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会見詳録で読む平井久志氏「金正恩体制をどうみるか―労働党大会を前に」(4/26日本記者クラブ)

 今晩(2016年8月12日)配信した「メルマガ金原No.2536」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
会見詳録で読む平井久志氏「金正恩体制をどうみるか―労働党大会を前に」(4/26日本記者クラブ
 
 日本記者クラブで行われた会見の中には、その録音を文字化(会見詳録)して公開されるものがあり、私は時々、個人的に関心の高い分野についての会見詳録が新たに公開されていないかと調べるのが習慣になっています。
 同クラブでの会見の動画は、おおむねその日のうちにYouTubeで公開されますが、平均1時間半前後の会見動画をじっくりと視聴する時間を確保することはなかなか難しいものですから、自分のペースで熟読も速読もできる会見詳録があるととても便利です。
 それに、スピーカーのお話の構成を大づかみに理解することが、文字化されることによって、非常に容易になることも見逃せません。
 
 今日ご紹介しようとするのは、去る4月26日に行われた平井久志立命館大学客員教授(元共同通信)による「金正恩体制をどうみるか-労働党大会を前に」の会見詳録です。
 この会見は、今年の5月6日から9日まで、実に36年ぶりに開催された朝鮮労働党第7回大会の直前に行われたもので、朝鮮ウォッチャーの第一人者である平井氏による「党大会予想」を期待して招かれた企画でしょう。
 会見詳録を公開するに当たり、平井氏自身が以下のように述べておられます。
 
「私が4 月26 日に日本記者クラブで話した「金正恩体制をどうみるか-労働党大会を前に」をアジア時報6月号に掲載していただくことになりました。5月6日から9日まで行われた朝鮮労働党第7回党大会の〝見通し〟を語った内容でしたが、実際に党大会が終わってみると、私が語ったことは、合っている部分もあれば、間違った部分もありました。しかし、一度語った事実は覆りません。本稿では4月26日の講演内容はそのままにし、註や補足を付けて補完させて頂くことにしました。私としては一部、恥をさらすことになりますが、逆に、私の〝見通し〟と〝結果〟の違いを読者に示すことが、北朝鮮の現状を理解して頂く上で参考になるのではと思った次第です。(平井久志)」
 
 私自身、北朝鮮について何ほどの知識の持ち合わせもありませんので、非常に勉強になる講演録でした。動画と合わせてご紹介します。
 
日本記者クラブ 2016年4月26日
金正恩体制をどうみるか―労働党大会を前に
平井久志 立命館大学客員教授
 
 
動画YouTube(1時間27分)


記者による会見リポート

(引用開始)
北朝鮮、党大会も成果は望めず
研究テーマ:金正恩体制をどうみるか-労働党大会を前に
 北朝鮮は核実験をしミサイルの発射を続けるが、国威発揚の総仕上げになるのが5月6日開幕の労働党
会だ。36年ぶりの党大会で、何が討議され、決定されるのか。
 党大会は軍、地域、職域の代表が参加する、最も権威がある会議であり、ここで「金正恩時代」が公式にスタートする。父の金正日総書記は「先軍政治」を掲げたが、正恩氏は党に権力を一元化させ、軍を指導する体制をめざしている。実際に政策を立案、遂行する党の部長や副部長たちは40~50代が中心となり
、世代交代がかなり進むとみられる。
 核開発を続けながら経済発展もめざすという並進路線を、いっそう強く打ち出す。北朝鮮は現実には南北共存の道を進んでいるのだが、党大会では新たな南北統一の構想が発表されよう。平穏な時なら、韓国側も統一構想をテーマにした対話に前向きになるが、軍事的脅威が高まっている現状では、朴槿恵政権は
南北和解の動きには応じないだろう。
 1990年代半ばの飢餓の時代に小規模な市場(いちば)が各地にできた。今や全国に拡大し、国家の経済はかなりの部分を市場の活動に頼っている。個人の所有権はともかく、用益権を認めるような新しい経済
政策が提示されるのではないか。
 全体的に見て、準備不足を押して開催する党大会は成果に乏しいものになるだろう。年初からの核、ミサイル実験の成果を強調して、「対米勝利」の宣言ばかりが目立ち、中国など友好国の代表団が来ず、国
際的な孤立の中で内向きの大会になる可能性が高い。
 以上が共同通信のコリアウオッチャーとして活躍した平井さんの、労働党大会についての見立てである。北朝鮮の公式報道は特有のレトリックで書かれるので、予備知識がないと何が大事なのかわからない。平井さんの発言と的確にポイントをまとめたレジュメは、党大会のニュースを理解するのに必ず役立つは
ずだ。
 企画委員 東京新聞論説委員 山本 勇二  
(引用終わり)
 
 それぞれの関心に従って平井久志氏の講演は詳録でお読みいただければと思いますが、以下には、詳録の中でも私がとりわけ興味深く読み、「そうだよなあ」と肯いた部分を引用したいと思います。質疑応答に入った後、動画では1時間19分~の個人会員からの質問に答えた部分です。
 
(引用開始)
――金王朝の料理人をやっていた人が帰ってきました。あの人行ったら殺されるからもう行かないだろう
という話を聞いたことがあるのですが、無事帰ってきて、言っていることを見たら「僕に日本政府との橋渡しを期待しているように思った」、とか言っています。この点についてはいかがでしょうか。
平井 私は全部の報道を見ていません。私が読んだ範囲では毎日が一番詳しかった感じがするのですが、日本はどう思っているのだ、最悪だと藤本さんが言ったということは載っておりましたけれど。私は金正恩の不幸は、自分に会った海外の要人が中国を除いて西側の人間ではバスケットのロッドマンさんと藤本さんしかいないということだと思います。社会主義の閉鎖国家の中では、例えば『世界を揺るがした十日間』がロシア革命を紹介するとか、エドガー・スノーが中国革命を紹介するとか、西側社会の中で社会主義の閉鎖社会に理解を示すインテリがいたわけです。金日成だって宇都宮徳馬さんのような人や岩波の社長さんらを通じて彼らが何を考えているかを外部社会に伝えた。金正日にしたってドイツの女性の作家の方がいらっしゃいましたし、アメリカにいたジャーナリストの文明子(ムン・ミョンジャ)さんが会って何を考えているのかを外部に伝えるメッセンジャー役となるなど、ある程度の知識階級にいる人たちがいた。私は藤本さんを悪く言うわけではないのですけれど、西側の人たちで本当に本人に会ってちゃんとした話をしたのがバスケットの選手と藤本さんだけだというのは彼の不幸だと思います。そういう意味で私は、国際社会がこの人の相手をしてやることは非常に大事だと思うのです。彼をある種認めてあげて、彼は何を考えているのかを聞いてやる人が必要だと思うのです。
 そういう意味で前回の第1次核危機を救ったのは、金正日さんの核政策がある程度行き詰ったのに、ほぼそういうことに口出しをしなかった金日成という
人が出てきた。外部社会ではカーターさんが乗り込んで、クリントンさんがピンポイント攻撃するのを中止させて戦争を防いだということがあるのですが、今、非常に怖いのは、北朝鮮内部で金日成の役割を果たせる人がいない、国際社会でカーターさんの役割を果たせる人がいない。そのことが大変不幸です。そういう意味で、私は積極的にカーターさんの役割を果たせるような、別に外交交渉でなくていいから彼に会って彼の言い分を聞いてやり、何を考えていて本当の意味で北が何を望んでいるのかを聞いてやることは意味があるのではないのかという気がしています。
 藤本さんという人は幼少のころから彼の食事を作ったりして、おそらく金正恩ノスタルジアがあるのだと思いますが、今度は「いくらなんでもあまりしゃべるなよ」とは言われていると思うのですけれど。前回みたいにあまり言うと波紋があるからもう少し自重しろ、くらいのことは言われているのではないかなと思うのですが。彼もあまりしゃべらないほうがいいと思います。おそらく警察とか情報機関は彼から事情聴取するでしょうから、そういうことは協力されたらいいと思うけれど、あまりメディアに出てあれこれ言うのは藤本さんのためにもならないのではないかなと、逆に心配しています。
 外部社会で金正恩第1書記の言うことを聞いてあげる。金正日の場合は結構、情報があったのです。だいたいこういう考え方をする人だという情報が、書いたものとか会った人が結構いたものですから。ところが今度の人は何を考えているのか、確実性というかどういう手を打っているのか、思考方式が分からないということが余計、危機的状況を生み出しているのです。別に交渉する必要はなくても彼が何を考えているのか、ビジョンは何か、どこまでやろうとしているのか、今度、戦争などする気はないよということを言ったことは、それはそれで非常に意味のあることで、日本の世論を気にしているということも意味のあることだと思いますけれど、それをもう少しちゃんとした回路、ちゃんとしたルートで彼にしゃべらせるという必要があるのではないかという気がします。
(引用終わり)
 
(参考サイト/朝鮮中央通信・日本語版)
 平井さんが講演の中で言及された北朝鮮文書の日本語訳を探そうと思ったら、まずは、北朝鮮の国営通信社・朝鮮中央通信のWEBサイト(の日本語版)の中から探すことでしょうね。
 私も努力して「金正恩元帥が朝鮮労働党第7回大会で行った中央委員会の活動報告(全文)」にたどり着いたのですが(6月20日アップ)、とても全文引用する訳にもいきませんので、その冒頭と終わりだけ見本に引用してみます。
 この「活動報告」にたどり着いた方法は、「政治」カテゴリーを選択した上で、検索ボックスに「第7回」と入力して検索したところ、候補の中に上記文書を発見したというものです。皆さんも、一度試しにやってみます?
 いずれにしても、「北朝鮮の公式報道は特有のレトリックで書かれるので、予備知識がないと何が大事なのかわからない。」(記者による会見リポート)ということは、公式報道だけのことではなく、公式政治文書でも同じことであり、その意味からも、「平井さんの発言」は、これらの文書を「理解するのに必ず役立つはず」です。
 
(抜粋引用開始)
金正恩
朝鮮労働党第七回大会で行った中央委員会の活動報告
チュチェ105年5月6、7日
 同志のみなさん!
 朝鮮労働党第六回大会が開かれた時から今日に至る期間は、わが党の長い歴史においてこの上なく厳し
い闘争の時期であり、偉大な転換がもたらされた栄えある勝利の年代でした。
 総括期間、朝鮮労働党は比類なく厳しい環境の中で革命発展の各段階に主体的な路線と政策を打ち出し、偉大なわが人民に依拠して革命と建設を力強く前進させることによって、社会主義偉業の遂行において
輝かしい勝利を収め、祖国繁栄の新時代を開きました。
 歴史上、どの党と人民も歩んだことのない困難にして険しい革命の道を踏み分ける過程で、わが党は自己の思想と偉業の正当性と不敗性について深く確信するようになり、党に従って永遠にチュチェの道へ進
もうとするわが人民の覚悟と意志は一層強まりました。
 今日、すべての党員と人民は、不屈の精神力と英雄的な闘争によって誇るべき偉勲を立ててきた忘れが
たい追憶と、胸にあふれる勝利者の自負心を抱いて第七回党大会を意義深く迎えています。
 朝鮮労働党第七回大会は、全社会の金日成金正日主義化の旗印を高く掲げて、わが党をさらに強化し
社会主義強国の建設とチュチェ革命の最後の勝利を早める上で歴史の分水嶺となるでしょう。
(略)
 われわれは朝鮮労働党金日成金正日同志の党として絶えず強化発展させ、党の指導的役割を全面的に強めて、全社会を金日成金正日主義化するための歴史的闘争に新たな転換をもたらさなければなりま
せん。
 同志のみなさん!
 白頭で切り開かれた朝鮮革命は前人未踏の雪道を踏み分けて大きく前進し、チュチェの革命偉業遂行の飛躍期に入っています。厳しくかつ壮大な闘争の過程でこの地にもたらされた世紀の変革と偉大な勝利は、なんぴとも金日成金正日主義の旗印を高く掲げて進むわが党と人民の前途を阻むことはできず、朝鮮
革命の最後の勝利は確定的であることを如実に示しました。
 今日、われわれの勝利の前進を阻もうとする帝国主義者とその追随勢力の策動は悪辣さを増していますが、それは滅亡へと突っ走る者の最後のあがきにすぎません。時間と正義はわれわれの側にあり、われわ
れの自強力は厳しい試練の中で百倍、千倍に強まっています。
 われわれは第七回党大会が示した綱領的課題を貫徹することによって、社会主義強国建設を強力に推進
し、チュチェの革命偉業の最後の勝利を早めなければなりません。
 自主性を目指す人民大衆の聖なる偉業、金日成金正日主義党の偉業は必勝不敗です。
 ともに、金日成金正日主義の革命的旗印を高く掲げて党中央委員会の周りに団結し、団結し、また団結して、党の強化発展と社会主義偉業の完成のために、祖国の自主的統一と世界の自主化偉業の実現のた
めに力強く前進しましょう。―――
(引用終わり)