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明治大学法学部が主催した「金子兜太さんと平和・憲法を語る集い」を視聴して考えたこと

 今晩(2016年4月24日)配信した「メルマガ金原No.2436」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
明治大学法学部が主催した「金子兜太さんと平和・憲法を語る集い」を視聴して考えたこと

 昨日(4月23日)午後、明治大学駿河台キャンパスのアカデミーホール(1192人収容)において、
金子兜太さんと平和・憲法を語る集い」と題するイベントが開催されました。
 金子兜太さんが、日本を代表する俳人の一人であることくらいは、私の亡くなった母が晩年俳句に親しんでいたことから、自然に頭に入っていたのですが、昨日、金子さんが明治大学に呼ばれたのは、俳壇の
泰斗だからではないでしょう。
 昨年の安保法案反対の運動が全国的に高揚した際、多くの人たちが掲げたプラカード「アベ政治を許さ
ない」は、澤地久枝さんの依頼を受けて金子兜太さんが揮毫されたものでした。
 1943年に東京帝大を繰り上げ卒業し、海軍主計中尉としてトラック島に派遣された金子さんの凄惨な戦争体験については、NHKの戦争証言アーカイブス「真っ黒焦げの島で」で金子さんご自身が詳しく語っておられま
す。
 
 昨日の明治大学でのイベントのチラシは2種類作られました。PDFファイルをご紹介しておきます。
 
 
 このチラシのデータは、「安全保障関連法に反対するオール明治の会」ホームページで見つけたのですが、主催は同会ではなく、「明治大学法学部」であるというのがユニークです(「オール明治の会」は他のいくつかの大学有志の会や出版社などと横並びの後援団体です)。
 たしかに、これまでも私立大学の法学部が、安保関連法(案)を考える集会を主催したことはあり、私もメルマガ(ブログ)でご紹介しました。
 
 
 ただ、立命館大学法学部や早稲田大学法学部が開催した集会とは、相当に中身が違うようだなということは、チラシを一読するだけでも明らかで、この種のイベントは、従来、「安保関連法に反対する学者の会」あるいは各大学の有志の会などが主催してきたものですよね。
 私も、最初にこの集会の情報がFacebookに流れた際には、深く考えもせず「いいね」をクリックしたの
ですが、明治大学雄辯部出身の石埼学龍谷大学法科大学院教授による厳しい批判を読んだのを機に、この種の集会を学部が主催するということをどう捉えるべきか?考え続けてきた、というのは大げさで、たまに思い出していた、あたりが正直なところです。
 それは、私が強制加入団体である弁護士会の会員であり、一時、和歌山弁護士会憲法委員会の委員長として、集団的自衛権行使容認の閣議決定に反対する企画の責任者になったこともあったりということも大いに
関連しています。
 
 そこで、実際にどのような集会であったのか、UPLANにアップされた動画で振り返ってみましょう。と
はいえ、4時間を超える長丁場ですから、とても全編視聴するような時間はとれず、あちこちつまみ食い的にのぞいただけであることをお断りします。
 
20160423 UPLAN【前半】金子兜太さんと平和・憲法を語る集い(2時間14分)
 
冒頭~ 長岡顯氏(明治大学名誉教授) 録画(2007年11月25日収録)上映と解説(カナリヤ諸島・グランカナリヤ島のテルデ市に設けられた「九条の碑」について)
6分~ 黒田兼一氏(明治大学経営学部教授、安全保障関連法にに反対するオール明治の会)
14分~ 間宮勇氏(明治大学前法学部長)
21分~ サプライズゲスト・村山富市氏(元内閣総理大臣/旧制明治大学専門部政治経済科1946年
卒業)
41分~ 金子兜太氏と黒田杏子氏の対話講演
1時間39分~ 日本国憲法の朗読 
 司会 長岡顯氏(明治大学名誉教授)
 前文 高山佳奈子氏(京都大学教授)
 11条、13条 谷川尚哉氏(中央学院大学教授)
 14条、16条 橋村政哉氏(明治大学大学院教育補助講師)
 21条、23条 REPETA Lowrence氏(明治大学特任教授)
 98条、99条 濱平弥生氏
 9条 小森陽一氏(東京大学教授)
 
20160423 UPLAN【後半】金子兜太さんと平和・憲法を語る集い(1時間54分)
 
冒頭~ アンサンブル・フォー・ピースによる演奏
17分~ 土屋恵一郎氏(明治大学学長、法学部教授)
23分~ 白藤博行氏(専修大学法学部長、教授) ※矢野建一専修大学長のメッセージも代読されました。
30分~ 広渡清吾氏(東京大学名誉教授)
40分~ ビデオメッセージ 落合恵子氏(作家/明治大学文学部英文学科卒業)
45分~ 千葉泰真氏(SEALDs)
59分~ 星野さなえ氏(安保関連法に反対するママの会)
1時間05分~ 制服向上委員会コンサート
1時間42分~ 小原隆治氏(早稲田大学教授) 次回「首都圏集会」のご案内
1時間48分~ 閉会挨拶 浦田一郎氏(明治大学法学部教授)    
 
 石埼学教授による批判で私が目にしたのは「友達限定」のFacebookへの投稿であったので、引用は遠慮します。
 従って、以下は、石埼教授の主張の紹介ではなく、同教授の投稿を契機として、私が考えた「大学法学部が安保法制反対集会を主催することの問題点」のうち、とりわけ重要だと思われることについての個人的述懐
です。
 それは、学部が特定の政治的主張を推進する集会を主催することは、その主張と意見を異にする学生・教職員、中でも学生の権利(思想・信条・学問の自由など)を侵害することになりはしないか、という問
題です。
 学部とそこに所属する学生との関係は決して対等なものではなく、究極的には学士の学位を授与するかどうかの権限を持つ者と評価を受ける者との関係であることには、たしかに十分な配慮が必要なのではないかと思います。
 
 しかし、明治大学法学部が、そのような問題に全然無自覚であったとは考えられませんので、主催に至った経緯が説明されていると思われる、当日のプログラムの1頁目を転記してみます(UPLANによる2本目の動画の末尾に掲載されています)。
 
(引用開始)
 私たち明治大学法学部は、昨年秋以来、日本国憲法立憲主義が危うくなっている状況を憂いながら、「対話」をキーワードに賛成・反対を問わず議論の場を作り、憲法について広く深い理解を学生の中に生
み出したいとの思いを込めて、「憲法対話集会」を催して参りました。
 明治大学の原点は、個人の権利を重視するフランス民法に倣って明治29年に公布された民法に対して「民法出でて忠孝滅ぶ」という守旧派の議論に真っ向から反論して民法典論争の先頭に立ったことです。立憲主義、言論・出版の自由、学問の自由の否定が進む中で、異論を唱えることも本学の使命と感じてい
る次第です。
 昨年11月10日には長谷川櫂氏をお招きして「文学で読む日本国憲法」と題して対話集会を行いまし
た。
 本日のこの「金子兜太さんと平和・憲法を語る集い」は、その「対話集会」の第2回目として行うもの
です。新年度早々ということもありますので、若い学生や院生の参加を期待して、対話、朗読、音楽を主な内容とさせていただきました。
 本日のこの「集い」が、日本の憲法を守り、平和を希求する一つの契機になることを期待しております

(引用終わり)
 
 これだけではよく分からないので、プログラムの2頁目に掲載された間宮勇前法学部長の文章も転記しておきます。
 
(引用開始)
           憲法対話」2016.4.23の開催にあたって
                    明治大学法学部教授 間宮 勇(前法学部長)
 この数年の間に特定秘密保護法の制定、閣議決定による憲法解釈の変更と安保関連法制の整備、そしてマスメディアに対する政府与党の介入強化が進んでいます。それ以前から公立学校では「日の丸・君が代」の強制が処分を背景に徐々に進められ、最近になって国立大学に対しても拡大されつつあります。放置すれば、私立大学にも及んでくるでしょう。
 これらのことは、我が国の思想信条の自由、言論出版の自由、ひいては民主主義や立憲主義に大きくかかわる事柄です。最近では、政府に批判的なニュースキャスターが降板させられ、担当大臣が放送法を根拠とする「停波命令」に言及するなど、昨年、ドイツの保守系紙の特派員が離日の際の講演会で懸念していた日本の言論出版の状況がさらに悪化しています。また、それほど大きく報道されませんが、公的施設における政治的表現や発言の規制、そしてそれを理由とする会場使用の拒否なども少しずつ広がっているようにも感じられます。こうした動きに対して、少なくない国民が声を上げ、大規模なデモや集会が行われています。現在の日本で、平和的に実施されるデモや集会に対する強権的な弾圧はありません。個人がその信条を表明することに対しても、一定の批判的な論評があるにしても、公の場で身の危険を感じるよ
うなこともありません。しかし、言論空間の息苦しさが目に見えて広がっているように感じられます。
 現在、我々は、政治的な発言を多少控えれば、普段の日常生活で不自由を感じることはありません。内閣支持率を見ると、少なくない国民は、上記の事柄を大きな問題だとは考えていないのかもしれません。しかし、ファシズムは、静かに忍び寄り、気付いた時には遅いのです。ヒトラーは、ワイマール憲法体制下で、十数年かけて政権に就き独裁体制を築きました。もちろん、90年ほど前のことであり、民主主義や人権意識が広く共有されている現在では、そう簡単には独裁体制を築くことはできないでしょう。しか
し、国民が言論のありように無頓着であっては、民主主義を護ることはできません。
 さて、明治大学は、135年前に「権利自由・独立自治」を建学の精神として設立され、その10数年後、民法典論争において個人の権利を重視するフランス民法に倣った旧民法を擁護する先頭に立って論陣を張りました。本学は、民法典論争に敗れ、非常に厳しい大学経営を余儀なくされましたが、その精神を高く掲げ、布施辰治をはじめとする多くの社会派弁護士を世に送り出してきました。民主主義や立憲主義が維持されていなければ、個人の権利を擁護することはできません。個人の権利を尊重する民主的な法制度が確立され、しっかりと運用される「法の支配」が確立されなければならないのです。「建学の精神を如何に研究・教育に生かしているのか」は、認証評価において重視されている項目です。
 明治大学法学部は、その建学の精神と歴史に倣って「憲法対話」を主催し、私学としての矜恃を示したいと思います。
(引用終わり)
 
 開催趣旨は間宮前法学部長の文章でより明確になったかと思います。私学において「建学の精神」が出てくると、一種の「錦の御旗」的な働きがあるのかもしれません。私は、私学に在籍したことがないのでよく分かりませんが。  
 
 私の場合、どうしても弁護士会の場合に引きつけて考えてしまうのは仕方がないでしょう。
 全国には、全部で52の弁護士会があり、さらに日本弁護士連合会があるのですが、弁護士法によって加入が強制されている団体であり、会員の思想・信条はばらばらであることから(実際、自民党にも公明党にも弁護士がたくさんいますからね)、政治的に厳しく対立する問題について、明確な態度表明をしに
くいという事情があります。
 けれども、こと集団的自衛権の行使容認、安保関連法の制定については、1つの例外もなく、全ての弁護士会が反対の意思を表明し、それだけではなく、多くの団体の協力も得ながら、大規模な集会を主催し
たりしています。
 それは、この問題についての安倍政権の暴走は、いかに何でもひど過ぎる、これを黙視していては弁護士会の存在意義はない、という主張に対して、たとえ改憲派の会員であっても、表立って異論を唱えることは難しいということだと思います。
 言い換えれば、政権が憲法を無視していることが法律家の目から見てあまりにも明らかである、という共通認識が大方の会員(弁護士)に共有されている(はずです)ことが、弁護士会のこの問題についてのスタンスを支えているのだと私は理解しています。
 実際、高村正彦自民党副総裁~この人も弁護士です~が、集団的自衛権行使容認の根拠に砂川事件最高裁大法廷判決を持ち出した時点で、たいていの弁護士はあきれ果てたはずです。
 
 弁護士会と大学・学部をパラレルに考えることができるのかには疑問もあり、昨日の明治大学法学部の集会をどう評価すべきか、相当に悩ましいところです。 
 間宮勇前法学部長の「国民が言論のありように無頓着であっては、民主主義を護ることはできません。」という主張はよく分かるのですが、そのことと、学生の「思想信条の自由」とがどういう関係に立つの
かということがいまひとつよく分かりません。
 それで、結論としてどうなんだ?ということですが、明治大学の関係者でも何でもない私としては、と
りあえず「判断保留」です。
 はなはだすっきりしませんが、「法学部主催」という点を除けば、昨日の集会は非常に充実していまし
た。時間の都合がつけば、是非視聴していただきたいと思います。