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「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「南シナ海―警戒監視のための自衛隊派遣をどう見るか」②テキスト編(付・札幌シンポ(1/30)の動画紹介)

 今晩(2016年2月14日)配信した「メルマガ金原No.2366」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「南シナ海―警戒監視のための自衛隊派遣をどう見るか」②テキスト編(付・札幌シンポ(1/30)の動画紹介)
 前回は2時間39分に及ぶ動画をご紹介したのですが、今回は、2月9日に同会ホームページにアップされたテキスト(文字起こし)のご紹介です。
 動画を再掲するとともに、テキストにリンクをはっておきますのでご活用ください。
 
シンポジウム 新安保法制の予想される発動事例の検証①
南シナ海―警戒監視のための自衛隊派遣をどう見るか
2015年12月22日@東京・岩波セミナーホール
 
動画(2時間39分)
 
(各登壇者の発言から抜粋引用開始)
 日本は社会保障費が膨らんでくる。財政赤字がある。その中で中国と競って軍拡をやっていくという余裕はおそらく経済的にないでしょう。そうすると、方策としては最大の軍事力を持った米国との同盟を強化する以外にないのではないか。しかし安保法制が出来る前の状態では、例えば米艦を中国の弾道ミサイルが攻撃する、あるいはグアム島に飛来する、共同作戦をやっている米艦に対して潜水艦が攻撃をした場合、海上自衛隊の艦はそれを探知し、反撃出来る能力があるにも関わらず、集団的自衛権の行使ができませんから反撃出来ない。こうしたことを改善して同盟を強化しようというのが今回の安保法制の最大の眼目ではないか、要するに日米安保体制を強化するというのが目的であろうと思います。したがって安保法制に関しては、限定的ではありますが集団的自衛権を行使出来るようになったというのが大きな進歩だと私は思っています。
 最後に、日米同盟の強化以外にどういう方策があるかと言えば、他の海洋諸国と連携して中国を孤立に追い込むということがあります。中国の人工島の造成と軍事化に歯止めをかける数少ない方策の一つが、中国の国際的孤立です。
 
 中国の担当部局はDNAのように失われた領土、領海を取り戻していくということを固く心に誓った存在だということを忘れてはなりません。この人たちはリソース(目的達成のために必要な要素)があれば多分やるだろう。ずっとチャンスを狙っていて、チャンスが来た時には機を逃さずに掴む人たちですから、放っておくとやるんだろうという気がします。そうすると、やらせないというのがすごく大事なことで、例えば、中国が予算を増やすきっかけに使われるような「挑発」を我々の側はしない、そういう隙を作らないということが大事ではないかと思っています。
 最後に、日本は南シナ海でどうすればいいのかということですが、私は専門家ではないものですから通
り一遍のことしか知恵として出てきません。
 ただ私は、アメリカの「南シナ海のエアパトロールをやってね」という期待の表明について、米軍はどこまで本気で真剣にこの問題を考えた上でそう言っているのかということに少し不信感を持っています。
ブログに書いたのもその話です。
 私は中国と付き合っているうちに、「自分が中国だったらどういうことを考え、何をするか」を考える癖がついたんです。そこで、南シナ海の問題で、中国が「日本の行動は絶対に許し難い、何としても止めさせたい」と思ったら何を仕掛けてくるかを考えてみると、私はやはり「日米の側が中国にやられて一番
嫌なことをやる」のが一番効くんだろうと思うんです。
 つまり、南シナ海ではなく東シナ海でまた「日中一触触発」のような緊張が高まるとか、日本が埋立(
護岸強化)した南鳥島で領海に侵入しまくるとか、日本の領海で中国との武力衝突が起きるかもしれないという事態を突きつけていくことが一番嫌がられて、一番効果的なことだと中国人は考えるのではないか
と思うわけです。
 米軍は自らの負担を軽くしたいから日本に「南シナ海のパトロールをやってね」と言っている訳ですが、それがきっかけで日中が軍事衝突したら負担軽減どころか一番困るわけです。もし中国が「日本にそんなことをやらせるんだったら、東シナ海で日中の武力衝突も辞さずだ」という態度をとったら、アメリカ
は日本に対して「それでもいいから頑張って南シナ海のパトロールを続けてくれ」とは言わないのではないか、「パトロールはもういいわ」と言い出しかねないんじゃないか、どこまで本気で真剣にこの問題を考えた上で日本にパトロールを求めているのか…「少し不信感を持っている」というのはそういうことで
す。
 だとすると、その程度の話で自衛隊員の命を危険に晒すなんていうのは馬鹿馬鹿しい話なのではないかという気もしてくるわけです。
 
 1988年には南シナ海海戦(西沙諸島の戦い)がベトナムと中国の間で起きていて、船が沈められてベトナム兵が100名近く死亡するという海戦も起きています。それによって、中国はかろうじて7、8つの島を現状で押さえている。それも島ではなくて暗礁です。そこを広げているということです。
 ですから中国の人工島というのは、実効支配の住み分けが2002年以来崩れていない中で、その自分たちの持っているところを広げていると。つまり、中国が実効支配した場所というのは、そのままでは人が住
めないようなところなんです。
 人工島の埋め立てについて、フィリピンなどは「南シナ海行動宣言」の趣旨に反すると言っているわけ
ですが、「南シナ海行動宣言」の文章を読むと、大事なのは1番目の信頼構築を目指すというところと、3番目の平和的手段で解決するということ。もう一つ大事なのは、4番目の占有されていない島や岩礁上
への居住などの行為を控え、領有権争いを紛糾、拡大させる行動を自制するということです。
 中国は、まだどこも取っていない浅瀬を新たに取って人工島を造っているわけではない。既に実効支配
していたところを広げているという状況です。
 ですから私の認識としては、確かに中国の海洋戦略や軍事基地化は脅威ですが、中国はギリギリまだ「南シナ海行動宣言」の枠内に留まっていると思います。日本やアメリカも含めて、この地域で挑発的な軍事行動をすることは、少なくとも2002年以降、ギリギリ紛争回避がされてきたこの地域の微妙なバランスを崩しかねないのではないかという危惧を持っています。
 
 今後、米中が対立していった場合は、単純に考えれば、太田さんがおっしゃったように日米同盟を強化していくということになるんでしょうけれども、どう考えてもそんなに単純に米中が対立するとは思えないんです。
 やはり、米中を野合させないけれども、対立もさせないという微妙なバランスを、日本の外交がどのよ
うにとっていけるかということが問題だと思います。日本の戦略として、日米同盟の巻き込み戦略つまり尖閣問題が起こったら、とにかくアメリカを巻き込むんだという、おそらく安倍さんの戦略の一つはこれ
なんだろうと思っています。
 逆に、日本は巻き込まれないようにする戦略も取っていかないといけないと思います。南シナ海に対し
て、米軍が自衛隊の派遣を要請したら、それでなくても艦艇も飛行機も足らない時にそんなところに出し
てどうするんだと言ってなるべく断ることが必要と思います。
 ちなみに、安倍さんが南シナ海も含めたアジアに対してどのような戦略をとろうとしているのかを示唆する出来事がありました。数日前ですけれども、インドとの協定を結んでいるんです。事実上の準軍事同盟をインドと結んでしまったということです。オーストラリアとも同じような協定を結んで、準軍事同盟
化しています。2012年12月に安倍さんが「デモクラティック・セキュリティ・ダイヤモンド」構想というのを打ち上げて、インド、オーストラリア、アメリカ(ハワイ)、日本を結ぶダイヤモンド形を形成して、その地域の平和と安定を守っていくんだと言っています。南シナ海問題も、安倍政権はこの構想の観点
から考えているのかな、ということを少し考えています。
 南シナ海問題とは若干外れますけれども、平和大国戦略の復活を目指せというのが一貫した私の主張です。私たちの国は、もう二度と経済大国にもなれないし、技術大国にもなれません。これからずっと中国の後塵を拝していくことだけは確かです。技術大国になれないというのはほぼ決定的です。現在日本にあるスーパーコンピューターは40台ぐらいです。中国は100台を超えています。アメリカは200台です。これからも中国はスーパーコンピューターを増やし続けます。日本にはおそらくそれほどの余力はありません。つまり、10倍の速さ、10倍の規模で中国が発展している。もちろん、そう単純にはいかないにしても、
いずれにせよ将来日本が経済力で中国を抜く日は来ないだろうと思います。
 日本が中国に勝ることが出来るとするならば、それはたった一つしかありません。世界正義――この場合、憲法9条ですけれども――、に基づく平和大国への再興、復活を世界にアピールすること以外に、日本が中国に対してある意味での影響力、政治的優位、あるいは倫理的優位といったものを維持し、そして取り返すことはできないだろうと思っています。
 
 一言余計なことを言いますと、先ほどの太田さんの資料の中で、省略されておっしゃったんだと思うんですが、自衛隊による米艦防護について、自衛隊法95条の2で防護対象は日本の防衛に従事すると簡略化されてご説明されましたけれども、確か条文は、日本の防衛に資する活動に従事しているということで、読み方によっては共同訓練も対象になるように読めるということ、あるいはミサイル発射時の近海での情報収集活動なんかも入るということで、折角だから、今、航行の自由作戦を日米共同で自衛隊法95条の2を使ってやるというのは―法施行は来年(2016年)3月ですが―、よほどその後の展開についての政治的なコントロール、始めることはいいとしても拡大をどう防ぐかというメカニズムをしっかり作った後でないと、結構使い方は難しい、かえってまずい結果になりかねないなという危惧を持っております。
 
 南シナ海問題は中国の問題だけではないわけです。石山さんが言うように、フィリッピンベトナムの占拠が入り乱れている。中国の進出は、どちらかというと後発です。こういうところにアメリカが航行の自由の実力行使をリーガル・インスツルメントとしてやってきた。すわっ軍事衝突か、という日本社会の反応は、少し水がさされるべきでしょう。
 もうひとつ。国際法の観点から考えるならば、こういう領土係争が即“戦争”に直結するか。エスカレ
ートして直結する場合もありましたが、国連の誕生、つまり、「武力の行使」について、どんな超大国でも、個別的・集団的自衛権そして集団安全保障のどれかから言い訳を探さなければならなくなった、つまり、戦争を違法化しようとする人類の営みがやっとここまで到達したレジュームの中に我々はいる、もしくは、それをなんとか維持しようとするレジュームの中に我々はいることを根底に考えた場合、最初は“民事”を装う現代の領土係争において、日本、国際法的には敵国条項により「武力の行使」に関しては最
も気をつけなければならいない我国が、どういう戦略を持つべきか、よく考える必要があります。
 我々はアメリカの陣営にいますから、なにがなんでも中国がおかしいと言えるかもしれませんが、国際
法の根幹が国連憲章であるとすれば、その頂点に立つのは中国を含む戦勝五大国なわけですね。
(引用終わり)
 
 自衛隊を活かす会は、前回も予告したとおり、1月30日(土)に札幌市において、「南スーダン─。駆けつけ警護で自衛隊はどう変わるのか」というシンポジウムを開催し、その動画がアップされていますのでご紹介しておきます。テキストがアップされたら、いずれまたご紹介しようと思いますが、このシンポの5日後(2月4日)の衆議院予算委員会において、日本共産党志位和夫委員長が基本質疑に立ち、この問題を厳しく追及したことが思い起こされます(国連PKOの変質を追及した志位和夫日本共産党委員長(1/27本会議&2/4予算委員会/2016年2月5日)。
 まだ、このシンポの動画を視聴する時間がとれていませんが、いずれじっくりと学ばせてもらうたいと
考えています。
 
シンポジウム 新安保法制の予想される発動事例の検証②
スーダン─。駆けつけ警護で自衛隊はどう変わるのか
(2時間52分)
2016年1月30日@札幌国際ビル国際ホール