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放送大学で学ぶ“貧困”~「貧困と社会('15)」(西澤晃彦神戸大学大学院教授)受講の奨め

 今晩(2016年1月30日)配信した「メルマガ金原No.2351」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
放送大学で学ぶ“貧困”~「貧困と社会('15)」(西澤晃彦神戸大学大学院教授)受講の奨め

 2015年10月に「日本美術史('14)」試験問題無断削除掲載事件が発覚したため、現役の放送大学学生の身でありながら、黙ってはいられず、大学執行部を批判する記事を2本も書くことになってしまいましたが(巻末参照)、本来であれば、今日書くような記事だけを書いていたかった、というのが正直な気持ちです。
 
 放送大学(学部は教養学部のみで大学院もあり)の講義は、テレビ科目またはラジオ科目として提供され(インターネット授業というのも始まりましたが)、いずれも45分授業×15回で構成されています
 正式に受講して単位を取得するためには1科目あたり11,000円の授業料が必要ですが(テキスト代込み)、BSデジタル放送(テレビ231チャンネル、ラジオ531チャンネル、いずれも無料)やケ
ーブルテレビを視聴できる環境にある方であれば、入学することなく、視聴することが可能です。
 
 ただし、放送大学の学生であれば、(受講登録していない科目であっても)ラジオ科目は全科目、テレビ科目もめぼしいものはほとんどが、インターネットによるオンデマンド配信でも視聴できますが、学生でない方は、BSもしくはケーブルテレビで、番組表で確認できる放送時間にしか視聴できません(まあ、仕方ないですよね)。
 
 私は、一度入学金を払えば10年間在籍できるという権利をフルに活用するつもりなので、半期(年2学期制)に放送授業2科目、面接授業1科目というまことにゆったりしたペースで受講していますが(10年間このペースでは卒業できません。入学当初に少し頑張ったのです)、すぐには受講登録をしない科目でも、録音、録画して、視たり聴いたりして勉強しています・・・と言うか、楽しんでいます。
 そして、そのように録画・録音して内容を確認した上で、感心した、あるいは興味を引かれた科目を次学期に受講登録することも珍しくありません。
 
 現在、教養学部では、平成28年4月入学生の募集を行っているところですが、在学生である私は、2月13日~29日(WEBの場合)の科目登録申請に備え、次学期にどの科目を登録しようかと考えつつ、4月から新規開講される科目のどれを録画・録音しようかと頭をひねるという、これが結構楽しい時期なのです(今学期の単位認定試験も終わりましたしね)。
 
 さて今日は、私が絶対に次学期に登録しようと考えている科目を皆さんにご紹介しますので、入学して科目登録しないまでも(半年間在籍の科目履修生や1年間の選科履修生もありますが)、BSデジタル放送やケーブルテレビを視聴できる環境にある方には、是非、録音(ラジオ科目ですから)して全15回を聴いて学んでいただきたいとお勧めしようと思っているのです。
 その科目というのは、平成27年4月に開講した「貧困と社会」です。
 
放送大学教養学部 生活と福祉コース 導入科目
「貧困と社会('15)」
主任講師 西澤晃彦客員教授神戸大学大学院教授)
放送メディア ラジオ(BS531チャンネル)
放送時間(平成28年度) 第1学期:(木曜)8時15分~9時00分
シラバス
シラバスPDF版
 
 以下に、少し長くなりますが、シラバスを読んでいただきたいと思います。
 なお、15回の講義の全てを、主任講師の西澤晃彦神戸大学大学院(国際文化学研究科)教授が担当しています。
 
シラバスから引用開始)
講義概要
貧困という現象に対して、社会学的にアプローチする。
貧困は、いつも、低い生活水準以上の意味をもって貧者に体験されている。彼ら彼女らは、貧困によって
関係とアイデンティティを不確かなものにしている。そのことこそ、貧困体験の中核的要素とさえいえる。また、貧困は、いつも自動的に社会問題として認知されてきた訳ではなかった。貧者が同じ社会の一員として想定され、有形無形、直接間接の交換や贈与が開始されることで、ようやく貧困は「われわれ」の問題になる。貧困は、社会という拡がりがどう想像されるのか――社会が誰を排除し誰を迎え入れるのか――によって、解決されるべき問題とみなされたり放置されたり時には貧者が敵視されたりする。貧困と社会の関係あるいは社会の中の貧者について、できるだけ具体的に論じていきたい。
 
授業の目標
この授業を、政策論や援助技術論「以前」のところで、貧困を静かに考える機会にしたいと思う。なぜ彼はあのように言うのか、なぜ彼女はあのようにふるまうのか、そうしたことには必ず理由がある。それを理解する手掛かりと構えを身につけることを目標とする。
 
履修上の留意点
自らの様々な記憶を掘り起こしながら、また、想像力を発揮させつつ、「私たち」の問題として思考して
ほしい。
 
1 イントロダクション~社会とは何であるのか~
社会福祉社会保険社会保障、あるいは社会主義や社会運動。なぜ、それらは「社会」と冠せられなければならないのか。このことの意味を検討しながら、私たちが社会という拡がりを想像することの根底には社会問題としての貧困があることを示す。15回を通してたびたび登場するいくつかの概念についても
概説する。
【キーワード】貧困、社会、社会問題
 
2 貧困の個人化~貧苦の意味の変容~
貧しさゆえの苦しさは「ずっとあった」といえるものなのだろう。しかし、近代は、貧しさゆえの苦しさ―貧苦―を、「貧しい私」という存在の耐え難さというヴェールを通して、私たちに感覚させるよう
になった。そのような貧困体験の質的変容をもたらした近代空間の成立過程について述べる。
【キーワード】近代化、個人化、都市下層
 
3 貧困の隠蔽~「文明化」される社会~
国家的な「文明化」の企ては、多くの貧困層を公教育という回路を通じて内部化しつつ、それになじまない非組織・非定住・非家族の人々を排除しその不可視化をすすめた。この過程は、それ以降の日本の貧困層のあり方を決定づけることになる。明治・大正・昭和初期の、貧困層への排除と包摂について検討する

【キーワード】文明化、国民国家、都市下層
 
4 貧困の忘却~「豊かな社会」の陥穽(かんせい)~
総貧困状態としての敗戦直後から、「総中流の神話」へ。その過程を通じ、貧困は積極的に忘却され無意識へと沈められていった。そうした時代にも無論貧困はあった。高度経済成長期における貧困層のあり様
についても述べたい。
【キーワード】集合的無意識、中流社会
 
5 貧困の犯罪化~新自由主義の刻印~
高度経済成長後、忘却は攻撃へと転回する。「生活保護の不正受給」をめぐる議論の変遷と政府の対応の
流れをたどりながら、日本における「貧困の犯罪化」(Z・バウマン)過程を検討する。
【キーワード】貧困の犯罪化、新自由主義
 
6 貧困の再発見(1)~格差から貧困へ~
経済のグローバリゼーションとそれにともなう政策変更の帰結として、一国内の中心-周辺格差、都市部における社会的分極化は加速された。それとともに貧困層は量的にも増大した。再発見された貧困を「新しい」現象としてではなく、質的に連続したものとして論じる。世紀をまたいだ格差社会論争の限界を踏ま
え、社会的排除という視点の重要性について確認する。
【キーワード】グローバリゼーション、格差社会社会的排除
 
7 貧困の再発見(2)~誰が排除されているのか~
貧困層は、社会的に排除されてまたカテゴリカルに分断されて各々の現実を生きている。生活保護受給者、単身(高齢)世帯、母子世帯、若年貧困層、野宿者(ホームレス)、外国人労働者、そうしたそれぞれ
の現実を貫いてある、排除のメカニズムについて論じる。
【キーワード】社会的排除、マイノリティ
 
8 子どもの貧困
ようやく子どもの貧困は論じられるようにはなったが、社会的にも政策的にも反応は乏しい。ここでは、
親から子への貧困の継承過程――貧困の再生産――を中心としつつ、子どもの貧困への社会的無関心の背
景についても議論する。
【キーワード】子ども、貧困の再生産
 
9 若者の貧困
二一世紀に入って、「若者の貧困」が大きく論じられるようになった。若年貧困層の現状を把握するとと
もに、関係とアイデンティティの問題として彼ら彼女らの貧困にアプローチする。
【キーワード】社会的排除アイデンティティ、承認、場所の空間
 
10 貧困の空間社会学(1)~漂泊する人々、しゃがみこむ人々~
地域社会から切断された空間を流動する人々。その一方で、そのような寄る辺ない暗い海にこぎ出すこと
ができず、しゃがみこむ人々。地理的な移動という観点から、貧困を捉え返す。
【キーワード】地理的移動
 
11 貧困の空間社会学(2)~「地方」はどこへ行くのか~
戦後の「中央」と「地方」の関係を踏まえつつ、また、「地方」における人口と経済の動向を押さえなが
ら、「地方」における貧困について考察する。
【キーワード】中央と地方、人口減少
 
12 貧困の空間社会学(3)~分断される大都市~
グローバル経済の影響のもと、大都市社会が中間層を縮減させつつ二極化することが指摘されてきた。そ
うした議論と人口動向を踏まえ、今日的なそして今後の大都市における貧困層のあり様について述べる。
【キーワード】グローバリゼーション、大都市、社会的分極化、郊外
 
13 貧困という体験(1)~貧者の社会的世界~
80年代以降になされた貧困層社会学的研究は、ばらばらにジャンルわけされており、直接に貧困の意味を問うものではなかったが、そこにおける知見は、貧困という体験が人に何をもたらすのかについて多くの示唆を与えてくれている。寄せ場外国人労働者、野宿者(ホームレス)などの研究を読み、貧困体験
が人々の関係世界をどのようなものにするのかを考察する。
【キーワード】社会的世界、都市下層
 
14 貧困という体験(2)~貧者のアイデンティティ
13回に引き続き、貧困体験が人々の内面世界にもたらす刻印について論じたい。貧者におけるアイデンテ
ィティの構築過程とたえざる危機について述べる。
【キーワード】アイデンティティ、都市下層
 
15 貧困と社会
これまでの議論を踏まえながら、「社会的なもの」の現状と今後について大胆に考えてみたいと思う。
【キーワード】社会、社会的なもの

(引用終わり) 
 
 私は、この全15回の講義を録音し、MD(古い!)にダビングして車の中で聴きました。とても感銘
を受けました。
 「貧困という現象に対して、社会学的にアプローチする。」という、シラバスの最初に書かれ、第1回
の講義でも語られたことが、全15回の講義でどのように貫徹されているのかという関心をもって聴いていたのですが、法学部出身で社会学の素養などほとんど持たない私にも、「社会学的にアプローチする。
」とはどういうことか?を感得させてくれる、歯ごたえのある、それでいて分かりやすい講義でした。
 放送大学の講義には、複数の講師が分担する科目と、主任講師が1人で全部の授業を担当する科目とがあり、前述したとおり、「貧困と社会('15)」は後者なのですが、1人の講師の視点から捉えた一貫性のある貧困問題についての見取図が提示されることにより、受講生の理解がより深いところまで到達できるのだと思いました。もちろん、そのことは、主任講師の説を鵜呑みにするということではなく、見聞を広げて自ら思考するための土台とするという趣旨であることは言うまでもありません。
 
 このように体系的に貧困問題を学べる優れた講義が、(BSデジタル放送やケーブルテレビが視聴できればですが)無料で聴講できるというのは得がたい機会だと思いますので、そのような環境のある方に是非視聴をお勧めしたいと思います。
 あらためて、「貧困と社会('15)」の放送時間をご紹介しておきます。
 
【平成27年度(2015) 第2学期 集中放送授業期間】
2016年2月6日(土)~2月20日(土) 
午前6時00分~6時45分 全15回集中放送
 
【平成28年度(2016年) 第1学期】
2016年4月7日(木)から毎週木曜日の
午前8時15分~9時00分 全16週で15回まで放送(GW中は1回休み) 
 
※放送授業科目の視聴・聴取方法、録画・録音方法についてはこちらをお読みください。
  
(参考書籍)
『貧者の領域―誰が排除されているのか』 

『貧困と社会 (放送大学教材)』 
 
貧困と社会 (放送大学教材)
西澤 晃彦
放送大学教育振興会
2015-03


(付記 2016年度新規開講科目について)
 2016年第1学期(4月~)に新規開講される科目については、もちろんまだ放送されていませんの
で、その感想を述べる訳にはいきませんが、公開されているシラバスを眺めながら、その内容を想像する
のも楽しみなことです。
 ただ、私が興味を持っている科目を挙げだすときりがありませんので、ここでは1科目だけ、「貧困と
社会('15)」と関連する科目をご紹介しておきます。
 私も、まずは録画の上視聴してみて、いずれ、科目登録するかもしれません。
 
放送大学教養学部 社会と産業コース 専門科目
「移動と定住の社会学('16)」
主任講師
 北川由紀彦准教授(放送大学准教授)
 丹野清人客員教授首都大学東京教授)
放送メディア テレビ
放送時間(平成28年度) 第1学期:(火曜)20時00分~20時45分
講義概要
近代社会の特徴の一つは、人の「移動」である。本科目では、現代社会を、人の移動と定住という観点から社会学的に解読していく。具体的には、海外からの移住労働者、国内における都市移住・出稼ぎ者、「ホームレス」などの住居喪失者といった人々に注目し、そうした人びとが生み出される構造的な背景や彼
ら・彼女らをとりまく諸問題について、社会学の研究成果等を参照しながら、論じていく。
シラバスシラバスPDF版 
 

(付録)
『Don't mind (どんまい)』 作詞・作曲:ヒポポ大王 演奏
:ヒポポフォークゲリラ