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安保法制違憲訴訟を考える(4)~伊藤真弁護士(安保法制違憲訴訟の会)による決意表明(11/19@国会前)と小林節氏の現時点(11/21@和歌山県田辺市)での見解

 今晩(2015年12月2日)配信した「メルマガ金原No.2292」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
安保法制違憲訴訟を考える(4)~伊藤真弁護士(安保法制違憲訴訟の会)による決意表明(11/19@国会前)と小林節氏の現時点(11/21@和歌山県田辺市)での見解

 このメルマガ(ブログ)で、「安保法制違憲訴訟を考える」をシリーズ化しようと考え、実際、何本か書きました。
 
 
 ただし、いよいよ違憲訴訟の提起が具体的な日程にのぼるようになってくると、そういつまでも「考える」だけでは仕方がないので(というのも、自分自身が違憲訴訟に関係する可能性が出てくるので、ということですが)、今日でいったん「安保法制違憲訴訟を考える」シリーズは打ち止めということにします
 今日は、シリーズ最後の有終の美をかざるために(?)、2種類の動画をご紹介します。
 1つ目は(動画は2本ですが)、11月19日、国会前での「私たちはあきらめない!戦争法廃止!安倍内閣退陣!国会正門前集会」(呼びかけ:戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会)での伊藤真弁護士(安保法制違憲訴訟の会)によるスピーチです。同弁護士らが中心となって準備中の違憲
訟について、そのポイントを説明しつつ決意を表明したものです。
 もう1本は、その2日後の11月21日、和歌山県田辺市で行われた小林節さん(慶應義塾大学名誉教
授、弁護士)による講演会の動画(の中の質疑において、違憲訴訟について語った部分)です。
 この2種類の動画を視聴していただければ、現時点における、安保法制違憲訴訟をめぐる状況の概略が
、おおよそながら分かるだろうと思います(あくまでも、現時点では、ということですが)。

 なお、2種類の動画の内、伊藤真弁護士のみ文字起こしした理由は、単純に「聞き取りやすかったから」に過ぎません。もともと滑舌の良さには定評のある伊藤弁護士である上に、動画の音声もほぼクリアに収録されていたので、文字起こしも順調に出来ました(それでも2箇所どうしても聞き取れなかった箇所
があったのだから文字起こしは難しい)。
 これに対し、小林さんの話を文字起こししようとすれば、同じ箇所を何度も何度も聞き直し、結局(聴
取不能)になりそうなところが何カ所もあったので、はやばやと断念しました。
 決して、伊藤さんが違憲訴訟提起の決意を表明したのに対し、小林先生が訴訟に消極的だったから、伊藤さんだけ文字起こししたという訳ではありませんので念のため。
 
 それでは、11月19日の伊藤真弁護士によるスピーチをご紹介します。YouTubeで2本動画を発見しましたので、両方ご紹介します。撮影したアングルが違うだけです(音声レベルも微妙に違いますが)。
 
2015.11.19 安保法制違憲訴訟の会 伊藤真さん(弁護士) 総がかり行動 安保法制に反対する国会前アピール(6分54秒)

2015.11.19「…戦争法廃止!…国会正門前集会」: 伊藤真さん (安保法制違憲訴訟の会、弁護士)(6分5
6秒)

 
(文字起こし)
(司会者)安保法制違憲訴訟の会、伊藤真さん、お願いします。
伊藤真)皆さん、こんばんは。弁護士の伊藤真です。今日は弁護士として、違憲訴訟を立ち上げる、そ
のことの報告と、皆さんに連帯の挨拶にやってまいりました。
 残念ながら、パリでテロが起きてしまいました。言うまでもないことですが、テロは凶悪な犯罪です。
本来、犯罪は司法の手続で裁かなければなりません。ですが、あの同時多発テロ、2011年の9月11
日以降、アメリカは、テロを犯罪ではなく、戦争の対象としてしまいました。
 戦争というのは、どちらの国の市民の命も奪います。多くの犠牲者を出してしまいます。今回のフラン
スの犠牲者もそうですが、また、中東の皆さんたちの数え切れないほどの犠牲も、またこれは「テロとの
戦い」という戦争の結果なのです。
 私たちの国の憲法は、たとえ「テロとの戦い」という名目の戦争であっても、これには絶対加担しない
と決めました。どんな名目の戦争も否定する。これが憲法9条、まさにこの国の恒久平和主義であります憲法9条1項は、武力の行使を認めていません。武力の行使というのは、相手の命を奪うこと、人を殺すことです。日本の憲法は、自衛隊が海外に出かけて行って、人の命を奪うことを許していません。また、9条の2項では、交戦権を認めていません。交戦権、これも海外でまさに人の命を奪うこと、これが交戦権の本質に他なりません。海外に出て行って、人を殺さない。そして、そこの人々の生活を破壊したり
することは絶対にしない。これがまさにこの国の憲法9条の砦、目的であります。
 今回の戦争法によって、このまさに憲法の根本の考えが踏みにじられようとしています。これは絶対に
許すことが出来ません。一市民として、国民として、この国の形が戦争出来る国に変わって行ってしまう
。これは絶対に許せません。
 また、憲法を学んでしまった者として、知ってしまった者として、このような憲法無視、これも絶対に
この暴挙は許せません。
 何よりも、法律家として、このような事態を見過ごす訳には絶対にいかないのです。皆さんとともに、
こうして、表現の自由、選挙権、憲法が認めているこうした力を行使すること、これは本当に大きな力に
なります。
 もう1つ、司法の場で戦う、それもまた憲法が認めている私たちの戦い方であります。
 私たちは、昨年7月1日の閣議決定以降、これを司法の場で争うことを、司法の場でこれを認めないこ
とを、どんな方法があるか、ずっと研究を、また学習を続けてまいりました。そんな中で、今全国の弁護士が、これに賛同してくださり、原告、そして代理人となり、(聴取不能)の弁護士がもう声を上げてお
られます。日々その数は増えています。
 今回のこの訴訟においては、2つのことを戦いたいと思っています。1つは、差し止め請求。これは、
もちろん今回の戦争法案、様々な憲法上の問題があります。ですが、その中で特に集団的自衛権の行使、それから武力行使と一体化してしまう後方支援、その2つだけは何としても絶対に許せない。そこで、この2つの目的のために自衛隊が海外に活動していく、出動していく、これを事前に差し止める、これが1つであります。これは、全国8箇所の高等裁判所の所在地(の地方裁判所)で提訴をすることができます

 もう1つ、これは国家賠償請求訴訟というものです。私たちに憲法が保障している平和的生存権、それ
から憲法13条が保障する生命、自由の人格権、生命、身体に対する人格権、そして私たちが憲法を通じてこの国の形を決める憲法制定権、これを無視するような行為、これを絶対に許さない。この3つの権利の侵害を根拠に、国家賠償請求訴訟を提起しようと考えています。この裁判は、全国全ての地方の裁判所
、全ての皆さんたちが原告になることが出来ます。
 この訴訟には、様々な課題があることは十分に承知しています。ですが、法律家として、市民として、
これを、この事態、黙っている訳にはいきません。全国で多くの法律家、弁護士が、元裁判官経験者も弁
護士なども含めて、この訴訟に立ち上がってくださっています。
 言うまでもないことですが、この裁判は、法律家だけで進められるものではありません。市民の皆さん
たちに原告になっていただき、また傍聴に来ていただき、時に裁判所を囲んでいただき、裁判の(聴取不能)、市民の皆さんたちと連帯、連携しなければ、これは勝利を勝ち取ることはできないんです。是非これからも、皆さんに原告になっていただきたい、そのお願いにあちこち出かけることがあるだろうと思います。是非この訴訟の場を通じて戦う、この戦い方も、皆さんたちと一緒に最後まで頑張っていきたいと思っています。選挙権、そしてこの集会をできる表現の自由、裁判を受ける権利、これも私たちに保障されている立派な人権ですから、それを何としても行使して、最後まで一緒に頑張りましょう。よろしくお願い致します。
 
 わずか7分弱のスピーチの中で、「絶対に」という副詞句が何回使われたでしょうか?伊藤弁護士の違憲訴訟にかける意気込みが皆さんにも伝わったことと思います。
 私が聞いているところでは、今月中に、「安保法制違憲訴訟の会」としての正式な記者会見を開くそうで、公式WEBサイトも多分その頃には立ち上がるのだろうと期待しています。
 
 さて、以上のスピーチを視聴された方が、次に気になるのは、小林節さんを中心に検討されていたとい違憲訴訟はどうなったのか?ということでしょう。私自身もそれが気になります。
 実は、上記集会の2日後の11月21日、和歌山県田辺市小林節さんの講演会があり(11/21小林節さんが田辺市(和歌山県)で講演されます/2015年10月16日)、出来れば私も和歌山市から駆け付けたかったのですが、よんどころない所用のために参加できず、田辺の講演会を聴きに行くという若手弁
護士に、「是非、違憲訴訟についての小林先生の考えを聴いてきて欲しい」と依頼したほどなのです。
 その若手弁護士から、「小林さんのお話では,違憲訴訟については否定的で,そんなことに力を費やすなら,次の選挙で安倍ちゃんを落とせるように動くべきだ,ということでした。」「質疑応答の最初の方の質問への回答の中で言及されていました。」という報告があり、YouTubeにアップされた当日の講演動画
で確認したところ、なるほどその通りでした。
 私が、「安保法制違憲訴訟を考える(1)~小林節タスクフォースへの期待と2008年名古屋高裁判決」で書いたとおり、9月の半ばころまでは、違憲訴訟に非常に意欲的であったはずの小林先生に、その後どういう事情や心境の変化があったのか、伊藤真弁護士らのグループによる「安保法制違憲訴訟の会」の動きと関連があるのかどうかなど、正直、よく分かりません。とにかく、小林先生の発言を視聴してご
確認ください。
 柳川ゆたかさん撮影による当日の講演動画の1時間03分~1時間13分の部分です。
 
小林節氏講演会「このままにしておけますか!戦争法(安保法制)」(1時間32分)
 

 小林節さんの主張は、時期によって結構大きく変化することがあり、実は集団的自衛権についても、2013年の半ばころまでは、2014年7月1日閣議決定と大筋同じような主張をされていたのです(知
ってましたか?)。
 君子豹変は世の習いと言うべきかどうかはともかく、小林節さんの話を聴く際には、「普遍(不変)的な主張」(例えば「立憲主義」に基づく自民党批判の姿勢は一貫しています)と「状況によっては変化す
るかもしれない主張」とをしっかりと区別しながら聴くのが正しい受け取り方だろうと思います。
 そして、小林先生自身にもそういう自覚があるのではないかと思うのは、今年の7月25日に商社九条の会・東京の招きで行った講演会の完全文字起こしが同会のホームページに掲載されていたので読み始めたところ、その冒頭にこういう発言があったからです。
 
 
「今司会者がご紹介くださったけど、講演の題なんですけどね、この論争が始まってからこれは先行きすごく波乱万丈だと思ったので、いつも講演依頼が来ると、いつ?あっそう、じゃあ何月何日の憲法状況といって必ず拒否されるんです。ほとんどね、憲法を守る方法とか、立憲主義の意義とか、わけのわかんないことにしろというんで、まあいいよ勝手にしろといって、要は話せれば勝ちですからね。」
 
 実際、この講演会では、違憲訴訟についてこう発言されていました(20頁~)。もちろん、「2015年7月25日の日本国憲法の状況」下での意見です。
 
質問5 違憲訴訟について
違憲訴訟のお話が出ていましたが、違憲訴訟は門前払いされるのではないでしょうか。もう一つ違憲訴訟
で勝つ可能性はどうでしょうか。国民の強い支持があれば、よい判決が得られると思われますか。
A 全部いいところ、突いてまして、やはり平和的生存権がしくしく痛むというのはイラク派兵などの時
は少し一般性がなかった。今回の場合は、法制度ががらっと変わって、海外派兵できない国ができる国になると言うことは、明確に状況が変わって、理論的には我が方が有利なことだと思うんです。だけど、日
本を代表する各界100人の原告と言う過去にない陣立て、歴史的な1000人の弁護団の過去にない陣立てで。
 最初は地裁の裁判官がやるじゃないですか、彼はやはり官僚ですから周りの組織のことに気兼ねしちゃ
いますよね。だからそれだけの陣立てでやればですね、知的良心に従って判決下して、駄目だったらもう
いいや、弁護士でもやるかという気分にしてあげる構図ですから。
 そういう意味で、こういう異常な原告団と弁護団にした、つまり理論的にも今回はちょっとこちらが強
いですよ。それから裁判官の孤立化を、下級審の裁判官孤立化を感じない陣立てを立ててあげること。
 ただし最高裁までいって勝てる自信は、はっきり言って余りありませんから、総選挙に勝ったら裁判は
なしです。訴える、つまり法制度を直させちゃえば訴えている実益なくなるじゃないですか。それこそ、それでいったら裁判負けますよね。訴える実益が無くなる。だからそういう微妙なバランスを考えて、勝ち負けは危ないけど、おそらく確率低いけど、勝とうとしている。本論は政治活動です。
 
 そして、田辺講演会でのお話は、「2015年11月21日の日本国憲法の状況」下での小林さんの意見という訳です。
 なお、非常に積極的に講演活動を行っている小林節さんの動画はいっぱいアップされていますので、丁寧に視聴していけば、いつ頃から違憲訴訟についての発言が変化し始めたのか確認できるとは思いますが
、とてもそんな時間はないのでやっていません。
 動画を視聴するのって、時間がかかりますからね。
 そういう意味からも、上にご紹介した商社九条の会・東京による講演録は貴重です。私は特に野党間の選挙協力についての発言に注目しました。もちろん、この部分は「状況によっては変化するかもしれない
主張」の典型ですけど。
 
 さて、「安保法制違憲訴訟を考える」シリーズはとりあえずこれで終わりです。今後は、具体的な違憲訴訟の動きを伝えることが主になるでしょう。まずは、「安保法制違憲訴訟の会」記者発表の模様ですかね。
 

(忘れないために)
 「自由と平和のための京大有志の会」による「あしたのための声明書」(2015年9月19日)を、「忘れないために」しばらくメルマガ(ブログ)の末尾に掲載することにしました。
 
(引用開始)
  あしたのための声明書
 
わたしたちは、忘れない。
人びとの声に耳をふさぎ、まともに答弁もせず法案を通した首相の厚顔を。
戦争に行きたくないと叫ぶ若者を「利己的」と罵った議員の無恥を。
強行採決も連休を過ぎれば忘れると言い放った官房長官の傲慢を。
 
わたしたちは、忘れない。
マスコミを懲らしめる、と恫喝した議員の思い上がりを。
権力に媚び、おもねるだけの報道人と言論人の醜さを。
居眠りに耽る議員たちの弛緩を。
 
わたしたちは、忘れない。
声を上げた若者たちの美しさを。
街頭に立ったお年寄りたちの威厳を。
内部からの告発に踏み切った人びとの勇気を。
 
わたしたちは、忘れない。
戦争の体験者が学生のデモに加わっていた姿を。
路上で、職場で、田んぼで、プラカードを掲げた人びとの決意を。
聞き届けられない声を、それでも上げつづけてきた人びとの苦しく切ない歴史を。
 
きょうは、はじまりの日。
憲法を貶めた法律を葬り去る作業のはじまり。
賛成票を投じたツケを議員たちが苦々しく噛みしめる日々のはじまり。
人の生命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる独裁政治の終わりのはじまり。
自由と平和への願いをさらに深く、さらに広く共有するための、あらゆる試みのはじまり。
 
わたしたちは、忘れない、あきらめない、屈しない。
 
     自由と平和のための京大有志の会
(引用終わり)


(付録)
11月21日、田辺市紀南文化会館小ホールにおける小林節氏講演会の前座として上演されたWAVEsによるコントです。講演冒頭で小林先生から「素晴らしいコント」「感動してしまいました」と賞賛されたものです。