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年末雑感 「左遷人事」ということ

年末雑感 「左遷人事」ということ
(Facebookのタイムラインに投稿したものをもとに「あしたの朝 目がさめたら(弁護士・金原徹雄のブログ 2)」に掲載したものをそのまま転載します/2015年12月31日)
 
 福井地裁民事部部総括判事として、2014年5月21日に大飯原発3、4号機運転差し止めの判決を出し、本年4月14日に高浜原発3、4号機の運転を差し止める仮処分決定を出した樋口英明裁判官(本年4月から名古屋家裁部総括判事)について、「とばされた」とか「左遷人事」とかいうことが、今さらのようにSNSで取り沙汰されているのは、12月24日に再稼働促進のためとしか思えない絶妙のタイミングで仮処分決定を取り消す決定が福井地裁林潤裁判長)で出たからでしょう。「左遷人事」という評価が間違いだという訳ではないのですが、何となく違和感があります。・・・ということを、「左遷人事」の記事をシェアしていた「友達」へのコメントとして書き始めたところ、思いのほか長くなってしまったので、コメントは中止し、自分のタイムラインに書き込むことにしました。
 
 以下の「雑感」を読む前提として、樋口英明裁判官の経歴を確認しておいてください。
 
 
 今年4月の樋口英明裁判官の人事を考えるのであれば、以下の3点は押さえておくべきかと思います。
① 樋口裁判官が名古屋地家裁半田支部長から福井地裁民事部部総括判事に転任したのは2012年4月でした。地裁本庁の部長クラスが3年で転勤になるということ自体はごく当たり前の人事で、4年だと少し長い、5年だと「何かあったの?」ということになります。
② 転勤先の名古屋家裁(部総括判事)というのは、間違っても原発裁判を担当することはありませんので、最高裁事務総局の意向がそういう点に働いているのではないか、ということが「左遷人事」という評価を生んでいるのでしょうが、樋口裁判官の過去の経歴、特に和歌山地家裁田辺支部を含め、過去3箇所も支部勤めをしていますので(1983年の任官以来32年間の裁判官生活の中でトータル11年間が支部暮らし)、もともとエリートコースに乗っていたとは言い難く、おそらく定年前の最後、もしくは最後の1つ手前の勤務地としての名古屋家裁というのは、原発裁判などなければ、誰も不思議に思わなかった可能性があります。
③ 裁判官の定年は65歳なので、樋口さんも多分あと2年ほどで退官でしょうが、定年が近付くと、出身地の近くの裁判所に配属するという配慮を人事で示すことがあります。樋口裁判官はたしか三重県の出身だったと思います。
 
 私も、「左遷人事」かどうかはともかく、最高裁が、樋口さんに「定年まで世間を騒がせるような判決など出さず、家裁でおとなしくしていて欲しい」と思って配属先を名古屋家裁にしたのではないかとは疑っています。このクラスの裁判官を今さらどこかの支部の支部長にとばす訳にもいかず(露骨な降格人事になってしまう)、かといって、高裁の右陪席では裁判長よりも年上になってしまってまずいし(高裁の裁判長は地裁の所長を務めたクラスの裁判官がなります)、やはり家庭裁判所、それも出身地に近くて格が高い名古屋家裁の部総括判事しかないな・・・と最高裁が考えたのではないか?というのがとりあえずの私の推測です(もちろん確証など得られるはずがありません)。これを「左遷人事」と言うかどうかは人それぞれでしょうが、はたして樋口裁判官自身が「左遷人事」と思っていますかね。私が樋口裁判官なら、福井地裁部総括判事時代に、裁判官としての良心に恥じない判決(大飯)と決定(高浜)が出せて本望だと思うでしょう。・・・というのがとりあえず私の年末の雑感です。