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辺野古をめぐる政治家の言葉の質を比較するために~中央政府vs地方政府(付・沖縄弁護士会総会決議)

 今晩(2015年10月31日)配信した「メルマガ金原No.2260」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
辺野古をめぐる政治家の言葉の質を比較するために~中央政府vs地方政府(付・沖縄弁護士会総会決議)

 10月13日に翁長雄志(おなが・たけし)沖縄県知事が、普天間飛行場代替施設建設事業に係る名護市辺野古沖の公有水面埋立承認を取り消したのに対し、埋立事業者としての沖縄防衛局長が行った執行停止の申立てについて、同月27日、国土交通大臣が翁長知事による承認取消しの効力を停止する決定を行うとともに、地方自治法に基づく代執行手続に着手することを表明しました。
 そして、これを踏まえ、同月29日、沖縄防衛局が公有水面埋立の本体工事に着手しました(もっとも、今のところ、実態として「本体工事」なのかには疑問もありますが)。
 10月27日から29日にかけての以上の一連の動きを、菅義偉官房長官石井啓一国土交通大臣中谷元防衛大臣、そして翁長雄志沖縄県知事がそれぞれ行った記者会見で振り返っておきます。
 日本国政府の、そして沖縄県(地方政府)のそれぞれが、自らの正当性を主張するどのような言葉を持ち得ているのか(もしくは持ち得ていないのか)に注目して読んでいただきたいと思います。
 
 併せて、10月27日に沖縄弁護士会が臨時総会を開催して決議した「辺野古新基地建設にかかる沖縄県知事の公有水面埋立承認取消処分の尊重を求める決議」をご紹介します。沖縄弁護士会が臨時総会まで開いて決議を行ったことは、澤藤統一郎弁護士の「憲法日記」を読んで初めて気がつきました(「沖縄県民の同意なくして、どうして国が新たな米軍基地を建設できるのか」ー沖縄弁護士会決議の重い問)。
 臨時総会の開催日と国土交通大臣による執行停止決定日が重なったのは、おそらく偶然だろうと思いますが、そういうこともあろうかと、十分に練り上げられた決議だと感銘を受けました。澤藤弁護士も強調していた「3 沖縄県内への新たな基地の建設には、沖縄県民の同意が求められるべきこと」などを部分的に抜粋しようかとも思ったのですが、読んでいくうちに「あれも引用したい」「これも引用したい」ということになり、結局、全文転載させてもらうことにしました。
 今、私たちが考えなければならない最も重要な論点を列挙し、説得力豊かな言葉を紡ぎ出した沖縄弁護士会に、心から敬意を表したいと思います。
 
平成27年10月27日 午前
菅義偉官房長官記者会見

(抜粋引用開始)
 沖縄県が、普天間飛行場辺野古移設に必要な公有水面の埋立承認を取り消したことに関し、本日の閣議において、地方自治法に基づく代執行等の手続を行うことを決定をいたしました。本件については、行政不服審査法に基づき、事業者である沖縄防衛局長が、公有水面埋立法の所管大臣である国土交通大臣に対して申し立てた審査請求手続が進行しているところであります。政府としては、本件取消処分について、改めて検討したところ、本件取消処分は、何ら瑕疵のない埋立承認を取り消す違法な処分であり、本件取消処分により、普天間飛行場の危険性除去が困難となり、外交・防衛上重大な損害を生ずるなど、著しく公益を害するとの結論に至りました。そこで政府の一致した方針として、沖縄県知事に対して、改めて、本件取消処分を是正するよう勧告するとともに、それに応じない場合には、裁判所において司法の判断を仰ぐことができるようにするため、国土交通大臣において、地方自治法に基づく代執行等の手続に着手することといたしました。
(引用開始)
 
2015年10月27日(火) 11:19 ~ 11:45(国土交通省会見室)
石井啓一国土交通大臣記者会見

(抜粋引用開始)
 まず、閣議の関連で、辺野古沖の公有水面埋立承認の取消しに関する執行停止の決定及び閣議口頭了解についてであります。
 沖縄県知事による辺野古沖の公有水面埋立承認の取消しについては、去る10月14日に、沖縄防衛局長より審査請求及び執行停止の申立てがございました。
 このうち、執行停止の申立てについて、沖縄防衛局長及び沖縄県知事の双方から提出された書面を審査した結果、承認取消しの効力を停止することとし、本日、沖縄防衛局及び沖縄県に執行停止の決定書を郵送いたしましたので、御報告いたします。
 執行停止の効力につきましては、決定書が沖縄防衛局に到達した時点から発生いたしますが、今朝、郵送しておりますので、明日10月28日には到達すると見込んでおります。
行政不服審査法において、執行停止の決定をするに当たっては、審査庁は処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要性があるか否かを判断することとなっております。
今回の決定に至った理由といたしましては、本件取消しにより、普天間飛行場の移設事業の継続が不可能となり、同飛行場周辺の住民等が被る危険性が継続するなどの重大な損害が生じ、これを避けるため緊急の必要性があると認められたことによるものであります。
詳しくは、お手元の配布資料をご覧ください。
 また、本日の閣議において「普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立法に基づく埋立承認の取消しについて」が閣議口頭了解されました。
 この閣議口頭了解においては、翁長知事による承認取消しは、何ら瑕疵のない埋立承認を取り消す違法な処分である上、本件承認取消しにより「普天間飛行場が抱える危険性の継続」、「米国との信頼関係に悪影響を及ぼすことによる外交・防衛上の重大な損害」など、著しく公益を害することが確認されるとともに、その法令違反の是正を図るため、公有水面埋立法を所管する国土交通大臣において、代執行等の手続きに着手することが政府の一致した方針として了解されました。
 詳しくは、お手元の配布資料をご覧いただきたいと思います。
 今後、この閣議口頭了解を踏まえ、翁長知事が行った取消処分について、その法令違反の是正を図るため、地方自治法に基づき、代執行等の手続きに着手することといたします。
まずは、私から翁長知事に対して、当該取消処分を取り消すよう「勧告」することとし、明日にも「勧告文書」を翁長知事に郵送いたします。
 詳細については、この後、事務方から説明をさせます。
(引用終わり)
 
沖縄県公式チャンネル 
翁長雄志知事臨時記者会見(平成27年10月27日)(47分)

知事読み上げ文
(引用開始)
 辺野古新基地建設に係る公有水面埋立承認取消しについて沖縄防衛局長が行った審査請求における執行停止申立てについて、本日、国土交通大臣が執行停止を決定しました。
 また、埋立承認取消しについて、菅官房長官から地方自治法に基づく代執行等の手続きを行うとの発表がありました。
 まず、執行停止につきましては、去る10月21日、900 ページを超える意見書とこれに関する証拠書類を提出しました。その際、国土交通大臣に対しては、「県の意見書を精査し、慎重かつ公平にご判断いただきたい」旨申し上げました。
 「辺野古が唯一」という政府の方針が明確にされてはおりますが、国土交通大臣におかれては、審査庁として公平・中立に審査されると期待しておりました。しかし、それが実質2、3日のわずかな期間で、しかも、沖縄防衛局長が一私人の立場にあるということを認めた上で執行停止の決定がなされたことに、強い憤りを覚えております。やはり内閣の一員として結論ありきの判断をされたと言わざるを得ません。
 次に、代執行の手続きについては、今後、国土交通省から是正の勧告がなされますが、県としては、承認取消しは適法と考えております。最終的には司法の判断に委ねられるべきだと考えておりますが、国も司法判断を問う姿勢であれば、第三者である裁判所の判決がなされるまでの間は、辺野古での作業は開始すべきではないと考えております。
 なお、今回の一連の判断において、国は普天間飛行場の危険性除去を理由にあげておりますが、同飛行場周辺住民の生命・財産を守ることを最優先にするならば、政府が取り組むことを約束した同飛行場の5年以内運用停止を早急に達成すべきであります。
 従って政府の決定は、私からしますと、恒久的な基地を何が何でも沖縄に押しつけるのだという政府の最後通牒とすらいえるものです。不当であるのはもちろんのこと、多くの沖縄県民の思いを踏みにじるもので、断じて容認できません。
 米軍基地問題は、我が国の外交や安全保障に関わる全国的な課題であり、日本全体で負担を分かち合う必要があります。私は、沖縄県民の生活と安全を預かり、これから生まれてくる子や孫の将来に責任を負う知事として、「米軍基地は沖縄に置き続ければいい」という抜きがたい固定観念は打破すべきものと思っており、この信念にまったく揺らぎはありません。
 今後も、辺野古に新基地は造らせないという公約の実現に向け、全力で取り組む考えであります。

(引用終わり)
 
平成27年10月29日(12時20分~12時31分)(佐賀市)
中谷元防衛大臣臨時記者会見

(抜粋引用開始)
Q:今日、辺野古の本体工事が沖縄県が反対する中で着手されました。同じ日に、この佐賀県への沖縄の負担軽減のためのオスプレイの訓練移転につきまして、地元の反対がある中で取り下げとなりました。これは沖縄県から見ると、「自分たちはいくら言っても進められてしまう。こちらでは反対があるから取り下げた。ダブルスタンダード、差別なのではないか」という声も上がっています。どうお考えになりますか。
A:沖縄の辺野古への移転というものは、これまでも沖縄県と、もう20年になりますけれども、協議をしながら一つ一つ進めてきたわけでありまして、一昨年の埋立承認までも丁寧に説明をし、工事を進めていたわけであります。一番大事なのは、普天間飛行場の危険性の除去、これが実現するように、更に努力をしていきたいということと、また今日も申し上げましたが、沖縄の抱えている基地負担の軽減、これについては基地の移転もそうですけれども、訓練の移転等も全国で引き受けていただけるようなところがありましたら、また協議をして、お願いをしていきたいと思っております。
(略)
Q:関連で、辺野古の関連なのですが、今日、本体工事が着手されました。計画が持ち上がって19年経って着手ということですが、沖縄県が反発する中で工事が進むことになるのですが、これについては大臣としてどのように。
A:今日、午前8時頃、普天間飛行場の代替施設建設事業のうち、公有水面の埋立に係る工事に着手した旨、沖縄防衛局から報告を受けました。防衛省としては、一日も早く、普天間飛行場辺野古への移設を進めて、宜野湾市をはじめとする同飛行場周辺の住民の皆様方の心配やら、また騒音被害、危険、こういったことを除去していきたいと考えておりまして、埋立てを進めて、一日も早く、代替施設の完成、飛行場の返還に向けて取り組んで参りたいと考えております。
(引用終わり)
 
沖縄県公式チャンネル 
翁長雄志知事臨時記者会見(平成27年10月29日)(29分)

知事コメント(辺野古での工事着手について)
(引用開始)
 本日は、辺野古新基地建設に係る工事の着手、国土交通大臣からの是正の勧告及び国地方係争処理委員会への審査申出に係る事前通知について私から報告申し上げます。
【工事の着手について】
 県は、去る10月13日に行った公有水面埋立承認の取消しについて、法律的に最終的な判断が示されないまま工事が強行されたことに、激しい憤りを禁じ得ません。
 県としては、執行停止により取消しの効力が停止されたことから、事前協議を改めて行う旨通知しました。しかしながら、沖縄防衛局は、昨日、工事に係る事前協議が終了した旨通知してきました。
 これは承認権者である県が附した留意事項を無視する暴挙であり、強く非難されるべきであります。
 政府は、キャンプ・シュワブに機動隊を配備し、辺野古新基地建設に反対する県民への強権的な態度を露わにしております。政府は、「沖縄の人々の気持ちに寄り添う」といっていますが、本件を巡る一連の行動から、そのような意思は微塵も感じられません。
 米国のための基地建設を最優先にし、自国民の安心・安全を二の次にする政府の姿勢は、沖縄県民の怒りを助長するだけであり、このまま工事を強行することは、今後の日米安全保障体制に大きな禍根を残すと思います。
【国地方係争処理委員会への申出に係る事前通知について】
 なお、県としましては、このたびの国土交通大臣の執行停止に不服がありますので、来る11月2日に国地方係争処理委員会に審査申出を行う予定であり、本日、地方自治法の定めるところにより同大臣にその旨通知しております。
【是正の勧告について】
 次に、本日午前に地方自治法第245条の8第1項に基づく是正の勧告に係る文書を受け取りました。先日の承認取消を取り消すようにとの内容であります。
 県としましては、承認取消しは適法と考えております。審査請求において承認取消しの効力を止めておきながら、今度は所管の大臣として承認取消しを取り消せと勧告するというのは、自らの都合に応じて立場を使い分けていると言わざるを得ません。これで世界に向けて我が国が法治国家であると胸を張っていえるのかでしょうか。いずれにしても、この勧告は甚だ不本意であります。
 私は、辺野古の新基地建設に反対する多くの県民の思いを代弁する者として、あらゆる手法を駆使して、辺野古に新基地はつくらせないという公約の実現に向け、全力で取り組む考えであります。
 県民の皆様のご理解とご協力をよろしくお願いいたします。
(引用終わり)
 
沖縄弁護士会 総会決議(2015年10月27日)
辺野古新基地建設にかかる沖縄県知事の公有水面埋立承認取消処分の尊重を求める決

(引用開始)
1 沖縄県知事による公有水面埋立承認取消の判断
 翁長雄志沖縄県知事は、2015年10月13日、沖縄防衛局による普天間飛行場代替施設建設事業にかかる公有水面埋立申請の承認処分を取消す処分(以下、「本件取消処分」という。)をなした。本件取消処分は、本件申請が公有水面埋立法(以下、「公水法」という。)第4条第1項の承認要件を充足していない瑕疵があることを理由とするものである。
 本件取消処分は単に公水法上の問題にとどまらず、その背後には、住民の同意なくして国が新たな米軍基地を建設できるかどうかという根本的な問題がある。これは沖縄の将来と日本の民主主義・地方自治等の観点から重要な憲法問題であることに鑑み、当会は次のとおり意見を表明する。
2 本件取消処分の背景
 沖縄県知事が本件取消処分を判断した背景には、以下のような事情が存する。
(1)米軍基地の集中による沖縄県民への過重負担
 沖縄県には、依然として在日米軍専用施設の73.7%(2014年3月末現在)が集中している。過度に集中している米軍基地の存在は、沖縄県民にさまざまな被害をもたらしている。
 1959年に発生した宮森小学校米軍機墜落事故では多数の幼い命が失われ、1961年に発生した現うるま市川崎への米軍ジェット機墜落事故でも尊い命が失われた。2004年には沖縄国際大学のキャンパスにヘリコプターが墜落した。本年8月12日にも、米陸軍のヘリコプターが伊計島沖の米艦船上に墜落する事故が発生している。復帰後の米軍機墜落事故は46件目となっている。
 加えて、実弾軍事演習に伴う民家等への被弾事故や、山林火災、カドミウム、PCB、ヒ素等有害廃棄物の投棄など、県民はまさに日常的に危険と隣り合わせの生活を強いられている。
 さらに、米軍機の離発着に伴う騒音による健康被害、油脂や赤土の流出に伴う環境被害、宜野湾市嘉手納町をはじめとする基地所在市町村における適正な市街地開発の実現不能という住民生活へ大きな支障も生じている。
(2)辺野古沿岸、大浦湾周辺の環境保全の重要性
 新基地建設予定地域である辺野古沿岸、大浦湾の海域は、大浦川河口域から深い内湾が形成されており、沖縄島でも特徴的な地形となっており、沖縄防衛局の調査によっても、海域生態系において3097種(平成20年度インベントリー調査 環境保全図書6-19-1-18)、陸域生態系において植物1995種、動物3858種の合計5853種(うち重要種374種)という多数の種が確認されている。
 このように、この海域は生物多様性の極めて豊かなところであり、環境省の重要湿地500にも指定されているのみならず、沖縄島最大の海草藻場が広がっており、絶滅が危惧されている日本産ジュゴンの餌場ともなっている。
これらの貴重な自然環境が広がっているため、沖縄県は、当初の埋立承認審査過程においても、ジュゴンの地域個体群の存続や、埋立によって喪失する海草やサンゴの移植の問題をはじめ、多くの疑念を指摘していた。
 日本弁護士連合会も、2013年11月21日付「普天間飛行場代替施設建設事業に基づく公有水面埋立てに関する意見書」を公表し、沖縄防衛局に対しては承認申請の撤回を求め、国と県に対しては辺野古崎付近と大浦湾につき国立公園に指定する等の環境保全措置を講じるよう求めていた。
 地球の持続可能性のための生物多様性保全が国際的な課題となっているところ、生物多様性に富んだ辺野古沿岸域等の自然環境の保全は、沖縄にとっても、また日本、世界にとっても重要な意義がある。辺野古の海の埋立は、その豊かな自然環境を不可逆的に失わせるものとなる。
(3)沖縄県民の民意
 このとおり、辺野古への新基地建設は、米軍基地の過重負担解消、沖縄の自然環境の保全という観点から重大な問題があることから、沖縄県民の世論は、辺野古を埋め立て新基地を建設することには反対の意思を示している。即ち、2014年11月に行われた沖縄知事選挙では、初めて辺野古への新基地建設の是非が正面から争点となり、これに反対の意向を明確にした現知事が当選した。さらに、同年12月の衆議院議員選挙において全ての選挙区で辺野古への新基地建設反対を訴えた候補が当選したことを始めとして、上記知事選前後の関連した選挙において、辺野古への新基地建設反対を掲げた候補の当選が相次いだ。
3 沖縄県内への新たな基地の建設には、沖縄県民の同意が求められるべきこと
 日本国憲法は、地方自治を保障し、地方自治体が「地方自治の本旨」に基づいて組織、運営されねばならないと定めている(92条)。この「地方自治の本旨」とは、国から独立した団体において自らの意思にもとづいて運営されるという団体自治と、住民自らの意思に基づいて地域の事項を決定するという住民自治を内容とする。基本的人権の尊重国民主権の原理のもとにおいて、団体自治は地方分権を通じた自由を、住民自治は地方での民主主義を制度的に保障するものとして、統治機構の根幹を構成している。したがって、住民の生命や身体、財産に大きな影響を及ぼす新しい米軍基地の建設という極めて重大な問題が住民の意思に基づいてなされなければならないということ、そしてそれが地方の判断として尊重されるべきことは、まさに憲法上の要請であるというべきである。
とりわけ沖縄県における米軍基地は、戦時下において接収された土地と1951年のサンフランシスコ講和条約後に「銃剣とブルドーザー」によって強制的に奪われた土地に建設されたもので土地の所有者あるいは沖縄県民の意思に基づいて建設されたものでは決してない。
 しかし今、国は、沖縄県内の世論調査では反対が多数を占め、県と地元市の首長が反対の意思表示をしているにもかかわらず、建設工事を進めようとしているのである。
 過去と同じように住民の意思に基づかずに基地建設を進めるということはあってはならない。住民の意思に基づかずに米軍基地が建設され、長年にわたって基地から生じる様々な問題に苦しんできたという歴史に鑑みれば、今度こそは住民の意思を率直に受け止めなければならないはずである。
 米軍への施設区域の提供については、住民への生命や身体、財産に大きな影響を及ぼす可能性があるにもかかわらず、住民の意向を反映させる法律上の仕組みが一切存在しない。米軍への施設区域の提供が安全保障上の政治判断が必要だとしても、住民意思がまったく反映されないという法制度は不当といわねばならない。この点は、日本弁護士連合会も、日米地位協定に関する意見書(2014年2月20日)において、米軍への施設区域提供や返還に当たり、住民や自治体の意見が尊重される仕組みがつくられるよう求めている。
4 公有水面埋立免許・承認の判断権が知事にあることの地方自治法上の意義
 地方自治法によれば、公有水面埋立免許ないし承認の判断権は、法定受託事務として都道府県知事に委ねられている。これが国の事務とされているのは、その対象となる公有水面が国の管理する法定外公共物であることに基づくものと考えられたからである。しかし、それでもなお、国の固有の事務として国が判断するのではなく、法定受託事務として公水法が公有水面の埋立承認の判断を都道府県知事に委ねている趣旨を考える必要がある。
 1999年の地方分権一括法の制定により、地方自治法における国と地方公共団体との役割分担が見直され、国は「国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則にかかわる事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立って行わなければならない施策及びその他国が本来果たすべき役割」を重点的に担い、「住民に身近な行政」は「地方公共団体に委ねることを基本」とすることとなった(地方自治法第1条の2第2項)。
 このように見直された役割分担の観点から検討すると、公有水面の埋立、即ちどの海を埋め立てあるいは埋め立てないかという問題は、本来的に「国家としての存立にかかわる事務」あるいは「全国的な規模で若しくは全国的な視点に立って行わなければならない施策」等ではなく、治山・治水といった防災等の観点から「全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動」に当たることから法定受託事務とされているというべきである。
 ただ、どの海を埋め立てあるいは埋め立てないかという個々の判断に際しては、当該公有水面の地理的状況や環境、他の土地利用状態との整合性などに鑑みて、埋め立ての合理性を個別に検討して行う他ないことから、地域の実情を詳細に知りうる、各公有水面のある都道府県知事に許否の判断を委ねたということが、委託の趣旨であるというべきである。
 地方自治法が「国は、…地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たって、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。」とした点も鑑みれば(地方自治法1条の2第2項)、公水法の埋立許否の判断は、法定受託事務であっても、その委託の趣旨に従い、国の関与は、防災等の観点に限られ、埋立の合理性等の判断に関しては、地方自治体の自主的な判断が尊重されなければならないというべきである。
5 知事の判断を尊重すべきこと
 以上にみてきたとおり、米軍への新たな施設区域の提供にあたっては、それにより大きな影響を受ける住民の同意を求めて行うべきであり、沖縄県知事がなした本件取消処分は、米軍基地の過重負担の解消や沖縄の自然環境保全の観点から、住民の民意に依拠し、地方自治体として主体的に判断をなしたものである。
 政府は、地方自治の本旨にもとづき、沖縄県知事の判断を尊重するのが憲法の趣旨にかなうものであり、本件取消処分を受け入れ、これに従うべきである。
6 政府による行政不服審査法による審査請求
 しかしながら、沖縄県知事による本件取消処分に対し、2015年10月14日、沖縄防衛局は、本来行政不服審査法が予定していない同法上の審査請求及び当該処分の執行停止を申し立て、同月27日、国土交通大臣は執行停止を決定した旨公表した。
 行政不服審査法が「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立ての途を開くことによって、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的」としていることからも明らかな通り(同法第1条第1項)、この手続は、国民の救済のための手続であって、国が不服申立の当事者となることを想定していない。
 この行政不服審査請求の手続によった場合、国と沖縄県が対立している重大な事案について、国の機関である沖縄防衛局の申立に基づいて、同じく国の機関である国土交通大臣が判断することになり、アンフェアであることは誰の目にも明らかである。
 このような行政不服審査法の性格を当然熟知していながら、あえてこの手続を利用して執行停止を得た国の姿勢は、地方公共団体の判断を無視するものであり、今まさに地方自治が危機に瀕していると言わざるを得ない。
 このような手法が確立すれば、地方と国の意見が対立する問題について、国が地方の判断をことごとく無視することが可能となるのであって、沖縄の基地問題というにとどまらず、全国共通の地方自治の問題としてとらえられなければならない。
7 拙速な代執行
 政府は、2015年10月27日、県知事の承認取消に対して是正を求め、地方自治法上の代執行の手続を取る方針を発表した。
 ところで、上記のような是正の指示ないし勧告を出すということは、知事のなした承認取消の判断が実体法上も違法であることを、政府として判断したということとなる。しかしながら、本来、承認取消の是非を判断するに当たっては、多数の論点について、慎重な検討が必要となるはずであって、上記のような是正指示ないし勧告及び代執行の方針の発表は、代執行の要件該当性を十分判断してなされたものであるかについて重大な疑問があり、いかにも拙速と言わざるを得ないものである。
8 豊かな自然が維持された環境のもとで平和のうちに生存することを求めて
(1)「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有すること」(前文)を確認した日本国憲法は、沖縄における凄惨な地上戦をはじめとした国内外にもたらした戦争の惨禍を繰り返さないことを誓って誕生した。
ところが、沖縄は、戦後27年間にわたり米軍占領下におかれて日本国憲法の適用がなされず、在沖米軍基地は、その間、朝鮮戦争ヴェトナム戦争への出撃の重要拠点となった。そして、日本復帰後もこの状況は変わらず、在沖米軍は、湾岸戦争イラク戦争、アフガン戦争へと展開をしてきた。9・11テロの際には、在沖米軍基地も警戒対象となったことにもみられるとおり、今も集中する米軍基地と隣り合わせの沖縄県民は、常に米軍が行ってきた現実の戦争の危険と接しているといえる。
 沖縄への米軍基地の集中を解消し、沖縄県民が米軍による戦争に巻き込まれる危険を能う限り減じ、平和のうちに安心してくらせるよう取り組むのが、憲法にもとづく政府の責務というべきである。
(2)また、人が健康で快適な生活を維持する条件としての良好な環境を享受する権利としての環境権は、急速かつ大規模に地球環境が悪化してその持続可能性が問われるようになった今日、ますます重要なものになってきている。
 この沖縄においても、亜熱帯島嶼域に特有の自然環境は、沖縄県民のみならず国際的に貴重な財産といえるが、その劣化が急速に進んでいるのも同様であり、今こそその保全が求められるといえる。政府が策定した「生物多様性国家戦略2012-2020」では、わが国の将来像として「ジュゴンが泳ぐ姿が見られる」豊かな自然環境の保全を目標としており、政府は自ら定めた取り組みに全力を尽くすべきである。
 当会は、すでに、2010年12月13日の臨時総会にて「沖縄への新たな米軍基地建設に反対する決議」を挙げ、さらに2014年1月15日には、「普天間飛行場代替施設建設事業に基づく公有水面埋立申請を沖縄県知事が承認したことに反対する会長声明」を公表したところであるが、今般の情勢にかんがみ、あらためて以上の決議をなすものである。
 2015年(平成27年)10月27日
    沖縄弁護士会
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2015年10月14日
翁長雄志知事が公有水面埋立承認取消記者会見で語ったこと
 

(忘れないために)
 「自由と平和のための京大有志の会」による「あしたのための声明書」(2015年9月19日)を、「忘れないために」しばらくメルマガ(ブログ)の末尾に掲載することにしました。
 
(引用開始)
  あしたのための声明書
 
わたしたちは、忘れない。
人びとの声に耳をふさぎ、まともに答弁もせず法案を通した首相の厚顔を。
戦争に行きたくないと叫ぶ若者を「利己的」と罵った議員の無恥を。
強行採決も連休を過ぎれば忘れると言い放った官房長官の傲慢を。
 
わたしたちは、忘れない。
マスコミを懲らしめる、と恫喝した議員の思い上がりを。
権力に媚び、おもねるだけの報道人と言論人の醜さを。
居眠りに耽る議員たちの弛緩を。
 
わたしたちは、忘れない。
声を上げた若者たちの美しさを。
街頭に立ったお年寄りたちの威厳を。
内部からの告発に踏み切った人びとの勇気を。
 
わたしたちは、忘れない。
戦争の体験者が学生のデモに加わっていた姿を。
路上で、職場で、田んぼで、プラカードを掲げた人びとの決意を。
聞き届けられない声を、それでも上げつづけてきた人びとの苦しく切ない歴史を。
 
きょうは、はじまりの日。
憲法を貶めた法律を葬り去る作業のはじまり。
賛成票を投じたツケを議員たちが苦々しく噛みしめる日々のはじまり。
人の生命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる独裁政治の終わりのはじまり。
自由と平和への願いをさらに深く、さらに広く共有するための、あらゆる試みのはじまり。
 
わたしたちは、忘れない、あきらめない、屈しない。
 
     自由と平和のための京大有志の会
(引用終わり) 
 

(付録)
『Don't mind (どんまい)』 作詞・作曲:ヒポポ大王 演奏:ヒポポフォークゲリラ