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「慰安婦」問題についての日韓外相記者発表を読んで歴代総理大臣の「お詫びの手紙」を思い出す

 今晩(2015年12月29日)配信した「メルマガ金原No.2319」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
慰安婦」問題についての日韓外相記者発表を読んで歴代総理大臣の「お詫びの手紙」を思い出す

 昨日(12月28日)午後、ソウルで行われた日韓外相会談において、いわゆる「従軍慰安婦」問題について協議が行われ、その結果を踏まえ、岸田文雄外務大臣尹炳世(ユン・ビョンセ)韓国外交部長官
が共同記者発表を行いました。
日韓外相会談 今回の合意の背景として、米国政府の強い働きかけがあったのだろうということは誰にでも推測のつく
ことですし、それだけではなく、日韓両国政府とも、それぞれ独自の思惑があったことは当然でしょう。
 そして、この重大な「人権問題」が、両国政府間の「合意」だけで解決するなどということは期待し難
いのではないかとか、いわゆる「従軍慰安婦」問題を抱えているのは韓国とだけではないだろうとか(実際、台湾政府はすぐに反応したようです)、色々な問題が直ちに想起されますが、現時点であれこれ論評するのはまだ早いのではないか、とりあえずその内容を確認するにとどめようと思います

 つまり、何を言うにせよ、まずこれだけの文章は最低限読んでおくべきだろうというものに目を通した上で、じっくり考えようという訳です、従って、今日のメルマガ(ブログ)は大半が「引用」です。
 
 外務省ホームページを読んでまず分かるのは、「共同声明」は作られず、日韓両外相が個別に記者発表を行ったということです(同じ会見の席でですが)。
 とりあえず、その両外相の発表内容を読んでみましょう。
 
(引用開始)

(1)岸田外務大臣による発表は,以下のとおり。
 日韓間の慰安婦問題については,これまで,両国局長協議等において,集中的に協議を行ってきた。そ
の結果に基づき,日本政府として,以下を申し述べる。
ア 慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる
観点から,日本政府は責任を痛感している。
 安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身
にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。
イ 日本政府は,これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ,その経験に立って,今般,日本政府の予算により,全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には,韓国政府が,元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し,これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し,日韓両政府が
協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。
ウ 日本政府は上記を表明するとともに,上記(イ)の措置を着実に実施するとの前提で,今回の発表に
より,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。
 あわせて,日本政府は,韓国政府と共に,今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難
・批判することは控える。
(2)尹外交部長官による発表は,以下のとおり。
 韓日間の日本軍慰安婦被害者問題については,これまで,両国局長協議等において,集中的に協議を行
ってきた。その結果に基づき,韓国政府として,以下を申し述べる。
ア 韓国政府は,日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取組を評価し,日本政府が上記1.(1)(イ)で表明した措置が着実に実施されるとの前提で,今回の発表により,日本政府と共に,この問題が最終
的かつ不可逆的に解決されることを確認する。韓国政府は,日本政府の実施する措置に協力する。
イ 韓国政府は,日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じ
て,適切に解決されるよう努力する。
ウ 韓国政府は,今般日本政府の表明した措置が着実に実施されるとの前提で,日本政府と共に,今後,
国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える。
2 なお,岸田大臣より,前述の予算措置の規模について,概ね10億円程度と表明した。
 また,双方は,安保協力を始めとする日韓協力やその他の日韓間の懸案等についても短時間意見交換
を行った。
(引用終わり)
上記同内容・英語版上記同内容・韓国語版(PDF)
 
 さらに、外務省ホームページからもう1つ引用しておきます。昨日夕刻、安倍首相が韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領と行った電話会談の内容を伝えたものです。
 
(引用開始)
 12月28日17時48分から約15分間,安倍内閣総理大臣は,朴槿恵(パク・クネ)韓国大統領と首脳電話会談を行ったところ,概要以下の通り。(日本側から,菅官房長官,萩生田官房副長官,世耕官房副長官
谷内国家安全保障局長,長谷川総理補佐官,齋木外務事務次官ほか同席。)
1 両首脳は,慰安婦問題をめぐる対応に関し,11月の日中韓サミットの機会に行われた日韓首脳会談を
受け,協議を加速化し,今般合意に至ったことを確認し評価した。

(1)安倍総理から,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明した。その上で,慰安婦問題を含め,日韓間の財産・請求権の問題は1965年の日韓請求権・経済協力協定で最終的かつ完全に解決済みとの我が国の立場に変わりないが,今回の合意により,慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に
」解決されることを歓迎した。
(2)朴槿恵大統領から,今次外相会談によって慰安婦問題に関し最終合意がなされたことを評価するとし
た上で,新しい韓日関係を築くために互いに努力していきたいといった発言があった。
(3)両首脳は,今回の合意を両首脳が責任をもって実施すること,また,今後,様々な問題に,この合意
の精神に基づき対応することを確認した。
3 両首脳は,安全保障,人的交流,経済を始めとする様々な分野における日韓協力を強化し,日韓関係
を前に進めていく重要性を確認した。
(引用終わり)
 
 以上は、昨日発表された文章ですが、以下に、この問題についての歴史的文書として、日本人が必ず読んでおくべきだと私が考えるものを引用しておきます。
 これらを一読すれば、昨日の日韓合意が、安倍首相の「歴史的決断」でも何でもないことは誰の目にも
明らかになるはずです。
 まずは、いわゆる「河野談話」から。今から22年前(1993年)、宮澤喜一内閣の官房長官であっ
河野洋平氏により発表されました。
 
慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話
平成5年8月4日

(引用開始)
 いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来たが、今般その結果が
まとまったので発表することとした。
 今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかにな
った。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。
 なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、
総じて本人たちの意思に反して行われた。
 いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。また、そのような気持ちを我が国としてどのように表すかということについては、有識者のご意
見なども徴しつつ、今後とも真剣に検討すべきものと考える。
 われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきた
い。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して
繰り返さないという固い決意を改めて表明する。
 なお、本問題については、本邦において訴訟が提起されており、また、国際的にも関心が寄せられてお
り、政府としても、今後とも、民間の研究を含め、十分に関心を払って参りたい。
(引用終わり)
 
 上記談話において「そのような気持ち(注「お詫びと反省の気持ち」)を我が国としてどのように表すかということについては、有識者のご意見なども徴しつつ、今後とも真剣に検討すべきものと考える。」とされたことの一つの帰結が、アジア女性基金による「償い事業」でしたが、その一環として、歴代内閣総理大臣が、直筆で署名したお詫びの手紙が元「慰安婦」の方々に届けられたことを知る日本人はそう多くはないかもしれません。
 アジア女性基金は2007年に解散しましたが、それ以降も
「デジタル記念館 慰安婦問題とアジア女性基金」というサイトが遺されています。
 同サイトから、「アジア女性基金の誕生と事業の基本性格」を、少し長くなりますが、全文引用したいと
思います(その中に総理大臣によるお詫びの手紙も収録されています)。
 ただし、様々な事情により、韓国では「償い事業」によって「償い金」と総理大臣からの「お詫びの手紙」を受け取った方は少数にとどまりました。その間の事情をアジア女性基金の立場から叙述した文章(各国・地域における償い事業の内容-韓国)もご一読いただければと思います。もちろん、これは基金の立場から見た評価であり、韓国政府や韓国挺身隊問題対策協議会などの支援団体には、それぞれの立場からの主張があったことは言うまでもありません。
 ただ、償い事業を受け容れた韓国人女性が同国人から受けた批判や冷遇を思えば胸が痛みますし、他方、歴代4人の内閣総理大臣が署名した「お詫びの手紙」など無かったかのようなふるまいに及ぶ日本人の姿を見るのも悲しいことです。
 
アジア女性基金の誕生と事業の基本性格
(引用開始)
 基金の成立に対して、韓国政府は「一部事業に対する政府予算の支援という公的性格が加味されており」、「当事者に対する国家としての率直な反省及び謝罪を表明し」、「真相究明を行い、これを歴史の教訓にするという意志が明確に含まれている」とし、これを「誠意ある措置」として歓迎する意向を示しました。他方、運動団体の多くは、日本政府の謝罪と補償を要求し、「民間団体」による「慰労金」支給は受け入れられないと批判しました。その結果、韓国政府の態度もこれに影響を受けました。運動団体はその後問題の本質は戦争犯罪であるとして、法的責任を認めること、責任者を処罰することをもとめるにい
たり、国連人権委員会などでそれらの主張を訴えました。
 国連人権委員会の「女性に対する暴力に関する特別報告者」に任命されたクマラスワミ氏は、1996年1月4日、人権委員会に報告書の付録として「慰安婦」問題に関する北朝鮮、韓国、日本での訪問調査の報告書を提出しました。その中で、「慰安婦」問題を「軍事的性奴隷制」の事例であったとし、日本政府は国際人道法の違反につき法的責任を負っていると主張しました。もっとも、同氏は、日本政府がこの件での道義的責任を認めていることを「出発点として歓迎する」と述べ、アジア女性基金は「『慰安婦』の運命に対する日本政府の道義的配慮の表現」だとしましたが、これによって政府は「国際公法の下で行われる『慰安婦』の法的請求を免れるものではない」と強調しています。日本政府は法的責任を認め、補償を行い、資料を公開し、謝罪し、歴史教育を考え、責任者を可能な限り処罰すべきだというのが同報告書の勧告
でした。(全文はこちら)
 このような状況の中で、初期の「基金」は、呼びかけ人、理事、運営審議会委員の三者が一つになって、「基金」の事業の骨格を作り上げるための討論を重ねました。その上で政府の関係者との話し合いもへて、「基金」の事業の基本が決められたのです。それが明確に定式化されたのは、1996年9月に出された「
アジア女性基金」のパンフレット第2号においてです。
 まず、アジア女性基金は日本政府が「慰安婦」問題に対する道義的責任を認め、反省とお詫びを表明したことに基づいて、国民的な償いの事業を政府との二人三脚によって実施するものであることが明確にされました。その事業は、当該国や地域の政府、ないし政府の委任による民間団体が認定した元「慰安婦
の方々に対して実施されます。
 国民的な「償い事業」は三本の柱からなっています。
 第一は、総理の手紙です。手紙は、「慰安婦」問題の本質は、軍の関与のもと、女性の名誉と尊厳を深く傷つけたところにあるとして、多くの苦痛を経験し、癒しがたい傷を負われたすべての人々に対し、道義的な責任を認め、心からのお詫びと反省を表明するとしています。また歴史を直視し、正しく後世に伝えることを約束しています。基金は、この手紙を元「慰安婦」の方々お一人おひとりにおわたしします。それに加えて基金としては、政府と国民の立場が一層はっきりと被害者につたえられるように「基金」理事長の手紙をそえることにしました。
 
【元「慰安婦」の方への総理のおわびの手紙】
拝啓
 このたび、政府と国民が協力して進めている「女性のためのアジア平和国民基金」を通じ、元従軍慰安
婦の方々へのわが国の国民的な償いが行われるに際し、私の気持ちを表明させていただきます。
 いわゆる従軍慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題でございました。私は、日本国の内閣総理大臣として改めて、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを申し上げ
ます。
 我々は、過去の重みからも未来への責任からも逃げるわけにはまいりません。わが国としては、道義的な責任を痛感しつつ、おわびと反省の気持ちを踏まえ、過去の歴史を直視し、正しくこれを後世に伝えるとともに、いわれなき暴力など女性の名誉と尊厳に関わる諸問題にも積極的に取り組んでいかなければな
らないと考えております。
 末筆ながら、皆様方のこれからの人生が安らかなものとなりますよう、心からお祈りしております。
                                    敬具
平成8(1996)年
日本国内閣総理大臣 橋本龍太郎
(歴代署名:小渕恵三森喜朗、小泉 純一郎)
 
【元「慰安婦」の方への理事長の手紙】
謹啓
 日本国政府と国民の協力によって生まれた「女性のためのアジア平和国民基金」は、かつて「従軍慰安
婦」にさせられて、癒しがたい苦しみを経験された貴女に対して、ここに日本国民の償いの気持ちをお届
けいたします。
 かつて戦争の時代に、旧日本軍の関与のもと、多数の慰安所が開設され、そこに多くの女性が集められ、将兵に対する「慰安婦」にさせられました。16、7歳の少女もふくまれる若い女性たちが、そうとも知らされずに集められたり、占領下では直接強制的な手段が用いられることもありました。貴女はそのような
犠牲者のお一人だとうかがっています。
 これは、まことに女性の根源的な尊厳を踏みにじる残酷な行為でありました。貴女に加えられたこの行為に対する道義的な責任は、総理の手紙にも認められているとおり、現在の政府と国民も負っております
。われわれも貴女に対して心からお詫び申し上げる次第です。
 貴女は、戦争中に耐え難い苦しみを受けただけでなく、戦後も50年の長きにわたり、傷ついた身体と残
酷な記憶をかかえて、苦しい生活を送ってこられたと拝察いたします。
 このような認識のもとに、「女性のためのアジア平和国民基金」は、政府とともに、国民に募金を呼び
かけてきました。こころある国民が積極的にわれわれの呼びかけに応え、拠金してくれました。そうした
拠金とともに送られてきた手紙は、日本国民の心からの謝罪と償いの気持ちを表しております。
 もとより謝罪の言葉や金銭的な支払いによって、貴女の生涯の苦しみが償えるものとは毛頭思いません。しかしながら、このようなことを二度とくりかえさないという国民の決意の徴(しるし)として、この
償い金を受けとめて下さるようお願いいたします。
 「女性のためのアジア平和国民基金」はひきつづき日本政府とともに道義的責任を果たす「償い事業」のひとつとして医療福祉支援事業の実施に着手いたします。さらに、「慰安婦」問題の真実を明かにし、
歴史の教訓とするための資料調査研究事業も実施してまいります。
 貴女が申し出てくださり、私たちはあらためて過去について目をひらかれました。貴女の苦しみと貴女
の勇気を日本国民は忘れません。貴女のこれからの人生がいくらかでも安らかなものになるようにお祈り申し上げます。
平成8(1996)年
財団法人女性のためのアジア平和国民基金
理事長 原文兵衛
(歴代署名:村山 富市)
 
 第二は、元「慰安婦」の方々への国民からの「償い金」の支給です。国民からの募金に基づいて、一人あたり200万円をお渡しするものです。
 第三は、医療福祉支援事業です。これは日本政府が道義的責任を認め、その責任を果たすために、犠牲者に対して5年間で総額8.3億円の政府資金により医療福祉支援事業を実施するものだとの位置づけがあたえられました。この規模は、各国・地域の物価水準を考慮にいれてきめました。韓国と台湾については一人あたり300万円相当、フィリピンについては120万円相当とさだめられました。方式のちがうオランダで
も、一人あたり300万円相当となりました。 
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2013年6月1日
“慰安婦”問題を考える様々な視点(たとえば「アジア女性基金」)