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被災者のための制度紹介「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」について

 今晩(2016年5月9日)配信した「メルマガ金原No.2451」を転載しました。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
被災者のための制度紹介「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」について

 4月14日以降、熊本県を中心に発生した大規模地震による被害については、熊本県だけを見ても、昨日
(5月8日)現在、
  死者 67人(震災関連死を含む)
  行方不明 1人
  重軽傷者 1,648人
  住家被害(全壊、半壊、一部破損) 67,638棟
にのぼっています(熊本県「熊本地震に係る被害状況等について(第49報)」)。
 被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げるとともに、南海トラフ地震も近いといわれる和歌山に
住む者として、自らが震災に備える意識をより一層高めねばと思います。 

 この事態をうけ、地元の熊本県弁護士会では、被災者に対する法的支援の一環として、ただちに「熊本県弁護士会ニュース<災害Q&A>」を発行するとともに、ホームページで公開しました(※PDF)。
 
 このことを伝えた弁護士ドットコムニュースを引用します。
 
弁護士ドットコムニュース 2016年04月22日 15時38分
熊本県弁護士会、被災の法律問題まとめた「Q&A」公表 「社会インフラの役割果たす」

(引用開始)
 熊本県弁護士会は4月22日、熊本地震被災した人々に向けて、被災によって生じる法律問題に関するQ&Aをネット上で公表した。被災した人にはどのような支援制度が用意されているのか、ローンの支払う余裕がない場合はどうすればいいのか、保険・共済はどうなるのかといった問題について、Q&A形式にまと
めている。
 このQ&Aは、新潟県中越地震東日本大震災など、過去の災害時にも活用されたもので、その都度、全国の弁護士によって内容がアップデートされてきた。今回は、熊本地震の被害に向けて、熊本県弁護士会
が再構成した。
 Q&Aは、(1)支援制度関係、(2)支払関係、(3)保険・共済の問題、(4)紛失物関係、(5)収入の関係、(6)その他の6つの項目に分かれている。「り災証明書とは何か。これがあるとどうなるのか」、「当面の生活費をどうにかしたい」、「住宅ローン事業性ローン等を支払う余裕がない」などの問題に
答えている。
 熊本県弁護士会によると、弁護士会には、1日に数十件、被災に関連した法律相談の問い合わせがきているという。4月25日からは、弁護士が対応する無料の電話法律相談も開始する予定。熊本県弁護士会の板井俊介弁護士は弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「弁護士には社会のインフラとしての役割がある
。こうした時だからこそ、弁護士を活用してほしい」と話していた。
(引用終わり)
 
 上記ニュースにもあるとおり、この「ニュース<災害Q&A>」は、実際に大規模災害に見舞われた地域の弁護士会が作成して住民に配布し、その有用性が実証されたとして、各地の弁護士会が先行した地域の「ニュース」を参考に既に作成している、あるいは作成しようとしているものです。
 実際、私が所属する和歌山弁護士会災害対策委員会でも、他会の「ニュース」などを参考にしながら、委員会での素案を作成したという段階で熊本地震の報に接し、早急に和歌山版を完成させなければと考えているところです(和歌山弁護士会では、平成27年度にようやく災害対策委員会が設置され、私も委員となっています)。
 
 また、被災者に対する法的支援の中で、いずれ大きなウエイトを占めることになると思われるのが、いわゆる「二重ロー問題」への対応でしょう。
 東日本大震災で大量に発生した「二重ローン問題」に対処するための「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」を基に、恒久的な「二重ローン問題」への対応策として新たに策定された「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」が施行されたのが今年の4月1日のことであり、そのわずか2週間後に熊本地震が発生しました。
 
 この新ガイドラインについては、上掲「熊本県弁護士会ニュース<災害Q&A>」にも説明がありますので、その部分を引用します。
 
(引用開始)
住宅ローン事業性ローン等を支払う余裕がない。
→「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」により、住宅ローン等の免除・減額を受け
られることがあります。
 同制度には、利用できた場合、
・弁護士(登録支援専門家)による手続支援を無料で受けられる
・財産(後記支援金等を含む)の一部を手元に残してローンの支払免除・減額等を受けることができる
・破産等の手続と異なり、債務整理をしたことは個人信用情報として登録されないため、新たにローンを
組むときに不利益なし
・原則、連帯保証人も支払いをしなくてよくなる
等のメリットがあります。
 そのため、安易に地震保険金等でローンの一括、繰上返済などをしないよう注意が必要です。繰り返しになりますが、支援金・弔慰金等を手元に残してローンの免除・減額を受けられる場合もあるので、これらをローンの返済にあてる前に、弁護士又は金融機関にご相談ください(金融機関に相談する前に弁護士
に相談することをお勧めします。)。
→その他、住宅金融支援機構及び旧公庫を債権者とする被災者の方の住宅ローンについては,被災の状況等によって,1年~3年の払込みの据置き、金利引下げ等が受けられる可能性があります。代理をしてい
る各金融機関窓口までお問合せ下さい。
(引用終わり)
 
 震災によって住宅が損壊して住めなくなったにもかかわらず、多額のローンが残ったような場合、債務の支払いを免れるために破産手続開始を申し立てるという究極の手段はあるものの、そのことにともなう法的不利益も大きく、何とかそれを回避し、被災者の経済的再建を支援しようとして策定されたガイドラインですので、我々弁護士も被災者に適切な助言をするためには、まずその内容について十分な知識を持つことが必要です。
 ということで、連休の谷間の5月2日(月)午後6時から、全国の弁護士会テレビ会議システムで結んだ(希望する弁護士会だけが接続するのですが)「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」学習会の中継があり(日弁連の災害復興支援委員会主催によるものだと思います)、和歌山弁護士会
も中継することになったと聞き、参加しました。
 講師は大阪弁護士会の亀山元(はじめ)弁護士でしたが、同弁護士は、東日本大震災発生当時は日弁連が設立した「遠野ひまわり基金法律事務所」所長として岩手県遠野市で弁護士業務を行っており、2013年12月に離任するまで、被災者に対する法的支援に尽力した方であり、講師としてまことに適任であ
ったと思います。
 亀山弁護士の離任時に地元紙「岩手日報」が掲載した記事がネットで読めます。
 
岩手日報 2013年12月16日
災害弔慰金の法改正に尽力 遠野の亀山弁護士離任へ

(引用開始)
 ひまわり基金法律事務所の弁護士として、県内最長の5年間にわたって法律問題解決に取り組み、震災後は法律面で被災者を支えた遠野ひまわり基金法律事務所長の亀山元(はじめ)弁護士(35)が任期満了で今月末に退任する。それに先立ち、所長引き継ぎ式が15日、遠野市内の催事場で行われた。亀山弁
護士は災害弔慰金の法律改正など岩手のために奔走した日々を振り返り、被災地支援を仲間に託した。
 名古屋市出身で、大阪弁護士会に所属していた亀山弁護士は2009年1月、遠野事務所に着任。震災後は被災地で精力的に無料法律相談を展開した。被災者の声に耳を傾ける中で、災害弔慰金が同居していた兄弟姉妹に支給されないことを聞き、全国の弁護士に問題提起。416人の賛同を得て要請書を提出し
、法律改正を実現した。
 引き継ぎ式では市民らが亀山弁護士や新所長の大沼宗範弁護士(30)、来年1月に着任する上山直也弁護士(26)の門出を祝福した。亀山弁護士は「住宅の二重ローン減免を手伝った男性から『これで復
興できる』と言われた喜びを今も覚えている。被災地にはまだ弁護士の力が必要だ」と強調した。
(引用終わり)
 
 さて、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を利用した債務整理の手続につき、4月25日から、熊本県弁護士会において、同ガイドラインに基づく登録支援専門家の委嘱依頼の受付を始めています。
 
(引用開始)
 平成28年熊本地震には災害救助法の適用がなされており、地震の影響を受けたことによって、住宅ローン、住宅のリフォームローンや事業性ローン等の既往債務を弁済できなくなった個人の被災者の方は、破産手続等の法的倒産手続によらずに、債権者(主として金融債務に係る債権者)と債務者の合意に基づき債務の全部又は一部を減免すること等を内容とする債務整理を公正かつ迅速に行うための準則(「自然
災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」)の適用がなされます。
 一定の要件のもと、このガイドラインによる債務整理が行われることにより、破産手続等を行わず、ま
た信用情報に登録されずに、債務者の生活や事業の再建が可能となります。
 熊本県弁護士会では「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」に基づく登録支援専門
家の委嘱依頼を平成28年4月25日から受け付けています。
 当会への委嘱依頼までの手続は別紙「委嘱依頼までの手続の流れ」をご参照ください(委嘱依頼後の手続については、選任された登録支援専門家である弁護士にお尋ねください)。なお登録支援専門家である弁護士は中立・公正な立場で被災者の支援を行います。また登録支援専門家である弁護士の費用は無料で
す。
(引用終わり)
 
 「登録支援専門家である弁護士」ってどんなことをするのか?「中立・公正な立場」ということは、被災者の代理人ではないということか?などなど、利用される被災者だけではなく、一般の弁護士にとっても、勉強しなければ分からないことだらけですよね。
 私は、5月2日の学習会を視聴したので、おぼろげながらのイメージは持てましたが、それでも細かな
ことは基礎資料に基づいてしっかり勉強した後でなければ、うかつなことは言えません。
 
 ということで、以下には、これから被災者からの法律相談に応じる立場の弁護士にとっては必須の知識となる「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」本体とその「Q&A」をご紹介しておきます。
 もちろん、被災者ご自身やその関係者の方が読んでも、大いに参考となるはずですが、やはりある程度の法的素養がないと十全には理解するのが難しいと思いますので、具体的な手続を考えておられる方には、
弁護士による法律相談を受けられることをお勧めします。
 一般社団法人全国銀行協会ホームページで資料が公開されています。
 
(抜粋引用開始)
はじめに
 我が国に未曾有の被害をもたらした東日本大震災以降も、地震や暴風、豪雨等による様々な自然災害が発生している。将来的にも、このような自然災害の影響によって、住宅ローン等を借りている個人や事業性ローン等を借りている個人事業主が、これらの既往債務の負担を抱えたままでは、再スタートに向けて困難に直面する等の問題が起きることが考えられる。
 かかる債務者への適切な対応は、自然災害からの着実な復興のために極めて重要な課題であり、東日本大震災に関して策定された「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」に係る対応を通じて得られた経験等も踏まえ、新たな債務整理の枠組みが望まれている。
 このような状況の中、金融機関等が、個人である債務者に対して、破産手続等の法的倒産手続によらず、特定調停手続を活用した債務整理により債務免除を行うことによって、債務者の自助努力による生活や事業の再建を支援するため、債務整理を行う場合の指針となるガイドラインを取りまとめることを目標として、本年(注:2015年)9月「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン研究会」が発足した。
 この「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」は、本研究会における金融機関等団体の関係者等や、学識経験者らの議論を踏まえ、自然災害により被災した個人債務者の債務整理に関する金融機関等関係団体の自主的自律的な準則として、策定・公表するものである。
1.目的
 本ガイドラインは、本研究会の設置(本年9月2日)後に災害救助法(昭和22年法律第118号)の適用を受けた自然災害(以下、特段の断りがない限り、「災害」という。)の影響を受けたことによって、住宅ローン、住宅のリフォームローンや事業性ローン等の既往債務を弁済できなくなった個人の債務者であって、破産手続等の法的倒産手続の要件に該当することになった債務者について、このような法的倒産手続によらずに、債権者(主として金融債務に係る債権者)と債務者の合意に基づき、債務の全部又は一部を減免すること等を内容とする債務整理を公正かつ迅速に行うための準則を定めることにより、債務者の債務整理を円滑に進め、もって、債務者の自助努力による生活や事業の再建を支援し、ひいては被災地の復興・再活性化に資することを目的とする。
2.債務整理の準則
(1) 本ガイドラインは、前項の債務整理を公正かつ迅速に行うための準則であり、金融機関等団体、日本弁護士連合会、商工団体等の関係者等が中立公平な学識経験者などとともに協議を重ねて策定したものであって、法的拘束力はないものの、金融機関等である対象債権者、債務者並びにその他の利害関係人によって、自発的に尊重され遵守されることが期待されている。
(2) 「対象債権者」(特定調停手続により本ガイドラインに基づく債務整理が成立したとすれば、それにより権利を変更されることが予定されている債権者として第3項(2)に定める者をいう。以下同じ。)は、この準則による債務整理に誠実に協力する。
(3) 対象債権者と債務者は、債務整理の過程において、共有した情報について相互に守秘義務を負う。
(4) 本ガイドラインに基づく債務整理は、公正衡平を旨とし、透明性を尊重する。
3.対象となり得る債務者及び債権者
(1) 次のすべての要件を備える個人である債務者は、本ガイドラインに基づく債務整理を申し出ることができる。
① 住居、勤務先等の生活基盤や事業所、事業設備、取引先等の事業基盤などが災害の影響を受けたことによって、住宅ローン、住宅のリフォームローンや事業性ローンその他の既往債務を弁済することができないこと又は近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれること。
② 弁済について誠実であり、その財産状況(負債の状況を含む。)を対象債権者に対して適正に開示していること。
③ 災害が発生する以前に、対象債権者に対して負っている債務について、期限の利益喪失事由に該当する行為がなかったこと。ただし、当該対象債権者の同意がある場合はこの限りでない。
④ 本ガイドラインに基づく債務整理を行った場合に、破産手続や民事再生手続と同等額以上の回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できること。
⑤ 債務者が事業の再建・継続を図ろうとする事業者の場合は、その事業事業価値があり、対象債権者の支援により再建の可能性があること。
⑥ 反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと。
⑦ 破産法(平成16年法律第75号)第252条第1項(第10号を除く。)に規定する免責不許可事由がないこと。
(2) 対象債権者の範囲は、金融機関等(銀行、信用金庫、信用組合労働金庫農業協同組合、漁業協同組合、政府系金融機関貸金業者、リース会社、クレジット会社及び債権回収会社並びに信用保証協会、農業信用基金協会等及びその他の保証会社(以下「保証会社等」という。))とする。ただし、本ガイドラインに基づく債務整理を行う上で必要なときは、その他の債権者を含むこととする。
(3) 対象債権者は、対象債務者に対して保証付き貸付を行っている場合、代位弁済受領前においては、保証会社等に対する適宜の情報提供その他本ガイドラインに基づく債務整理の円滑な実施のために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
~以下略
(引用終わり) 
 
 

(付録)
“Hard Times Come Again No More” 作詞・作曲:Stephen Foster.
日本語詞:長野たかし 演奏:森川あやこ&長野たかし