9.19以降の「安保法制」学習会用レジュメ(論点絞り込み90分ヴァージョン)
今晩(2015年11月14日)配信した「メルマガ金原No.2274」を転載します。
なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
9.19以降の「安保法制」学習会用レジュメ(論点絞り込み90分ヴァージョン)
私は、9.19以降、自分が何をなすべきかを考えた末、「安保関連法制廃止、それを実現するための政治勢力の結集、来たるべき国政選挙に向けた世論喚起など、やるべきことは山のようにあるのは間違いありませんが、弁護士としては、そのような状況だからこそ、立憲主義の意義を説き、安保関連法制のどこが憲法違反なのかを分かりやすく解説する「運動としての学習会」を組織的にやるべきだと考えています。」と書きました(今こそ「運動としての学習会」が必要だ/2015年10月12日)。
それから1か月が経過し、ようやくその実践第一弾としての学習会講師を務めました。和歌山には、毎週のように各地で講師を務めているスーパーマンのような弁護士もいますので、どこかが需給バランスを調整した方が良いのかもしれませんが、主催者の希望も尊重しなければなりませんし、難しいところです。
さて、私が今晩講師を務めたのは、私の地元中の地元である「九条の会・きし」という地域9条の会が久々に開いた学習会で、ここ何年か事実上の休眠状態であった同会が、安保法案成立寸前という危機のさなかに復活した(せざるを得なかった)後、今後の運動をどう再構築していくかを議論する前提として、まずは成立してしまった安保法制の中身を知るところから始めようということで急遽決まった企画です。
実は、私自身、同会の役員の1人であるという自覚は何となくあったのですが、今日確認してみたところ、どうやら共同代表(代表世話人)の1人であったようで、まことに申し訳ない次第です。
以上のような趣旨で決まった学習会であるため、先にメルマガ(ブログ)で書いた内の「立憲主義の意義を説き」という部分はまたの機会ということにして、今回は、「安保関連法制のどこが憲法違反なのかを分かりやすく解説する」学習会にするということは、前回の世話人会で決まっていました。
しかし、同会事務局と学習会の打合せをするだけの時間がとれず、たまたま昨晩(11月13日)、和歌山大学栄谷キャンパスで開かれた討論集会「2015年夏をふり返る―安保法制はどのように「成立」したのか―」(主催:安全保障関連法制の廃止を求める和歌山大学有志の会)で「九条の会・きし」の事務局長と顔を合わせて学習会のチラシを受け取り、演題が「どうなる?日本!!安保法制(戦争法)の問題点」となっていることを初めて(!)知りました。
そして、学習会の時間が質疑応答を含めて1時間半ということも確認し、ようやくレジュメを書く時間がとれたのが、学習会当日である今日(14日)の昼過ぎからという有様なので、とてもあれこれの論点を盛り込むことなど出来ず、論点を3点に絞り込んだレジュメにしました。その3点とは、見出しを引用すれば、
第1 「安保法制」(戦争法)って何?
第2 「安保法制」(戦争法)のどこが憲法に違反するの?
第3 「安保法制」(戦争法)は中国・北朝鮮に対する抑止力を高めるか?
というものです。
わずか3時間ほどで書こうというのですから、これまで書いてストックしていたレジュメやスピーチ用原稿からコピペした上で修正を加えるという方針でやらざるを得ず、少しも新しいところはありませんが、今後、回を重ねながら徐々に改訂を加えることによって、標準的なレジュメを仕上げていくための出発点ということで、思い切り論点を絞り込んだ全部で90分用の安保法制学習会用レジュメの見本として読んでいただくことにもそれなりの意義はあるかと思い(夜7時から学習会をしていたので、別の原稿を書いている時間もないし)、メルマガ(ブログ)でご紹介することとしました。
2015年11月14日(土) 中団地自治会館
「九条の会・きし」学習会
2015年11月14日(土) 中団地自治会館
「九条の会・きし」学習会
どうなる?日本!!安保法制(戦争法)の問題点
弁護士 金 原 徹 雄
第1 「安保法制」(戦争法)って何?
1 成立した法律は2つだけ
新法「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」(国際平和支援法)
一括改正法「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」
※細かな改正を含めれば全部で20(主要なものだけで10)の法律を「改正」。
自衛隊法
国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(PKO協力法)
周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律
周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律
武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律などが最も主要なもの。
2 大ざっぱに言って何が変わったのか?
(1)従来の(9.19前の)安保法制
〇武力攻撃事態(武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態)→防衛出動
※日本が攻撃を受けた場合に反撃する個別的自衛権の行使
〇周辺事態(そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態)→後方地域支援(周辺事態に際して日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行っているアメリカ合衆国の軍隊に対する物品及び役務の提供、便宜の供与その他の支援措置であって、後方地域において我が国が実施するものをいう/後方地域とは、「我が国領域並びに現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる我が国周辺の公海及びその上空の範囲をいう。」)
※主として朝鮮有事を想定。
〇テロ特措法(2001年)、イラク特措法(2003年)
非戦闘地域における協力支援活動、捜索救助活動、被災民救援活動等
〇PKO協力法(1992年)
国際平和協力業務等
(2)新「安保法制」で何が出来ることになったのか?
〇武力攻撃事態だけではなく存立危機事態でも防衛出動が可能になった。
存立危機事態:我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
1 成立した法律は2つだけ
新法「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」(国際平和支援法)
一括改正法「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」
※細かな改正を含めれば全部で20(主要なものだけで10)の法律を「改正」。
自衛隊法
国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(PKO協力法)
周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律
周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律
武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律などが最も主要なもの。
2 大ざっぱに言って何が変わったのか?
(1)従来の(9.19前の)安保法制
〇武力攻撃事態(武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態)→防衛出動
※日本が攻撃を受けた場合に反撃する個別的自衛権の行使
〇周辺事態(そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態)→後方地域支援(周辺事態に際して日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行っているアメリカ合衆国の軍隊に対する物品及び役務の提供、便宜の供与その他の支援措置であって、後方地域において我が国が実施するものをいう/後方地域とは、「我が国領域並びに現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる我が国周辺の公海及びその上空の範囲をいう。」)
※主として朝鮮有事を想定。
〇テロ特措法(2001年)、イラク特措法(2003年)
非戦闘地域における協力支援活動、捜索救助活動、被災民救援活動等
〇PKO協力法(1992年)
国際平和協力業務等
(2)新「安保法制」で何が出来ることになったのか?
〇武力攻撃事態だけではなく存立危機事態でも防衛出動が可能になった。
存立危機事態:我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
※要するに集団的自衛権に基づく武力行使を認めた。
※5党合意(9月16日)「存立危機事態の認定は、武力攻撃を受けた国の要請又は同意があることを前提とすること」に注意!
〇周辺事態法が重要影響事態法に「改正」されて後方支援を行う
支援対象国が米国以外にも広げられた。
周辺地域という限定が無くなった(世界中どこでも)。
非戦闘地域という制限がなくなり、「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない」とするだけ。
具体的な後方支援としての「物品及び役務の提供」につき、従来は禁止されていた以下のような活動が出来ることになった。
弾薬の提供
戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備
※後方支援は、実態としては「logistic(兵站)」そのもの。現に今年の4月27日に締結された新日米ガイドラインでは「logistic support=後方支援活動」という用語が使われている。
〇国際平和共同対処事態→協力支援活動
テロ特措法、イラク特措法などに代わる恒久法。
協力支援の対象は多国籍軍。
非戦闘地域という制限が無くなったのは、重要影響事態(米軍等への支援)と同じ。
実際に行う協力支援活動の内容は、ほぼ重要影響事態法に基づく後方支援活動と同じ。
〇国連平和維持活動(PKO)において、新たに「住民保護・治安維持活動」、「駆け付け警護」などが追加され、それらの業務に従事する自衛官は、「やむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で」「武器を使用することができる。」とされた。
また、新たに認められた国際連携平和安全活動は、アフガニスタンにおいて活動したNATO軍を主体としたISAF(国際治安支援部隊)などが想定されていると言われている。
〇自衛隊法の中に、「在外邦人の保護措置」や「合衆国軍隊等の部隊の防護のための武器の使用」などの規定が設けられたが、運用次第では非常に危険な事態を招来しかねない。
3 新「安保法制」はいつから施行されるのか?
一括法の附則により、公布の日から6か月以内の政令で定める日から施行されることになっている。9月30日に公布されたので、遅くとも来年3月31日までには施行される。
第2 「安保法制」(戦争法)のどこが憲法に違反するの?
1 集団的自衛権の行使は憲法9条(とりわけ2項)に違反する
憲法13条が保障する「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」が「国政の上で、最大の尊重を必要とする」とされていることから考えれば、我が国が他国から武力攻撃を受けた場合にその急迫不正の侵害を排除し、国民の権利を守ることは、国の責務として憲法もこれを容認している。従って、上記の目的を達成するための必要最小限の実力は、憲法9条2項が保持を禁じた「陸海空軍その他の戦力」にはあたらない。自衛隊は、そのような必要最小限の実力にとどまっているので合憲である。
以上が、自衛隊発足以来、2014年7月1日午後の閣議決定に至るまで、日本国政府が維持し続けてきた自衛隊を合憲とする論理である。
いわゆる1972年(昭和47年)政府見解というのは、上記の論理を前提として、「そうだとすれば、わが憲法の下で武力行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。」と明確に断じたものである。
大半の憲法学者が、昨年7月1日の閣議決定と今次の安保法制(戦争法)が、従来の合憲性判断の枠組では説明できず、それを超えてしまったもので違憲であるとしているのは以上のような理由による。
これを別の面から評すれば、集団的自衛権の行使ができるとする解釈は、自衛隊の存在を正当化する憲法上の根拠を喪失させ、単なる私兵におとしめるものだと言わなければならない。
※6月4日の衆議院憲法審査会に出席して安保関連法案を違憲と断じた3人の参考人(長谷部恭男早大教授、小林節慶大名誉教授、笹田栄司早大教授)は、いずれも自衛隊合憲論者である。合憲論者「であっても」違憲としたという理解は正確ではない。合憲論者「だからこそ」違憲と判断するしかなかったということである。
2 後方支援、協力支援は武力の行使を禁じた憲法9条(特に1項)に違反する
米軍等への後方支援(重要影響事態法)、協力支援(国際平和協力法)は、「我が国周辺の地域」(周辺事態法)という地域的制限を廃し(世界中どこへでも)、非戦闘地域でなければ実施しないという制限も撤廃し(現に戦闘行為が行われていなければ良い)、従来から認められていた武器の輸送の他、弾薬の提供、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を解禁するなど、兵站(ロジスティック)そのものであり、米軍等による武力行使と一体となる可能性が非常に高い、あるいは一体化そのものであって、武力の行使を禁じた憲法9条1項に違反する。
なお、憲法9条1項は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と定め、不戦条約(1928年)以来の伝統的慣用から、一般に侵略戦争の放棄を定めた規定と解されているが、9条2項が「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」として、戦争(含武力行使)を行うための物的手段と法的権限を否認していることから、侵略目的でないとしても、「武力の行使」一般が禁じられていると解するのが通説である。
この点に関する判例としては、2008年4月17日、イラク特措法に基づいて米兵等の空輸を行っていた航空自衛隊の活動を憲法9条1項に違反すると判断した名古屋高裁判決がある。
3 憲法73条(内閣の権限)に違反する
日本国憲法は、近代立憲主義に基づく権力分立制をとっており、各国家機関にいかなる権限を付与するかの基本は憲法自身によって定められている。そして、行政権を担う内閣に与えられた権限を明記しているのが憲法73条であるが、この規定をどのように読んでも、日本が武力攻撃を受けた訳でもないのに海外で戦争する(武力を行使する)権限を内閣に与えたと読める規定は存在しない。
戦前(大日本帝国憲法体制下)天皇大権とされていたもののうち、行政権は内閣に、立法権は国会に、司法権は裁判所にそれぞれ帰属することになったが、どこにも継承されなかった天皇大権があった。それは、以下の各条項である。
第11条 天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス
第12条 天皇ハ陸海軍ノ編制及常備兵額ヲ定ム
第13条 天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ条約ヲ締結ス(条約締結権は内閣に)
第14条 天皇ハ戒厳ヲ宣告ス
2 戒厳ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
すなわち、この1946年に行われた憲法改正の経緯から考えても、内閣に海外で戦争する権限などないことは明らかである。
※5党合意(9月16日)「存立危機事態の認定は、武力攻撃を受けた国の要請又は同意があることを前提とすること」に注意!
〇周辺事態法が重要影響事態法に「改正」されて後方支援を行う
支援対象国が米国以外にも広げられた。
周辺地域という限定が無くなった(世界中どこでも)。
非戦闘地域という制限がなくなり、「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない」とするだけ。
具体的な後方支援としての「物品及び役務の提供」につき、従来は禁止されていた以下のような活動が出来ることになった。
弾薬の提供
戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備
※後方支援は、実態としては「logistic(兵站)」そのもの。現に今年の4月27日に締結された新日米ガイドラインでは「logistic support=後方支援活動」という用語が使われている。
〇国際平和共同対処事態→協力支援活動
テロ特措法、イラク特措法などに代わる恒久法。
協力支援の対象は多国籍軍。
非戦闘地域という制限が無くなったのは、重要影響事態(米軍等への支援)と同じ。
実際に行う協力支援活動の内容は、ほぼ重要影響事態法に基づく後方支援活動と同じ。
〇国連平和維持活動(PKO)において、新たに「住民保護・治安維持活動」、「駆け付け警護」などが追加され、それらの業務に従事する自衛官は、「やむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で」「武器を使用することができる。」とされた。
また、新たに認められた国際連携平和安全活動は、アフガニスタンにおいて活動したNATO軍を主体としたISAF(国際治安支援部隊)などが想定されていると言われている。
〇自衛隊法の中に、「在外邦人の保護措置」や「合衆国軍隊等の部隊の防護のための武器の使用」などの規定が設けられたが、運用次第では非常に危険な事態を招来しかねない。
3 新「安保法制」はいつから施行されるのか?
一括法の附則により、公布の日から6か月以内の政令で定める日から施行されることになっている。9月30日に公布されたので、遅くとも来年3月31日までには施行される。
第2 「安保法制」(戦争法)のどこが憲法に違反するの?
1 集団的自衛権の行使は憲法9条(とりわけ2項)に違反する
憲法13条が保障する「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」が「国政の上で、最大の尊重を必要とする」とされていることから考えれば、我が国が他国から武力攻撃を受けた場合にその急迫不正の侵害を排除し、国民の権利を守ることは、国の責務として憲法もこれを容認している。従って、上記の目的を達成するための必要最小限の実力は、憲法9条2項が保持を禁じた「陸海空軍その他の戦力」にはあたらない。自衛隊は、そのような必要最小限の実力にとどまっているので合憲である。
以上が、自衛隊発足以来、2014年7月1日午後の閣議決定に至るまで、日本国政府が維持し続けてきた自衛隊を合憲とする論理である。
いわゆる1972年(昭和47年)政府見解というのは、上記の論理を前提として、「そうだとすれば、わが憲法の下で武力行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。」と明確に断じたものである。
大半の憲法学者が、昨年7月1日の閣議決定と今次の安保法制(戦争法)が、従来の合憲性判断の枠組では説明できず、それを超えてしまったもので違憲であるとしているのは以上のような理由による。
これを別の面から評すれば、集団的自衛権の行使ができるとする解釈は、自衛隊の存在を正当化する憲法上の根拠を喪失させ、単なる私兵におとしめるものだと言わなければならない。
※6月4日の衆議院憲法審査会に出席して安保関連法案を違憲と断じた3人の参考人(長谷部恭男早大教授、小林節慶大名誉教授、笹田栄司早大教授)は、いずれも自衛隊合憲論者である。合憲論者「であっても」違憲としたという理解は正確ではない。合憲論者「だからこそ」違憲と判断するしかなかったということである。
2 後方支援、協力支援は武力の行使を禁じた憲法9条(特に1項)に違反する
米軍等への後方支援(重要影響事態法)、協力支援(国際平和協力法)は、「我が国周辺の地域」(周辺事態法)という地域的制限を廃し(世界中どこへでも)、非戦闘地域でなければ実施しないという制限も撤廃し(現に戦闘行為が行われていなければ良い)、従来から認められていた武器の輸送の他、弾薬の提供、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を解禁するなど、兵站(ロジスティック)そのものであり、米軍等による武力行使と一体となる可能性が非常に高い、あるいは一体化そのものであって、武力の行使を禁じた憲法9条1項に違反する。
なお、憲法9条1項は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と定め、不戦条約(1928年)以来の伝統的慣用から、一般に侵略戦争の放棄を定めた規定と解されているが、9条2項が「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」として、戦争(含武力行使)を行うための物的手段と法的権限を否認していることから、侵略目的でないとしても、「武力の行使」一般が禁じられていると解するのが通説である。
この点に関する判例としては、2008年4月17日、イラク特措法に基づいて米兵等の空輸を行っていた航空自衛隊の活動を憲法9条1項に違反すると判断した名古屋高裁判決がある。
3 憲法73条(内閣の権限)に違反する
日本国憲法は、近代立憲主義に基づく権力分立制をとっており、各国家機関にいかなる権限を付与するかの基本は憲法自身によって定められている。そして、行政権を担う内閣に与えられた権限を明記しているのが憲法73条であるが、この規定をどのように読んでも、日本が武力攻撃を受けた訳でもないのに海外で戦争する(武力を行使する)権限を内閣に与えたと読める規定は存在しない。
戦前(大日本帝国憲法体制下)天皇大権とされていたもののうち、行政権は内閣に、立法権は国会に、司法権は裁判所にそれぞれ帰属することになったが、どこにも継承されなかった天皇大権があった。それは、以下の各条項である。
第11条 天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス
第12条 天皇ハ陸海軍ノ編制及常備兵額ヲ定ム
第13条 天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ条約ヲ締結ス(条約締結権は内閣に)
第14条 天皇ハ戒厳ヲ宣告ス
2 戒厳ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
すなわち、この1946年に行われた憲法改正の経緯から考えても、内閣に海外で戦争する権限などないことは明らかである。
第3 中国・北朝鮮脅威論と「安保法制」(戦争法)
1 前提として(法制の合理性を判定するために)
①立法事実は存在するか?
②立法目的は正当か?
③法制の内容は立法目的達成の手段として合理的か?
2 中国・北朝鮮脅威論に立法事実はあるか?
脅威のレベルをどこに想定するかが問題の本質であり、両国による直接軍事侵攻を本気で心配しなければならないのか否かを議論すべきだろう。
3 「安保法制」(戦争法)は中国・北朝鮮に対する抑止力を高めるか?
(1)9.19前の我が国の有事法制の中核は、武力攻撃事態法と周辺事態法であった。
武力攻撃事態とは、要するに日本が侵略された場合に、個別的自衛権を行使してこれを排除するための法制である。ちなみに、その場合、日本が米国に救援を求めるとすれば、その根拠は日米安保条約5条であって、この場合、米国は「自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動」することを日本に対して約束している。
従って、日本が中国や北朝鮮から武力攻撃を受けたのであれば、武力攻撃事態法と日米安保条約で対処することになるのであって、「存立危機事態」など不要である。
次に、周辺事態法は、主には朝鮮有事を想定して合意した1997年版日米ガイドラインを踏まえて制定された法律であり、米軍に対する自衛隊の「後方地域支援」を行うことを主目的としていた。要するに、米軍が(韓国軍とともに)北朝鮮軍と交戦状態に入った場合に、日本が米軍にどのような支援をするのかということであって、北朝鮮が日本にミサイルを発射した場合の話ではない。そういう場合は、武力攻撃事態となる。
(2)それでは、新安保法制でやろうとしている「これまで出来なかったこと」とは何か?それは本当に中国や北朝鮮に対する抑止力向上に役立つのか?
先に第1、2で述べたとおり、その中核は、「存立危機事態」なる曖昧な要件で、日本が武力攻撃を受けてもいないのに、自衛隊に「防衛出動」を命じることができるようにするということと、「周辺事態」や「非戦闘地域」という制限を取り払い、世界中どこへでも自衛隊を派遣して、米軍等の兵站(後方支援または協力支援)に従事させることができるようにするということである。
これのどこが中国や北朝鮮に対する抑止力を向上させることになるというのか?海外派遣のオペレーションに対応するためには、そのような任務に即応できる部隊編成が必要となるのが当然で、その分、日本防衛が手薄になるのは見やすい道理である。
(3)察するに、同盟国である米国のコミットメントをより確保するために(つまり、日本有事の際に米軍に確実に参戦してもらうために)、対価としての日本からのサービスを奮発し、「見捨てられ」恐怖を払拭したいということなのだろうが、そもそも抑止力が効果を発揮するかどうかは、相手国(中国や北朝鮮)が「抑止されている」と考えるかどうかにかかっているのであって、自衛隊が世界中で米軍の2軍となって活動することによって、中国や北朝鮮が「より抑止された」と感じるとは到底思えない。
(4)この他にも、本気で中国や北朝鮮による侵攻を心配するのなら、まず真っ先にやらなければならないのは原発全基廃炉であるにもかかわらず、中国に最も近い鹿児島県・川内原発を再稼働し、さらに敦賀湾に面した高浜原発を再稼働しようとしているということ自体、安倍政権が本気でそんな心配などしていない証拠である、ということも付け加えておこう(これは「立法事実」の問題だが)。
1 前提として(法制の合理性を判定するために)
①立法事実は存在するか?
②立法目的は正当か?
③法制の内容は立法目的達成の手段として合理的か?
2 中国・北朝鮮脅威論に立法事実はあるか?
脅威のレベルをどこに想定するかが問題の本質であり、両国による直接軍事侵攻を本気で心配しなければならないのか否かを議論すべきだろう。
3 「安保法制」(戦争法)は中国・北朝鮮に対する抑止力を高めるか?
(1)9.19前の我が国の有事法制の中核は、武力攻撃事態法と周辺事態法であった。
武力攻撃事態とは、要するに日本が侵略された場合に、個別的自衛権を行使してこれを排除するための法制である。ちなみに、その場合、日本が米国に救援を求めるとすれば、その根拠は日米安保条約5条であって、この場合、米国は「自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動」することを日本に対して約束している。
従って、日本が中国や北朝鮮から武力攻撃を受けたのであれば、武力攻撃事態法と日米安保条約で対処することになるのであって、「存立危機事態」など不要である。
次に、周辺事態法は、主には朝鮮有事を想定して合意した1997年版日米ガイドラインを踏まえて制定された法律であり、米軍に対する自衛隊の「後方地域支援」を行うことを主目的としていた。要するに、米軍が(韓国軍とともに)北朝鮮軍と交戦状態に入った場合に、日本が米軍にどのような支援をするのかということであって、北朝鮮が日本にミサイルを発射した場合の話ではない。そういう場合は、武力攻撃事態となる。
(2)それでは、新安保法制でやろうとしている「これまで出来なかったこと」とは何か?それは本当に中国や北朝鮮に対する抑止力向上に役立つのか?
先に第1、2で述べたとおり、その中核は、「存立危機事態」なる曖昧な要件で、日本が武力攻撃を受けてもいないのに、自衛隊に「防衛出動」を命じることができるようにするということと、「周辺事態」や「非戦闘地域」という制限を取り払い、世界中どこへでも自衛隊を派遣して、米軍等の兵站(後方支援または協力支援)に従事させることができるようにするということである。
これのどこが中国や北朝鮮に対する抑止力を向上させることになるというのか?海外派遣のオペレーションに対応するためには、そのような任務に即応できる部隊編成が必要となるのが当然で、その分、日本防衛が手薄になるのは見やすい道理である。
(3)察するに、同盟国である米国のコミットメントをより確保するために(つまり、日本有事の際に米軍に確実に参戦してもらうために)、対価としての日本からのサービスを奮発し、「見捨てられ」恐怖を払拭したいということなのだろうが、そもそも抑止力が効果を発揮するかどうかは、相手国(中国や北朝鮮)が「抑止されている」と考えるかどうかにかかっているのであって、自衛隊が世界中で米軍の2軍となって活動することによって、中国や北朝鮮が「より抑止された」と感じるとは到底思えない。
(4)この他にも、本気で中国や北朝鮮による侵攻を心配するのなら、まず真っ先にやらなければならないのは原発全基廃炉であるにもかかわらず、中国に最も近い鹿児島県・川内原発を再稼働し、さらに敦賀湾に面した高浜原発を再稼働しようとしているということ自体、安倍政権が本気でそんな心配などしていない証拠である、ということも付け加えておこう(これは「立法事実」の問題だが)。
第4 これからを見すえた運動を
1 様々な「共同」をさらに発展させよう。
2 間断なく声を上げ続けよう。「声明」、「スタンディングアピール」、「デモ」、「集会」、「学習会」、「2000万人統一署名」。
3 今まで声をかけていなかった人にも訴えよう。
4 来年7月の参議院議員通常選挙の勝利のため、野党協力の機運を盛り上げよう。
5 1人1人があきらめず、出来ることをやり抜こう。
1 様々な「共同」をさらに発展させよう。
2 間断なく声を上げ続けよう。「声明」、「スタンディングアピール」、「デモ」、「集会」、「学習会」、「2000万人統一署名」。
3 今まで声をかけていなかった人にも訴えよう。
4 来年7月の参議院議員通常選挙の勝利のため、野党協力の機運を盛り上げよう。
5 1人1人があきらめず、出来ることをやり抜こう。
(忘れないために)
「自由と平和のための京大有志の会」による「あしたのための声明書」(2015年9月19日)を、「忘れないために」しばらくメルマガ(ブログ)の末尾に掲載することにしました。
「自由と平和のための京大有志の会」による「あしたのための声明書」(2015年9月19日)を、「忘れないために」しばらくメルマガ(ブログ)の末尾に掲載することにしました。
(引用開始)
あしたのための声明書
あしたのための声明書
わたしたちは、忘れない。
人びとの声に耳をふさぎ、まともに答弁もせず法案を通した首相の厚顔を。
戦争に行きたくないと叫ぶ若者を「利己的」と罵った議員の無恥を。
強行採決も連休を過ぎれば忘れると言い放った官房長官の傲慢を。
人びとの声に耳をふさぎ、まともに答弁もせず法案を通した首相の厚顔を。
戦争に行きたくないと叫ぶ若者を「利己的」と罵った議員の無恥を。
強行採決も連休を過ぎれば忘れると言い放った官房長官の傲慢を。
わたしたちは、忘れない。
マスコミを懲らしめる、と恫喝した議員の思い上がりを。
権力に媚び、おもねるだけの報道人と言論人の醜さを。
居眠りに耽る議員たちの弛緩を。
マスコミを懲らしめる、と恫喝した議員の思い上がりを。
権力に媚び、おもねるだけの報道人と言論人の醜さを。
居眠りに耽る議員たちの弛緩を。
わたしたちは、忘れない。
声を上げた若者たちの美しさを。
街頭に立ったお年寄りたちの威厳を。
内部からの告発に踏み切った人びとの勇気を。
声を上げた若者たちの美しさを。
街頭に立ったお年寄りたちの威厳を。
内部からの告発に踏み切った人びとの勇気を。
わたしたちは、忘れない。
戦争の体験者が学生のデモに加わっていた姿を。
路上で、職場で、田んぼで、プラカードを掲げた人びとの決意を。
聞き届けられない声を、それでも上げつづけてきた人びとの苦しく切ない歴史を。
戦争の体験者が学生のデモに加わっていた姿を。
路上で、職場で、田んぼで、プラカードを掲げた人びとの決意を。
聞き届けられない声を、それでも上げつづけてきた人びとの苦しく切ない歴史を。
きょうは、はじまりの日。
憲法を貶めた法律を葬り去る作業のはじまり。
賛成票を投じたツケを議員たちが苦々しく噛みしめる日々のはじまり。
人の生命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる独裁政治の終わりのはじまり。
自由と平和への願いをさらに深く、さらに広く共有するための、あらゆる試みのはじまり。
憲法を貶めた法律を葬り去る作業のはじまり。
賛成票を投じたツケを議員たちが苦々しく噛みしめる日々のはじまり。
人の生命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる独裁政治の終わりのはじまり。
自由と平和への願いをさらに深く、さらに広く共有するための、あらゆる試みのはじまり。
わたしたちは、忘れない、あきらめない、屈しない。
自由と平和のための京大有志の会
(引用終わり)
(引用終わり)