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金森徳次郎国務大臣答弁と『新憲法の解説』を読む~災害を理由とした緊急事態条項は不要!

 今晩(2016年5月29日)配信した「メルマガ金原No.2471」を転載します。
 
金森徳次郎国務大臣答弁と『新憲法の解説』を読む~災害を理由とした緊急事態条項は不要!

 IWJによる興味深い動画(アーカイブ)をご紹介します。ただし、視聴するためには会員登録が必要ですが。
 
災害を理由とした緊急事態条項は不要!徹底解明 2016.5.24
(動画解説から引用開始)
 2016年5月24日、東京都千代田区の衆議院第二議員会館にて、民進党階猛議員、弁護士の津久井進氏、大田区議の奈須りえ氏が、災害を理由とした緊急事態条項が不要であることについて徹底解明を行った。
目的 災害を理由とした緊急事態条項が不要であることを明らかにすること
内容
東日本大震災の際に被災地に必要な立法措置に奔走した経験」、「国会内での関連議論」 階猛議員
「現状の災害法体系」、「自民党の主張に対する反論」 津久井進氏(弁護士)
「自治体における災害防止や被害拡大を防ぐための政策」、「緊急事態条項による自治体で考えうる弊害」 奈須りえ大田区
コーディネーター 武井由起子氏(弁護士)
日時 2016年5月24日(火)10:30~
場所 衆議院第二議員会館(東京都千代田区)
(引用終わり)
※IWJ会員登録はこちらから
 
 今日は、上記動画の内、5分弱だけ視聴できるハイライト動画において、津久井進弁護士(兵庫県弁護士会)が解説している、日本国憲法制定時における政府(吉田茂内閣)の公権解釈を明らかにする資料2点をご紹介します。
 実は、2点とも、既に本メルマガ(ブログ)で紹介済みなのですが、他の論考や講演動画ご紹介の「ついでに」紹介したという経緯もあり、多分、読んでくれている人は非常に少ないと思いますので、あらためてまとめてご紹介することにします。

 なお、なぜ当時の政府解釈を知ることが重要かと言えば、日本国憲法を成立させた第90回帝国議会に、憲法草案(「帝国憲法改正案」)を提出したのが実質的には内閣であったからです(形式上は大日本帝国憲法73条1項「将来此ノ憲法ノ条項ヲ改正スルノ必要アルトキハ勅命ヲ以テ議案ヲ帝国議会ノ議ニ付スヘシ」に基づき、天皇が勅書をもって議会に提出したのですが)。
 つまり、憲法草案を審議した帝国議会議員は、政府の解釈を質し、それを前提とした上で議論を展開し、必要な修正を加えて現在の日本国憲法を制定したのですから、制憲議会における(あるいはそれに極めて近接した時期の)政府解釈は、憲法制定時の立法者意思を知るための非常に重要な資料となるのです。
 
 まずは、津久井進弁護士による資料の紹介動画(ハイライト)をご覧ください。
 
160524 災害を理由とした緊急事態条項は不要!徹底解明(4分50秒)
 

 最初は、金森徳次郎国務大臣(制憲議会における政府答弁の大半を担当)の緊急事態に関する答弁ですが、これについては、平成25年5月に衆議院憲法審査会事務局がまとめた「『緊急事態』に関する資料」に引用されています。少し長い孫引きとなりますが、ここでも引用しておきます。
 なお、衆議院憲法審査会ホームページの中に「日本国憲法制定時の会議録(衆議院)」というページがあり、以下に引用した部分を含む会議録全体を読むことができます。
 
◎第90回帝国議会 S21.7.2・衆・帝国憲法改正案 3 回 34 頁
○北浦圭太郎委員 アナタノ御説明ハ何処マデ行ツテモ法律的デアリマセヌカラシテ、私ハソレデ其ノ点ハ止メマスルガ、憧レノ中心デアルト云フコトハ、初メカラ私申上ゲマシタヤウニ、ドウカ説明出来タラ法律的ニ御願ヒ致シタイ、斯様ニ申シテ居ル、憧レ、昔カラ憧レノ中心ダ、今モ憧レノ中心ダ、ソレハアナタ独特ノ御説明デアツテ、ドウモ憲法ト云フ法律学ノ眼カラ見マスルテ云フト、諒解シ難イモノガアリマスル、併シ何処マデ行ツテモ同ジコトヲ繰返スノデアリマスカラ、是ハ是デ止メマセウ(笑声)
 次ニ此ノ草案ハ何故緊急勅令ヤ財政上ノ緊急処分ト云フヤウナ規定ヲ持タナイカ、此ノ点ヲ一ツ御伺ヒ致シマス
金森徳次郎国務大臣 前ノ寧ロ答ヘヲ御求メニナリマセヌ方ノ御尋ネニ対シテ強ヒテ御答ヘヲ致シマスルガ、法律的ニ説明ガ足ラヌト云フコトデアリマシタガ、私ハ国体ノ規定ハ現行憲法ノ条文ノ上ニ現ハレテ居ルノデハナクシテ、其ノ基盤ニ存在シテ居ルノデアル、斯ウ信ジテ居リマス、ダカラ憲法ノ条文ニ現ハレテ居リマスノハ、本当ノ国体規定デハナイノデアリマス、ソレヲ強ヒテ国体規定ノ言ツテ居ルノデ、ドウゾサウ云フヤウニ御考ヘ願ヒマス
 緊急勅令其ノ他ニ付キマシテハ、緊急勅令及ビ財政上ノ緊急処分ハ、行政当局者ニ取リマシテハ実ニ調法ナモノデアリマス、併シナガラ調法ト云フ裏面ニ於キマシテハ、国民ノ意思ヲ或ル期間有力ニ無視シ得ル制度デアルト云フコトガ言ヘルノデアリマス、ダカラ便利ヲ尊ブカ或ハ民主政治ノ根本ノ原則ヲ尊重スルカ、斯ウ云フ分レ目ニナルノデアリマス、ソコデ若シ国家ノ仲展ノ上ニ実際上差支ヘガナイト云フ見極メガ付クナラバ、斯クノ如キ財政上ノ緊急措置或ハ緊急勅令トカ云フモノハ、ナイコトガ望マシイト思フノデアリマス、併シ本当ニ言ツテ、国家ニハ色々ナ変化ガ起リ得ルノデアリマスルガ故ニ、全然是等ノ制度ナクシテ支障ナシトハ断言出来マセヌ、ケレドモ我我過去何十年ノ日本ノ此ノ立憲政治ノ経験ニ徴シマシテ、間髪ヲ待テナイト云フ程ノ急務ハナイノデアリマシテ、サウ云フ場合ニハ何等カ臨機応変ニ措置ヲ執ルコトガ出来マス、随テ緊急ノ措置ヲ要シマスルノハ稍々余裕ノアル事柄デアリマス、シテ見レバ、サウ云フ場合ニハ、臨時ニ議会ヲ召集スルト云フ方法ニ依ツテ問題ヲ解決スルコトガ出来ル、又臨時ニ議会ヲ召集スルコトガ出来ナイ場合ガ考ヘラレマス、ソレハ衆議院ガ解散サレ、末ダ新議員ガ選挙セラレナイ所ノ三、四十日ノ期間ガ予想セラレルノデアリマスガ、其ノ時ニハ何トモシヤウガナイ、ソコデ参議院ノ緊急集会ヲ以テ暫定的ニ代ヘル、斯ウ云フコトガ考ヘラレマス、尚且ツ考ヘマシテモ色々御意見ハ起リ得ルト思ヒマス、例ヘバ咄嗟ノ場合ニ交通断絶其ノ他ノ場合ニ、如何ニ適当ノ処置ヲスルカト云フ時ニハ、今後色色ナ工夫ヲ致シマシテ、サウ云フ非常ノ場合ニ処スル僅カバカリノ臨時措置ノ規定ヲ必要ナル法律等ニ編込ミ、大体是ハ警察法規等ガ主眼ヲナスモノト思ヒマスルガ、特別ナ場合ニ梢々臨時措置ヲナシ得ルヤウナ規定ヲ平素カラ予備シテ置クト云フノモ、一ツノ考ヘ方デアラウト思ヒマス、或ハ又財政上ノ緊急処分ノ点ニ付キマシテハ、例ヘバ議会ニ於テ必要ナル予算ノ成立ヲ見ルコトガ出来ナイ、而モ経費ヲ支弁スベキ時期ハ差迫ツテ居ル、ドウスルカト云フヤウナ場合ガ考ヘラレマスルガ、是ハ議論デ解決スルノデハナクシテ、政府ト議会トガ一心ノ如ク合体シテ居リマスルナラバ、ソコニ自ラ途ガ開カレテ来ルノデアリマシテ、今期議会ニ於テ始マリマシタ所ノ此ノ暫定ノ予算ト云フガ如キハ、此ノ方法ニ於テ一道ノ光ヲ与ヘテ居ルモノト思フ訳デゴザイマス
 
◎第90回帝国議会 S21.7.15・衆・帝国憲法改正案 13 回 240 頁
○北浦圭太郎委員 此ノ憲法ニ規定ナイ事項デ将来起リ得ルコトハ、三機関ノ何レカニ依ツテ決定サレルンダ、斯ウ云フ御答弁デアリマスガ是ハ不完全デアリマス、併シ是レ以上ハ議論デアリマスカラ申上ゲマセヌ
 最後ニ現行憲法ノ三十一条デアツタカ、斯ウ云フ規定ガアリマス今後ハ戦争ハアリマセヌガ、戦時又ハ事変ノ際ニハ、臣民ノ権利義務ハ憲法ニ規定ハシテアルケレドモ、一朝事変ノ際ニハ停止スルゾ是ハ行ハナイ、天皇ガ総テ大権ヲ行使サレル、斯ウ云フ趣旨ノ規定ガアツタコトハ、条文ハ探セバ直グ分ルノデアリマスガ、是ハ間違ヒアリマセヌ、ソコデ先程カラ同僚ノ代議士諸君モ盛ンニ心配シテ居ラレマスルヤウニ、戦争ハアリマスマイ、アツテハナラヌ、併シ国内事変ハ、是ハ金森国務相、夢デモ或ハ想像談デモアリマセヌ、
将来是ハ心配シテ置カナケレバナリマセヌ、サウ云フ場合ニハココニ草案ニ色々国民ニ対シテ広範囲ノ権利ヲ与ヘテ居リマスガ、停止ノ必要アルノデハナイカ、ヤハリ私ハ第三十一条デスカ、サウ云フ規定ガ必要デハナイカト思フ、ナゼ此ノ憲法ニソレヲ置カナイカ、此ノ点御伺ヒ致シマス
金森徳次郎国務大臣 今御示シニナリマシタヤウナ場合ヲ予想スルコトハ可能デアルト思フノデアリマス現行憲法ニ於キマシテモ、非常大権ノ規定ガ存在シテ居ツタコトハ今御示シニナツタ通リデアリマス併シナガラ民主政治ヲ徹底サセテ国民ノ権利ヲ十分擁護致シマス為ニハ、左様ナ場合ノ政府一存ニ於テ行ヒマスル処置ハ、極力之ヲ防止シナケレバナラヌノデアリマス言葉ヲ非常ト云フコトニ藉リテ、其ノ大イナル途ヲ残シテ置キマスナラ、ドンナニ精緻ナル憲法ヲ定メマシテモ、口実ヲ其処ニ入レテ又破壊セラレル虞絶無トハ断言シ難イト思ヒマス、随テ此ノ憲法ハ左様ナ非常ナル特例ヲ以テ――謂ハバ行政権ノ自由判断ノ余地ヲ出来ルダケ少クスルヤウニ考ヘタ訳デアリマス、随テ特殊ノ必要ガ起リマスレバ、臨時議会ヲ召集シテ之ニ応ズル処置ヲスル、又衆議院ガ解散後デアツテ処置ノ出来ナイ時ハ、参議院ノ緊急集会ヲ促シテ暫定ノ処置ヲスル、同時ニ他ノ一面ニ於テ、実際ノ特殊ナ場合ニ応ズル具体的ナ必要ナ規定ハ、平素カラ濫用ノ虞ナキ姿ニ於テ準備スルヤウニ規定ヲ完備シテ置クコトガ適当デアラウト思フ訳デアリマス、現行憲法ニ於キマシテ、二段ニモ三段ニモ斯様ナ非常ナ場合ニ応ズル用意ガアツテ、謂ハバ極メテ用意周到デハアツタノデアリマスガ、実際左様ノ手段ガ明白ニ用ヒラレタ場合ハナカツタヤウニ思ツテ居リマスデアリマスカラ余リニモ苦労シ過ギルヨリモ寧ロ自由保障ノ安全ヲ期シタ訳デアリマス
 
 もう1つは、『新憲法の解説』(1946年11月3日刊/法制局閲 内閣発行)です。この簡便なコンメンタールについては、津久井進弁護士のFacebookへの投稿を引用する形で、私のメルマガ(ブログ)でご紹介しており(立憲デモクラシー講座第8回(4/8)「大震災と憲法―議員任期延長は必要か?(高見勝利氏)」のご紹介(付・『新憲法の解説』と緊急事態条項)/2016年4月11日)、該当箇所を以下に再掲します。
 
(再掲載開始)
 大災害に備えた緊急事態条項など、不要であるばかりか有害であるということを積極的に主張している津久井進弁護士(兵庫県弁護士会)が、昨日、ご自身のFacebookタイムラインに投稿したところ、あっという間に多数の人がシェアしている情報があります。
 1946年11月の憲法公布に際して内閣が発行した『新憲法の解説』という冊子の内容を紹介したものであり、災害と緊急事態条項ということで共通するだけではなく、何より3年前にこの『新憲法の解説』を収録した文庫本(後掲)を編集したのが高見勝利先生なのですから、ここで一緒に紹介する価値はあるでしょう。
 以下に津久井進弁護士の投稿を引用させていただきます。
 
(引用開始)
 
内閣発行・法制局閲(はしがき;吉田茂首相)の『新憲法の解説』という,政府による憲法の国民向けの解説本があります。
 それによると,憲法は,あえて緊急勅令などを置かず「参議院の緊急集会」で対処するようにしたそうです。
憲法は緊急事態を想定してない」というのはデマでした。
(『新憲法の解説』より引用)
・・・明治憲法においては、緊急勅令、緊急財政処分、また、いわゆる非常大権制度等緊急の場合に処する途が広くひらけていたのである。これ等の制度は行政当局にとっては極めて便利に出来ており、それだけ、濫用され易く、議会及び国民の意思を無視して国政が行われる危険が多分にあった。すなわち、法律案として議会に提出すれば否決されると予想された場合に、緊急勅令として、政府の独断で事を運ぶような事例も、しばしば見受けられたのである。
 新憲法はあくまでも民主政治の本義に徹し、国会中心主義の建前から、臨時の必要が起れば必ずその都度国会の臨時会を召集し、又は参議院の緊急集会を求めて、立憲的に、万事を措置するの方針をとっているのである。・・・
(引用終わり)

 『新憲法の解説』は、2013年9月に岩波現代文庫から刊行された『あたらしい憲法のはなし 他二編』(高見勝利編)に収録されました。

 『新憲法の解説』冒頭に付された説明(編者によるものでしょう)を引用しておきます(78頁)。
 
(引用開始)
 1946年11月3日発行。本冊子の表紙は「法制局閲 新憲法の解説 内閣発行 高山書院発売」とあり、そこには著者名が記されていない。通常、表紙には著者名が記載されている。本冊子を収蔵した図書館は、書誌の作成にあたって戸惑ったようだ。「序」や「奥付」の記述から、著者は山浦貫一または林譲治とされる。これは、内閣が本冊子を自らの著作として明示したくなかったことによるものと思う。それなら出版しなければよいということになるが、そうも行かない事情があったようである。その事情とは、おそらく、政府の肝いりで憲法普及会を立ち上げさせた手前、その活動に要する簡便な憲法解説書を早急に整えておく必要があったからであろう。瓢箪から駒である。私たちは、本冊子を通じて、新憲法に関する内閣の初めての所見に接することができるのである。政府与党が憲法改正を進めようとしているいま、67年前、内閣が国民に提示した憲法見解とは一体どのようなものであったかを確認してみてはどうか。
(引用終わり)

 高見先生(多分)が、「政府与党が憲法改正を進めようとしているいま、67年前、内閣が国民に提示した憲法見解とは一体どのようなものであったかを確認してみてはどうか。」と勧めておられたにもかかわらず、刊行時に購入したことはしたものの、性根を入れて読んでいなかった私は、津久井先生が気付いた記述(文庫の116頁です)があったことなど、全く知りませんでした。
 ちなみに、高見先生が編集されたこの文庫本には、『新憲法の解説』の他に、『新しい憲法 明るい生活』(1947年5月3日刊)と『あたらしい憲法のはなし』(1947年8月2日刊)の2編が収められています(他に、資料として大日本帝国憲法、英文対訳日本国憲法を収録)。後2著については、そのテキストをインターネットで読むことができますが、『新憲法の解説』については、現在容易に読めるのは、岩波現代文庫だけだと思います。
(再掲載終了)
 
 帝国議会衆議院)会議録は、漢字・カタカナ・旧仮名遣いで読みにくかったでしょうが、何とか我慢して読み通した方は、1946年7月の制憲議会における金森徳次郎国務大臣の答弁と、同年11月に刊行された『新憲法の解説』における論調とが、ぴったりと一致していることを直ちに了解できたことと思います。
 金森大臣自身が『新憲法の解説』の本文を執筆したものではなく(同大臣は、吉田茂内閣総理大臣林譲治内閣書記官長とともに「序」を執筆)、3人の「序」によれば、同書は「新聞人山浦貫一君」の筆になるとされているものの、金森大臣の国会答弁を基本としながら、法制局全体として解釈の統一がはかられていたというべきでしょう。
 帝国議会審議における金森大臣の詳細な答弁を基に、それを簡潔に要約したのが『新憲法の解説』であったと理解できます。
 
 最後に、上でご紹介したとおり、『新憲法解説』は、現在、岩波現代文庫『あたらしい憲法のじゃまし 他二篇』に収録されていますが、オリジナル本がYahoo!オークションに出ていたのですね。しかも300円で落札されています。惜しいことをした!