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高浜原発3号機・4号機運転差止め仮処分を取り消した福井地裁決定~「コピペ決定」という河合弘之弁護団長の断言は正しい

 今晩(2015年12月26日)配信した「メルマガ金原No.2316」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
高浜原発3号機・4号機運転差止め仮処分を取り消した福井地裁決定~「コピペ決定」という河合弘之弁護団長の断言は正しい

 一昨日(2015年12月24日)、福井地方裁判所民事第2部(林潤裁判長、山口敦士裁判官、中村修輔裁判官)は、本年4月14日、同裁判所の当時の民事第2部(樋口英明裁判長、原島麻由裁判官、三宅由子裁判官)による、関西電力高浜原子力発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならないという決定(仮処分命令)を取り消し、債権者(住民)らの申立てをいずれも却下する決定を下しました。
 
 
 同決定は全部で225頁に及ぶ大部なものであるため、私もまだ部分的にしか目が通せていませんが、なかなか読み通そうという気を起こさせない空疎な文章が続いているという印象です。
 裁判所の判断を示したのは「第3 当裁判所の判断」(77頁~)の部分なのですが、その冒頭に置かれた「1 争点(1)(司法審査の在り方)について」(77~84頁)がくせものだろうと勝手に推測しています。
 そこでは、原子力規制委員会の独立性や専門性をさんざん持ち上げた上で、「司法審査の在り方」について、以下のように結論付けています(80~84頁)。少し長くなりますが、判断枠組みについて説示した部分を引用します。
 
(引用開始)
(3) このような発電用原子炉施設の安全性に係る審査の特質に鑑みれば,発電用原子炉施設の安全性に欠けるところがあるか否かについて,裁判所は,その安全性に関する原子力規制委員会の判断に不合理な点があるか否かという観点から審理・判断するのが相当である。すなわち,原子力規制委員会における調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該原子炉施設が上記具体的審査基準に適合するとした同委員会の調査審議及び判断の過程等に看過し難い過誤,欠落があるときは,当該原子炉施設の安全性に関する同委員会の判断に不合理な点があるものといえるのであり,そのような場合には,当該原子炉施設の安全性に欠けるところがあるといわざるを得ず,深刻な事故が起こる具体的な可能性が否定できないこととなり,よって,周辺住民の生命,身体及び健康を基礎とする人格権が侵害される具体的危険が肯認されるというべきである。
 そして,科学技術を利用した発電用原子炉施設については,災害発生の危険が絶対にないという「絶対的安全性」を想定することはできないものであって,何らかの程度の事故発生等の危険性は常に存在するといわざるを得ないのであるから,絶対的安全性を要求することは相当ではない。しかしながら,発電用原子炉施設において重大な事故が一たび起きれば,放射性物質による人的な被害は時間的にも空間的にも拡大し,深刻化するおそれがあり,とりわけ前記前提事実(8)及び(9)に認定した福島原発事故等に伴って現実に生じた被害の甚大さや深刻さを踏まえるならば,ここでいう安全とは,当該原子炉施設の有する危険性が社会通念上無視し得る程度にまで管理されていることをいうと解すべきである。したがって,原子力規制委員会における調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか,あるいは当該原子炉施設がその具体的審査基準に適合するとした同委員会の調査審議及び判断の過程等に看過し難い過誤,欠落があるか否かについては,福島原発事故の経験等も踏まえた現在の科学技術水準に照らし,当該原子炉施設の危険性が社会通念上無視し得る程度にまで管理されているか否かという観点から,あくまでも厳格に審理・判断することが必要であるというべきである。
 なお,原子力発電により電力会社が得られる経済的利益がいかに大きなものであったとしても,許容される危険性の程度を緩和するのは相当ではないというべきである。
(4) また,原子力規制委員会の安全性に関する判断に不合理な点があることの主張立証責任については,前記(1)のとおり人格権の侵害又は侵害される具体的危険について主張疎明すべき債権者らが負うべきものと解されるが,当該原子炉施設の安全審査に関する資料や科学的,専門技術的知見は専ら発電用原子炉設置者である債務者側が保持していることなどを考慮すると,債務者において,まず,原子力規制委員会の上記判断に不合理な点がないこと,すなわち,同委員会における調査審議に用いられた具体的審査基準の合理性並びに当該基準の適合性に係る調査審議及び判断の過程等における看過し難い過誤や欠落の不存在を相当の根拠,資料に基づき主張疎明すべきであり,債務者が主張疎明を尽くさない場合には,原子力規制委員会がした判断に不合理な点があるものとして,当該原子炉施設の周辺に居住する住民の人格権が侵害される具体的危険があることが事実上推認されるものというべきである。
他方,債務者が上記の主張疎明を尽くした場合には,本来,主張立証責任を負う債権者らにおいて,当該原子炉施設の安全性に欠けるところがあり,債権者らの人格権が現に侵害されているか,又は侵害される具体的危険があることについて主張疎明する必要があると解するのが相当である。
(略)
(5) 略(債権者の主張を排斥した部分)
(6) 以上を前提に,以下においては,争点(2)ないし(7)について,科学的・技術的知見を踏まえ,債務者において,原子力規制委員会の判断に不合理な点がないことを相当の根拠,資料に基づき主張疎明したといえるか否かについて,本件原発の危険性が社会通念上無視し得る程度にまで管理されているかという観点から,まず検討を加えることとする。
(引用終わり)
 
 そして、84ページから224頁まで、以下の各争点について、「(1)認定事実→(2)原子力規制委員会の判断の合理性→(3)債権者らの主張について」という順番で判断を繰り返していきます。
 
争点(2)(基準地震動の合理性)について
争点(3)(耐震安全性の相当性)について
争点(4)(使用済燃料の危険性)について
争点(5)(地震以外の外部事象の危険性)について
争点(6)(安全性確保に関するその他の問題)について
7 その余の債権者らの主張等について
 
 例えば、基準地震動については、「以上によれば,基準地震動に関する具体的審査基準並びに本件基準地震動についての原子力規制委員会による調査審議及び判断の過程等に不合理な点はなく,本件基準地震動が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点はないと認めるのが相当である。」(111頁)とした上で、「債権者らの主張を踏まえても,基準地震動に関する具体的審査基準に不合理な点はなく,本件基準地震動が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点はないとの前記判断(前記(2)ウ)は左右されないというのが相当である。」(127頁)といった具合です。
 
 法律家なら分かると思いますが、こういう判断枠組みなら、「(1) 認定事実」「(2) 原子力規制委員会の判断の合理性」は、債務者(関西電力)から提出された準備書面を要領良く引き写すだけで出来上がりであり、「(3) 債権者らの主張について」これを排斥する部分も、どうせ関電が債権者の主張に対する反論を提出しているはずなので、その書面の出来が良ければ引き写し、ぱっとしなければ少しは独自に考えるということで、200頁を超す決定書も、それほどたいした手間もかけずに書けるでしょう。
 河合弘之弁護団長が記者会見冒頭で「関電主張のコピペ決定だ」と憤慨していたのは、つまりこういうことだったのですね。実際、債権者、債務者の双方から、提出した準備書面のデータも一緒に提出させ、簡単にコピペできるようにしていたかもしれません。
 
 ここで、決定当日に発表された弁護団と申立人(債権者)による声明を引用します。
 
福井地裁高浜原発異議決定を受けての弁護団声明
(引用開始) 
 
高浜原発3・4号機については、本年4月14日、福井地方裁判所の樋口英明裁判長、原島麻由裁判官、三宅由子裁判官による運転差止仮処分命令が発令されていましたが、本日、同裁判所の林潤裁判長、山口敦士裁判官、中村修輔裁判官により仮処分命令は取り消されました。

 私たちは、福島原発事故のような事故を二度と招いてはならないという観点から新規制基準の不合理性、基準地震動の策定手法の不合理性、津波の危険性、工学的安全性の欠如、シビアアクシデント対策・防災対策・テロ対策の不備といった様々な危険性を指摘しました。
 
 これに対して、本決定は、原子力規制委員会の判断に追随するだけの形で私たちの主張立証を排斥しました。
 
 とりわけ、基準地震動に関しては、「最新の知見に従って定めてきたとされる基準地震動を超える地震動が到来しているという事実」は、「当時の基準地震動の想定が十分でなかったことを示すものである」と認めながら、「いずれも福島原発事故を踏まえて策定された新規制基準下での基準地震動を超過したものではない」とし、新規制基準下ではこのようなことは起こらないとされています。
 
 しかしながら、一方で、本決定は、「新規制基準の策定に関与した専門家により『基準地震動の具体的な算出ルールは時間切れで作れず,どこまで厳しく規制するかは裁量次第になった』との指摘がされていること」も認めており、この認定からすれば、新規制基準における基準地震動の策定手法は見直されていないのですから、上記決定は、論理矛盾を来しているといわざるを得ません。
 
 さらに、本決定は、「あらかじめ判明している活断層と関連付けることが困難な地震マグニチュード7を超えるものが起こる可能性を完全に否定することはできない」とし、「本件原発において燃料体等の損傷ないし溶融に至るような過酷事故が起こる可能性を全く否定するものではないのであり,万が一炉心溶融に至るような過酷事故が生じた場合に備え」なければならないとしています。本決定は、福島原発事故の深刻な被害から何も学ぼうとしない、極めて不当な決定であり、原発周辺住民が事故によって被害を受けることを容認していると言わざるを得ません。
 
 林潤裁判長は、11月13日の審尋期日の際に「常識的な時期」に決定を出すと発言しましたが、私たちが指摘したすべての問題点について正面から検討した上で本日12月24日に決定を出すというのは「常識的な時期」とは到底いえず、年末も押し迫った常識外れなこの時期に出した本決定は、高浜原発3・4号機の再稼働スケジュールに配慮した、結論ありきの決定であると言わざるを得ません。高浜原発3,4号機が再稼働して重大事故を起こした場合、その責任の重要部分は再稼働を許した3人の裁判官にあるということになります。
 
 しかし、私たちは、このような不当決定に負けることはありません。なぜなら、理論的正当性も世論も私たちの側にあるからです。福島原発事故のような事故を二度と招いてはならない、豊かな国土とそこに根を下ろした生活を奪われたくない、子ども達の未来を守りたいという国民・市民の思いを遂げ、ひいては失われた司法に対する信頼を再び取り戻すため、最後まで闘い抜くことをお約束します。
 
2015年(平成27年)12月24日
 
脱原発弁護団全国連絡会、大飯・高浜原発差止仮処分弁護団
共同代表 河合弘之・海渡雄一
(引用終わり)
 
大飯原発3・4号機及び高浜原発3・4号機運転差止仮処分申立人声明
(引用開始)
 司法よ!おまえもか・・・と言わざるを得ない「決定」に対し、強い憤りを覚えました。
 
 しかしながら、わたしたちは決して負けたわけではありません。
司法が、三権分立の砦を守り切れず、政府と原子力ムラに負けてしまっただけのことです。
 
 こんな情けない「決定」を出さざるを得なかった裁判官のみなさんもさぞや、後味の悪い想いに駆られていることでしょう。
裁判官自らが、法の番人であることを放棄し、国民の権利である基本的人権を踏みにじったのですから・・・
裁判官がつけているバッジは、三種の神器のひとつである八咫(やた)の鏡をかたちどったものです。
鏡が非常に清らかで、はっきりと曇りなく真実を映し出すことから、八咫(やた)の鏡は、裁判の公正を象徴しているものと言われています。
福井地裁の裁判官のみなさんのバッジは、きっと曇っていたのかもしれません。
 
 わたしたちの弁護団の意見陳述は、どのような秤ではかろうとも、「正義」であり、科学的根拠に基づいたプレゼンテーションは、関西電力をはるかに凌駕するものでした。
その真実をどのような天秤にかけてはかれば、このような「決定」を下すことができるのか信じられません。
 
 わたしたちは今日この日の「怒り」をエネルギーにして、「正義は勝つ!」その日まで、さらに闘い続けます。
 
 全国からご支援してくださったみなさま
わたしたちの闘いはこれからも続きます。
転んでも転んでも立ち上がり続けることこそが、市民運動であり、草の根運動の真の姿です。福島原発事故を風化させないために、そしてわたしたちの未来を担うこどもたちに「核のない世界」をプレゼントできるその日まで、ともに闘いぬきましょう。
 
 2015年12月24日
 
大飯・高浜原発運転差止仮処分申立人一同
(引用終わり)
 
 当日の裁判所前での旗出し(「司法の責任はどこへ!」「福島原発事故に学ばず!」)及びその後の記者会見&報告集会の模様が、IWJ福井によって中継され、アーカイブ動画が再配信され、今のところ会員でなくても視聴できます。
 
2015/12/24 【福井】「大飯・高浜原発差止仮処分事件決定告知日」福井地裁前の模様および記者会見・報告集会(動画)
 
 なお、12月24日には、樋口コートが判断していなかった大飯原発3号機、4号機に対する運転差し止め仮処分申立てについても、これを却下する決定が出ました。
 
 
 却下の理由は、「本件各申請に係る原子力規制委員会の審査が継続されている限り,本件原発が直ちに再稼働されることはあり得ず」、「少なくとも,同委員会が本件原発について設置変更許可をするよりも前の段階においては,本件原発の再稼働が差し迫っていると認めることはできず,著しい損害又は急迫の危険を避けるため直ちに本件原発の再稼働を差し止める必要があると認めるに足りる特段の事情のあることが疎明されない限り,保全の必要性を肯定することはできないというべきである。」というものでした。
 
 昨年の大飯原発3号機、4号機の運転を差し止めた判決については、被告関西電力控訴によって、名古屋高裁金沢支部で控訴審が続いていますが、今回の福井地裁の決定については、債権者(住民)側が抗告することによって、やはり名古屋高裁金沢支部に闘いの場が移ることになります。
 引き続き、是非注目していきたいと思います。
 
 最後に、大飯原発3号機、4号機の運転差止めを命じた昨年5月21日の「判決」及び今回の決定で取り消されましたが、高浜原発3号機、4号機の運転差止めの仮処分を命じた本年4月14日の「決定」にリンクしておきますので、是非繰り返し参照していただければと思います。
 
 
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2014年5月21日
福井地裁が画期的判決(大飯原発3号機、4号機運転差し止め)
2015年3月12日
高浜原発3号機、4号機の運転(再稼働)を司法が止めるかもしれない~福井地裁決定に注目!

2015年4月14日
2人目の「樋口英明裁判官」よ、出でよ!~高浜原発3、4号機運転差止仮処分命令申立事件決定を受けて
2015年4月16日
高浜原発3号機、4号機差止「決定」を読み込むために

2015年4月22日
仁坂吉伸和歌山県知事の福井地裁判決(大飯)及び決定(高浜)への批判に対し県内団体が抗議を申し入れました
2015年4月23日
続報・仁坂吉伸和歌山県知事の福井地裁判決(大飯)及び決定(高浜)への批判に対する抗議

2015年4月25日
仁坂吉伸和歌山県知事の“先輩たち”~原発事故と交通事故を同列に論じる人々
 
 

(付録)
『#メルトダウン(#高田渡の「値上げ」の替え歌)』 演奏:ヒポポ大王(?)