議員ならずとも、米軍のニーズがあれば何でもするのか?と問い返したくなります。
 少なくとも、私たちは、日本国憲法よりも米軍のニーズを上位に置く防衛大臣を持っているのだということをしっかりと認識し、広く国民の常識とすべきでしょう。
 
 その上、劣化ウラン弾クラスター弾もミサイルもみんな「弾薬」だと答弁するまでに至ったのですから(8月4日)何ともはやですが、これを中谷防衛相の個人的資質や見識の問題に矮小化すべきではありません。7月30日の質疑において、福島議員との間に上記のようなやりとりがあった上での8月4日の委員会なのですから、詳細な質問通告があったかどうかは別として、提供できることになる「弾薬」の具体例について質問されることなど当然防衛省の官僚も予測し、答弁案を用意していたはずです。その結論が、劣化ウラン弾クラスター弾もミサイルもみんな「弾薬」だという中谷大臣の答弁となったのですから、これは防衛省全体の見解と受け取るべきです。
 7月30日の答弁において、中谷防衛相は、弾薬とは「武器とともに用いられる火薬類を使用した消耗品」であるという定義を述べていましたが、防衛省の官僚は、この定義を機械的にあてはめ、劣化ウラン弾クラスター弾もミサイルもみんな「弾薬」だという答弁案を中谷防衛大臣に具申していたのだと私は推測しています。もしもこの推測が正しければ、福島議員と中谷元防衛大臣との「武器・弾薬問答」における最大の問題点は、防衛官僚の著しい劣化だというのが私の感想です。
 
 合意事項7項及び8項の内容自体は、読んでいただければ分かることですから、なぜそのような合意が必要とされたのか(3野党が要求したのか)についての事情をもっぱら説明してきました。
 7項において、新たに解禁された「弾薬の提供」にしばりをかけようと頑張った野党3党の努力は多としますが、もう1つ、周辺事態法別表の備考から削除された「戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備」は手付かずで終わりました。これこそまさに他国の武力行使と一体化する行為そのものなのですが、そうであればこそ、小手先の合意や附帯決議で何とかなるようなレベルではなかったということでしょうね。
 
 最後に、合意事項7項、8項をもう一度掲載するとともに、8項で引用されている諸条約等の資料をご紹介しておきます。
 
7 「弾薬の提供」は、緊急の必要性が極めて高い状況下にのみ想定されるものであり、拳銃、小銃、機関銃などの他国部隊の要員等の生命・身体を保護するために使用される弾薬の提供に限ること。
 
8 我が国が非核三原則を堅持し、NPT条約、生物兵器禁止条約化学兵器禁止条約等を批准していることに鑑み、核兵器生物兵器化学兵器といった大量破壊兵器や、クラスター弾劣化ウラン弾の輸送は行わないこと。
 
非核三原則
「核は保有しない、核は製造もしない、核を持ち込まないというこの核に対する三原則、その平和憲法のもと、この核に対する三原則のもと、そのもとにおいて日本の安全はどうしたらいいのか、これが私に課せられた責任でございます。」(衆議院予算委員会における佐藤栄作総理答弁(1967年(昭和42年)12月11日)
非核三原則に関する国会決議
 
核兵器の不拡散に関する条約(NPT条約)(1976年6月8日 我が国について効力発生)
第二条[非核兵器国の拡散回避義務]
 締約国である各非核兵器国は、核兵器その他の核爆発装置又はその管理をいかなる者からも直接又は間接に受領しないこと、核兵器その他の核爆発装置を製造せず又はその他の方法によって取得しないこと及び核兵器その他の核爆発装置の製造についていかなる援助をも求めず又は受けないことを約束する。
 
 
 
クラスター弾に関する条約(2010年8月1日に発効)
 

(忘れないために)
 「自由と平和のための京大有志の会」による「あしたのための声明書」(2015年9月19日)を、「忘れないために」しばらくメルマガ(ブログ)の末尾に掲載することにしました。
 
(引用開始)
  あしたのための声明書
 
わたしたちは、忘れない。
人びとの声に耳をふさぎ、まともに答弁もせず法案を通した首相の厚顔を。
戦争に行きたくないと叫ぶ若者を「利己的」と罵った議員の無恥を。
強行採決も連休を過ぎれば忘れると言い放った官房長官の傲慢を。
 
わたしたちは、忘れない。
マスコミを懲らしめる、と恫喝した議員の思い上がりを。
権力に媚び、おもねるだけの報道人と言論人の醜さを。
居眠りに耽る議員たちの弛緩を。
 
わたしたちは、忘れない。
声を上げた若者たちの美しさを。
街頭に立ったお年寄りたちの威厳を。
内部からの告発に踏み切った人びとの勇気を。
 
わたしたちは、忘れない。
戦争の体験者が学生のデモに加わっていた姿を。
路上で、職場で、田んぼで、プラカードを掲げた人びとの決意を。
聞き届けられない声を、それでも上げつづけてきた人びとの苦しく切ない歴史を。
 
きょうは、はじまりの日。
憲法を貶めた法律を葬り去る作業のはじまり。
賛成票を投じたツケを議員たちが苦々しく噛みしめる日々のはじまり。
人の生命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる独裁政治の終わりのはじまり。
自由と平和への願いをさらに深く、さらに広く共有するための、あらゆる試みのはじまり。
 
わたしたちは、忘れない、あきらめない、屈しない。
 
     自由と平和のための京大有志の会
(引用終わり)