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投票日当日の自民党などによる新聞広告は憲法改正国民投票運動の前触れか?

 今晩(2016年7月11日)配信した「メルマガ金原No.2504」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
投票日当日の自民党などによる新聞広告は憲法改正国民投票運動の前触れか?

 参議院議員通常選挙の投開票が行われた昨日(7月10日)、全国紙に目を通す機会があった人は、安倍首相の顔をフューチャーし、「今日は、日本を前へ進める日。」「4年前のあの停滞した時代に、後戻りさせる訳にはいきません。これからも、さらにアベノミクスのエンジンをフル回転させることで、全国の皆さんに景気回復の実感をお届けします。さあ、日本を、力強く、前へ、進めていきましょう。」「この道を。力強く、前へ。」という4段広告に驚かれたのではないでしょうか?
 私は、事務所で購読している朝日新聞(大阪本社版)13版の16面(スポーツ欄)でこの広告に気がつき、「これってあり?」と驚きました。
 驚いた理由は、もちろん公選法の以下の規定があるからです。
 
(選挙運動の期間)
第百二十九条
 選挙運動は、各選挙につき、それぞれ第八十六条第一項から第三項まで若しくは第八項の規定による候補者の届出、第八十六条の二第一項の規定による衆議院名簿の届出、第八十六条の三第一項の規定による参議院名簿の届出(同条第二項において準用する第八十六条の二第九項前段の規定による届出に係る候補者については、当該届出)又は第八十六条の四第一項、第二項、第五項、第六項若しくは第八項の規定による公職の候補者の届出のあつた日から当該選挙の期日の前日まででなければ、することができない。
 
 条文は読みにくいですが、簡単に言えば、選挙運動が出来るのは、選挙が公示されて立候補の届出または比例名簿の届出のあった日から、その選挙の期日(まあ投票日のことですね)の前日までのみであって、その前(事前運動)も後(当日運動)も選挙運動をしてはならないということであり、これに違反すると刑罰による制裁があります(1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金/公選法239条1項1号)。
 ちなみに、公選法自体に「選挙運動」についての定義規定はなく、総務省ホームページに「判例・実例によれば、選挙運動とは、「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」とされています。」とあるとおりです。
 
 そこで新聞広告です。「選挙運動」としての新聞広告については、公選法に規定があります。
 
(新聞広告)
第百四十九条 

2 略
3 参議院比例代表選出)議員の選挙については、参議院名簿届出政党等は、総務省令で定めるところにより、参議院名簿登載者の数(二十五人を超える場合においては、二十五人とする。以下この章において同じ。)に応じて総務省令で定める寸法で、いずれか一の新聞に、選挙運動の期間中、総務省令で定める回数を限り、選挙に関して広告をすることができる。
4 衆議院議員又は参議院比例代表選出)議員の選挙以外の選挙については、公職の候補者は、総務省令で定めるところにより、同一寸法で、いずれか一の新聞に、選挙運動の期間中、二回(参議院選挙区選出議員の選挙にあつては五回(参議院合同選挙区選挙にあつては、十回)、都道府県知事の選挙にあつては四回)を限り、選挙に関して広告をすることができる。
5 略
6 衆議院議員参議院議員又は都道府県知事の選挙においては、無料で第一項から第四項までの規定による新聞広告をすることができる。ただし、衆議院比例代表選出)議員の選挙にあつては当該衆議院名簿届出政党等の当該選挙区における得票総数が当該選挙区における有効投票の総数の百分の二以上、参議院比例代表選出)議員の選挙にあつては当該参議院名簿届出政党等の得票総数(当該参議院名簿届出政党等に係る各参議院名簿登載者(当該選挙の期日において公職の候補者たる者に限る。)の得票総数を含むものをいう。)が当該選挙における有効投票の総数の百分の一以上である場合に限る。
 
 要するに、「選挙運動」としての新聞広告は、この公選法149条所定のものしか認められないという趣旨です。
 しかし、「新聞で各政党の広告を色々見たような気がするけどそれはいいの?」と思われるかもしれませんが、これは、「選挙運動」ではない「政治活動」なのでOKということになっているのです。
 ちなみに、政党が行う「政治活動」については、公選法上も特別の位置付けがなされていて、規制が多いのですが(公選法201条の5以下)、新聞広告による「政治活動」を規制した規定は見当たりません。
 従って、選挙期日(投票日)当日の政党による新聞広告は、「選挙運動」であればアウト(公選法違反)、「政治活動」であれば何とかセーフと一応解釈できると思います。
 それで、先にご紹介した自民党の広告について、皆さんはどう思われます?
 私は「アウト」説です。
 決め手は「今日は、日本を前へ進める日。」です。
 この文脈で言う「今日」とは、「第24回参議院議員通常選挙が行われる日」以外ではあり得ません。明らかに、アベノミクス推進への支持を訴える「政治活動」の範疇を逸脱し、自民党及びその候補者への投票を呼びかける訴えだと誰でも受け取る内容です。

 まあ、これはあくまで私の個人的意見に過ぎませんが、早い段階でこの広告についての意見を発表した渡辺輝人弁護士(京都弁護士会)のブログにリンクしておきますので、是非お読みください。
 
自民党の選挙当日の新聞広告は選挙犯罪ではないのか
渡辺輝人 | 弁護士(京都弁護士会所属) 2016年7月10日 12時14分配信

(抜粋引用開始)
 自民党の今日の広告が許されるのなら、投票所の前で、各政党が、例えば消費税増税に反対する署名を集めたり、残業代ゼロ法案に反対するアピールを行うことも特に問題ないことになるはずです。安倍政権は、自ら、暗黙の了解を破ることで、選挙当日まで「事実上の選挙戦」(選挙の公示前にマスコミがよく使う表現ですね)が行われる途を開いてしまったように思われます。すでに述べたように、もともと、選挙運動のあり方について法律であれこれ規制すること自体がおかしなことなので、それはそれでありなのかもしれません。
 しかし、戦後、公職選挙法の選挙運動規制を強化し、他党の運動員を逮捕・起訴し、今回の選挙でも、一般国民に対して、選挙運動のあり方についてあれこれと規制を掛けてきた側にいるのが自民党です。私たち国民が、特に公示前や今日(選挙当日)のツイッターでのツイートのあり方について悩まなければならないのもそのためです。そのような自民党が、「選挙の公正」も「金権選挙の防止」も目もくれず、自分だけはその規制をないもののようにする行為をやったのは卑怯・卑劣というほかないでしょう。 
(引用終わり)
 
 とまあ、当初、今日のブログはここまでにするつもりであったのですが、ハフィントンポストに掲載された以下の記事に気がつき、昨日、新聞広告を出した政党が自民党だけではなかったことを知りました。
 もしかすると、まだ気がついていない人もいるかもしれなので、ご紹介しておきます。
 
自民党などの広告、参院選投票日の朝刊に掲載「これって違法?」調べてみた
The Huffington Post | 執筆者:泉谷由梨子 
投稿日: 2016年07月10日 13時32分 JST 更新: 2016年07月10日 14時26分 JST

(抜粋引用開始)
(略)
 ハフポスト日本版の調べでは、7月10日の東京都内で販売されている朝刊に広告を出している政党と新聞社は以下の通り。
  朝日、日経=自民党のみ掲載
  毎日、読売=自民党公明党を掲載
  産経=自民党幸福実現党を掲載
  東京=掲載なし
 このうち、自民党の広告には、安倍晋三首相の大きな顔写真とともに「今日は、日本を前へ進める日。4年前のあの停滞した時代に後戻りさせる訳にはいきません。これからも、さらにアベノミクスのエンジンをフル回転させることで、全国の皆さんに景気回復の実感をお届けします。さあ、日本を、力強く、前へ、進めていきましょう。この道を。力強く、前へ。」と書かれている。
 この中には、選挙を意識したフレーズが散りばめられているように見える。
(略)
総務省選挙課の見解は
 さて、では今回の広告は選挙運動なのか、それとも政治活動なのか、判断が難しい。ハフポスト日本版は総務省選挙課の担当者に電話インタビューを行った。担当者の見解は以下の通りだ
――広告は選挙運動に当たるのではとの指摘がありますが
この広告が選挙運動に当たるかどうかについては、判断の権限は総務省にはありません。取り締まりを行う警察当局、最終的には司法の場で判断されることになります。
――選挙運動と政治活動の境目を判断するのは困難にも思えます。ガイドラインのようなものはあるのでしょうか?
ありません。すべて個別判断になります。
(引用終わり)
 
 自民党公明党幸福実現党が選挙当日に新聞広告を出稿したことに加え、私が読んだ昨日の朝日新聞では、もう1つ安倍首相の写真をフューチャーした4段広告(幻冬舎による山口敬之著『総理』の出版広告)まで(自民党と示し合わせてでしょう。幻冬舎ですからね)見せられていたということも思い合わせ、さらに参議院でも改憲4党が2/3の議席を確保したという状況を踏まえると、どうしても想起せざるを得ない法律の条文が浮かんできました。
 以下に引用します。
 
日本国憲法の改正手続に関する法律(平成十九年五月十八日法律第五十一号)
(投票日前の国民投票運動のための広告放送の制限)
第百五条
 何人も、国民投票の期日前十四日に当たる日から国民投票の期日までの間においては、次条の規定による場合を除くほか、放送事業者の放送設備を使用して、国民投票運動のための広告放送をし、又はさせることができない。
 
 これは、憲法改正国民投票期日前14日間におけるスポットCMの禁止規定であり、南部義典著『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)によれば、「投票期日前の一定期間は、いわば国民が冷静な判断を行うための冷却期間として、スポットCMが規制されているのです。資金量の多寡によって、賛成・反対どちらかに偏った放送広告が氾濫することを防ぐため、間接的に総量規制を及ぼすという意義もあります。」(98頁)と説明されています。


 しかし、押さえておかねばならないのは、国民投票運動には、普通の選挙のような運動期間の制限がありません。改正案が国会から発議された瞬間から国民投票運動は可能ということになります。もっとも、その前から、改憲・護憲の主張は自由にできるのですから、いつからいつまでという制限など無意味です。
 基本的に、選挙運動と国民投票運動とは似て非なるもので、国民投票運動には、期間だけではなく、運動の主体、内容・態様、費用についても規制はありません。
 この原則と「広告」との関係について、南部義典氏は、前掲書で以下のように述べています。

憲法改正案に対する意見広告の自由は、意見広告主の表現の自由の保障という観点からも、投票に臨む国民が幅広い情報と判断材料を得るという観点からも、最大限保障されるべきです。
 そもそも広告とは、テレビ・ラジオの放送広告、新聞広告、雑誌広告、インターネット広告、交通広告(電車内の中吊り、駅のホーム、バスのラッピングなど)、野外広告(サッカー場、野球場などの観客席に掲示されたもの)、ダイレクトメール、駅頭で配布するチラシなど、さまざまな媒体からなっています。
 国民投票法が規制対象としているのは、放送広告のみです。投票期日前の一定期間は、スポットCMが規制されます。
」(96頁)
 
 私が、昨日の自民党などによる新聞広告から、国民投票法105条を思い出したのは、憲法改正国民投票運動では、投票期日前14日間のスポットCMは出来ないけれど、それ以前のスポットCMは自由に打てるし、新聞広告に至っては、投票日まで自由に掲載できる(政党でなくてもです)ということにあらためて思い至ったからです。
 昨日の自民党公明党幸福実現党幻冬舎による広告は、来たるべき憲法改正国民投票運動における改憲派による広告戦略の前触れ、あるいは試運転(お試し「改憲広告」)だったのではないか?と、私は疑っています。