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安保法制施行の日に「安保法制違憲訴訟」を思う

 今晩(2016年3月29日)配信した「メルマガ金原No.2410」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
安保法制施行の日に「安保法制違憲訴訟」を思う

 いよいよ、今日(2016年3月29日)、いわゆる安全保障関連法が施行されました。 そのことの
意味を実感する方法はいくらでもあるでしょうが、弁護士らしく(?)、法律の検索をしてみることにし
ました。
 私としては、政府(総務省)の法令データベースにおいて、昨年9月19日に成立し、同月30日に公布されたいわゆる安全保障関連法による「改正」が、今日から関連諸法に反映されているだろうと思ったのですが、どうやらまだ準備が整っていないようで、今日のところはまだ「旧法」のままでした(明日以降、「新法」に変わっていくでしょうが)。いくつか例を挙げてみます。
 
武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年六月十三日法律第七十九号)
※今日から法律の題名(というのです)が「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」に変わりました。
 
周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律(平成十一年五月二十八日法律第六十号)
※今日から法律の題名が「重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」に変わりました。
 
 
 
 もっとも、早晩、総務省の法令データベースも「改正」法に置き換えられるでしょうから、間もなく「旧法」は同データベースでは読めなくなります。
 どこかのサイトでアーカイブ化してくれるのではないかと期待しているのですが、紙ベースで確認したければ、毎年刊行されている「防衛実務小六法」の平成28年版がつい先日出たばかりなので、これを安全保障関連法施行直前の法制を確認するための基礎文献として購入しておくべきなのでしょうね(6,7
00円+税)。少し値段が張りますが。
 
 今日の法律施行に抗議する声明は多数出されているようですが、そのうちの1つだけご紹介しておきます。私が目にしたものの中では、短い文章の中で、問題のあり処が要領良く説明されており、非常に説得力豊かであると思った東京弁護士会の会長声明です。
 
東京弁護士会 安全保障関連法施行に抗議する会長声明
(引用開始)
2016年03月29日
東京弁護士会 会長 伊藤 茂昭
 安倍内閣の下で政府提出法案として昨年9月19日に自民党公明党の連立与党などの多数によって成立した安全保障関連法が、本日、ついに施行された。
 この法案が、解釈論として憲法9条に反していることについては、ほとんどの憲法学者が認めるところ
であり、なおかつ40年以上にわたって維持されてきた歴代内閣の見解にも反するものであることは、繰
り返すまでもなく明らかな事実である。
 まず、憲法に違反する法律を成立させることは、改正手続きを経ないで行われた点において、端的に改正手続規定である96条に違反するものであるが、さらに、それが明らかに違憲の法案であることをほとんどの憲法学者が明言する中で実行された点において、国家機関自らが憲法を順守しないことを宣言した
に等しく、憲法の根本原理である立憲主義に反する行為である。
 そして、このような重大な問題であるにも関わらず、直近の衆議院選挙においては、集団的自衛権を含む法案の提出を明示しないまま多数の議席を得ており、しかもその後の法案の説明において、成り立たない例を持ち出して情緒に訴えたり、砂川判決を意図的に曲解して利用するなどの不適切な手法を用いている。さらに、採決前の世論調査では、集団的自衛権に6割の国民が反対し、少なくとも昨年の国会での法案成立に8割の国民が反対していたにも関わらず十分な審議も経ないまま強行したものである。これらの
点において、一連の手続は、国民主権原理にも反しているといわざるを得ない。
 安全保障関連法は、武器輸出三原則を放棄する閣議決定特定秘密保護法強行採決などの一連の決定や法制度とともに機能するものであり、明らかに紛争や武力行使に接近する危険性があるにも関わらず、国民に対する情報の開示をまぬかれたまま秘密裏に法が執行されかねないため、国民が知らないうちに憲
法の徹底した恒久平和主義がなし崩し的に無力化される恐れがある。
 したがって、かかる違憲の法律の施行を一旦控えて、再び憲法の平和主義に則る法制度に改めることこ
そが立憲主義国家のあるべき姿であるはずである。
 我々は、これまで幾度となく憲法9条に違反する閣議決定や、安全保障関連法案の提出、強行採決等に反対する会長声明を発し、決議を行ってきたが、ここに改めてこの法制度の明らかな違憲性、立憲主義違反を確認し、施行に対して厳重に抗議し、さらに具体的な政策の立案、実行がなされることのないよう強
く求めるものである。
(引用終わり)

 安全保障関連法に反対する「会長声明」など、1つの弁護士会で数回出したところも珍しくありませんが、いざ発出時の状況に最も適切な声明案を(A4版1枚以内程度で)起草するとなると、起案者に非常に高い識見と文章力が求められます。実際、各地の弁護士会から出ている先行の声明を切り貼りするようなことでは、読む者の心を打つ声明はとても書けません。そのような観点から見て、少なくとも私は、この東京弁護士会の会長声明に非常に感心した次第です。
 
 ところで、この法律施行という局面において、9人の著名な弁護士が共同代表となって設立された「安保法制違憲訴訟の会」が、近日中に(おそらく4月下旬に)、東京地方裁判所に2件の違憲訴訟を提起する方針を固め、来る4月20日(水)に参議院議員会館で決起集会を開くことになりましたので、本ブログでもお知らせしようと思います。
 
 なお、これまで原告募集の呼びかけすら、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」ホームページの一隅を間借りしていた「安保法制違憲訴訟の会」が、ようやく自前の公式ホームページを開設しましたので、以下、同サイトから引用してご案内します。
 まだ立ち上げたばかりのせいか、「安保法制違憲訴訟の会」と入力して検索しても、なかなか上位でヒットせず、私のブログなどが上位に来てしまいますので、是非「お気に入り」「ブックマーク」に登録し、積極的に閲覧していただければと希望します。
 
 まず、トップページに掲載された「安保法制違憲訴訟の会」設立の趣旨を引用します。
 
安保法制違憲訴訟の会とは
(引用開始)
 2015年9月19日は、多くの市民にとって決して忘れることのできない日となりました。安保法制のこの上ない強引な国会採決を目の当たりにして驚きと怒りを覚えました。今でも怒りがふつふつとわい
てきます。
 わたしたちは、立憲主義をしっかりと守り、憲法をまもりぬくという強い思いから、安保法制による自衛隊の出動などに対する「差止訴訟」と平和的生存権と人格権侵害などに対して「国家賠償請求訴訟」を提起しようと、「安保法制違憲訴訟の会」を立ち上げました。わたしたちは、これまでいろいろ異なった生き方や活動をしてきました。弁護士会の内外で、立憲主義憲法をまもる活動を理論的に追求し、実際の運動をしてきた者、行政訴訟を専門に扱ってきた者、戦争被害者を支援する弁護団活動をしてきた者や
、この違憲訴訟構想に賛同した複数の元裁判官などが集まっています。
 わたしたちは採決の強行(そもそも「採決」自体が存在したのかという問題点もあります)が行われる前後から、内閣や国会の行動が憲法上許されるべきではない、もしこれを司法が黙って見過ごすようなことがあっては、司法はその役割を放棄することになってしまうと心配していました。三権分立の原則の下
で、司法は立法・行政に対する監視、抑制機能をなっているからです。
 今こそ、立憲主義をまもり、平和主義、国民主権、人権尊重という憲法がうたう価値を擁護するという一点で共同して違憲訴訟を提起することが求められているとの思いを強くしています。多くの市民の皆さんからの訴訟を起こすことへの強い期待と希望が日々寄せられていることを実感しております。私たちは、法律家としてこの期待と希望にしっかりと答える義務を負っていると考えております。さらに、この訴訟は、戦争体験者、戦争被害者、国際NGO活動に取り組んでいる人々、基地被害に苦しんでいる人々、これからの社会を憂える市井の人々、二度と戦争加害者にならないことを願っている人々、これからも声
を上げ続けようとの決意を行動で表している若者たちに勇気を与えるとわたしたちは考えています。
[安保法制違憲訴訟の会・共同代表(50音順)]
 伊藤真 内田雅敏 黒岩哲彦 杉浦ひとみ 田村洋三 角田由紀子 寺井一弘 福田 護 堀野紀
【事務局】 安保法制違憲訴訟の会
東京都渋谷区桜丘町17-6 渋谷協栄ビル2階
TEL 03-3780-1260 FAX 03-3780-1287
E-Mail
iken.soshou@gmail.com
(引用終わり)
 
 なお、上にも少し書かれていますが、具体的に提起する訴訟は、「Q&A」で説明されています。
  
違憲訴訟Q&A
(引用終わり)
Q:違憲訴訟ってどんな裁判ですか?
 裁判所は、憲法81条の違憲立法審査権を使えるのだから、「安保法制は憲法違反だ」と判断してもらえ
ばいいんじゃない、と思いますよね。
 でも、日本の従来の裁判ではこのような法律自体の憲法判断はできず、具体的な権利の侵害が起こるこ
と(「事件性」)が必要とされています。
 たとえば、安保法制によって自衛隊の出動命令が出されたが、その命令に従わない自衛隊員が受けた減
給の処分を「その処分は違法だ」と争うような場合がわかりやすい例です。
 でも、今回も(金原注「は」?)権利の侵害が起きているということが明らかですので、私たちは二つ
の形の裁判を起こすことにしました。
1.安保法制にもとづく自衛隊の出動を許さないとする差し止めを求める訴訟(差し止め訴訟といいます

2.安保法制によって平和的生存権、人格権及び憲法改正・決定権が侵害され、精神的に傷ついたのでそ
の損害を賠償してほしいと請求する国家賠償訴訟(「国賠訴訟」と略します)
の二つです。
(引用終わり)
 
 なお、差し止め訴訟においても、自衛隊の出動差し止めを求める請求と併せ、各原告への慰謝料支払も請求することになるようです。
 
 私が聞いているところでは、原告志望者は1000名近くに達し、代理人就任を申し出た弁護士は、全ての都道府県を網羅し、優に600名を超えているそうです。
 そして、いよいよ東京地裁への提訴に先立ち、4月20日に決起集会を開くこととなりました。
 
4.20 安保法制違憲訴訟 決起集会 提訴に向けて
チラシから引用開始)
昨年9月19日国会成立の
安全法制が違憲であることを明らかにするため
いよいよ、全国各地から違憲訴訟を起こします。
第一弾、東京地裁での提訴の決起集会です。
 
と き 2016年4月20日(水)18:00~20:00
ところ 参議院議員会館 1階 講堂
式次第
「安保法制違憲訴訟の会」からのご挨拶
“いま違憲訴訟をおこす”意義について
原告からの決意表明 など
 
[共同代表](50音順)
伊藤  真(法学館憲法研究所所長)
内田 雅敏(戦争をさせない1000人委員会事務局長)
黒岩 哲彦(東京弁護士会元副会長)
杉浦ひとみ(コスタリカに学ぶ会事務局長)
田村 洋三(名古屋高等裁判所元裁判官)
角田由紀子(一票で変える女たちの会呼びかけ人)
寺井 一弘(日本弁護士連合会元事務総長)
福田  護(厚木基地訴訟副弁護団長)
堀野  紀(日本弁護士連合会元副会長)
 
主 催:安保法制違憲訴訟の会
連絡先:「安保法制違憲訴訟の会」
 東京都渋谷区桜丘町17-6 渋谷協栄ビル2階
 電話03-3780-1260 FAX 03-3780-1287
 ホームページ 
https://anpoiken.wordpress.com/
(引用終わり)
 
 もとより、訴訟には時間がかかります。訴訟で請求できることには限りがあります。しかし、訴訟でしか実現できないこともあります。
 今日施行された安保法制の廃止を目指す闘いのルートは、決して1つだけではありません。複数のルート
が、互いに力を削ぎ合うことなく、相乗効果を発揮できるように協力することが求められています。
 安保法制違憲訴訟の提起も、その重要なルートの1つだろうと思います。
 注目をお願いします。