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wakaben6888のブログ

憲法を大事にし、音楽を愛し、原発を無くしたいと願う多くの人と繋がれるブログを目指します

井上正信弁護士『安保法制の近未来-狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-』~「安保法制」講師養成講座

 今晩(2016年3月30日)配信した「メルマガ金原No.2411」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
井上正信弁護士『安保法制の近未来-狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-』~「安保法制」講師養成講座

 昨日(3月29日)、いわゆる安全保障関連法が施行され、自衛隊にこれまで命じることの出来なかった「新たな任務」を発令することが法令上可能になりました。
 当事者である自衛官やその家族は別として、どれだけの日本国民がこの「新たな任務」の中身を知っているのだろうか?ということがとても気になっています。
 
 私は、昨年の9月12日、和歌山県田辺市で行われた「安保法案だよ全員集合!」という、安保法案賛成派と反対派から2人ずつ登壇して様々な論点に関して意見を述べるというイベントに、反対派の1人として出演する機会を与えられました。このイベントでは、はじめから討論会やディベートにはしないという合意の下、互いに意見を述べ合うだけで終わったのですが、安保法案賛成派として登壇された日本会議紀南支部役員のお2人の意見を聞くにつけ、いわゆる安保法制によって、従来できなかったどういうことを「新たな任務」として自衛隊に命じることができるようになるのかという最も肝心なことが、十分に理解されていないということを痛感しました(「安保法案だよ全員集合!」(9/12@田辺市)で話すつもりだったこと ※動画追加あり/2015年9月12日)。
 安保法案賛成派として人前で意見を述べようという人にしてこれですから、ましてや、政治向きのことにはあまり関心を寄せない国民においておや、ということです。
 
 そのイベントの1週間後に安保法制は成立してしまったのですが、そのような事態になってもというか、そうであればこそなおのこと、安保法制の問題点を学習する必要性はいよいよ高いと私は思い、学習会講師のお誘いがあれば喜んでお引き受けすることにしているのですが(安保法制(戦争法)廃止を目指す学習会用レジュメ~2016年2月ヴァージョン/2016年2月20日)、残念ながら、私たち弁護士が「とてもこれだけの数の講師依頼には応じきれない」と悲鳴をあげる状況にはほど遠い、少なくとも和歌山ではそうです。他の地域ではどうなんでしょうか?
 
 安保法制が施行されてしまったからといって、「学ぶ」ことの重要性は低下しているどころか、ますます高まっていると私は思います。
 そのためにも、あまり講師経験のない若い弁護士のための(別に若くなくても良いのですが)、講師を引き受けた場合にまず参照すべきサイトを「講師養成講座」としてご紹介していこうかと思っています。もっとも、今日お届けする第1回だけであとが続かない可能性もありますが。
 
 そのような問題意識から、今日ご紹介しようとするのは、弁護士の井上正信さん(広島弁護士会)が、NPJ(News for the People in Japan)に不定期連載されている「憲法9条と日本の安全を考える」に、今年の2月9日から3月25日にかけて、5回にわたって発表された『安保法制の近未来-狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-』です。
 ところで、井上弁護士のこの論考を、私は先月このメルマガ(ブログ)でご紹介したのですが(「安保法制の近未来-狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-」(井上正信弁護士)を読む/2016年2月24日)、連載第3回までで完結したものと思い込んでいたにもかかわらず、実はあと2回分残っていたのでした。
 従って、実質的には、今日お送りするのは、2月24日の「増補版」ということになります。もっとも、第3回までは付されていた項目ごとの通し番号が、第4回、第5回では付されていませんので、第3回までとはやや切り口を変えての執筆ということでしょう。

 いずれにしても、この論考を通して読むことにより、連載の最後で井上弁護士が述べられている「安保法制はさらなる憲法9条改悪に対する強い圧力となるでしょう」ということの意味を理解することができるでしょう。
 また、付随的なことですが、近年の伊勢﨑賢治さんの主張がどうも「呑み込みにくい」と思っている人たちにも是非読んでいただきたいと思います。伊勢﨑さんが当然の前提として説明を「省略」してしまっている部分が、かなり腑に落ちるようになると思います(伊勢﨑さんと井上さんの考えが同じだという意味ではありません)。
 
【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信
2016年2月9日
安保法制の近未来-狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-①
(抜粋引用開始)
南シナ海でプレゼンスを増す自衛隊
1 安保法制は本年3月末までに施行されます。政府、防衛省、米太平洋軍との間では、施行に向けて既に着々と既成事実の積み上げが進んでいます。
 安保法制を私たちは「戦争法」と断じてその危険性を訴えてきましたが、安保法制が施行された場合の具体的な危険性は、現在進行している安保法制施行準備の中ではっきりと浮かんできます。
 安保法制は2015年4月に日米間で合意された新しい日米防衛協力の指針(新ガイドライン)を実行するための法制です。新ガイドラインで合意された日米の軍事協力には、安保法制施行を前提にしなければ、公然と実施できない内容が多く含まれているからです。安保法制施行準備の動きをフォローしてゆく上では、新ガイドラインがどのように実行されようとしているのかということも見てゆかなければならないでしょう。そのことから安保法制の問題がより明らかになると思います。
2 新ガイドラインと安保法制は南シナ海での日米共同の軍事行動を目指しています。2012年8月に発表されたアーミテージ・ナイ第3レポートは、集団的自衛権行使を強く勧奨しながら、日米同盟の軍事的協力関係拡大の可能性がある分野として、ペルシャ湾の機雷掃海南シナ海での共同の警戒監視だとし、ホルムズ海峡の封鎖と南シナ海での武力紛争は、日本の安全保障と安全に深刻な影響を与えると述べています。
3 略(「航行の自由作戦」への支持とベトナムとの関係強化)
4 略(フィリピンとの軍事関係強化、訪問軍協定の交渉開始?)
5 略(2014年10月~11月「日米共同海外巡航訓練」を南シナ海に拡大)
6 昨年11月の南シナ海を巡る安倍首相、菅官房長官、中谷防衛大臣の発言や動きは、安保法制成立により浮上したものではなく、それまでに積み重ねられた日米の軍事協力を踏まえて、安保法制の制定によりこれをさらに進展させることを表明したものと考えるべきでしょう。
 日米の共同演習は、防衛省設置法第4条(防衛省の所掌事務)第9号「所掌事務の遂行に必要な教育訓練」を根拠に行われてきました。しかしながら、そこで行われている共同演習の内容は、集団的自衛権や米艦防護を前提にしたものです。2014年の「日米共同海外巡航訓練」での対潜戦、対水上戦、対空戦の共同訓練は、南シナ海で中国海軍の原子力潜水艦の索敵、威嚇や、中国海軍戦闘艦に対する威嚇、攻撃、防護、中国空軍戦闘機に対する威嚇、防空、攻撃の演習が含まれていたのかもしれません。海上自衛隊の対潜哨戒能力は世界トップレベルです。
 キーン・ソード演習や「日米共同海外巡航訓練」の内容は、憲法第9条に違反するものです。安保法制で米艦防護や、いざというときには集団的自衛権行使、戦闘地域での後方支援にも踏み込むことが可能な法制度ができましたので、今後の日米共同演習の内容は、これまで以上に実戦的なものになるのではないでしょうか。中国は「航行の自由作戦」に対して抗議をしましたが、総体的には抑制を効かせた対応をしました。米中の軍事交流はその後も続いています。しかしながら、自衛隊南シナ海での共同演習や警戒監視活動などの軍事行動をとる事態となればそうはいかないと思います。
7 日中間には歴史問題が横たわっており、自衛隊南シナ海で軍事活動を行えば、中国にとっての核心的利益、いわば「裏庭」とも言うべき地域ですから、対中軍事挑発と受け止められかねず、中国国内での反日ナショナリズムの高まりから(「日本にだけはぜったいに譲れない」!)、米国に対するような抑制的な対応は期待できなくなるでしょう。とりわけ南シナ海はアジア太平洋戦争期には日本の侵略に対して激戦が戦わされた地域です。
8 自衛隊が米軍とともに南シナ海での軍事行動を行うことの危険性はとても大きいものがあります。米艦防護や自衛隊自身の武器等防護活動が、中国との大規模な武力紛争に発展することを懸念せざるを得ません。
(引用終わり)

2016年2月12日
安保法制の近未来--狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-②
(抜粋引用開始)
スーダンはアフリカ大陸進出の実験場
9 南スーダンには国連PKO(UNMISS)が派遣されており、それに協力するために、改正前のPKO協力法で陸自の施設部隊を中心にした約350名の部隊が派遣されています。主たる任務は、道路などのインフラ構築で人道復興支援です。UNMISSは2011年7月8日、安保理決議1996号で創設されたものです。スーダン内戦を経て南スーダンが分離独立し、新たに南スーダン共和国が誕生しました。UNMISSは、スーダン内戦後の平和構築と南スーダン共和国の建国を援助するというものでした。
 ところが、独立後の南スーダン政府内では大統領派と副大統領派の対立が深刻化し、2013年7月に副大統領が罷免されたことからその後内戦となり、深刻な人道的危機が引き起こされる事態となりました。国連安保理は2014年5月27日、決議2155号によりUNMISSの任務を変更して住民保護に重点を置き、そのための国連憲章第7章による武力行使権限を付与しました。
10 自衛隊派遣部隊は当初の安保理決議1996号を受けて派遣されました。しかしその後の南スーダンの内戦により、PKO参加5原則は崩れたはずですが、撤退しないまま国連施設内にとどまって活動を続けています。安保理決議2155号によりUNMISSの性格と任務は大きく変化して、UNMISSのPKF部隊と武装勢力との激しい戦闘も想定されていました。実際に南スーダン政府軍がPKF部隊を攻撃したこともあったようです。2013年12月にはUNMISSへ派遣されていた韓国軍から、自衛隊派遣部隊へ銃弾1万発の提供の依頼がなされ、政府がそれを承認して提供したという出来事がありましたが、それは政府軍と反政府武装勢力との激しい内戦に直面して韓国軍派遣部隊が危機に直面したからでした。
11 略(2014年1月、自衛隊派遣部隊長は隊員に射撃許可を出した)
12 略(南スーダンの現状と任務拡大で予想される危険)
13 南スーダンでの自衛隊派遣はそれだけで終わる問題ではなさそうです。これを実験場にして、さらに日本政府と自衛隊は米アフリカ統合軍(AFRICOM)との軍事的連携を強化することを目指しています。
 2013年12月に閣議決定された新防衛計画大綱(25大綱)には、「国際平和協力活動等を効果的に実施する観点から(中略)自衛隊がジプチに有する拠点を一層活用するための方策を検討する。」と書き込まれています。ジプチはアフリカ大陸と中東をにらむ戦略拠点なのです。
 略(2014年12月18日、統合幕僚長ペンタゴンを訪問しジプチ自衛隊基地の積極的活用を明言、安倍首相もジプチ基地の活用を否定せず)
 中国がアフリカ大陸への経済進出と政治的影響力の拡大に積極的に動いており、日本は米国の副官としてアフリカを舞台に中国をけん制する動きをしています。
 その意味で今後将来にわたり、アフリカ大陸は日米にとり戦略的重要地域と思われます。2007年にAFRICOMを創設したのは、米国がアフリカ大陸への軍事的、政治的覇権を及ぼすためであったのでしょう。ジプチはこのような米国の戦略に日本が協力するための重要な拠点基地となるはずです。日本政府は、ジプチを拠点として南スーダン以外にもアフリカでのPKO活動へ自衛隊を派遣するつもりではないでしょうか。その際に安保法制が機能することになるでしょう。自衛隊は今後アフリカ各地のPKO活動に参加し、アフリカ各地での部族紛争、内戦などに巻き込まれる恐れがあります。
14 略(安倍政権のアフリカへの強い関心)
15 国連PKO活動は、停戦合意や受け入れ同意を前提にした兵力引き離しや停戦監視活動(ゴラン高原キプロスカシミールなど)や、新たな国家を建国・再建するための支援(カンボジア東チモールなど)から、住民保護へと大きく変質してきています。2000年以降のPKOは、安保理決議により武力行使権限が付与されるようになっています。内戦が収束していない状態や、武装勢力が活動しているような状態で、派遣されたPKOは住民保護や治安維持活動とそのための武力行使権限を付与されています。いわば維持すべき平和がない状態での平和維持活動です。
 南スーダンPKOがそうなっています。アフリカでの多くのPKO活動も同様です。
 安保法制で改正されたPKO協力法はこのようなPKOの変質に対応するものです。安保法制で新たに付け加わった活動である「住民保護、特定地域の治安維持活動」(第3条5号ト)、「駆けつけ警護活動」(第3条5号ラ)、「宿営地共同防護」(第25条7項)や任務遂行のための武器使用(第26条1項)がそれです。これらの任務や武器使用権限を付与された自衛隊は、派遣地域で治安維持活動や住民保護活動、それを妨害する武装勢力に対する戦闘行為を行うことが可能になります。
(引用終わり)

2016年2月24日
安保法制の近未来--狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-③
(抜粋引用開始)
これからも自衛隊派遣の主要舞台になる中東
16 ISに対する攻撃作戦への自衛隊の後方支援が安保法制で可能になりました。現在イラクではイラク軍とIS部隊、シリアではシリア政府軍とIS部隊との地上戦闘が行われ、ロシア、米国、フランス、イギリス、アラブ諸国などがそれぞれの政治的思惑をもって空爆作戦を遂行しています。米国は少数の特殊部隊を派遣して地上戦闘を支援しています。
 ISに対して国連安保理はこれまでいくつかの決議を採択しています。2014年9月24日決議2178号は、ISへ参加目的での渡航禁止措置を国連加盟国へ要請するものです。2015年2月12日決議2199号は経済制裁決議です。2015年11月13日のパリでのテロ事件を受けた2015年11月20日安保理決議2249号はIS非難決議です。
 いずれの安保理決議も加盟国に対して武力行使権限を付与するものではありません。しかし、安保法制の一部として成立した国際平和支援法では「当該事態に関連して国連加盟国の取り組みを求める決議」を受けて、当該事態に対処する活動をしている外国軍隊への後方支援が可能となっています。上記の国連安保理決議がこれに該当します。
 ISに対する空爆作戦だけでISを敗北させてその支配地域を奪還し、ISを消滅させることは不可能であることは、国際社会の共通認識です。ISに対する地上戦闘に米国が参加する事態にでもなれば、米国政府が日本政府の後方支援を要請してくることは十分考えられます。国際平和支援法で可能となっている後方支援を日本政府が拒否することはありえないでしょう。
 現在ISによるテロ活動は拡大しています。パリに続いて1月21日インドネシアの首都ジャカルタでも起きました。さらにドイツやイギリスでもテロ攻撃を狙っていると報道されています。パリのテロ事件を受けてフランス軍が地中海へ空母を派遣して空爆を強化したことで、ドイツはフランスに対して軍事支援を行っているからです。日本がISとの戦闘行為の後方支援活動を行えば、日本もISによるテロ攻撃の標的にされると考えておかなければなりません。
17 略(ISへの各国による攻撃の国際法上の位置付けについて)
18 1990年代から自衛隊は海外へ派遣され始めました。最初は湾岸戦争が終結した後にペルシャ湾掃海母艦を含む6隻の掃海部隊が派遣されました。自衛隊法第84条の2の機雷掃海規定を拡大解釈して行われたのでした。その後1992年にはPKO協力法が制定されました。その前身は、湾岸戦争多国籍軍への後方支援を意図した国際平和協力法案でした(廃案になりました)。2001年の同時多発テロを受けて、同年にテロ対策特措法が制定され、アラビア海海上自衛隊給油艦護衛艦が派遣されました。2003年にはイラク特措法が制定されて、イラクサマーワ陸自部隊とクゥエートへ航空自衛隊が派遣されました。2012年には海賊対処法が制定されて、ソマリア沖やオマーン湾での海賊対処のために護衛艦とP3C対潜哨戒機2機が派遣されました。そして南スーダンです。こうしてみると、自衛隊の海外派遣は中東を中心にして行われてきたことがわかります。
 今後も中東地域へ自衛隊派遣の動きは続くでしょう。
(引用終わり)
 
2016年3月6日
安保法制の近未来--狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-④
(抜粋引用開始)
ガイドラインの実行とROE
(略)
 2016年1月24日の朝日新聞1面に「尖閣有事12年に研究案」との見出しの記事がありました。これによると、2012年9月尖閣諸島の国有化により日中間の緊張が高まり、小規模の部隊が尖閣諸島を上陸侵攻した場合に、日米が共同して奪還するという計画の研究案を作成し、97年ガイドライン改訂作業も開始したというものです。研究案は作戦計画ではなく、その前提となるシナリオ案のようなものとの防衛省幹部のコメントを引用しています。
 しかしそもそも、尖閣諸島奪還での日米共同作戦は日本の個別的自衛権行使と安保条約第5条を発動する事態ですからガイドラインの改定を待つまでもありません。また日本が集団的自衛権を行使する場面でもありませんし、米艦防護のための自衛隊法改正も必要ありません。個別的自衛権で米艦防護ができるというのがこれまでの政府解釈ですから。
 私はこれはガイドライン改訂の口実と思いました。それを裏付けるように同じ日の朝日新聞の3頁に関連記事があり、これは米国の対中軍事作戦に取り込まれ、米国の対中軍事作戦は東シナ海南シナ海での中国の挑発でより大規模な中国の侵攻を想定したものであると指摘していました。
 つまり、単独での中国軍の小規模部隊が尖閣を上陸侵攻するというシナリオは考えられていないこと、それは(仮に発生したとしても)より広範囲な南シナ海を含む米中の本格的な武力紛争の一部としての位置づけに過ぎず、尖閣奪回作戦を口実にして日本政府と自衛隊を、南シナ海での米中軍事対決へ加担させるものだという意味と理解しました。そのために集団的自衛権行使、米艦防護、周辺事態法改正によるより強力な後方支援を可能にするため、新ガイドラインを策定し安保法制を成立させたのでした。
 新ガイドラインも安保法制も、米国の南シナ海での対中軍事衝突を想定して、日本が全面的に米国を支援する仕組みを作ることがその狙いであることをこの記事は示しています。私は、内心でこのような記事を安保法制法案が国会審議されているときに出してほしかったと思わずにはいられませんでした。
(略)
 現在防衛省自衛隊は安保法制で可能になった自衛隊の任務や活動に関する部隊行動基準を作成しているはずです。安保法制で新しい任務に就く自衛隊員に対しては、それにふさわしい訓練、演習を行わなければならず、そのためにも部隊行動基準が必要だからです。繰り返し教育訓練を行って、自衛隊員一人一人に部隊行動基準を徹底させる必要があります。
 部隊行動基準とはRules of Engagement(ROEと略称される)の防衛省用語です。交戦規則と訳す方が一般的です。憲法第9条2項で交戦権を放棄しているので「交戦規則」との用語を使えないため部隊行動基準という用語を使っているのでしょう。ただ防衛省が英語に訳するときにはRules of Engagementを使っているそうです。では部隊行動基準=ROEとはどのようなものなのでしょうか。
(略)
 ROEの内容は、それぞれの軍隊の行動を規定する国内法と、武力紛争法、国際人道法など国際法により規定されます。そのため各国の国内法や、それぞれの政府が理解している国際法の解釈(たとえば自衛権行使の要件など)により、現場の兵士に与えられるROEの内容が異なります。例えば「敵対意図」に対して武力行使するのか、それとも「敵対行動」に対して武力行使するのかという違いです。「敵対意図」に対して武力行使を可能とすれば、先制的自衛を容認していることになるでしょう。NATO諸国には「敵対意図」に対する武力行使を制限する国が多いと言われています。米国のSROEは可能としています。
(略)
 安保法制の下で作成されようとしているROEは、米軍等他国軍隊の武器等防護を行う際の条件(どのような状況下で武器使用ができるか)、警告を発するかしないか、警告射撃や標的を狙った射撃の方法、相手方が反撃してきた場合の応戦の仕方など、駆け付け警護の条件やその際の武器使用の方法(警告の仕方、警告射撃の要領、標的を狙った射撃の方法など)、活動を中断すべき場合の状況とその際相手が攻撃してきた場合の応戦の仕方、任務遂行のための武器使用の条件や、その際の妨害勢力に対する攻撃の程度など細部にわたるものになるのではないかと想像しています。
(略)
 万一自衛隊員、現場指揮官がROEに違反して武器を使用して、相手を殺傷した場合、または非戦闘員を殺傷した場合どうなるのでしょうか。殺人罪傷害致死罪(いずれも裁判員裁判になります)で捜査起訴されることになるのでしょう。ROEに違反していることは違法性を根拠づける事由になるのではないかと思います。
 そうすると、罪を犯したとされる自衛隊員は、日本へ送還されて自衛隊員が所属する師団を管轄する警察や検察庁が身柄を拘束し(あるいは在宅のまま)取り調べをするのでしょう。現場検証は事件の発生した海外の現場で行われるのでしょう(武装勢力が跋扈しておればできるかどうかは分かりませんが)。被疑者の自衛隊員だけではなく、傍にいた同僚自衛隊員や現場指揮官の取り調べが必要です。日本へ帰国させて取り調べるのかもしれません。そうなると現場指揮官がしばらくは現場を離れなければならなくなります。指揮官が不在の現場の自衛隊部隊は困るでしょう。
 起訴された自衛隊員は否認するかもしれません。そうするとROEの解釈が刑事裁判の争点になります。有罪にせよ無罪にせよ判決が確定するまでかなりの期間を要します。そうすると、それまでの間現場ではどこまでが合法でどこから違法になるのかが定まらないこととなり、ROEに基づく自衛隊員の活動は消極的にならざるを得ないでしょう。派遣部隊の任務の遂行に悪影響も予想されます。
 そもそも武力紛争やその現場の様子、兵士の行動や武器に関する専門的知識のない裁判官や市民から選ばれた裁判員ROEの解釈を委ねることには、自衛隊には強い抵抗があるのではないでしょうか。
 以上のように考えると、自衛隊が海外で危険な任務に就けばつくほどROEの必要性は高くなり、他方でそれに違反した自衛隊員を裁くうえで、現在の憲法下で行われている司法制度ではもはや現場の要請に到底応えられないとの声が大きくなるでしょう。私は安保法制により自衛隊の海外活動が増え、それに対応するROEが作られてくれば、必ず軍事法廷を作るべきだとの要求が強くなると考えています。
 派遣された現地で派遣部隊司令官や自衛隊法務官が裁判長や検察官となり、迅速に判決を出すことを可能にする軍事法廷は、自衛隊が海外で危険な任務を遂行しようとすればするほどその必要性は高くなるでしょう。
 しかしそのためには憲法改正が必要です。戦前の軍法会議を否定するためと、憲法第9条で軍隊を持たないと定めた結果、憲法第76条2項で「特別裁判所は、これを設置することができない。」と、例外を許さない明確な規定を置いているからです。

(引用終わり)
 
2016年3月25日
安保法制の近未来--狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-⑤完
(引用開始)
憲法改悪の衝動を強める安保法制
 私はこの「安保法制の近未来」連載で、安保法制は南シナ海、アフリカ、中東での自衛隊の軍事活動の拡大を目指すものであると述べてきました。南シナ海では中国との本格的武力紛争までも想定せざるを得ません。それは私たちにとっても戦争の惨禍を直接受けることを覚悟せざるを得なくなるでしょう。
 アフリカでの自衛隊の派遣の拡大は、アフリカのそれぞれの地域が持っている歴史的(西欧諸国が植民地支配したことや独立後も宗主国として影響力を持ち続けたことがあるでしょう)、経済的、民族的、宗教的な特質から、複雑な武力紛争となっています。しかも極めて大規模で深刻な人道危機が発生してきました。そのような地域で、改正されたPKO協力法により人道復興支援とは異なり武力行使を含む軍事活動を自衛隊が行えば、派遣地域で自衛隊員がそこの住民を殺害したり、自衛隊員が殺されるという事態を想定せざるを得ません。
 アフリカでの日本企業の経済的権益を拡大するために、自衛隊員がアフリカでの危険な活動を行わされて、その結果自衛隊員が犠牲になるということも、安保法制の施行により現実のものとなるはずです。
 中東でも同様に危険な任務になるでしょう。西欧諸国とは異なり、日本は中東地域でこれまで一度も植民地支配をしておらず、中東地域が植民地支配から独立後も政治的に介入することもなく、宗教的にも仏教であることから、イスラム教キリスト教の対立にも無縁でした。さらに日本は中東諸国に対して多額のODAを投入し、中東諸国は日本のことを平和国家として尊敬してきたはずです。日本は米国の同盟国でありながら、中東地域の複雑な国際紛争には局外中立の立場を貫けてきたのです。そのことが中東諸国に対して持っている日本の重要な外交資産となってきました。安倍政権のとっている外交政策、安全保障政策は、長年にわたるこの貴重な外交資産を一気に失わせる結果となっています。そのことから日本はイスラム過激派により敵国として扱われつつあります。安保法制は安倍政権による誤った中東政策をさらに促進させ、私たちの平和と安全、中東地域の市民の平和と安全を脅かすものになります。
 私たちの平和と安全、諸国市民の平和と安全を維持発展させるためには、安保法制は極めて有害なものであると言えるでしょう。
 安保法制で自衛隊は海外で危険な任務に就かされます。そこで行われる自衛隊の軍事活動は国際法から見れば武力行使になります。しかし、安保法制ではいまだ憲法第9条による制約から、武器使用という前提に立っています。そのため、海外で活動中の自衛隊員が敵対する武装勢力に捕まった場合、武力行使ではないためジュネーブ条約上は紛争当事者ではないとの解釈から、例えばジュネーブ第3条約(捕虜条約)は適用できないとしています(これは政府の公式の解釈です)。そうすると捕まった自衛隊員は捕虜としての取り扱いを求めることはできず、現地の刑罰法規で処断(非人道的な処刑も)されることとなり、自衛隊員には実に気の毒な結果になります。
 このような不条理は、実態は武力行使でありながら憲法第9条の制約から武器使用とごまかしてきたところが、安保法制で派遣される自衛隊員に現実的なリスクを想定せざるを得なくなり、法の建前と自衛隊派遣の現実とのギャップが拡大してこれまでのごまかしは効かなくなったために浮き上がってきたのです。この点は先に述べたROE軍事法廷との関係でもいえることです。安保法制はさらなる憲法9条改悪に対する強い圧力となるでしょう。私たちは、このような危険な安保法制の運用停止と廃止を求めてゆかなければなりません。
(引用終わり)
 
(参考動画)
2015年9月12日 於:田辺ひがしコミュニティセンター(和歌山県田辺市南新万)
安保法案だよ全員集合!(2時間02分)

2015年12月22日 於:岩波セミナーホール(東京)
自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会(略称:自衛隊を活かす会)シンポジ
ウム「南シナ海―警戒監視のための自衛隊派遣をどう見るか」(2時間39分)

2016年1月30日 於:札幌国際ビル国際ホール
自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会(略称:自衛隊を活かす会)シンポジウム「南スーダン─。駆けつけ警護で自衛隊はどう変わるのか」(2時間52分)

 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2014年2月9日
井上正信氏『国家安全保障戦略、新防衛計画大綱、中期防衛力整備計画を憲法の観点から読む』を通じて学ぶ
2014年4月16日
安保法制懇「報告書」に直ちに反撃するために~井上正信弁護士の論考を参考に

2015年4月30日
開催予告・井上正信氏講演会(6/12和歌山弁護士会「市民集会 安全保障法制の内容と問題点」)
2015年11月20日
半田滋さんのミニ講演「安保法で自衛隊はどう変わるのか」(11/19)に注目した
2016年1月1日
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「南シナ海―警戒監視のための自衛隊派遣をどう見るか」①動画編(付・札幌企画(1/30)のご案内)
2016年2月5日
国連PKOの変質を追及した志位和夫日本共産党委員長(1/27本会議&2/4予算委員会)
2016年2月14日
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「南シナ海―警戒監視のための自衛隊派遣をどう見るか」②テキスト編(付・札幌シンポ(1/30)の動画紹介)
2016年2月24日
「安保法制の近未来-狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-」(井上正信弁護士)を読む
2016年3月3日
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「南スーダン─。駆けつけ警護で自衛隊はどう変わるのか」(1/30@札幌)