今晩(2016年3月6日)配信した「メルマガ金原No.2387」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
2016年2月29日 勝俣恒久東京電力会長ほか2名が業務上過失致死傷罪で起訴された

 1週間前の月曜日(2016年2月29日)、昨年7月17日に東京第五検察審査会が、検察審査会法第41条の6第1項の議決をした東京電力福島第一原子力発電所における事故に係る起訴議決事件について、検察官の職務を行う指定弁護士は、勝俣恒久東京電力会長ほか2名を業務上過失致死傷罪(平成25年法律第86号による改正前の刑法2111条1項前段)で東京地方裁判所に公判請求(起訴)しました。
 
 
 起訴状の要旨を引用しておきます。
  HTML(News fot the People in Japan)
  PDF(福島原発告訴団)
 
(引用開始)
第1 被疑者
 1 勝 俣 恒 久(75歳)
 2 武 藤   栄(65歳)
 3 武 黒 一 郎(69歳)
 
第2 公訴事実の要旨
 被告人3名は、東京都千代田区に本店を置く東京電力株式会社の役員として、同社が、福島県双葉郡大熊町に設置した発電用原子力設備である福島第一原子力発電所の運転、安全保全業務等に従事していた者であるが、
 いずれも各役職に就いている間、同発電所の原子炉施設及びその付属設備等が、想定される自然現象により、原子炉の安全性を損なうおそれがある場合には、防護措置等の適切な措置を講じるべき業務上の注意義務があったところ、
 同発電所小名浜港工事基準面から10メートルの高さの敷地を超える津波が襲来し、その津波が同発電所の非常用電源設備等があるタービン建屋等へ浸入することなどにより、同発電所の電源が失われ、非常用電源設備や冷却設備等の機能が喪失し、原子炉の炉心に損傷を与え、ガス爆発等の事故が発生する可能性があることを予見できたのであるから、
 同発電所に10メートル盤を超える津波の襲来によってタービン建屋等が浸水し、炉心損傷等によるガス爆発等の事故が発生することがないよう、防護措置等その他適切な措置を講じることにより、これを未然に防止すべき業務上の注意義務があったのにこれを怠り、
 防護措置等その他適切な措置を講じることなく、同発電所の運転を停止しないまま、漫然と運転を継続した過失により、
 平成23年3月11日午後2時46分に発生した東北地方太平洋沖地震に起因して襲来した津波が、同発電所の10メートル盤上に設置されたタービン建屋等へ浸入したことなどにより、同発電所の全交流電源等が喪失し、非常用電源設備や冷却設備等の機能を喪失させ、これによる原子炉の炉心損傷等により、
1 同年3月12日午後3時36分ころ、同発電所1号機原子炉建屋において、水素ガス爆発等を惹起させ、同原子炉建屋の外部壁等を破壊させた結果、3名に、これにより飛び散ったがれきに接触させるなどし、よって、そのころ、それぞれ同所付近において、傷害を負わせ、
2 同年3月14日午前11時1分ころ、同発電所3号機原子炉建屋において、水素ガス爆発等を惹起させ、同原子炉建屋の外部壁等を破壊させた結果、10名に、これにより飛び散ったがれきに接触させるなどし、よって、そのころ、それぞれ同所付近において、傷害を負わせ、
3 43名を、上記水素ガス爆発等により、長時間の搬送・待機等を伴う避難を余儀なくさせた結果、死亡させ、
4 上記水素ガス爆発等により、病院の医師らが避難を余儀なくさせられた結果、同病院で入院加療中の者1名に対する治療・看護を不能とさせ、これにより同人を死亡させ
たものである。
(引用終わり)
 
 事故発生から5年、福島原発告訴団結成から4年、第1次告訴から3年9か月にしてようやく東京電力福島第一原発事故についての刑事責任追及の裁判が始まることになりました。検察審査会制度について懐疑的な念を抱くこともあるのは事実ですが、今回の起訴議決については、正直良かったと思います。
 これほどの災厄を人為的に多くの人や自然にもたらしながら、誰1人責任を問われないというようなことは許されないでしょう。
 武藤類子団長を始め、これまで尽力された告訴団や弁護団の皆さんに深甚なる敬意を表したいと思います。
 
 福島原発告訴団のホームページは資料的にも非常に充実しており、特に「資料集」の頁には、東京第五検察審査会による2度にわたる起訴議決を含む各種資料が集積されており、これらは、後世、東京電力福島第一原発事故を振り返る時、逸することのできない歴史的価値を有する文書となるでしょう。 
 
 なお、2月29日の起訴(公判請求)当日には、告訴団・弁護団による記者会見が開かれるとともに、弁護団の海渡雄一弁護士による論考「福島原発事故にかかる強制起訴議決にもとづく公訴提起の意義と展望」及びパワーポイント資料「強制起訴議決のポイントと起訴後の裁判展開」が公開されました。
 以下に、記者会見の動画(UPLAN)及び海渡弁護士の論考及びパワーポイント資料(PDF化されています)にリンクしておきます。特に、パワーポイントのボードに目を通すだけでも、今回の起訴の意義と今後の展開のあらましについての理解が得られますのでお薦めです。
 
20160229 UPLAN【記者会見】「強制起訴」を受けての福島原発告訴団緊急記者会見(50分)
 

海渡雄一弁護士「福島原発事故にかかる強制起訴議決にもとづく公訴提起の意義と展望」
 HTML(News fot the People in Japan) 

 また、この日の公判請求や記者会見を報じた記事が福島原発告訴団ホームページからリンクされています。
 
 やや遅ればせながらとなりましたが、裁判で何が明らかにされるか、注目を怠らないためにも、記録に留めておこうと思います。 
 

(付録)
東電に入ろう(倒電に廃炉)』(高田渡自衛隊に入ろう』の替え歌) 
作詞:ヒポポ大王 演奏:ヒポポフォークゲリラ