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高橋和夫教授の「パレスチナ問題('16)」(放送大学)受講の奨め

 今晩(2016年8月6日)配信した「メルマガ金原No.2530」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
高橋和夫教授の「パレスチナ問題('16)」(放送大学)受講の奨め

 巻末のリストをご覧いただければ分かるとおり、過去何本も、放送大学や同大学専任教員である高橋和夫教授についての記事をメルマガ(ブログ)で書いてきました。
 私は、2008年4月、1年限定の選科履修生として放送学の学生となり、翌2009年4月から、正式に全科履修生となりました。いったん、全科履修生となれば、最長10年間は在籍可能なので(私の場合、2018年度まで)、あと2年半の間に卒業すればよいのですが、今学期履修中の科目を全て単位取得したと仮定すると、卒業までに必要な総単位数(124単位)まで残り13単位(語学を1単位含むことが必要)ということになります。最近は、各学期ごとに放送授業2科目(計4単位)、面接授業1科目(1単位)のペースで履修しているため、このままでは10年ではなく9年で卒業してしまうため、さらにペースを落とすか、必修の語学1単位を2018年度回しにして調整するか、などと考えています。
 
 この間、私がメルマガ(ブログ)で取り上げた放送大学関係の記事の中では、昨年10月に書いた「日本美術史('14)」事件をめぐる2本が異彩を放って(?)いますが、本来であれば、こんな記事は書きたくなかったのであって、多くの人に「あなたも放送大学の優れた科目を受講しませんか」とお勧めしたいのです。
 これまで書いてきたものでいうと、「社会福祉と権利擁護('12)」(大曽根寛教授)、「現代の国際政治('13)」(高橋和夫教授)、「日本美術史('14)」(佐藤康宏東大教授)~結局受講できませんでしたけど~、「貧困と社会('15)」((西澤晃彦客員教授)などということになります。
 
 今日は、日本を代表する中東ウォッチャーである高橋和夫教授が2016年度に新規開講した「パレスチナ問題('16)」のシラバスをご紹介し、是非、受講(が無理でも番組を視聴)されるようにお勧めしたいと思っています。
 私は、放送大学(BSのテレビ及びラジオで放送)の番組をケーブルテレビで視聴しているのですが、いずれ受講するかもしれないと関心を持った新規開設科目は極力、録画(または録音)することにしており、「パレスチナ問題('16)」についても、45分×15回の全回を録画して、少しずつ視聴し、今日(8月6日)、最終第15回の講義を聴き終わったところなのです。
 そして、全講義をひとわたり視聴した結果、10月から始まる第2学期で正式に科目登録することを決意するとともに、メルマガ(ブログ)でもご紹介したいと考えた次第です。

 講義の具体的中身は、以下に引用するシラバスをご参照いただければと思いますが、私が、是非この科目を皆さんに紹介したいと考えるに至った理由が2つあります。
 1つは、2015年1月20日、ISILにより、後藤健二さんと湯川遥菜さんを殺害するとの予告動画が公開された直後、中東歴訪中であった安倍晋三首相が、エルサレムウォルドルフ・アストリア・ホテルで行った記者会見の場に、日の丸と並んでイスラエル国旗が掲出されているのを映像で見た瞬間の衝撃がいまだに尾を引いており、その衝撃の正体は何だったのか、中東におけるイスラエルという国家の誕生から現在まで(それはパレスチナ問題と表裏の関係にあるのですが)について知りたい、そして多くの日本人にも知ってもらいたいと考えたことです(※首相官邸ホームページより)。
 もう1つは、最終回の講義の終わりにあたり、高橋教授から受講生・視聴者に送られた以下のメッセージ(録画から文字起こししました)に感銘を受けたことにあります。
 そこで、シラバスに先立ち、まず、最終講義における高橋教授からのメッセージをご紹介しようと思います。
 
「最後に、皆さんに一言だけお願いしたいことがあって、このお願いは、是非この風景の中でしたいと思って、この映像を撮ってまいりました。
~スタジオからエルサレムに転換~
 このシリーズの冒頭でエルサレムをご覧いただきました。その時はひどいサンドストームに覆われたエルサレムでした。
 今日このシリーズを締めくくるにあたって、再び同じエルサレムをご覧いただきたいと思います。しかし、今日のエルサレムは、朝日を浴びたエルサレムです。鮮明に見えていると思います。エルサレムが鮮明に見えるように、皆さまの中東理解も、より鮮明になったものと期待いたしております。
 このシリーズを終わるにあたり、私は、1つだけ皆さまにお願いしたいと思います。
 シリーズは終わるんですけど、これをもって皆さまのパレスチナ問題との関わりを終わりにしていただきたくないのです。これをきっかけに、パレスチナ問題を考え続けていただきたいと思います。関心を持ち続けていただきたいと思います。
 そして、この問題の解決のために、国際政治は何を出来るのか、そして、日本が何を出来るのか、そして、1人1人が何をできるのかを考えていただきたいと思います。
 さらに、この問題を見つめるにあたっては、国際政治という大きな枠組から見ていただきたいんですけれど、同時に、国際政治の動きが、現地の難民キャンプのパレスチナ人、占領地のパレスチナ人、あるいは、1人のイスラエルの母親に、父親にどういうインパクトを与えるのかという、下からの視点を大切にしていただきたいと思います。
 私も皆さまとともに、この問題を見つめる新しい旅に今出発したいと思います。」
 
 以下に、「パレスチナ問題('16)」のシラバスをご紹介します。なお、本科目は、主任講師の高橋和夫教授が全講義を担当しています。

(引用開始)
主任講師 高橋 和夫(放送大学教授)
放送メディア テレビ
放送時間
平成28年度第2学期:(月曜)8時15分~9時00分(2016年10月~)
講義概要
パレスチナ問題の起源から説き起こし現状を解説し、この問題の展開を跡付ける。そして、その将来を展望する。パレスチナ地域の情勢の記述を縦糸に、周辺諸国や地域外の大国の動きを横糸にして、陰影の深いパレスチナ問題のタペストリーを編み上げる。
「現代の国際政治('13)」や「国際理解のために('13)」などの関連科目にも目配りしつつ勉強していただきたい。
 
シラバス
第1回 パレスチナ問題以前のパレスチナ
パレスチナ問題はイスラムとユダヤの二千年の対立として語られる例が多いが、それは事実に反している。なぜならばイスラムには1400年ほどの歴史しかないからだ。そのイスラムが二千年も争っているはずがない。またパレスチナ人にはキリスト教徒も多い。こうした基礎的な事実を踏まえながら、パレスチナ問題が起こる以前のパレスチナの歴史を概観する。
【キーワード】バビロン捕囚、十字軍、オスマン帝国キリスト教イスラム教、アラブ人、パレスチナ
 
第2回 ポグロムシオニズム
ヨーロッパにおける民族主義の高揚がポグロムの背景にあった。そして、それがシオニズムを生みだすことになった。シオニズムの背景にあった帝国主義的な発想や社会主義の思潮にも言及しつつ、パレスチナをめぐる国際情勢を紹介する。
【キーワード】民族主義ポグロム、ヘルツル、ユダヤ人国家、シオニズムフセイン・マクマホン書簡、バルフォア宣言委任統治
 
第3回 夢と悪夢
イスラエルの成立時に発生したパレスチナ難民の問題をめぐる議論を振り返る。また大国の関与について語る。
【キーワード】イスラエルの成立、ナクバ、豊穣なる記憶、元兵士たちの証言、11分後の承認、トルーマン大統領
 
第4回 スエズのかなたへ
スエズ運河をめぐる国際政治を振り返る。1956年戦争とアラブ民族主義の高まり、そして1967年戦争のアラブ統一運動の挫折が、そのテーマとなる。
【キーワード】スエズ運河ムスリム同胞団スエズ動乱ハンガリー動乱アイゼンハワーの決断、6日戦争
 
第5回 アラブ世界の反撃
1967年の戦争での敗北が、パレスチナ解放闘争の指導者アラファトの台頭を準備した。そしてエジプトとシリアは1973年10月イスラエルを奇襲して、中東情勢に新しい局面を開いた。
【キーワード】カラメの戦い、ファタハ、サダト、ミサイルの森、石油危機、キャンプ・デービッド合意
 
第6回 変わるイスラエル
イスラエルは、中東系の人々の流入により、ヨーロッパ的な国家から中東的な雰囲気の国家へと変貌しつつある。また経済的に豊かになったイスラエルは、世界各地からの「ユダヤ教徒」の流入に直面している。変化するイスラエルの姿を描く。
【キーワード】アシュケナジムセファルディムイスラエル市民権を持つアラブ人、三階建ての家、ユダヤ人の定義問題
 
第7回 レバノン戦争
平和条約によってエジプトからの圧力から解放されたイスラエルは、その軍事力をレバノンに拠点を置いていたPLOへの攻撃に向けた。イスラエル史上初の「選択による戦争」であった。
【キーワード】生きた宗教の博物館、レバノン内戦、選択による戦争、チュニスへ、サブラとシャティーラ
 
第8回 ペレストロイカと冷戦の終結
1985年3月にゴルバチョフソ連の最高権力者になると冷戦が終わり始めた。それは国際政治における地殻変動を意味していた。対米関係の改善を目指したゴルバチョフはユダヤ人のソ連からの出国を認めた。洪水のように移民がソ連からイスラエルに押し寄せ中東情勢に大きな影響を与えた。
【キーワード】ゴルバチョフペレストロイカ、新思考、ユダヤ人出国問題
 
第9回 インティファーダ
1987年パレスチナヨルダン川西岸とガザ地区で民衆のインティファーダ(一斉蜂起)が開始された。武器を使わずに石を投げたりタイヤを燃やしたりの抗議行動がイスラエルの占領政策を揺さぶった。
【キーワード】石の戦い、「腕を折れ」、折れないパレスチナ人、ハマスの登場
 
第10回 オスロ合意
冷戦の終結と湾岸戦争でのイラクの敗北が、PLOを決定的に不利な状況に追い込んだ。その状況下でノルウェーイスラエルPLOの間のオスロ合意で大きな役割を果たしたのは、中立的であったからではない。それは親イスラエル的であったからだ。30年以上の時の流れの後に、この合意の意味を考える。
【キーワード】湾岸危機、湾岸戦争アラファト金脈の構図、ノルウェーという国、ガザ・エリコ先行自治、アラファトの足元と手の内、ノルウェーの森
 
第11回 ラビン/その栄光と暗殺
オスロ合意以降の情勢を動かした中心人物はラビンであった。その栄光に満ちた経歴を振り返る。また、その暗殺が中東和平プロセスに与えた意味を考える。
【キーワード】ネクタイを締められなかった男、1967年戦争の勝利、イスラエルの「ドゴール」、中東和平プロセス、暗殺
 
第12回 ネタニヤフとバラク
ラビンの死亡以降の情勢をネタニヤフとバラクというイスラエルの二人のライバル政治家に焦点をあてながら跡付ける。そして2期8年を務めたアメリカのビル・クリントン大統領の中東和平を仲介への努力を歴史的な文脈に位置付ける。
【キーワード】エンテベの軌跡、恐怖と希望、「ピアノを弾くゴルゴ13」、クリントンの中東和平
 
第13回 揺らぐシリアのアサド体制
イスラエルと一貫して対立してきたシリアでは、1970年代より二代にわたるアサド家の支配が続いている。両国間の懸案はイスラエル占領下にあるシリア領土のゴラン高原である。しかし、アサド体制が揺らいでいる現在、交渉は期待できない。アサド家の支配を揺るがしているのは、シリア内戦である。内戦の混乱はイラク情勢と連動して「イスラム国」という異物を生み出した。混迷するシリア情勢の地域政治への意味を考える。
【キーワード】ダマスカスのスフィンクス、眼科医、ゴラン高原アラブの春とシリア内戦、アラウィー派、「イスラム国」、シリアという地名
 
第14回 アメリカの中東政策
アメリカの中東政策を特徴づけているのは、イスラエルへの強い支持である。なぜアメリカはイスラエルを支持するのだろうか。その背景を考えたい。
【キーワード】AIPAC、キリスト教原理主義、Jストリート、変わるアメリカのユダヤ社会
 
第15回 残された課題
クリントンの和平努力の挫折後の情勢を概観する。その特徴はアラファトの逝去とハマースの台頭である。そして最後に和平実現のために越えなければならない残された課題を語る。
【キーワード】キャンプ・デービッド、ハマース、国境、入植地、エルサレム、帰還権 
(引用終わり)
 
(番組視聴の方法)
 BS231チャンネル(無料)で視聴できます。多くのケーブルテレビでも無料で再配信を受信できます。
 「パレスチナ問題('16)」の平成28年度第2学期の放送は、毎週月曜日の午前8時15分~9時00分です。10月3日(月)からスタートします。
 なお、BSやケーブルテレビは、放送大学の学生にならなくても、誰でも視聴できます。
 放送大学の学生(1学期だけの科目履修生、1年間の選科履修生、それから卒業を目指す全科履修生)になると、インターネット(学生専用ページ)でほぼ全講義、いつでも視聴できます(科目登録していない科目でも自由に視聴できます)。
 
(入学の方法)
 番組を視聴するだけでなく、正式に学生として受講したいという方は、インターネット出願が便利です。平成28年度第2学期からの入学受付は、8月31日までです。
 なお、入学を検討する場合に気になる学費については、こちらのページをご覧ください。
 
(印刷教材(テキスト)は市販もされています)
 入学して科目登録すれば(放送授業は1科目11,000円)、その授業料の中には当然放送教材(テキスト)代も含まれていますが、このテキストは市販もされています。
パレスチナ問題 (放送大学教材)』高橋和夫(著)
パレスチナ問題 (放送大学教材)


高橋和夫教授の近著)
『中東から世界が崩れる―イランの復活、サウジアラビアの変貌(NHK出版新書)』(2016年6月刊)
中東から世界が崩れる―イランの復活、サウジアラビアの変貌 (NHK出版新書 490)


(弁護士・金原徹雄のブログから)
2013年8月17日
高橋和夫放送大学教授に岩上安身氏が“中東問題”をきく ※追記あり(高橋教授から受講者・視聴者への訴え)
2015年1月23日
「イスラム国」人質事件について柳澤協二さんと高橋和夫さんの意見を聴く~IWJに会員登録をして

2015年1月30日
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放送大学「日本美術史('14)」単位認定試験にかかわる見過ごせない大学の措置について

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