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安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(9)~逐条的に読んでみた⑧(9項)

 今晩(2015年10月20日)配信した「メルマガ金原No.2249」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(9)~逐条的に読んでみた⑧(9項

(これまでの連載)
2015年10月4日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(1)~とにかく読むだけは読まなければ(資料編)
2015年10月5日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(2)~逐条的に読んでみた①(前文・1項)
2015年10月7日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(3)~逐条的に読んでみた②(2項)
2015年10月9日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(4)~逐条的に読んでみた③(3項)
2015年10月11日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(5)~逐条的に読んでみた④(4項)
2015年10月13日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(6)~逐条的に読んでみた⑤(5項)
2015年10月15日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(7)~逐条的に読んでみた⑥(6項)
2015年10月18日
安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか(8)~逐条的に読んでみた⑦(7項、8項)

 9月16日に自由民主党公明党、日本を元気にする会、次世代の党、新党改革の5党間で締結された「平和安全法制に関する合意事項」及びこれを踏まえた翌17日の参議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会での「附帯決議」、並びに9月19日の閣議決定「平和安全法制の成立を踏まえた政府の取組について」を「どう読むか」という連載も回を重ねて今日が9回目、合意事項の最後の項目である9項までたどり着きました。今日で逐条検討は終了し、これまでの連載を踏まえた総集編を第10回として書き上げ、めでたく連載完結とするつもりです。
 もっとも、2日や3日で総集編を書くのは無理だと思いますので、総集編の掲載時期は未定とさせてい
ただきます。
 
 9月16日の「合意事項」も翌17日の参議院特別委員会での「附帯決議」もほぼ同内容ですが、9月19日の閣議決定が「趣旨を尊重し、適切に対処するものとする。」としたのは、直接的には「5党合意」についてであって「附帯決議」ではありませんので、以下には9月16日の「平和安全法制に関する合意事項」を引用します。
 いつも通り、「合意事項」は茶色で、私が書いた補注は黒色で、私が引用した文章は紺色で表記してあります。
 
9 なお、平和安全法制に基づく自衛隊の活動の継続中及び活動終了後において、常時監視及び事後検証のため、適時適切に所管の委員会等で審査を行うこと。
 さらに、平和安全法制に基づく自衛隊の活動に対する常時監視及び事後検証のための国会の組織のあり方、重要影響事態及びPKO派遣の国会関与の強化については、本法成立後、各党間で検討を行い、結論を得ること。
 
 最後の9項は、合意事項前文の「平和安全法制の運用には国会が十全に関与し、国会による民主的統制としての機能を果たす。」を、自衛隊の活動継続中における「常時監視」及び活動終了後における「事後検証」の両面から具体化しようとする規定です。
 まず、第1文は、「適時適切に所管の委員会等で審査を行う」としていますが、この合意によって、何
らか具体的な保証が得られたというものではなく、第2文において、「常時監視及び事後検証のための国会の組織のあり方」について「各党間で検討を行い、結論を得ること」が約束されているのもそのためです。
 もちろん、「常時監視及び事後検証のため」に国会の委員会等が審査を行うことがとりあえず与党と野党の一部で合意され、附帯決議となったことに、それなりの意味はあるでしょう。
 ただし、8項までの諸合意とは異なり、9項については、9月19日閣議決定があまり意味を持たない
ことには注意すべきです。同閣議決定は、「4 政府は、本法律の施行に当たっては、上記3の5党合意の趣旨を尊重し、適切に対処するものとする。」としていますが、9項の内容は、政府がしなければならないことを決めているのでなく、国会が何をするのか、5党がどうするのかということを合意しているのであって、政府は関係がないからです。
 国会は、自ら自衛隊の活動について監視し、事後検証すると決めればいつでも出来るのであって、政府の同意など不要です(独裁国家なら別ですが)。従って、8項第1文は、自民党及び公明党に対し、いざ常時監視や事後検証が必要となった時に、四の五の言わせないために少しは役に立つだろうというものでしょう。
 
 さらに、第2文は、検討課題を列挙しただけであって、今すぐどうこうという規定ではありませんし、はたして具体的な結論が出るのかどうかの保証もありませんが、考え方の方向性としては結構重要な合意
なのではないかと思います(実際に妥当な結論が得られればの話ですが)。
 第2文前段は、「平和安全法制に基づく自衛隊の活動に対する常時監視及び事後検証のための国会の組織のあり方」について、「各党間で検討を行い、結論を得ること」とされています。この「各党」というのは合意に加わった5党に限られるのか、それとも他党にも開かれているのかがはっきりしませんが(合意事項全体の流れからすると前者と読むべきなのかと思います)、いずれにせよ、この規定とそのすぐ前の第1文との関係をまず整理しておくべきでしょう。
 第1文は、「常時監視及び事後検証のため、適時適切に所管の委員会等で審査を行うこと」と定めているにもかかわらず、第2文前段は、そのための「国会の組織のあり方」を検討するとしているのですから、読む者を混乱させかねませんが、おそらく、「国会の組織のあり方」についての結論を得るまでの間は、既存の委員会又は特別委員会で審査するという趣旨だと読むのが自然だと思われます。
 
 さてそこで、「自衛隊の活動に対する常時監視及び事後検証のための国会の組織のあり方」です。5党間でこれから検討するというのですが、国民としても無関心でいる訳にはいきませんので、とりあえず、最も重要と思われる論点について指摘しておきます。それは、特に「事後検証のための国会の組織のあり」についてです。
 自衛隊の海外派遣と事後検証ということで言えば、日本における事後検証の「不存在」こそ問題であるということは、皆さんよくご存知のことと思います。2009年以来、
「イラク戦争の検証を求めるネットワーク」が活動を継続せざるを得なかったのはそのためです。
 イラク戦争については、わずかに外務省が2012年12月(民主党政権の最末期)に
「対イラク武力行使に関する我が国の対応(検証結果)」なるものを外務大臣に報告しましたが、あくまでも調査の主体は外務省自身であり、その方法も、「外務省内から,当時の公電,調書等の多数の関連書類を集め,これらの文書を基礎に,一連の事実関係,情報収集及び分析,政策判断過程,情報発信及び広報作業等を調査し,これらの妥当性等についての検討を行った。また,文書から得られる情報を補完し,より正確な事実関係を把握するため,当時の省内関係者へのインタビューを実施した。」というもので、あくまで省内調査であるに過ぎず、その上、「報告の中には,関係国政府とのやり取り等,そのまま公開した場合には各国との信頼関係を損なうおそれの高い情報等が多く含まれていることから,報告そのものの公表は行わない。」始末であり、「検証」などと名乗るのもおこがましいものでした。
 そういえば、私自身、この外務省の「検証」のあまりのひどさに呆れ、思わずこれを批判する文章を書
きました(12/21外務省「対イラク武力行使に関する我が国の対応(検証結果)」について/2012年12月27日)。
 この外務省検証結果報告書については、特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウスが外務省に情報公開法に基づき情報公開請求を行ったところ、不開示となったため、本年7月、不開示処分取消等請求訴訟を東京地裁に提起しており、裁判所の判断が注目されます。
 
 上記のクリアリングハウスのリリースにも「海外のイラク戦争関係検証」が記載されていますが、諸外国の検証委員会の例を見ると、必ずしも議会に設置される訳ではないものの、検証を担う以上、十分な調査権限を付与した上で、いかに独立性を保つかが本質的に重要なことであることが分かります。
 以下には、国立国会図書館の月刊「レファレンス」に掲載された論考を参考までにご紹介しておきます。
 
 
 ここで想起されるのは、福島第一原発事故について検証するために設置された国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)です。委員会設置の根拠となる法律を制定し、国政調査権を背景とする様々な調査権限を付与するとともに、委員の身分が保障されるなど、その独立性が担保されていました。
 合意事項9項が言うように、事後検証のための組織を国会に設けるというのであれば、福島原発国会事故調を十分参考とすべきでしょう。
 
 最後に、9項第2文後段の「重要影響事態及びPKO派遣の国会関与の強化については、本法成立後、各党間で検討を行い、結論を得ること。」については、なぜ、安保法制の中でとりわけ「重要影響事態及びPKO派遣」を取り出して「国会関与の強化」をうたう必要があるのかがいまひとつよく分かりません。「国会関与の強化」が求められるのは、何もこの2類型に限ったことではないと思いますが。
 あるいは、これは文章がやや言葉足らずなだけであって、重要影響事態には、ほぼ同じような活動が想定されている国際平和共同対処事態を含むという趣旨であり、また、PKO派遣には、従来から実施してきた国際連合平和維持活動のみならず、新たに実施できることとなった国際連携平和安全活動を含むという趣旨なのでしょうか。
 それであれば、まあ分からないことはありません。
 ただし、「国会関与の強化」が具体的にどのようなことを指しているのかは、これだけでは不分明であ
り、各党間での検討を注意深く見守るしかありません。
 
 さて、9回にわたって連載してきた「安保法制:「5党合意」「附帯決議」「閣議決定」をどう読むか」も、逐条検討はとりあえず以上で終わりです。私の力不足により、まことに表面的なことしか論じることができなかったという悔いはありますが、やむを得ません。
 これを読んでくださった方のご叱正は甘んじて受けるつもりですが、願わくは、この5党合意が忘却の
淵に投げ込まれることのないよう、しっかりとその存在を認識し、必要な場合には、安保法制の運用を抑制するために最大限活用できるようにすべきであろうと思います。
 ここまで連載を読み通してくださった方が何人いるか分かりませんが、その数少ないけれど何人かはお
られるだろう読者の皆さまに、心からお礼を申し上げます。
 そして、連載の最終回としての総集編を、出来るだけ早く書ければと願っています。
 

(忘れないために)
 「自由と平和のための京大有志の会」による「あしたのための声明書」(2015年9月19日)を、「忘れないために」しばらくメルマガ(ブログ)の末尾に掲載することにしました。
 
(引用開始)
  あしたのための声明書
 
わたしたちは、忘れない。
人びとの声に耳をふさぎ、まともに答弁もせず法案を通した首相の厚顔を。
戦争に行きたくないと叫ぶ若者を「利己的」と罵った議員の無恥を。
強行採決も連休を過ぎれば忘れると言い放った官房長官の傲慢を。
 
わたしたちは、忘れない。
マスコミを懲らしめる、と恫喝した議員の思い上がりを。
権力に媚び、おもねるだけの報道人と言論人の醜さを。
居眠りに耽る議員たちの弛緩を。
 
わたしたちは、忘れない。
声を上げた若者たちの美しさを。
街頭に立ったお年寄りたちの威厳を。
内部からの告発に踏み切った人びとの勇気を。
 
わたしたちは、忘れない。
戦争の体験者が学生のデモに加わっていた姿を。
路上で、職場で、田んぼで、プラカードを掲げた人びとの決意を。
聞き届けられない声を、それでも上げつづけてきた人びとの苦しく切ない歴史を。
 
きょうは、はじまりの日。
憲法を貶めた法律を葬り去る作業のはじまり。
賛成票を投じたツケを議員たちが苦々しく噛みしめる日々のはじまり。
人の生命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる独裁政治の終わりのはじまり。
自由と平和への願いをさらに深く、さらに広く共有するための、あらゆる試みのはじまり。
 
わたしたちは、忘れない、あきらめない、屈しない。
 
     自由と平和のための京大有志の会
(引用終わり)
 
 

(付録)
『ラブソング・フォー・ユー(LOVESONG FOR YOU)』 
作詞・作曲:ヒポポ大王 演奏:ヒポポフォークゲリラ