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東京・安保法制違憲訴訟(国賠請求)が始まりました(2016年9月2日)

 今晩(2016年9月3日)配信した「メルマガ金原No.2558」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
東京・安保法制違憲訴訟(国賠請求)が始まりました(2016年9月2日)

 昨日、内田雅敏弁護士の表現を借りれば、日本が連合国に正式に降伏した日からちょうど71年目の9月2日、いよいよ東京地方裁判所において、去る4月26日に提訴された2件の安保法制違憲訴訟のうち、国家賠償請求事件の第1回口頭弁論が開かれ、審理が始まりました。
 私も、裁判の実働は無理ですが、一応、訴訟代理人目録(621名)に名前を連ねた者の1人として、訴訟の経過を多くの人に知っていただきたいと思い、早速昨日の弁論の結果をお伝えしようと考えました。
 ただし、昨日の弁論の内容を紹介するためには是非必要と思われる、
 〇被告(国)が陳述した「答弁書」(平成28年9月2日付)
 〇昨日の口頭弁論で意見陳述した訴訟代理人5人、原告5人の陳述用原稿(おそらくそのまま裁判所に提出されたのではないかと思いますが)
が、まだ「安保法制違憲訴訟の会」の公式サイトにアップされていません。
 昨日、裁判が終わった後の報告集会では、10人の陳述用原稿は印刷されて配布されていましたし、少なくともメディアには被告「答弁書」も配布されていたようなので、いずれ公式サイトにアップされるだろうと思いますから、アップされ次第、ブログ版で追加掲載するようにします。
 
 それでは、以下に、昨日の弁論期日で行われた手続の概略をご紹介します。出廷もしていないのに何故分かるかと言えば、裁判終了後の記者会見及び報告集会で、代理人の寺井一弘弁護士らから説明があったからですが、まあ、だいたい弁護士なら想像はつきますので。
 
(事件の表示)
事件番号 東京地方裁判所 平成28年(ワ)第13525号
安保法制違憲・国家賠償請求事件
原告 堀尾輝久ほか456名

※訴状では、堀尾さんの他に辻仁美さん及び菱山南帆子さんの氏名も表示されていましたが、訴訟の実務では答弁書にあるとおり、「堀尾輝久ほか456名」(全部で457名ということです)と記載されることになります。
被告 国
 
(系属部)
東京地方裁判所 民事第一部(後藤健裁判長)
※当然ながら、3人の裁判官による合議で審理されます。後藤裁判長は司法修習41期、私の同期です。
 
(法廷)
東京地方裁判所 103号法廷

東京地裁で一番広い法廷らしいです。MLに届いた報告によれば、「バーの中には代理人弁護士が20名、原告代表の方々が30名入廷しました。傍聴席はマスコミ席を除いて90席でしたが、抽選手続を経て原告及び市民の方々が席を埋め尽くしました。」ということでした。
 
(弁論で行われた手続)
原告、「訴状」のとおり陳述。
被告、「答弁書」のとおり陳述。
※おそらく、原告、被告双方から提出された書証の取調べもあったのでしょうね。
原告訴訟代理人5名(寺井一弘、角田由紀子、福田護、伊藤真、中鋪美香)が意見陳述を行った。
※代理人5名の陳述は、訴状の主要部分を要約して弁論するものという扱いだったかもしれません。また、中鋪美香弁護士は、長崎国賠訴訟の代理人でもあり、被爆地から違憲訴訟を提起することの意味について陳述されました。
原告5名(堀尾輝久、菱山南帆子、辻仁美、ほか2名)が意見陳述を行った。
※「ほか2名」の方も、記者会見や報告集会にも参加されていますし、実名公表OKだとは思うのですが、「安保法制違憲訴訟の会」公式サイトで氏名が公表されるのを待ちたいと思います。
次回期日を、平成28年12月2日(金)午前10時30分と指定して閉廷。
※なお、国は、次回第2回弁論期日に提出予定の準備書面なく、原告側から、答弁書に対する反論を中心とした準備書面を提出するとのことでした。
 
 以上のように書いても、何が行われたかを理解していただくのは難しいでしょうね。
 昨日審理が始まった国家賠償請求訴訟の「請求の趣旨」と「請求の原因」目次については、このメルマガ(ブログ)でご紹介していますが(安保法制違憲訴訟(4/26東京地裁に提訴)の訴状を読んでみませんか?/2016年4月27日)、以下に再掲します。
 訴状全体は、公式サイトに掲載されたPDFファイルでお読みください。
 
請求の趣旨
1 被告は、原告らそれぞれに対し、各金10万円及びこれに対する平成27年9月19日から支払済み
まで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに第1項につき仮執行の宣言を求める。
請求の原因
目次
第1 国の公権力の行使に当たる公務員による、その職務を行うについての加害行為と原告らの権利侵害
の概要
1 新安保法制法の制定
2 新安保法制法案に向けての閣議決定・国会提出
3 新安保法制法の中心的内容
4 新安保法制法の制定行為の違憲
5 新安保法制法の制定過程の反民主主義性
6 原告らの権利侵害
7 まとめ
第2 集団的自衛権の行使等を容認する新安保法制法は違憲であり、その制定に係る内閣及び国会の行為
は違法であること
1 新安保法制法制定の経緯
2 集団的自衛権の行使が違憲であること
(1) 集団的自衛権の行使容認
(2) 憲法9条の解釈における集団的自衛権行使の禁止
(3) 閣議決定と新安保法制法による集団的自衛権行使の容認
(4) 集団的自衛権行使容認の違憲
(5) 立憲主義の否定
3 後方支援活動等の実施はいずれも違憲であること
(1) 後方支援活動等の軍事色強化
(2) 後方支援活動等の武力行使
(3) 後方支援活動等の他国軍隊の武力の行使と一体化
(4) 後方支援活動等の違憲
4 砂川事件判決について
5 新安保法制法の違憲性とその制定に係る内閣及び国会の行為の違法性
第3 新安保法制法の制定に係る行為による原告らの権利侵害
1 集団的自衛権の行使等によってもたらされる状況
2 各事態においてとられる措置と国民の権利制限・義務等
3 集団的自衛権の行使等による自衛隊の海外出動と戦争参加による国民・市民の権利侵害の危険性・切
迫性
4 原告らの権利、利益の侵害(概論)
(1) 平和的生存権の侵害
(2) 人格権侵害
(3) 憲法改正・決定権侵害
5 原告らの権利、利益の侵害(詳論)
(1) 多様な原告らの権利侵害
(2) 平和を望む国民・市民
(3) 先の太平洋戦争で被害を受けた者とその家族
ア 原爆を投下された広島・長崎で被爆した者とその家族
唯一の地上戦により被害を受けた沖縄県
ウ 空襲被害者
シベリア抑留者その他戦争により被害を受けた者とその家族
(4) 原子力発電所関係者
(5) ジャーナリスト
(6) 地方公共団体・指定公共機関の労働者、医療従事者、交通・運輸労働者
(7) 憲法研究者
(8) 宗教者
(9) 教育関係者
(10) 女性や子供を持つ親たち
(11) 若者
(12) その他の被害者
第4 原告らの損害
第5 公務員の故意・過失及び因果関係
1 公務員の故意・過失
2 加害行為と損害との因果関係
第6 結論
第7 さいごに
 
 答弁書が、まだ公式サイトにアップされておらず、その全体をご紹介することができませんので、とりあえず、「請求の趣旨に対する答弁」と「結語」を引用します。
 
第1 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 仮執行の宣言は相当でないが、仮に仮執行宣言を付する場合は、
(1)担保を条件とする仮執行免脱宣言
(2)その執行開始時期を判決が被告に送達された後14日経過した時とすることを求める。
第5 結語
 以上のとおり、原告らの主張は、いずれもそれ自体失当であり、理由がないから、速やかに弁論終結の上、原告らの請求はいずれも棄却されるべきである。
 
 それから、原告が訴状(請求の原因)で憲法違反を主張した部分についての被告による認否が、記者会見や報告集会でも話題になっていたようなので、何カ所か、訴状答弁書を対比してご紹介しましょう。
 
【訴状】
第1 国の公権力の行使に当たる公務員による、その職務を行うについての加害行為と原告らの権利侵害の概要
4 新安保法制法の制定行為の違憲
「しかし、このような新安保法制法案によって容認される実力の行使は、戦争を放棄し、戦力の保持を禁止し、交戦権を否認した憲法9条に明らかに違反するものであり、憲法9条の改正なくしてできることではありません。成立したとされる新安保法制法は、憲法9条の平和主義条項に違反して無効です。また、このように内閣及び国会が、憲法改正の手続をとることなく、恣意的な憲法解釈の変更を行い、閣議決定をし、法律を制定して、憲法の条項を否定することは、憲法尊重擁護義務に違反し、憲法改正手続をも潜脱するものとして、立憲主義の根本理念を踏みにじるものであり、同時に国民主権の基本原理にも背くも
ので、違憲・違法です。」
→【答弁書
憲法9条が戦争の放棄、戦力の保持の禁止及び交戦権の否認を規定していること、憲法99条が憲法重擁護義務を定めていることは認め、その余は、事実の主張ではなく、争点とも関連しないので、認否の要を認めない。」
 
【訴状】
第2 集団的自衛権の行使等を容認する新安保法制法は違憲であり、その制定に係る内閣及び国会の行為は違法であること
2 集団的自衛権の行使が違憲であること
(4) 集団的自衛権行使容認の違憲
「ア しかし、この集団的自衛権の行使の容認は、いかに「自衛のための措置」と説明されようとも、政府憲法解釈として定着し、現実的規範となってきた憲法9条の解釈の核心部分、すなわち、自衛権の発動は日本に対する直接の武力攻撃が発生した場合にのみ、これを日本の領域から排除するための必要最小限度の実力の行使に限って許されるとの解釈を真っ向から否定するものです。それは、他国に対する武力攻撃が発生した場合に自衛隊が海外にまで出動して戦争をすることを認めることであり、その場合に自衛隊
は「戦力」であることを否定し得ず、交戦権の否認にも抵触します。
イ 新3要件に即してみると、そのことはより明確です。
 まず、「他国に対する武力攻撃」に対して日本が武力をもって反撃するということは、法理上、これま
で基本的に日本周辺に限られていた武力の行使の地理的限定がなくなり、外国の領域における武力の行使、すなわち海外派兵を否定する根拠もなくなることを意味します。
 そして第1要件についていえば、「我が国に対する武力攻撃」があったかなかったかは事実として明確
あるのに対し、他国に対する武力攻撃が「我が国の存立を脅かす」かどうか、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利を覆す」かどうかは、評価の問題であるから、極めてあいまいであり、客観的限定性を欠きます。「密接な関係」「根底から覆す」「明白な危険」なども全て評価概念であり、その該当性は判断する者の評価によって左右されます。そして法案審議における政府の国会答弁によれば、この事態に該当するかどうかは、結局のところ、政府が「総合的に判断」するというのです。
 第2要件(他に適当な手段がないこと)及び第3要件(必要最小限度の実力の行使)は、表現はこれまでの自衛権発動の3要件と類似していますが、前提となる第1要件があいまいになれば、第2要件、第3
要件も必然的にあいまいなものになります。
 例えば、国会審議を含めて政府から繰り返し強調されたホルムズ海峡に敷設された機雷掃海についてみれば、第1要件のいう「我が国の存立が脅かされ、国民の生命等が根底から脅かされる」のは、経済的影響でも足りるのか、日本が有する半年分の石油の備蓄が何か月分減少したら該当するのか、そのときの国際情勢や他国の動きをどう評価・予測するのかなどの判断のしかたに左右され、第2要件の「他の適当な手段」として、これらに関する外交交渉による打開の可能性、他の輸入ルートや代替エネルギーの確保の可能性などの判断も客観的基準は考えにくく、さらに第3要件の「必要最小限度」も第1要件・第2要件の判断に左右されて、派遣する自衛隊の規模、派遣期間、他国との活動分担などの限度にも客観的基準を
見出すことは困難です。
 以上に加えて、平成25年12月に制定された特定秘密保護法により、防衛、外交、スパイ、テロリズム等の安全保障に関する情報が、政府の判断によって国民に対して秘匿される場合、「外国に対する武力攻撃」の有無・内容、その日本及び国民への影響、その切迫性等を判断する偏りのない十分な資料を得る
ことすらできず、政府の「総合的判断」の是非をチェックすることができないのです。
ウ こうして、新安保法制法に基づく集団的自衛権の行使容認は、これまで政府自らが確立してきた憲法9条の規範内容を否定するものであるとともに、その行使の3要件が客観的限定性をもたず、きわめてあいまいであるため、時の政府の判断によって、日本が、他国のために、他国とともに、地理的な限定なく世
界中で武力を行使することを可能にするものとして、憲法9条の規定に真っ向から違反するものです。」
→【答弁書
「事実の主張ではなく、争点とも関連しないので、認否の要を認めない。」
 
3 後方支援活動等の実施はいずれも違憲であること
(4) 後方支援活動等の違憲
「以上のように後方支援活動等の実施も憲法9条に違反するものであり、そのような内容の閣議決定を行い、また法律を制定して憲法9条の規範内容を改変しようとすることが、立憲主義を踏みにじるものであり、また、憲法96条の改正手続を潜脱して国民の憲法改正に関する決定権を侵害するものであることに
ついては、前記(第2の2(5))で述べたことがそのまま当てはまります。」
→【答弁書
「事実の主張ではなく、争点とも関連しないので、認否の要を認めない。」
 
 以上の他にも、訴状で憲法9条違反という主張が出てくれば、「事実の主張ではなく、争点とも関連しないので、認否の要を認めない。」で一貫しています。
 これまで、多くは当事者訴訟で闘われてきた違憲訴訟でも、同じような認否をしていたのだろうか?一度、三重の珍道世直さんに尋ねてみようかな。
 とにかく、国は、合憲・違憲の土俵には乗らないということなのでしょうから、原告側としては、これに対してどう攻め込むか、次回の原告「準備書面」が重要ですね。
 
 最後に、昨日の
 〇東京地裁前での事前集会(ではなく、偶然一緒になった人々なのかもしれませんが) 
 〇裁判後の記者会見
 〇午後5時から参議院議員会館(B107)で開かれた報告集会
の模様がUPLAN(三輪祐児さん)にアップされていましたのでご紹介します。動画の末尾に、資料として、原告訴訟代理人と原告による意見陳述原稿、それから国の答弁書が掲載されています。字が小さくて読みにくいですが、何とか判読できそうです。公式サイトにアップされるまでは、これで代用していただければと思います。
 今後とも、安保法制違憲訴訟に是非注目してください。
 
 ところで、寺井一弘先生は、記者会見でも報告集会でも、「全国全ての裁判所に安保法制違憲訴訟を提起して、全国の裁判官に問うていきたい」という意気込みを語っておられました。和歌山、どうしよう。
 
20160902 UPLAN【裁判所前広報・記者会見・報告集会】安保法制違憲・国家賠償請求訴訟第1回口頭弁論(2時間24分)

冒頭~ 裁判前の東京地裁前での集会
※何人もの方がハンドマイクで発言されていますが、聞き物は何と言っても18分~の内田雅敏弁護士でしょう。是非お聴きください。
40分~ 記者会見
1時間10分~ 報告集会
司会 杉浦ひとみ弁護士
1時間10分~ 寺井一弘弁護士 あいさつ
1時間24分~ 黒岩哲彦弁護士 第1回口頭弁論の裁判の様子
1時間35分~ 伊藤真弁護士 裁判の法的な展開について
1時間43分~ 原告・堀尾輝久さん
東京大学名誉教授。憲法9条幣原喜重郎発案説を裏付けるマッカーサーの書簡を発掘したことで最近話題になりましたね(“憲法9条 幣原喜重郎 発案説”を補強するマッカーサー書簡の発見~部分再録『内閣総理大臣の孤独な闘い』/2016年8月13日)。
1時間48分~ 原告・菱山南帆子さん
1時間51分~ 原告・辻仁美さん(安保関連法に反対するママの会)
1時間56分~ 原告・東京大空襲の被害者(女性)
2時間00分~ 原告・米軍横須賀基地の近隣住民(男性)
2時間04分~ 福田護弁護士 訴訟の今後の展開  
2時間13分~ 質疑応答
※会場から「国の答弁書をホームページで見られるようにして欲しい」という要望が寄せられたのに対し
、杉浦ひとみ弁護士から、2~3日中に安保法制違憲訴訟の会ホームページにアップする旨回答がありました。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2015年9月27日
安保法制違憲訴訟を考える(1)~小林節タスクフォースへの期待と2008年名古屋高裁判決
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珍道世直さんの新たな闘い~「閣議決定・安保法制違憲訴訟」を津地裁に提起
2015年12月2日
安保法制違憲訴訟を考える(4)~伊藤真弁護士(安保法制違憲訴訟の会)による決意表明(11/19@国会前)と小林節氏の現時点(11/21@和歌山県田辺市)での見解
2015年12月23日
「安保法制違憲訴訟の会」による記者会見(12/21)と原告募集のご紹介
2016年3月29日
安保法制施行の日に「安保法制違憲訴訟」を思う
2016年4月21日
いよいよ4月26日「安保法制違憲訴訟」を東京地裁に提起~4/20決起集会から
2016年4月27日
安保法制違憲訴訟(4/26東京地裁に提訴)の訴状を読んでみませんか?
2016年6月4日
安保法制違憲訴訟を地方から起こす~「安保法制違憲訴訟おかやま」の動き

2016年6月18日
「安保法制違憲訴訟おかやま」提訴(6/17)~これで全国6地裁に(付・動画4本雑感)