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辺野古訴訟判決(9/16福岡高裁那覇支部)の「骨子」をとりあえず読む

 今晩(2016年9月18日)配信した「メルマガ金原No.2573」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
辺野古訴訟判決(9/16福岡高裁那覇支部)の「骨子」をとりあえず読む

福岡高等裁判所那覇支部 平成28年(行ケ)第3号
地方自治法第251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事件
原告 国土交通大臣 石 井 啓 一
被告 沖縄県知事 翁 長 雄 志
 
 一昨日、福岡高裁那覇支部で判決が言い渡された事件を正式に表記すると以上のとおりとなります。ご存知かとは思いますが、石井啓一国土交通大臣は、自民党ではなく公明党の方(衆議院議員)です。
 「ひどい判決だ」という話はあちこちから聞こえてきますが(実際、そうだろうとは思いますが)、一応読んでからでないと、何がどれだけ「ひどい」のかも分かりませんしね。
 裁判所の判例検索サイト(これが検索しにくい)で探してみましたが、(多分)まだ掲載されていないようです。
 ということで、当事者である沖縄県公式WEBサイトの中の「知事公室辺野古新基地建設問題対策課」を開いたところ、被告側が受領した判決正本をスキャンしたらしい「判決文」が6分割されたPDFファイルとして掲載されていました。

 
 最終ページ(書記官による「これは正本である」という認証欄)の直前を確認してみると、別紙を含めてトータル358ページ、本文だけでも180ページ以上、これはなかなか読み通すのは難しい。
 沖縄県の当該ページには、「判決文」そのものだけではなく、「判決骨子」(2ページ)と「判決要旨」(13ページ)も掲載されていました。これは、耳目を集める重大事件の判決に際し、裁判所自身が作成する要約版であり、とりあえずこれを読んでみることにしましょう。
 「判決骨子」は、沖縄県ホームページから私が転記しました。
 それから「判決要旨」も全文を紹介したいと思いましたが、自分で転記するのは時間がかかり過ぎるので断念しました。すると、具合良く、沖縄タイムス+プラスに「判決(要旨)」が掲載されているのに気がつき、これをコピペさせてもらって紹介しようと思ったのですが、念のために県ホームページに掲載されたPDFファイルと照らし合わせてみると、読者に分かりやすいようにという配慮からでしょうか、書き直しが随所に見られました。もちろん、内容的な変更ではなく、元号を西暦にしたり、「被告」を「知事」と言い替えたりというようなことが大半ですが、文章表現を手直ししている箇所も結構あります。従って、裁判所が作成したとおりの「判決要旨」になっていませんので、「判決要旨」を引用しようという方は、沖縄タイムスからではなく、原文のPDFファイルから引用されるように助言したいと思います。
 従って、今日のところは判決要旨の全文転載は諦めて、リンクするにとどめます。
 時間に余裕が出来たら、全文をご紹介したいと思います。
 
【判決骨子】 
平成28年(行ケ)第3号 地方自治法第251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事件
                      
判  決  骨  子
1 事案の概要

 本件は、原告が、被告に対し、普天間飛行場代替施設を辺野古沿岸域に建設するために受けていた公有水面埋立ての承認の取消しを取り消すよう求めた是正の指示に従わないのは違法であるとして、その不作為の違法の確認を求めた事案である。
2 当裁判所の判断
(1)
知事が公有水面埋立承認処分を取り消すには、承認処分に裁量権の逸脱・濫用による違法があることを要し、その違法性の判断について知事に裁量は存しないので、取消処分の違法性を判断するに当たっては、承認処分の上記違法性の有無が審理対象となる。
(2)公有水面埋立法(以下、「法」という。)4条1項1号要件の審査対象に国防・外交上の事項は含まれるが、これらは地方自治法等に照らしても、国の本来的任務に属する事項であるから、国の判断に不合理な点がない限り尊重されるべきである。
(3)普天間飛行場の被害を除去するには本件埋立てを行うしかないこと、これにより県全体としては基地負担が軽減されることからすると、本件埋立てに伴う不利益や基地の整理縮小を求める沖縄の民意を考慮したとしても、法4条1項1号要件を欠くと認めるに至らない。
(4)承認時点では、十分な予測や対策を決定することが困難な場合は引き続き専門家の助言の下に対策を講じることも許されるなどの点に照らすと法4条1項2号要件を欠くと認めるには至らない。
(5)よって、承認処分における要件審査に裁量権の逸脱・濫用があるとは言えず、承認処分は違法であるとは言えない。仮に、承認処分の裁量権の範囲内であってもその要件を充足していないという不当があれば取り消せると解したとしても、承認処分に不当があると認めるには至らないし、仮に不当があるとしても、知事の裁量の範囲内で埋立ての必要を埋立てによる不利益が上回ったに過ぎず、承認を取り消すべき公益上の必要がそれを取り消すことによる不利益に比べて明らかに優越しているとはいえないなど、承認処分を取り消すことは許されない。よって、被告の取消処分は違法である。
(6)その他、被告がする是正の指示が違法であるとの主張は、その前提とする地方自治法の解釈が失当である。
(7)遅くとも本件訴え提起時には、是正の指示による措置を講じるのに相当の期間は経過しており、被告の不作為は違法となった。また、地方自治法の趣旨及び前件和解の趣旨から、被告は是正の指示の取消訴訟を提起するべきであった。
                                              以上
 
【判決要旨】
 県PDF 判決要旨
 
 沖縄タイムス+プラスを閲覧したついでに、同紙から、以下の2つの記事をご紹介しておきます。
 
沖縄タイムス+プラス ニュース 2016年9月17日 12:03
辺野古違法確認訴訟 裁判長の説明

(抜粋引用開始)
 なお、この場で2点だけ説明致します。
 まず1点目は、協議と判決との関係。協議は政治家同士の交渉ごとでまさに政治の話。訴訟は法律解釈の話。両者は対象とする問題点は同じでも、アプローチがまったく違うもので同時並行は差し支えないと、考えた。
 2点目。裁判所が被告に敗訴判決に従うかを確認した理由に関係する。国は敗訴しても変わらない。国は何もできないことが続くだけ。
 これは弁護士の方はよくご存じだと思うが、平成24年の地方自治法改正を検討する際に問題になった。
 不作為の違法を確認する判決が出ても、地方公共団体は従わないのではないか。そうなれば判決をした裁判所の信頼権威を失墜させ、日本の国全体に大きなダメージを与える恐れがあるということが問題になった。
 そういう強制力のない制度でも、その裁判の中で、被告が是正指示の違法性を争えるということにすれば、地方公共団体も判決に従ってくれるだろうということで、そういうリスクのある制度ができた。
 それで、その事件がこの裁判にきたということになる。そういうことで、そのリスクがあるかを裁判所としてはぜひ確認したいと考えた。もしそのリスクがあれば、原告へ取り下げ勧告を含めて、裁判所として日本の国全体に大きなダメージを与えるようなリスクを避ける必要があると考えた。もちろん代執行訴訟では、被告は「不作為の違法確認訴訟がある。そこで敗訴すれば、従う。だから、最後の手段である代執行はできない」と主張されまして、それを前提に和解が成立しました。
 ですから当然のこととは思いましたけれども、今申し上げたように理解があるということでしたので、念のため確認したものの、なかなかお答えいただけなくて心配していたんですけども、さすがに、最後の決断について知事に明言していただいて、ほっとしたところであります。どうもありがとうございました。判決は以上です。じゃあ終わります。
(引用終わり)
※多見谷寿郎裁判長による法廷での「主文読み上げ」及び「説示」が再現されており、なかなか興味深いですね。再現の正確性については沖縄タイムスを信用するしかありませんが。とりあえず、「説示」部分のみ引用しました。
 
沖縄タイムス+プラス タイムス×クロス 2016年9月18日
【木村草太の憲法の新手】(40)辺野古訴訟判決 県の主張に応えていない

(抜粋引用開始)
 
9月16日、福岡高裁は、辺野古の埋め立て承認処分の取消を違法と判断した。判決は、次のように述べる。
 「全ての知事が埋立承認を拒否した場合、国防・外交に本来的権限と責任を負うべき立場にある国の不合理とは言えない判断が覆されてしまい、国の本来的事務について地方公共団体の判断が国の判断に優越することにもなりかねない。これは、地方自治法が定める国と地方の役割分担の原則にも沿わない不都合な事態である。よって、国の説明する国防・外交上の必要性について、具体的な点において不合理であると認められない限りは、被告はその判断を尊重すべきである」
 この言いようは、あまりにもひどい。米軍基地が嫌悪施設だと認めつつ、「みんな嫌がるから、地元の話など聞いてられない」という開き直りだ。これでは、安全保障に関する事柄は全て、自治体の意向を無視して、国が勝手にできることになってしまう。
 今こそ、憲法が、地方自治を保障する意味を見直さねばならない。国地方係争処理委員会は、話し合いによる解決を求めていた。この判決は、それすら無視している。
 この判決を基礎にするならば、国は、話し合いの場を設けるインセンティブがなくなる。何もしない方が、国の主張が通りやすいからだ。沖縄が納得するだけの十分なコミュニケーションを促すには、何をすべきなのか、そういった視線も必要だ。
 また、沖縄に基地が集中しているのを知りながら、「仕方ない」と国民が思っていたのでは、地域間の不平等は解消されない。米軍基地による恩恵を受けているのは、日本国民全体だ。「本当に沖縄でなければならないのか」を、一人一人が考えていかねばならない。
(引用終わり)
 
 最後に、地元沖縄2紙の社説にリンクしておきます。