wakaben6888のブログ

憲法を大事にし、音楽を愛し、原発を無くしたいと願う多くの人と繋がれるブログを目指します

島崎邦彦氏(東大名誉教授)から田中俊一原子力規制委員会委員長宛の申入書を読む

 今晩(2016年7月18日)配信した「メルマガ金原No.2511」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
島崎邦彦氏(東大名誉教授)から田中俊一原子力規制委員会委員長宛の申入書を読む

日本経済新聞Web刊 2016/7/15 20:38
大飯原発の地震想定再計算 規制委元委員「納得できない」

(引用開始)
 
関西電力大飯原子力発電所福井県)で想定する最大級の地震の揺れ(基準地震動)が過小評価されている可能性があると指摘している島崎邦彦・東京大学名誉教授が15日、都内で記者会見した。同氏の要請を受けて再計算した結果をもとに、原子力規制委員会地震動の見直しは不要との見解を示したことに対し、「結論がおかしい。納得できない」と訴えた。
 島崎氏は14日付で規制委の田中俊一委員長あてに、再度計算が必要だと記した文書を送付したことも明らかにした。
 規制委の再計算では、地震の揺れは最大で644ガル(ガルは加速度の単位)で、現在想定する856ガルを下回った。一方、島崎氏の推定では最大1550ガル程度に膨らむ可能性があるという。島崎氏は「(地震動が)かなり大きく、現在の数字を超えるのは間違いない」と話した。
 島崎氏は規制委の前委員で地震の審査を担当していた。田中委員長らと6月に面談し、地震動の再計算を求めた経緯がある。規制委は19日に改めて島崎氏から話を聴き、翌20日の定例会合で対応を議論する方針だ。 
(引用終わり)
 
 7月15日に行われた島崎邦彦東大名誉教授(前原子力規制委員会委員長代理)による記者会見はマスコミの関心を集め、多くのメディアが報道しましたが、私の目に触れた中では、上にご紹介した日本経済新聞の記事が、短い分量の中で過不足なく、必要な情報を伝えていると思いましたので引用しました。
 
 そもそも今なぜ、島崎邦彦氏の学説がこれほど注目を集めているかといえば、現在、国が(安倍自民・公明連立政権が)やっきになって進めようとしている原発再稼働の動きに、結果としてブレーキをかける働きを持ち得るかもしれないからでしょう。
 そのことを端的に物語る資料として、去る2016年6月8日、名古屋高裁金沢支部で開かれた大飯原発3・4号機差し止め請求訴訟控訴審の第8回口頭弁論において、原告(被控訴人)側が行った「準備書面(20)、(24)、(25)について 主に島崎氏の学会発表と熊本地震について」というパワーポイントを用いたプレゼンのスライド資料が、「福井から原発を止める裁判の会」ホームページからダウンロードできますので、関心のある方は是非ご参照ください(パワーポイントを読み取るソフトが必要ですが、ビューアーなら無料でダウンロードできます)。
 また、裁判終了後の弁護団原告団による報告集会・記者会見の動画も参考になります。
大飯原発3・4号機差し止め請求裁判/控訴審・第八回口頭弁論報告集会(2016.6.8)(46分)
 
 
 それでは、7月15日に行われた記者会見をより良く理解するための資料を、日本経済新聞の記事と関連付けながら、以下にご紹介しておきます。
 
【田中委員長らと6月に面談し、地震動の再計算を求めた経緯がある。】
 本年6月16日(木)14時から実施された、田中俊一委員長・石渡明委員と、島崎邦彦前原子力規制委員会委員長代理との面会の様子が、原子力規制委員会原子力規制庁の公式YouTubeチャンネルで公開されています。
島崎邦彦 前原子力規制委員会委員長代理との面会(56分)

 田中委員長らとの面会の後(多分そうでしょうね)、島崎邦彦氏に対する記者会見が行われました。OuePlanet-TVの動画でご紹介します。
島崎邦彦氏記者会見~ 元規制委の島崎氏が田中委員長と面談(32分)
 
 
【同氏の要請を受けて再計算した結果をもとに、原子力規制委員会地震動の見直しは不要との見解を示した】
 7月13日に開催された第20回原子力規制委員会では、議題1として、「大飯発電所の地震動の試算結果について」が議論されました。
 同委員会の中継動画はこちらです。議題1については、冒頭3分過ぎから議論が始まります。
第20回原子力規制委員会(平成28年07月13日)(2時間02分)

 また、委員会終了後の田中俊一委員長による定例会見の動画はこちらです。
原子力規制委員会定例記者会見(平成28年07月13日)(55分)

※6分ちょうど~の田中委員長の発言、担当者の説明に島崎氏が「結果を見て非常に安心した」と言っていたという報告を受けている、をYouTubeで視聴した島崎氏が、これは放置できないと考えて、14日付の田中委員長宛の書簡を発送し(たのでしょうね)、15日に記者会見を開くことになったということでしょう。
 
【規制委の再計算では、地震の揺れは最大で644ガル(ガルは加速度の単位)で、現在想定する856ガルを下回った。一方、島崎氏の推定では最大1550ガル程度に膨らむ可能性があるという。島崎氏は「(地震動が)かなり大きく、現在の数字を超えるのは間違いない」と話した。】
 正直、活断層地震動についての数値が飛び交っても、どこに問題点があるのかを理解するだけでも、それなりの予備知識が必要だろうと思います。
 まずは、島崎邦彦氏自身の説明に耳を傾けるべきでしょうが、今のところ、15日の記者会見の動画で見つかったのは、短いニュース用映像以外では、IWJだけです。
 完全版は会員登録した上で視聴できるようになりますが、約7分のダイジェスト動画もあります。
前原子力規制委員会委員長代理 島崎邦彦氏 記者会見 2016.7.15
同ダイジェスト動画(7分26秒)
 

 この記者会見を報じたレポートの中で(私が読み得た中で)一番詳しかったのは、ジャーナリストの「まさのあつこ」さんがYahoo!ニュースに発表した記事でした。もっとも、よく理解できたか?ということになると自信はありません。ただ、島崎氏と原子力規制委員会とのやりとりの経緯が、時系列順に整理されており、その点は分かりやすいと思います。
大飯原耐震性「規発の制庁の結論、納得いかない」:島崎教授、19日に再面会へ
(抜粋引用開始)
 
また、規制庁に説明された場は、自分が意見を言う場でなかったので何もコメントしなかったが、安心したというのは誤解であり、「納得していない」というのが会見の主旨である。なお、筆者が島崎委員の手紙をもとに表に整理した数字は、島崎氏があくまで規制庁の計算方法から求めた加速度比による概算であり、「1550ガルが1人歩きしないように気をつけて欲しい」というのが会見で島崎氏が強調したことだ。
 このことについて19日に規制庁で再度面会が行われることとなる。
(引用終わり)
 
【島崎氏は14日付で規制委の田中俊一委員長あてに、再度計算が必要だと記した文書を送付したことも明らかにした。】
 島崎邦彦氏が15日に記者会見を開いた上で公表した(のでしょう)田中俊一原子力規制委員会委員長宛の書簡(PDFファイル)が、複数のML経由で私のところにも届きました。そして、非常に信頼できる発信者からの「以下の情報(添付も含め)全て転送・転載可能です。是非、拡散よろしくお願い致します!」というメッセージに応え、この書簡を紹介しようと思い立ったのですが、そこで「待てしばし」といったん思いとどまり、本当にこの書簡を公開しても良いのだろうか?検証してみようということで調べてきた結果を記録したのが今日のメルマガ(ブログ)の実態なのです。
 13日の記者会見で、田中俊一委員長が「(島崎氏が)結果を見て非常に安心した」と言っていたという報告を受けている、と発言したことが決定的な引き金となって、14日付の委員長宛書簡や15日の記者会見に発展したことが確認できたこと、当然、15日の記者会見では、全てのメディア、参加者に書簡のコピーが配布されたはずであること、内容的にも、単なる私信ではなく、「この際、関西電力の基本ケースがほぼ再現できるような設定で、上記推定値に替わる計算値が得られるよう、再計算をすべきだと思います。」という申し入れを主眼としていることな
どの確認がとれましたので、私が入手した書簡の内容を公表することに問題はないと判断した次第です。
 入倉・三宅式も一つの学説なら、それを批判する島崎邦彦説も一つの学説です。どちらの方により高い科学的合理性が認められるのか、地震学についての基礎的素養を欠く現在の私には判断がつけかねます。
 しかし、ことは原子力発電所の安全性に重大な影響を及ぼす基準地震動に直接かかわる論点についての問題提起であり、原子力規制委員会においても、裁判所においても、最大限に真摯な検討が求められていると言うべきでしょう。
 
(島崎邦彦氏から田中俊一原子力規制委員会委員長宛申入書から引用開始)
                                       2016 年7 月14 日
 
原子力規制委員会委員長
田中俊一様
 
 先日は、震源の大きさが過小評価されているという問題提起に対し、速やかに対応して頂き、誠にありがとうございました。委員会および規制庁のみなさまににお手紙差し上げた通り、感謝の念で一杯です。
 
 昨日の委員長記者会見のYou Tube を拝見したところ、私が規制委員会の議論や結論を納得し、承諾したと、誤解されているように見えますので、お手紙を差し上げて、小生の見解を述べさせて頂きます。
 
 規制庁の計算結果の説明を受ける場は、小生が意見表明をする場として設けられたものではありませんので、結果に対するコメントは致しませんでした。また、試算の結果については強震動の専門家の意見を尊重すべきであると私は思いますので、積極的発言は避けてきました。しかし、このことが逆に誤解を招いているようですので、見解を公表させて
頂きます。
 
 今回の規制委員会の議論および結論は納得できません。
 
 理由を次に述べます。大飯の基準振動が過小評価されていることは、今回の試算の結果、明らかだと思います。
 規制庁広報室から、規制庁の計算結果の数字が入倉・三宅による基本ケース(破壊開始点3)で、東西、南北、上下方向の加速度(周期0.02秒)が、それぞれ、356、346、233 ガル。
 同じ条件で、武村式を適用すると、東西、南北、上下の加速度(周期0.02秒)が、それぞれ、644、632、405 ガルと伝えられたと聞いております。
 
 武村式の結果を入倉・三宅式の結果で割ると、東西、南北、上下の加速度の比はそれぞれ1.81、1.83、1.74 と求まります。
 
 一方、関西電力による基本ケース(破壊開始点3)では、東西、南北、上下方向の加速度(周期0.02 秒)は、それぞれ、596、428、347 ガルです。これは重要なデータですが、昨日私が受けた説明にはありませんでした。規制庁の計算と関西電力の結果が一致しないこと、その理由としてパラメターが十分把握できていないためとは昨日伺いました。しかし上記基本ケースについては、資料に含まれておらず、実際の値も提示されておりません。
 
 規制庁の結果と関西電力の結果とは、平均値と中央値の代表波で異なるとのご説明がありますが、細かな数値の違い以上の問題があると思います。本来、両者の結果が同一となるような設定をすべきであり、そのような設定での計算によって、武村式の効果を推定すべきです。しかしながら、それができないという条件下で最良の推定は、上記の加速度比
関西電力の加速度に掛けて得られる値を、近似値として使用することです。その結果、武村式使用の場合の基本ケース(破壊開始点3)では、東西、南北、上下方向の加速度(周期0.02 秒)は、それぞれ、1080、780、600 ガルと推定されます。ここでは精度を考慮して10 ガル単位としました。東西動の値は、基準地震動の856 ガルを越えております。
 
 実際には、これに加えて短周期1.5 倍ケースなどを計算する必要があります。Ss-4 は破壊開始点3で短周期1.5 倍のケースです。これを例として武村式使用の場合の推定をします。関西電力によると、この場合の東西、南北、上下の加速度(周期0.02 秒)は、それぞれ856、546、518ガルであると、頂いた資料に書かれています。
 厳密には上述のように、関西電力の基本ケース(破壊開始点3)と、規制庁の計算結果が同じとなるように設定した上で、武村式を使用し、短周期1.5 倍のケースを計算すべきです。しかしながら、それができないという条件下での最良の推定は、既に求めた加速度比を関西電力の短周期1.5 倍ケース(破壊開始点3)の値に掛けて得られる値を、近似値として使用することです。その結果、武村式使用の場合の短周期1.5 倍ケース(破壊開始点3)では、東西、南北、上下方向の加速度(周期0.02 秒)は、それぞれ、1550、1000、900 ガルと推定されます。ここでは精度を考慮して10 ガル単位としました。
 
 これらの推定は必ずしも高い精度の推定ではありません。しかしながらそのような精度でも、現在の基準地震動が過小評価されているのは間違いないと思います。
 この際、関西電力の基本ケースがほぼ再現できるような設定で、上記推定値に替わる計算値が得られるよう、再計算をすべきだと思います。
 
                                         島崎邦彦拝
(引用終わり)

 
(付記) 
7月31日(日)13:45(開場 13:30)~17:00
同志社大学 烏丸キャンパス 志高館 SK112
チラシ
資料代:500円(学生:無料)
主催:原発地震の過小評価を考える集い・連絡会
問い合わせ:グリーン・アクション
京都市左京区田中関田町 22-75-103. E-mail: info@greenaction-japan.org
Tel: 075-701-7223 Fax: 075-702-1952 HP: http://www.greenaction-japan.org/