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国土交通大臣による沖縄県知事に対する是正指示(3/7)を新聞(日経)記事から読み解く

 今晩(2016年3月8日)配信した「メルマガ金原No.2389」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
国土交通大臣による沖縄県知事に対する是正指示(3/7)を新聞(日経)記事から読み解く

 昨日(3月7日)、石井啓一国土交通相が、翁長雄志沖縄県知事に対し、地方自治法245条の7の規
定に基づき、辺野古沖埋立承認を取り消した処分を是正するようにとの指示を郵便で発送しました。
 私は、3月4日の福岡高裁那覇支部での和解成立当日、速報的に「沖縄県と国との和解条項(2016年3月4日・福岡高裁那覇支部)を読んで考えた」を本メルマガ(ブログ)に書きましたが、早くも週明けにこの
動きとなりましたので、とりあえず、是正指示と和解条項の関係を確認しておきたいと思います。
 そのための方法として、是正指示を伝えた新聞報道の中で最も過不足がないと思われた日本経済新聞の記事を引用しつつ、若干の補注を加えることにします。
 
(引用開始)
第①段落 
 政府は7日、沖縄県の米軍普天間基地宜野湾市)の名護市辺野古への移設をめぐる訴訟で県との和解が成立したことを受け、埋め立て承認を取り消した処分を是正するよう翁長雄志知事に指示した。辺野古
移設を「唯一の選択肢」とする政府の姿勢を改めて鮮明にした。
(注)この記事が伝える「是正するよう翁長雄志知事に指示した」という表現はやや正確性を欠きます(私が日経のデスクなら朱を入れたい)。ここは、「翁長雄志知事へ是正を指示する文書を郵送した」(沖縄タイムス)と書くべきです。
 
第②段落
 翁長知事は7日、是正指示を「大変残念だ」と批判し、政府が辺野古移設の方針を変えないことについ
て「協議をする前に、どういう了見なのか」と不快感を示した。県庁内で記者団に語った。
(注)第3段落で説明するとおり、国土交通相による是正指示は、和解条項自体が定めている手続なのですが(3項)、和解条項8項「原告及び利害関係人と被告は、是正の指示の取消訴訟判決確定まで普天間飛行場の返還及び本件埋立事業に関する円満解決に向けた協議を行う。」との関係で、協議のための枠組みの設定すらなされぬうちに、和解成立から間髪を入れずに是正指示がなされたというタイミングの悪さ(相手がどう思うかなど念頭にも浮かばないという)が、不快感をもたらした根源でしょう。
 
第③段落 
 地方自治法に基づく石井啓一国土交通相の是正指示は、4日に国と県が申し合わせた和解条項に基づく。県は不服として、国と地方の争いを調停する総務省の「国地方係争処理委員会」に近く審査を求める。
最終的には双方が折り合わず新たな訴訟になる見通しだ。
(注)この段落を理解するためには、和解条項の3項~7項を読む必要があります。末尾に和解条項を引用しておきます。なお、ここでいう「原告」とは、国、より正確に言えば国土交通大臣であり、「被告」
とは、沖縄県、より正確に言えば沖縄県知事のことを指します(1項、2項)。
 
第④段落
 菅義偉官房長官は記者会見で、7日の是正指示について「当然のことだ」と語った。沖縄県との協議は「事務、政務レベルで行っていきたい」と述べた。中谷元・防衛相は月内にも沖縄県を訪問し、辺野古移設への理解を求める。沖縄防衛局は7日、知事に申し立てた行政不服審査法に基づく審査請求や執行停止
を取り下げた。
(注)菅義偉官房長官が記者会見においていつもの「菅官房長官語」(想田和弘氏命名)を用いて議論を
封殺したことが明らかにされています。
 また、中谷元防衛相の予定を述べた部分は、執筆者の意図がどうあれ、誰でも、次の第5段落における同防衛相の米国国防次官補、同駐日大使との会談での発言と対比してしまうでしょう(意図的に書いたのなら
Good Jobです)。
 なお、沖縄防衛局による行政不服審査法に基づく審査請求や執行停止の取下げは、和解条項2項を履行したものです。
 
第⑤段落 
 防衛相は同日、防衛省でシアー米国防次官補やケネディ駐日大使と会談した。埋め立て工事を中止するとした和解を説明した上で「辺野古移設が唯一の選択肢であることに変わりない。米側と緊密に連携し協議したい」と述べた。シアー氏は「日本政府が慎重に検討して下した決断だ。緊密に連携したい」と語っ
た。
(注)是正指示当日の7日に、中谷元防衛相とシアー米国防次官補やケネディ駐日大使との会談がセッティングされたのは偶然かもしれませんが、琉球新報の3月8日付社説が「中谷元・防衛相はすぐに米政府高官へ報告し「辺野古が唯一の選択肢」と確認した。米国に忠誠を誓う姿と沖縄への強硬姿勢の落差という見飽きた光景である。
」と批判するのも宜なるかなと言わざるを得ません。
(引用終わり)
 
 今回の国交相による沖縄県知事に対する是正指示は、国が主張するとおり、和解条項に定められた手続であり、早晩この是正指示がなされるであろうことは、当然、沖縄県側も予想していたことでしょう。
 そもそも今回の和解条項の概略を述べれば、1項と2項で、現に係属している裁判や行政審査手続等をいったんご破算にして埋立工事を中止した上で、3項ないし7項によって、「国土交通大臣による是正指示」「沖縄県知事による国地方係争処理委員会への審査申出」「委員会判断が出た後の沖縄県知事による高裁への是正の指示の取消訴訟提起」という新たな土俵を設定するとともに、それと並行して、「是正の指示の取消訴訟判決確定まで普天間飛行場の返還及び本件埋立事業に関する円満解決に向けた協議を行う。」(8項)こととし、上記訴訟が確定した場合には、「同判決に従い、同主文及びそれを導く理由の趣旨に沿った手続を実施するとともに、その後も同趣旨に従って互いに協力して誠実に対応することを相互に確約する。
」(9項)としたものです。
 以上のとおり、今回の和解条項は、もともと3項~7項で設定された土俵での法的闘争と8項による協議が並行することを予定しており、裁判所が一体どのような「円満解決に向けた協議」を想定していたのか知る由もありませんが、少なくとも、1月29日の和解勧告文で裁判所が述べたような「沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意して、米国に協力を求めるべきである。」という「本来あるべき姿
が容易に実現するなどとは考えにくいところです。
 とはいえ、「3月7日の是正指示はいくら何でも早過ぎるだろう」という非難を、法的評価の問題では
ないとしても、否定する気にはならないのですよね。
 
 なお、私が3月4日のメルマガ(ブログ)の末尾で「沖縄県は、工事中止の代償として、法廷闘争の手段が制約されることを受け入れました。従って、今後予想される地方自治法第二百五十一条の五に基づく訴え(高等裁判所が1審裁判所となります)の重要性が飛躍的に高まり、弁護団に対するプレッシャーは相当なものになるだろうと思わざるを得ません。」と書いたことと関連する、沖縄県側弁護団の見解を伝える記事を見つけましたので、該当部分を引用しておきたいと思います。
 
沖縄タイムス 2016年3月5日 11:45
辺野古訴訟和解 移設問題の今後は?

(抜粋引用開始)
 翁長雄志知事が昨年10月に実行した埋め立て承認「取り消し」に関する争いは、国と沖縄県が合意した和解条項で示された手続きが完了すれば、法的に決着する見通しだ。ただ、仮に県が新たな訴訟で負けても、知事に新基地建設を阻止する手段がなくなるわけではない。埋め立て承認の「撤回」や、基地工事に伴い国が県に要求する「変更申請」を拒否するなど、いくつかの権限が残る。
 知事の狙いは、前知事による埋め立て承認の効力をなくし、新基地工事を止めることだ。このため、承認取り消しに踏み切った。
 国と県が合意した和解条項には「取り消し」の効力をめぐる新たな訴訟で判決が確定した場合、双方が
「判決に従う」と明記された。
 国側には「県が負けた場合、判決後は新基地建設に協力するという意味だ」との解釈もあるが、県側の弁護団は「和解の射程は取り消しについて言っている」と受け止め、他の権限に効力が及ばないととらえ
ている。
 主な権限には、前知事が承認した時点と比較して、公益を害する新たな事由が生じた場合に可能とされる「撤回」や、基地工事の工程で設計変更などが起きた場合、事業者が県に求める「変更申請」の拒否な
どがある。
 知事はこうした権限を行使し、「取り消し」闘争が決着した後も、新基地建設阻止の取り組みを続ける
可能性が高い。
(引用終わり)
 
 最後に、3月4日に合意された和解条項をあらためて全文引用しておきます。
 
平成28年(2016年)3月4日に双方が受諾した「和解条項」
(引用開始)
1 当庁平成27年(行ケ)第3号事件原告(以下「原告」という。)は同事件を、同平成28年(行ケ)第1号事件原告(以下「被告」という。)は同事件をそれぞれ取り下げ、各事件の被告は同取下げに同
意する。
2 利害関係人沖縄防衛局長(以下「利害関係人」という。)は、被告に対する行政不服審査法に基づく審査請求(平成27年10月13日付け沖防第4514号)及び執行停止申立て(同第4515号)を取
り下げる。利害関係人は、埋立工事を直ちに中止する。
3 原告は被告に対し、本件の埋立承認取消に対する地方自治法245条の7所定の是正の指示をし、被告は、これに不服があれば指示があった日から1週間以内に同法250条の13第1項所定の国地方係争
処理委員会への審査申出を行う。
4 原告と被告は、同委員会に対し、迅速な審理判断がされるよう上申するとともに、両者は、同委員会
が迅速な審理判断を行えるよう全面的に協力する。
5 同委員会が是正の指示を違法でないと判断した場合に、被告に不服があれば、被告は、審査結果の通
知があった日から1週間以内に同法251条の5第1項1号所定の是正の指示の取消訴訟を提起する。
6 同委員会が是正の指示が違法であると判断した場合に、その勧告に定められた期間内に原告が勧告に応じた措置を取らないときは、被告は、その期間が経過した日から1週間以内に同法251条の5第1項
4号所定の是正の指示の取消訴訟を提起する。
7 原告と被告は、是正の指示の取消訴訟の受訴裁判所が迅速な審理判断を行えるよう全面的に協力する

8 原告及び利害関係人と被告は、是正の指示の取消訴訟判決確定まで普天間飛行場の返還及び本件埋立
事業に関する円満解決に向けた協議を行う。
9 原告及び利害関係人と被告は、是正の指示の取消訴訟判決確定後は、直ちに、同判決に従い、同主文及びそれを導く理由の趣旨に沿った手続を実施するとともに、その後も同趣旨に従って互いに協力して誠
実に対応することを相互に確約する。
10 訴訟費用及び和解費用は各自の負担とする。
(引用終わり)