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福岡高裁那覇支部・代執行訴訟における「沖縄県知事 翁長雄志」の主張

 今晩(2015年12月7日)配信した「メルマガ金原No.2297」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
福岡高裁那覇支部・代執行訴訟における「沖縄県知事 翁長雄志」の主張

 今日のメルマガ(ブログ)は、ほとんど全てが引用となりますが、記録にとどめておくだけの歴史的意義があると思いますので、時間をかけてでもお読みいただければと思います。特に、最後に引用する翁長雄志(おなが・たけし)沖縄県知事の「陳述書」は、かなり長いものですが、リンク先で全文を読んでいただければと思います(引用は「7 主張」の部分だけですので)。
 末尾でご紹介しているとおり、被告・沖縄県知事側は、膨大な準備書面を用意し、周到な法的主張を展開していますので、書証として提出した「陳述書」にせよ、12月2日に法廷で行った翁長知事自身による「意見陳述」にせよ、法的主張は弁護団による陳述と準備書面に委ね、もっぱら沖縄県民の圧倒的民意を背景とした「政治的主張」に特化したものであることは当然です。
 私たちも、そのようなものとして、翁長知事の主張を真正面から受け止める心構えが必要だと思います。
 
 今日ご紹介するコンテンツは以下のとおりです。

1 2015年11月17日、国土交通大臣による地方自治法に基づく代執行の訴え提起を踏まえた翁長雄志沖縄県知事による記者会見動画
2 同記者会見における翁長知事「読み上げ文」
3 2015年12月2日の福岡高裁那覇支部における代執行訴訟第1回口頭弁論の模様を伝える琉球新報記事
4 代執行訴訟を規定した地方自治法の条文(第245条の8)
5 12月2日の第1回口頭弁論における翁長知事の冒頭意見陳述要旨
6 代執行訴訟に被告側書証として提出された翁長知事の「陳述書」
7 上記訴訟において被告沖縄県知事が陳述(提出)した第1準備書面~第6準備書面(分量が膨大なため引用はしませんが、沖縄県の法的主張を詳細に論じたものです)
 
沖縄県公式チャンネル
翁長知事臨時記者会見(平成27年11月17日)(37分)

「知事読み上げ文(代執行訴訟の提起、他)」から引用開始)
 
本日は、第1に、国土交通大臣が代執行の訴えの提起を行ったことについて、第2に、沖縄防衛局によるコンクリート製構造物設置に係る調査結果について報告いたします。
 第1に、代執行の訴えの提起についてですが、本日、国土交通大臣が、福岡高等裁判所那覇支部に対して提起した「地方自治法245条の8第3項の規定に基づく埋立承認処分
取消処分 取消命令請求事件」の訴状を受けとりました。
 このたびの訴えの提起は、法律に基づくものであるとはいえ、沖縄県民にとっては「銃剣とブルドーザー」による強制接収を思い起こさせるものであります。辺野古の美しい海を埋め立て、新基地建設を強行しようとする政府の態度は、多くの県民には理解することすらできません。
 一方で、県外では米軍基地や部隊の移設に対し、政府がたびたび断念していることを私たちは知っています。沖縄に対しては、「安全保障は国の専権事項」と主張し、県外では「地方自治の尊重」をいう政府の態度は完全なダブルスタンダードであり、日本国憲法の理念にももとるものであります。
 また、米国においては、沖縄に集中する米軍基地はミサイル攻撃に対し脆弱であるとのリスクが指摘されており、政府の主張する「沖縄の地理的優位性」は逆に安全保障上の足かせになりつつあります。それにもかかわらず、「基地は沖縄に置き続ければよい」との固定観念で一方的に基地を押しつける政府の対応は、沖縄差別の顕れであり、法治国家法の下の平等の原則に反するものといわれても仕方ありません。
仲井眞前知事が2期目の選挙において、「普天間飛行場の県外移設」を公約に掲げ知事に就任したものの、その公約を破り、県内移設の道を拓く公有水面埋立承認を行ったことが現在に至る状況を招いたものと考えております。
 その承認について、県では第三者委員会の検証結果報告を受け、精査した結果、取り消し得べき瑕疵が認められたことから、これを取り消したものであります。官房長官は繰り返し「すでに行政判断は出ている」といっておられますが、埋立の承認及び取消しの審査権限は沖縄県知事にあります。政府から、私が適法に行った承認取消を違法と決めつけられるいわれはありません。
 総理も官房長官も16年前、当時の知事や名護市長が辺野古基地を受け入れたとおっしゃっています。しかし、当時は、代替施設を軍民共用空港とし、15年の使用期限を付するなど厳しい条件を前提に、苦渋の決断の末、受入れを認めたものです。その後、条件を盛り込んだ閣議決定が行われましたが、平成18年に一方的に廃止されてしまいました。
 既に実態を失った16年前の条件付き受入表明を、今になって引き合いに出し、沖縄側が辺野古移設を受け入れているとする政府の主張は事実無根であり、詳しい経緯を知らない国民・県民を欺くための詭弁と断ずる他ありません。
 県としましては、今後、訴訟の場において我々の考えが正当であることを主張・立証してまいります。裁判所には、憲法と法律に照らしたご判断を頂きたいと思っております。
 第2に、沖縄防衛局によるコンクリート製構造物設置に関して県が行った調査の結果ですが、当該構造物の設置に伴い岩礁破砕がなされたかにつきましては、残念ながら判断することはできないとの結論に至りました。
 皆様ご承知のとおり、半年以上も立ち入り調査が認められず、その間、台風等の影響か、あるいは人為的関与があったのか検証は不可能ですが、いずれにしろ2月時点に比べ、9
月の現況調査では構造物周辺に相当の変化が認められ、海底地形の改変の痕跡が一掃されてしまったような状況でした。
 本来、県は許認可権者として速やかに現状確認を行えるのが当然ですが、本件では政府の不条理極まる対応により、結果として、このような結論に至ったことを誠に苦々しく思っております。
 最後に、私は保守の政治家としてこれまで政治に携わってまいりました。日本国を大事に思い、日米安全保障体制に理解を示しております。だからこそ、国土面積の0.6パーセントに過ぎない沖縄県に米軍専用施設の約73.8パーセントを集中させ続けるという状況に甘んじることなく、安全保障について日本全体で議論し、負担を分かち合っていくことこそ、品格ある、世界に冠たる日米安全保障体制につながるものと信じております。
 沖縄の将来にとって、自然豊かな辺野古の海を埋め立て、県民の手が届かない国有地に、耐用年数200年ともいわれる基地を建設することは、やはり何があっても容認することは
できません。私は、今後とも辺野古に新基地は造らせないとの公約の実現に向け、不退転の決意で取り組んでまいります。
 県民の皆さまのご理解とご協力をお願い申し上げます。
                         平成27年11月17日
                            沖縄県知事 翁長 雄志
(引用終わり)
 
琉球新報 2015年12月3日 05:05
知事、民主主義問う 「米施政権下と変わらず」 辺野古代執行訴訟第1回弁論

(引用開始)
 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古への新基地建設をめぐり、翁長雄志知事の辺野古埋め立て承認取り消し処分の取り消しを求めて国土交通相が提起した代執行訴訟の第1回口頭弁論が2日午後2時、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)で開かれた。県と政府が米軍基地問題をめぐり裁判になるのは、20年前の1995年の代理署名訴訟以来で、2度目となる。翁長知事は意見陳述で米軍基地が集中する中、新たな基地負担が県民意思に反して押し付けられようとする現状を「米軍施政権下と何ら変わりない」と述べ、悲惨な地上戦と日本からの切り離し、土地の強制接収による基地形成という沖縄が歩んだ戦後史と重ね合わせた。さらに「22世紀まで利用可能な基地建設が強行されようとしている」として、将来まで沖縄の過重負担が続きかねない“不条理”を法廷で訴えた。
 沖縄が基地経済に支えられているとの風説に対しては「完全な誤解だ」と強く訴えた。新基地問題が沖縄だけの問題ではないとの思いを念頭に「日本の地方自治や民主主義は存在するのか。国民に問い掛けたい」と述べた。
 訴訟では双方の代理人が主張の要旨を口頭で説明した。国側代理人は国防や外交は承認における知事の裁量の範囲外などと主張し、承認に瑕疵(かし)はないと主張した。承認取り消しにより普天間飛行場の危険性除去の遅滞などの「膨大な不利益」が生じるとして、仮に承認に瑕疵があっても取り消せないとして、速やかに国の訴えを認めるよう求めた。
 県側代理人は国が行政不服審査法に基づく審査請求・執行停止申し立てをして代執行訴訟を提起したことを「訴権の乱用」であると批判したほか、他の手段がない場合に認められる代執行の要件を満たしていないとして訴えを退けるよう求めた。
 要旨の説明後は、多見谷裁判長が書面で提出された双方の主張に質問する形で進められた。国防や外交は国の専管事項だという国の主張について、県側と国側の議論が白熱する場面もあった。県側が申請していた証人採用について、2日の弁論やその後の進行協議では判断されなかった。訴訟はこの日で結審はせず、次回弁論を1月8日、次々回を同29日に開くことが決まった。
(引用終わり)
 
地方自治法(昭和二十二年四月十七日法律第六十七号)
(代執行等)
第二百四十五条の八 各大臣は、その所管する法律若しくはこれに基づく政令に係る都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定若しくは当該各大臣の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合において、本項から第八項までに規定する措置以外の方法によつてその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるときは、文書により、当該都道府県知事に対して、その旨を指摘し、期限を定めて、当該違反を是正し、又は当該怠る法定受託事務の管理若しくは執行を改めるべきことを勧告することができる。
2 各大臣は、都道府県知事が前項の期限までに同項の規定による勧告に係る事項を行わないときは、文書により、当該都道府県知事に対し、期限を定めて当該事項を行うべきことを指示することができる。
3 各大臣は、都道府県知事が前項の期限までに当該事項を行わないときは、高等裁判所に対し、訴えをもつて、当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判を請求することができる。
4 各大臣は、高等裁判所に対し前項の規定により訴えを提起したときは、直ちに、文書により、その旨を当該都道府県知事に通告するとともに、当該高等裁判所に対し、その通告をした日時、場所及び方法を通知しなければならない。
5 当該高等裁判所は、第三項の規定により訴えが提起されたときは、速やかに口頭弁論の期日を定め、当事者を呼び出さなければならない。その期日は、同項の訴えの提起があつた日から十五日以内の日とする。
6 当該高等裁判所は、各大臣の請求に理由があると認めるときは、当該都道府県知事に対し、期限を定めて当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判をしなければならない。
7 第三項の訴えは、当該都道府県の区域を管轄する高等裁判所の専属管轄とする。
8 各大臣は、都道府県知事が第六項の裁判に従い同項の期限までに、なお、当該事項を行わないときは、当該都道府県知事に代わつて当該事項を行うことができる。この場合においては、各大臣は、あらかじめ当該都道府県知事に対し、当該事項を行う日時、場所及び方法を通知しなければならない。
9 第三項の訴えに係る高等裁判所の判決に対する上告の期間は、一週間とする。
10 前項の上告は、執行停止の効力を有しない。
11 各大臣の請求に理由がない旨の判決が確定した場合において、既に第八項の規定に基づき第二項の規定による指示に係る事項が行われているときは、都道府県知事は、当該判決の確定後三月以内にその処分を取り消し、又は原状の回復その他必要な措置を執ることができる。
12 前各項の規定は、市町村長法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定若しくは各大臣若しくは都道府県知事の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合において、本項に規定する措置以外の方法によつてその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるときについて準用する。この場合においては、前各項の規定中「各大臣」とあるのは「都道府県知事」と、「都道府県知事」とあるのは「市町村長」と、「当該都道府県の区域」とあるのは「当該市町村の区域」と読み替えるものとする。
13 各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る市町村長の第一号法定受託事務の管理又は執行について、都道府県知事に対し、前項において準用する第一項から第八項までの規定による措置に関し、必要な指示をすることができる。
14 第三項(第十二項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の訴えについては、行政事件訴訟法第四十三条第三項 の規定にかかわらず、同法第四十一条第二項 の規定は、準用しない。
15 前各項に定めるもののほか、第三項の訴えについては、主張及び証拠の申出の時期の制限その他審理の促進に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
 
2015年12月2日の第1回口頭弁論における翁長知事の冒頭意見陳述要旨
(引用開始)
事件番号 平成 27 年(行ケ)第3号
地方自治法245条の8第3項の規定に基づく埋立承認取消処分取消命令請求事件
原告 国土交通大臣 石井 啓一
被告 沖縄県知事 翁長 雄志
 
                  意 見 陳 述 要 旨
 
福岡高等裁判所那覇支部 御中
 
   平成27 年12 月2日
 
                               被告
                                 沖縄県知事 翁長 雄志
 
 沖縄県知事の翁長雄志でございます。
 本日は、本法廷において意見陳述する機会を与えていただきましたことに、心から感謝申し上げます。
 私は、昨年の県知事選挙で「オール沖縄」「イデオロギーよりアイデンティティー」をスローガンに、保守・革新の対立を乗り越えて当選いたしました。
 本件訴訟の口頭弁論にあたり、私の意見を申し上げます。
 歴史的にも現在においても沖縄県民は自由・平等・人権・自己決定権をないがしろにされて参りました。私はこのことを「魂の飢餓感」と表現しています。
 政府との間には多くの課題がありますが、「魂の飢餓感」への理解がなければ、それぞれの課題の解決は大変困難であります。
 簡単に沖縄の歴史をお話ししますと、沖縄は約500 年に及ぶ琉球王国の時代がありました。日本と中国・朝鮮・東南アジアを駆け巡って大交易時代を謳歌しました。琉球は 1879 年、今から136 年前に日本に併合されました。これは琉球が強く抵抗したため、日本政府は琉球処分という名目で軍隊を伴って行われたのです。併合後に待ち受けていたのが70年前の第二次世界大戦、国内唯一の軍隊と民間人が混在しての凄惨な地上戦が行われました。沖縄県民約10 万人を含む約20 万の人々が犠牲になりました。
 戦後は、ほとんどの県民が収容所に収容され、その間に強制的に土地を接収され、収容所からふるさとに帰ってみると普天間飛行場をはじめ米軍基地に変わっていました。その後も、住宅や人が住んでいても「銃剣とブルドーザー」で土地を強制的に接収されました。
 1952 年、サンフランシスコ講和条約による日本の独立と引き換えに、沖縄は米軍の施政権下に置かれ、日本国民でもアメリカ国民でもない無国籍人となり、当然日本国憲法の適用もなく、県民を代表する国会議員を一人も国会に送ったことはありませんでした。犯罪を犯した米兵がそのまま帰国することすらあった治外法権ともいえる時代でした。ベトナム戦争の時は沖縄から B52 爆撃機の出撃をはじめいろいろな作戦が展開されており、沖縄は日米安保体制と、日本の平和と高度経済成長を陰で支えてきた訳です。
 しかし、政府は一昨年、サンフランシスコ講和条約が発効した4月 28 日を「主権回復の日」として式典を開催し、そこでは万歳三唱まで行われたのです。沖縄にとっては悲しい、やるせない式典でした。全く別々の人生を歩んできたような気がします。
 1956 年、米軍の施政権下で沖縄の政治史に残ることが起きました。プライス勧告といって、銃剣とブルドーザーで強制接収した土地を、実質的な強制買い上げをするという勧告が出されました。当時、沖縄は大変貧しかったので喉から手が出るほどお金が欲しかったはずですが、県民は心を一つにしてそれを撤回させました。これによって、基地のあり方に、沖縄の自己決定権を主張できる素地がつくられ、私たちに受け継がれているのです。
沖縄が米軍に自ら土地を提供したことは一度もありません。そして戦後70年、あろうことか、今度は日本政府によって、海上での銃剣とブルドーザーを彷彿させる行為で美しい海を埋め立て、私たちの自己決定権の及ばない国有地となり、そして、普天間基地にはない軍港機能や弾薬庫が加わり、機能強化され、耐用年数200年ともいわれる基地が造られようとしています。いま沖縄には日本国憲法が適用され、昨年のすべての選挙で辺野古新基地反対の民意が出たにもかかわらず、政府は建設を強行しようとしています。米軍基地に関してだけは、米軍施政権下と何ら変わりありません。
 米軍施政権下、キャラウェイ高等弁務官は沖縄の自治は神話であると言いましたが、今の状況は、国内外から日本の真の独立は神話であると思われているのではないでしょうか。
 辺野古新基地は、完成するまで順調にいっても約10 年、場合によっては15年、20年かかります。その期間、普天間基地が動かず、危険性が放置される状況は固定化そのものではないでしょうか。
 本当に宜野湾市民のことを考えているならば、前知事の埋立承認に際して、総理と官房長官の最大の約束であった普天間基地の5年以内の運用停止を、承認後着実に前に進めるべきではなかったでしょうか。しかし、米国からは当初からそんな約束はしていない、話も聞いたこともないと言われ、前知事との約束は、埋立承認をするための空手形ではなかったのか、それを双方承知の上で埋立承認がなされたのではないか、いろいろな疑問が湧いてきます。
 日本政府に改めて問いたい。普天間飛行場は世界一危険だと、政府は同じ言葉を繰り返していますが、辺野古新基地ができない場合、本当に普天間基地は固定化できるのでしょうか。
 次に基地経済と沖縄振興策について述べたいと思います。
 一般の国民もそうですが、多くの政治家も、「沖縄は基地で食べているんでしょう。だから基地を預かって振興策をもらったらいいですよ」と沖縄に投げかけます。この言葉は、「沖縄に過重な基地負担を強いていることへの免罪符」と「沖縄は振興策をもらっておきながら基地に反対する、沖縄は甘えるな」と言わんばかりです。これくらい真実と違い沖縄県民を傷つける言葉はありません。
 米軍基地関連収入は、終戦直後にはGDPの約50 パーセント、基地で働くしか仕方がない時代でした。日本復帰時には約15 パーセント、最近は約5パーセントで推移しています。
 経済の面では、米軍基地の存在は今や沖縄経済発展の最大の阻害要因になっています。
 例えば、那覇市新都心地区、米軍の住宅地跡で215 ヘクタールありますが、25年前に返還され、当時は軍用地料等の経済効果が52 億円ありました。私が那覇市長になって15 年前から区画整理を始め、現在の街ができました。経済効果としては52億円から1,634 億円と32倍、雇用は170 名程度でしたが、今は1万6千名、約100 倍です。税収は6億から 199 億円と33 倍に増えています。
 沖縄は基地経済で成り立っているというような話は今や過去のものとなり完全な誤解であります。
 沖縄は他県に比べて莫大な予算を政府からもらっている、だから基地は我慢しろという話もよく言われます。年末にマスコミ報道で沖縄の振興予算3千億円とか言われるため、多くの国民は47都道府県が一様に国から予算をもらったところに沖縄だけさらに3千億円上乗せをしてもらっていると勘違いをしてしまっているのです。
 沖縄はサンフランシスコ講和条約で日本から切り離され、27 年間、各省庁と予算折衝を行うこともありませんでした。ですから日本復帰に際して沖縄開発庁が創設され、その後内閣府に引き継がれ、沖縄県と各省庁の間に立って調整を行い沖縄振興に必要な予算を確保するという、予算の一括計上方式が導入されたのです。沖縄県分は年末にその総額が発表されるのに対し、他の都道府県は、独自で予算折衝の末、数千億円という予算を確保していますが、各省庁ごとの計上のため、沖縄のように発表されることがないのです。
 実際に、補助金等の配分額でみると沖縄県が突出しているわけではありません。例えば、地方交付税と国庫支出金等の県民一人あたりの額で比較しますと沖縄県は全国で6位、地方交付税だけでみると17 位です。
 都道府県で国に甘えているとか甘えていないとかと、いわれるような場所があるでしょうか。残念ながら私は改めて問うていきたいと思います。沖縄が日本に甘えているのでしょうか。日本が沖縄に甘えているのでしょうか。ここを無視してこれからの沖縄問題の解決、あるいは日本を取り戻すことなど、できないと断言します。
 沖縄の将来あるべき姿は、万国津梁の精神を発揮し、日本とアジアの架け橋となること、ゆくゆくはアジア・太平洋地域の平和の緩衝地帯となること。そのことこそ、私の願いであります。
 この裁判で問われているのは、単に公有水面埋立法に基づく承認取り消しの是非だけではありません。
 戦後70 年を経たにもかかわらず、国土面積のわずか 0.6 パーセントしかない沖縄県に、73.8 パーセントもの米軍専用施設を集中させ続け、今また22 世紀まで利用可能な基地建設が強行されようとしています。
 日本には、本当に地方自治や民主主義は存在するのでしょうか。沖縄県にのみ負担を強いる今の日米安保体制は正常といえるのでしょうか。国民の皆様すべてに問いかけたいと思います。
 沖縄、そして日本の未来を切り拓く判断をお願いします。
                                             以 上
(引用終わり)
 
(本件陳述書は、証拠として裁判所に提出した書面です。第1回口頭弁論における知事の冒頭意見陳述とは異なります。)
(抜粋引用開始)
目次
1 知事に立候補した経緯と公約
2 沖縄について
(1)沖縄の歴史
(2)沖縄の将来像
3 米軍基地について
(1)基地の成り立ちと基地問題の原点
(2)普天間飛行場返還問題の原点
(3)「沖縄は基地で食べている」基地経済への誤解
(4)「沖縄は莫大な予算をもらっている」沖縄振興予算への誤解
(5)基地問題に対する政府の対応
(6)県民世論
4 日米安全保障条約
5 前知事の突然の埋立承認
6 前知事の埋立承認に対する疑問-取消しの経緯
(1)仲井眞前知事の埋立承認についての疑問
(2)第三者委員会の設置と国との集中協議
(3)承認取消へ
(4)政府の対応
7 主張
(1)政府に対して
(2)国民、県民、世界の人々に対して
(3)アメリカに対して
 
1~6 省略
 
7 主張
(1)政府に対して
 私は1か月間の集中協議の中で、沖縄の歩んできた苦難の歴史や県民の思い等々を説明しました。その置かれている歴史の中で戦後の70 年があったわけで、その中の27年間という特別な時間もありました。そして、復帰後も国土面積の0.6パーセントに在日米軍専用施設の73.8 パーセントの基地があるという状況に変わりがありません。それは米軍施政権下の1950 年代に日本本土に配備されていた海兵隊が、反対運動の高まりにより、沖縄に配置された結果、沖縄の基地は拡充され、今につながっているのです。
 このように沖縄の歴史や置かれている立場等をいくら話しても、基地問題の原点も含め、日本国民全体で日本の安全保障を考える気概も、その負担を分かち合おうという気持ちも示してはいただけませんでした。そのような状況に対して、私は「魂の飢餓感」という言葉を使うほかありませんでした。
 政府に対しては、辺野古新基地が出来ない場合、これはラムズフェルド国防長官が普天間は世界一危険な飛行場だと発言され、官房長官も国民や県民を洗脳するかのように普天間の危険性除去の為に辺野古が唯一の政策だとおっしゃっていますが、辺野古が出来なければ本当に普天間の危険性を固定化しつづけるのか、明確に示していただきたいと思います。
 そして、埋立てを進めようとしている大浦湾は、「自然環境の保全に関する指針(沖縄島編)」において、大部分が、「自然環境の厳正な保護を図る区域」であるランクⅠに位置づけられています。この美しいサンゴ礁の海、ジュゴンやウミガメが生息し、新種生物も続々と発見され、国内有数の生物多様性に富んでいる海を簡単に埋めて良いのか。一度失われた自然は二度と戻りません。日本政府の環境保護にかける姿勢について、国内だけではなく、世界から注視されています。
 安倍総理大臣は第一次内閣で「美しい国日本」と、そして今回は「日本を取り戻そう」とおっしゃっています。即座に思うのは「そこに沖縄は入っていますか」ということです。そして「戦後レジームからの脱却」ともおっしゃっています。しかし、沖縄と米軍基地に関しては、「戦後レジームの死守」のような状況になっています。そしてそれは、アメリカ側の要望によるものではなく、日本側からそのような状況を固守していることが、様々な資料で明らかになりつつあります。沖縄が日本に甘えているのでしょうか、日本が沖縄に甘えているのでしょうか。これを無視してこれからの沖縄問題の解決、あるいは日本を取り戻すことはできないと考えています。
 沖縄の基地問題の解決は、日本の国がまさしく真の意味でアジアのリーダー、世界のリーダーにもなり得る可能性を開く突破口になるはずです。
 辺野古の問題で、日本と沖縄は対立的で危険なものに見えるかもしれませんが、そうではないのです。沖縄の基地問題の解決は、日本が平和を構築していくのだという意思表示となり、沖縄というソフトパワーを使っていろいろなことができるでしょう。様々な意味で沖縄はアジアと日本の懸け橋になれる。そして、アジア・太平洋地域の平和の緩衝地帯となれるのです。
 辺野古から、沖縄から日本を変えるというのは、日本と対立するということではありません。県益と国益は一致するはずだ、というのが、私が日頃からお話ししていることなのです。
 琉球処分沖縄戦、なぜいま歴史が問い直されるのか。それは、いま現に膨大な米軍基地があるから過去の歴史が召還されてくるのです。極端に言うと、もし基地がなくなったら、一つのつらい歴史的体験の解消になりますから、「過去は過去だ」ということになるでしょう。銃剣とブルドーザーで奪われた土地が基地になり、そっくりそのままずっと置かれているから、過去の話をするのです。生産的でないから過去の話はやめろと言われても、いまある基地の大きさを見ると、それを言わずして、未来は語れないのです。ここのところを日本国が気づいていないものと考えております。
(2)国民、県民、世界の人々に対して
 よく私が辺野古移設反対と述べると、本土の方から、「あなたは日米安保に賛成ではないですか。」と質問されます。私が「賛成です。」と答えますと「なぜ辺野古移設に反対するのですか。」と続きます。その時に私は「本土の方々は日米安保に反対なのですか。賛成ならば、なぜ米軍基地を受け入れないのですか。」と申し上げています。こういったものの見方が沖縄と本土の人とでは完全にすれ違っているのだと考えています。
 米軍基地問題はある意味では沖縄が中心的な課題を背負っているわけですが、日本という国全体として、地方自治、本当に一県、またはある特定の地域に、こういったことが起きた時に日本としてどう在るべきか、今回の件は多くの国民に見て、考えてもらえるのではないかと思っております。
 そういう意味からしますと、一義的に沖縄の基地問題あるいは歴史等々を含めたことではありますが、日本の民主主義、安全保障というものに対して、国民全体が真剣に考えるきっかけになってほしいと思っております。
 平成26年12月に知事に当選した私が、官邸の方とお会いしようとしても、まったく会ってもらえませんでした。いろいろ、周辺から意見がございましたが、私があの時、今のあるがままを見て、県民も国民も考えてもらいたい、ということを3月までずっと言い続けてきたわけであります。
 政府は、大勢の海上保安官警視庁機動隊員を現場に動員し、行政不服審査法や地方自治法の趣旨をねじ曲げてまで、辺野古埋め立て工事を強行しています。それに対して、私たちは暴力で対抗することはしません。法律に基づく権限を含め、私はあらゆる手法を駆使して辺野古新基地建設を阻止する覚悟です。
 そのあるがままの状況を全国民に見てもらう。私からも積極的に情報を発信し、政府とも対話を重ねていきます。そうすることで、今まで無関心、無理解だった本土の方々もこのような議論を聞きながら、小さな沖縄県に戦後70年間も過重な基地負担を強いてきたことをきちんと認識して貰いたい。
 まして日本のために10 万人も県民が地上戦で亡くなって、そういうふうに日本国に尽くして日本国を思っている人々に対し、辺野古新基地建設を強行し、過重な基地負担を延長し続けるということが、どういう意味を持つのか、日本国の品格、処し方を含めて考えていただきたいと思っております。
 いわゆるアジアのリーダー、世界のリーダー、国連でももっとしっかりした地位を占めたいという日本が、自国民の人権、平等、民主主義、そういったものも守ることができなくて、世界のそういったものと共有の価値観を持ってこれからリーダーになれるかどうかという点について、国民全体で考えるきっかけになればいいと思っております。
 国民と県民の皆さん方に知っていただきたいことは、政府は、普天間基地の危険性除去のため辺野古移設の必要性を強調する一方で、5年以内の運用停止を含めた実際の危険性の除去をどのように進めるかについては、驚くほど寡黙なことです。
 辺野古新基地建設には、政府の計画通り進んだとしても10 年間かかります。しかし、埋め立て面積が161 ヘクタールと広大であること、埋立区域の地形が複雑で最大水深も 40メートルを超えること、沖縄が台風常襲地帯であること等を考慮すれば、新基地が実際に供用されるまで、十数年から場合によっては20年以上の歳月が必要となることは、沖縄県民なら容易に推測できます。
 私からは、普天間基地の危険性を除去するため、集中協議で再三再四、5年以内の運用停止の具体的な取組みを求めましたが、安倍総理大臣や菅官房長官などからは、何ら返答をいただくことは出来ませんでした。
 運用停止について一切の言及がなかったことは逆に、政府にとって不都合な真実を浮かび上がらせることになったのではないかと考えています。
 つまり、辺野古新基地が供用開始されるまでの間は、例え何年何十年かかろうとも、現在の普天間基地の危険性を放置し、固定化し続けるというのが、政府の隠された方針ではないか、と言うことです。
 辺野古埋立てにより全てがうまくいく、という政府の説明を真に受けてはいけません。5年以内の運用停止の起点からまもなく2年になるのに、なぜ、全く動かないのか、政府から決して説明されることのない、真の狙いについて、国民、県民の皆様にも、真剣に考えていただきたいと思います。
 そして、普天間飛行場代替施設が辺野古に仮にできるようなことがありましたら、耐用年数200年間とも言われる新基地が、国有地として、私たちの手を及ばないところで、縦横無尽に161 ヘクタールを中心としたキャンプ・シュワブの基地が永久的に沖縄に出てくることになり、沖縄県民の意志とは関係なくそこに大きな基地ができあがってきて、それが自由自在に使われるようになります。
 今、中国の脅威が取りざたされておりますけれども、その意味からすると200年間、そういった脅威は取り除かれない、というような認識でいるのかどうか。そして今日までの70 年間の基地の置かれ方というものについてどのように反省をしているのか。日本国民全体で考えることができなかったことについて、どのように考えているのかを問いたいのです。
 私は、世界の人々に対しても、ワシントンD.C.や国連人権委員会で沖縄の状況について説明させていただきました。安倍総理大臣は、国際会議の場等で、自由と平等と人権と民主主義の価値観を共有する国と連帯して世界を平和に導きたい、というようなことを繰り返し主張されておられます。しかしながら、私は、今の日本は、国民にさえ自由、平等、人権、あるいは民主主義というようなものが保障されていないのではないか、そのような日本がなぜ他の国々とそれを共有できるのか、常々疑問に思っておりました。そこで、沖縄の状況を世界に発するべきだと考えたのです。
 民主主義国・日本、民主主義国・アメリカとして本当にこの状況に、世界の人々の理解を得られるのかどうか、沖縄の状況のあるがままを世界の人々に見ていただくということは、これからの日本の政治の在り方を問うという意味でも大切なことだと思っています。
(3)アメリカに対して
 私たちがアメリカに要請に行くと、「基地問題は日本の国内問題だから、自分たちは知らない」と、必ずそうおっしゃいます。
 しかし、自然環境保全の観点から、また、日米安保の安定運用や日米同盟の維持を図る観点から、アメリカは立派な当事者なのです。傍観者を装う態度は、もはや許されません。
 まず、新基地が建設される辺野古の海は、ジュゴンが回遊し、ウミガメが産卵し、短期間の調査で新種の生物が多数発見される、日本国内でも希有な、生物多様性に富む豊かな海です。海は一度埋め立ててしまったなら、豊かな自然は永久に失われます。未発見の生物を含め、辺野古大浦湾にしか生息しない多くの生物が絶滅を免れません。深刻な自然環境の破壊と多くの生物を絶滅に追いやるのが日米両政府であり、海兵隊であることを、アメリカの人々はきちんと認識し、受け止めなければなりません。海兵隊基地を建設する以上、自然環境破壊の責任は、アメリカにもあるのです。
 次に、日米同盟の維持についてですが、アメリカに対し、私自身が安保体制というものは十二分に理解をしていること、しかしながら、沖縄県民の圧倒的な民意に反して辺野古に新基地を建設することはまずできないということを訴えていきたいと思います。仮に日本政府が権力と予算にものを言わせ、辺野古新基地建設を強行した場合、沖縄県内の反発がかつてないほど高まり、結果的に米軍の運用に重大な支障を招く事態が生じるであろうことは、想像に難くありません。
 私は安保体制を十二分に理解をしているからこそ、そういう理不尽なことをして日米安保体制を壊してはならないと考えております。日米安保を品格のある、誇りあるものにつくり上げ、そしてアジアの中で尊敬される日本、アメリカにならなければ、アジア・太平洋地域の安定と発展のため主導的な役割を果たすことはできないと考えております。
                                          以上
(引用終わり)
 
福岡高等裁判所那覇支部 平成27 年(行ケ)第3号 地方自治法245条の8第3項の規定に基づく埋立承認取消処分取消命令請求事件(原告 国土交通大臣 石井 啓一、被告 沖縄県知事 翁長 雄志)において、被告沖縄県知事が陳述(提出)した準備書面
 

(忘れないために)
 「自由と平和のための京大有志の会」による「あしたのための声明書」(2015年9月19日)を、「忘れないために」しばらくメルマガ(ブログ)の末尾に掲載することにしました。
 
(引用開始)
  あしたのための声明書
 
わたしたちは、忘れない。
人びとの声に耳をふさぎ、まともに答弁もせず法案を通した首相の厚顔を。
戦争に行きたくないと叫ぶ若者を「利己的」と罵った議員の無恥を。
強行採決も連休を過ぎれば忘れると言い放った官房長官の傲慢を。
 
わたしたちは、忘れない。
マスコミを懲らしめる、と恫喝した議員の思い上がりを。
権力に媚び、おもねるだけの報道人と言論人の醜さを。
居眠りに耽る議員たちの弛緩を。
 
わたしたちは、忘れない。
声を上げた若者たちの美しさを。
街頭に立ったお年寄りたちの威厳を。
内部からの告発に踏み切った人びとの勇気を。
 
わたしたちは、忘れない。
戦争の体験者が学生のデモに加わっていた姿を。
路上で、職場で、田んぼで、プラカードを掲げた人びとの決意を。
聞き届けられない声を、それでも上げつづけてきた人びとの苦しく切ない歴史を。
 
きょうは、はじまりの日。
憲法を貶めた法律を葬り去る作業のはじまり。
賛成票を投じたツケを議員たちが苦々しく噛みしめる日々のはじまり。
人の生命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる独裁政治の終わりのはじまり。
自由と平和への願いをさらに深く、さらに広く共有するための、あらゆる試みのはじまり。
 
わたしたちは、忘れない、あきらめない、屈しない。
 
     自由と平和のための京大有志の会
(引用終わり)
 

(付録)
『世界』 作詞・作曲:ヒポポ田 演奏:ヒポポフォークゲリラ