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wakaben6888のブログ

憲法を大事にし、音楽を愛し、原発を無くしたいと願う多くの人と繋がれるブログを目指します

辺野古訴訟判決(9/16福岡高裁那覇支部)の「判決要旨」をじっくりと読む

 今晩(2016年9月19日)配信した「メルマガ金原No.2574」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
辺野古訴訟判決(9/16福岡高裁那覇支部)の「判決要旨」をじっくりと読む

福岡高等裁判所那覇支部 平成28年(行ケ)第3号
地方自治法第251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事件
原告 国土交通大臣 石 井 啓 一
被告 沖縄県知事 翁 長 雄 志
 
 9月16日に福岡高裁那覇支部で判決が言い渡された上記事件について、とりあえず昨日は「判決骨子」(PDFファイルで2ページ)をご紹介するとともに、「判決文(全文)」(同358ページ)及び「判決要旨」(同13ページ)にリンクしておきました。
 掲載されているのは、沖縄県公式ホームページの中の「知事公室辺野古新基地建設問題対策課」というコーナーです。
 
 
 今日は、昨日時間の都合で紹介できなかった「判決要旨」全文をご紹介します。テキスト情報が埋め込まれていないPDFファイルから、文字情報を読み取る高性能のソフトウェアもあるやに聞いていますが、あいにく私にはその便宜がないため、以下のような作業で「判決要旨」の本文を定めました。
 まず、「沖縄タイムス+プラス」に掲載されている「判決(要旨)」をコピーして文書作成ソフトに貼り付けました。次に沖縄県ホームページに掲載されている「判決要旨」(全13ページ/県が裁判所から入手したものでしょう)を印刷しました。その上で、文書作成画面に貼り付けた「沖縄タイムス+プラス」の「判決(要旨)」と「判決要旨」とを読み比べ、相違している箇所は全て「判決要旨」に従って訂正するという作業を行いました。
 慣れてくれば、沖縄タイムスがこう書いているところは、多分原文ではこうだろうと予測できるようになってきましたから、だいたいは訂正できたと思いますが、きっと見落としている箇所もあるでしょう。従って、昨日書きましたように、「判決要旨」を引用しようとする方は、最終的にはPDFファイルと読み比べて、間違いないかどうかを確認するようにしてください。
 しかし、沖縄タイムスには独自の用語法の内規があるのでしょうし、「読点(、)」を追加して読みやすくなっていたりはするのですが、法令の条文を引用している箇所まで「及び」を「および」に直したりするのは、いくら何でもやり過ぎではないかと思いましたけどね。
 もっとも、沖縄タイムスがそういう「おせっかいな(?)」修正をしててくれたおかげで、「判決要旨」を復元するために、否応なく、じっくりと読まざるを得ませんでしたから、感謝しなければならないかもしれません。
 
 以下に、まず「判決要旨」全文を引用します。
 その上で、判決要旨を理解する上で必須となる法律の条文を引用します。
 最後に、今年の3月4日、福岡高裁那覇支部で行われた代執行訴訟についての国(国土交通大臣)と県(沖縄県知事)との和解関連文書(和解勧告文及び和解条項)を引用します。
 少なくとも、この訴訟に関与してこなかった法律家が、判決について何らかの意見を述べるためには、
前提的作業として以上の資料に目を通すことが最低限必要だろうと思い、集めてみることにしたものです。
 付言すると、今年の3月に成立した和解協議を主導した裁判長は、今回の判決を言い渡した裁判長と同一人物(多見谷寿郎裁判官)です。
 
 それで、私の意見は?
 私は、公有水面埋立法地方自治法を専門に勉強したことはありません。わずかに、和歌山市と隣接の海南市との間で、新たな埋立地(その後、「マリーナシティ」として知られるようになる)の境界をめぐって争論が発生し、地方自治法に基づく境界確定訴訟に発展した際、海南市弁護団の末席に名を連ね、訴訟要件論のパートを担当したという程度であり、最近の地方自治法の改正などは、詳しくフォローしていませんから、この辺については、専門家の教示を得たいと思っています。
 けれども、今日、「判決要旨」の本文を確定するために、普通の人よりも(?)じっくりと要旨を熟読
した上での感想は、「これって裁判官が書くべきことか?」(既に何人もの識者が指摘されているようで
すが)という箇所の多さにめまいがしそうだったということです(特に「3 「本件承認処分の第1号要件欠如の有無」について」など)。
 あと、法律論として、私が特に注意を引かれたのは、「8 「知事が本件指示に従わないことは違法と言えるか」について (2)不作為の違法の意義について」における、「国地方係争処理委員会の本件指示の適法性について判断せずに協議すべきであるとの決定を尊重して、国の関与の取消訴訟を提起しなかったものであり、被告の不作為が違法とはならない」という被告の主張を裁判所が排斥した箇所ですね。この部分の文章が、他の箇所に比べて、「言い訳がましい」という印象を受けたのですが、皆さんはどうでしょう?
 
 それでは、じっくりと「判決要旨」及び関連資料をお読みください。
 

平成28年(行ケ)第3号 地方自治法第251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事件
                      判  決  要  旨
 
第1 事案の概要
 本件は、国(沖縄防衛局)が、普天間飛行場代替施設(本件新施設等)を辺野古沿岸域に建設するため、平成25年12月27日、被告の前任者である沖縄県知事から公有水面埋立ての承認(本件承認処分)を受けていたところ、被告が、平成27年10月13日、承認処分の取消し(本件取消処分)をしたため、原告は、本件取消処分は、公有水面埋立法(以下「法」という。)に反して違法なものであるとして、地方自治法245条の7第1項に基づき、本件取消処分の取消しを求める是正の指示(本件指示)をしたものの、被告が、本件指示に基づいて本件取消処分を取り消さない上、法定の期間内に是正の指示の取消訴訟(同法251条の5)をも提起しないことから、同法251条の7に基づき、被告に対し、同不作為の違法の確認を求めた事案である。
 
第2 当裁判所の判断
1 取消権の発生要件(審理対象)およびその判断方法について

 行政処分に対し、原処分庁が職権で行ういわゆる自庁取消しが認められる根拠は法律による行政の原理ないし法治主義に求められるから、その要件は原処分が違法であることであり、原処分に要件裁量権が認められる場合には、原処分の裁量権の行使が逸脱・濫用にわたり違法であると認められることを要する。したがって、この点が本件の審理対象である。被告は、本件取消処分においてした本件承認処分に違法があるとの判断に要件裁量権がある」と主張するが、そうだとすると、裁量がないものとして判断しても、法的、客観的に適法である原処分に対する被告の再審査の判断が、裁量の範囲内においてであるがこれを誤って違法と判断したものであるとしても有効に取り消せるという不条理を招くことになるなど採用できない。
 また、被告は、地方自治権・自治体裁量権を根拠に司法審査が制限される旨主張するが、地方分権推進法並びに地方自治法平成11年及び24年改正は、国と地方の利害が対立し法解釈に関する意見が異なる場合に、それぞれが独立の機関として対立が続けば、行政が服すべき法的適合性原則に反する状態が解消できず、国地方の関係が不安定化し、ひいては地方分権の流れが逆流し国の権限を強化すべきであるとの動きが起こることを懸念して、その解決方法を設け、そこでも透明で割り切れたシステムにするという観点から、国の関与の手続を明確に規定し、その手続の中で解決がつかない場合は、第三者であることから中立的で公平な判断が期待でき、かつ透明で安定した手続を有する裁判所に判断させることとしたものである。したがって、裁判所としては、是正の要求や指示がされ地方公共団体がそれに従わないことから地方自治法所定の訴えが提起された場合は、所定の手続に沿って速やかに中立的で公平な審理・判断をすべき責務を負わされているのであり、それを全うすることこそが地方自治法改正の趣旨にかなうゆえんである。また、不作為の違法確認訴訟は、その制度検討過程において、地方公共団体が不作為の違法を確認する判決を受けてもそれに従わないのではないか、そうなれば制度が無意味になるというだけでなく、裁判所の権威まで失墜させることになり、ひいては日本の国全体に大きなダメージを与えてしまうとの懸念が表明されるほどマイルドな訴訟形態であることなどからしても、被告の主張は理由がない。

2 「第1号要件審査の対象に国防・外交上の事項が含まれるか」について
 第1号要件は当該埋立ての必要性および公共性の高さを埋立てに伴う種々の環境変化と比較するものであるから、埋立てに係る事業の性質や内容を審査することは不可欠であり、そのことは、それが国防・外交に関わるものであっても何ら変わりはないので、知事の審査権は国防・外交に係る事項に及ぶものと解するのが相当である。
 ただし、国防・外交に関する事項は本来地方公共団体が所管する事項ではなく、地域の利益に関わる限りにおいて審査権限を有するにすぎない。そして、地方公共団体には、国防・外交に関する事項を国全体の安全や国としての国際社会における地位がいかにあるべきかという面から判断する権限も判断しうる組織体制も責任を負いうる立場も有しない。それにもかかわらず、本来知事に審査権限を付与した趣旨とは異なり、地域特有の利害ではない米軍基地の必要性が乏しい、また住民の総意であるとして40都道府県全ての知事が埋立承認を拒否した場合、国防・外交に本来的権限と責任を負うべき立場にある国の不合理とはいえない判断が覆されてしまい、国の本来的事務について地方公共団体の判断が国の判断に優越することにもなりかねない。これは、地方自治法が定める国と地方の役割分担の原則にも沿わない不都合な事態である。よって、国の説明する国防・外交上の必要性について、具体的な点において不合理であると認められない限りは、被告はその判断を尊重すべきである。

3 「本件承認処分の第1号要件欠如の有無」について
(1)
第1号要件は、埋立て自体及び埋立地の用途が国土利用上の観点からして適正かつ合理的なものであることを要するとする趣旨と解され、承認権者がこれに該当するか否かを判断するに当たっては、国土利用上の観点からの当該埋立ての必要性および公共性の高さと、当該埋立て自体および埋立て後の土地利用が周囲の自然環境ないし生活環境に及ぼす影響などと比較衡量した上で、地域の実情などを踏まえ、総合的に判断することになり、これら様々な一般公益の取捨選択あるいは軽重の判断は高度の政策的判断に属するとともに、専門技術的な判断も含まれるから、承認権者である都道府県知事には広範な裁量が認められると解される。
 本件承認処分の第1号要件の審査が違法となるのは、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により、重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、事実にする評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となる。
(2)ア 沖縄の地理的優位性について
 沖縄と潜在的紛争地域とされる朝鮮半島台湾海峡との距離は、ソウルまでが約1260キロ㎞であり、船舶での移動時間が約34時間、オスプレイの固定翼モードの速度時速230マイル(368㎞)で約3.5時間となり、台北までが約630㎞であり、船舶での移動時間が約17時間、オスプレイで約2時間となること、他方、北朝鮮が保有する弾道ミサイルのうち、ノドンの射程外となるのはわが国では沖縄などごく一部であること、南西諸島は、わが国の海上輸送交通路に沿う位置にあり、沖縄本島はその中央にあること、これに対し、グアムからは、ソウルまでが約3220㎞、台北までが約2760㎞、沖縄までおよそ2200㎞であること等に照らして、沖縄に地理的優位性が認められるとの原告の説明は不合理ではない。
イ 海兵隊の一体的運用について
 被告は、普天間飛行場に配備された航空機部隊は強襲揚陸艦に搭載されて艦船からの輸送および強襲揚陸に対する支援を行うことを任務とし、揚陸艦の母港は長崎県佐世保基地であるから、沖縄から海兵隊が展開するには佐世保基地から回航した揚陸艦が沖縄に到着するのを待たなければならないとして、沖縄から海兵隊航空基地を移設しても海兵隊の機動力・即応力が失われることはない旨指摘するが、在沖縄米軍の中でも海兵隊は武力紛争から自然災害まで種々の緊急事態に迅速に対応する初動対応部隊として他の軍種が果たせない重要な役割を持っており、強襲揚陸作戦ばかりでなく、海上阻止行動、対テロ作戦や安定化作戦、平時における人道支援・災害救助、敵地における偵察・監視、人質の奪還等の特殊作戦や危機発生時の民間人救出活動も任務としていること、これらの場合には在沖縄海兵隊独自の活動として強襲揚陸艦とは別に行うことも想定していることからすると、被告の上記指摘はその前提において海兵隊の持つ一部の任務に該当しうるに過ぎず、その余の重要な任務については、海兵隊航空基地を沖縄本島から移設すれば海兵隊の機動力・即応力が失われることになるから採用することができない。
ウ 普天間飛行場の返還と本件新施設等との関係について
 本件新施設等は普天間飛行場の半分以下の面積であり、その設置予定地はキャンプ・シュワブの米軍使用区域内であることからすると、全体としては沖縄の負担は軽減される。
 また、平成8年に日米間でされた普天間飛行場の返還合意は沖縄県内の米軍施設および区域内に新たにヘリポートを建設することが前提とされており、これが満たされなければ、返還合意自体が履行されない関係にあり、かつ、普天間飛行場が返還されることとなるまでは本件新施設等が米軍基地として使用されるわけではないから前者と後者は二者択一の関係にあること、その間に上記合意に基づく本件新施設等による一部機能の代替以外の方法で普天間飛行場が返還される可能性、即ち、前記のとおり、一体的運用が必要とされる以上、海兵隊全体が沖縄に駐留する必要性が失われるか、本島近辺に他の代替地を確保する必要性があるところ、その可能性があるとは考えにくく、本件新施設等が設置されなければ、普天間飛行場が返還されない蓋然性が有意に認められる。そうなると、計画されている普天間飛行場跡地利用による沖縄県全体の振興や多大な経済的効果も得られない。他方、仮に将来海兵隊全体が沖縄に駐留する必要がなくなるとすれば、そのときは、本件新施設等もキャンプ・シュワブも必要がなくなり、返還されることになるはずである。
エ 普天間飛行場による騒音被害や危険性の原因と対策について
 被告は普天間飛行場による騒音被害や危険性は、平成8年及び平成24年に日米安全保障協議委員会で合意された航空機騒音規制措置という日米両国間の地位協定に関わる合意事項が遵守されていないことにより深刻化しているのであるから、これを遵守させることによりそれを防止できると主張する。しかし、同規制措置は、全て「できる限り」とか「運用上必要な場合を除き」などの限定が付されており、そもそもこれが遵守されていないとの確認は困難であるから、被告の主張はその前提を欠いている。しかも、規制措置の内容を見てもそれによって普天間飛行場による騒音被害や危険性が軽減できる程度は小さく、これらは周囲を住宅密集地に囲まれた普天間飛行場海兵隊の航空部隊が駐留すること自体によって発生していることが明らかであるから、普天間飛行場から海兵隊の航空部隊が他に移転すること以外に除去する方法はない。
 以上要するに、①普天間飛行場の騒音被害や危険性、これによる地域振興の阻害は深刻な状況であり、普天間飛行場の閉鎖という方法で改善される必要がある。しかし、②海兵隊の航空部隊を地上部隊から切り離して県外に移転することはできないと認められる。③在沖縄全海兵隊を県外に移転することができないという国の判断は戦後70年の経過や現在の世界、地域情勢から合理性があり尊重すべきである。④そうすると県内に普天間飛行場の代替施設が必要である。⑤その候補として本件新施設等が挙げられるが、他に県内の移転先は見当たらない。よって、⑥普天間飛行場の被害を除去するには本件新施設等を建設する以外にはない。言い換えると本件新施設等の建設をやめるには普天間飛行場による被害を継続するしかない。
(3)結論
 以上によれば、本件埋立事業の必要性(普天間飛行場の危険性の除去)が極めて高く、それに伴う環境悪化等の不利益を考慮したとしても第1号要件該当性を肯定できるとする判断が不合理なものであると認めることはできない。
 
4 「第2号要件審査に埋立地の竣工後の利用形態を含むのか及び本件承認処分の第2号要件欠如の有無」について
(1)
第2号要件は、埋立地の竣工後の利用形態ではなく、埋立行為そのものに随伴して必要となる環境保全措置等を審査するものと解するのが相当である。
(2)第2号要件の審査は、専門技術的知見を尊重して行う都道府県知事の合理的な判断に委ねられているといえる。このような都道府県知事の判断の適否を裁判所が審査するに当たっては、当該判断に不合理な点があるか否かという観点から行うべきであり、具体的には、現在の環境技術水準に照らし、①審査において用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか、②本件埋立出願が当該具体的審査基準に適合するとした前知事の審査過程に看過しがたい過誤、欠落があるか否かを審査し、上記具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは、本件埋立出願が上記具体的審査基準に適合するとした前知事の審査の過程に看過しがたい過誤、欠落がある場合には、前知事の判断に不合理な点があるとして、本件承認処分は違法であると解すべきである。
 環境保全対策のための調査、予測および評価の方法について、同等程度の成果が得られるなら効率的な手法で行うべきことは、そうでなければ長期間事業目的を達成できないこと、多額の費用が国民の負担に帰することからも明らかである。このようなことからすると、第2号要件の審査時点では、現在の知見をもとに実行可能な範囲において環境の現況及び環境への影響を的確に把握した上で、これに対する措置が適正に講じられることで足り、上記不確実性に対応するには、承認後に引き続き事後調査や環境監視調査を行い、その場その時の状況に応じて専門家の助言・指導に基づいて柔軟に対策を講じることはむしろ合理的である。
 以上のような点等に照らすと、本件審査基準に不合理な点があるといえず、かつ、本件埋立出願が本件審査基準に適合するとした前知事の判断に不合理な点があるといえない。

5 「本件承認処分が法4条1項1号および同項2号の要件が欠如している場合に取消制限の法理の適用によって本件取消処分は違法と言えるか」について
(1)
「瑕疵のある処分をしてしまったことにより生じた法律関係や事実状態を保護する必要があるとの
法的安定性の確保が取消制限の根拠であり、加えて、授益的処分の取消しは、申請者の既得権や信頼を保護するという観点も加わり、これを取り消すべき公益上の必要があること、それを取り消すことによる不利益とを比較して前者が明らかに優越していることが必要であると解される。
 公有水面の埋立事業は多大な費用と労力を要し、様々な法律・利害関係が積み重なっていく性質を有し、法も一旦した法4条の免許を取り消し得る場合を詐欺の手段を以て埋立免許を受けたときと定めるなど、取消権の行使を制限する趣旨の規定を設けていること等からすると、公有水面の埋立承認処分に対する取消権行使は法的安定性の確保のためより制限されるべきものと解される。
(2)本件承認処分に瑕疵があるとしても、その瑕疵の性質は、裁量の範囲内の不当であり、すなわち、考慮すべき事情をいずれも考慮した上で、その利害調整において優劣の判断を誤ったというにすぎないものである。その不当性も事情評価の軽度な誤りであって、瑕疵の存否が一見して明らかなものではないから、その意味では瑕疵のある処分が存続することにより、取消権の根拠である法律による行政の原理が損なわれる程度は小さい。
 取り消すことによる不利益は、日米間の信頼関係の破壊、国際社会からの信頼喪失、本件埋立事業に費やした経費、第三者への影響がある。
 他方、取り消すべき公益上の必要としては、自然海浜を保護する必要等があげられるが、他方、本件埋立事業を行う必要性(普天間飛行場の危険性の除去)自体は肯定できるので、前者が後者に程度において勝ったというにすぎず、その分取り消すべき公益上の必要が減殺される。
 被告は、本件取消処分をしないことによって、沖縄県の自治が侵害され、更に、沖縄県民の民意に反し、地域振興開発の阻害要因を作出する旨主張する。しかし、本件埋立事業による普天間飛行場の移転は沖縄県の基地負担軽減に資するものであり、そうである以上本件新施設等の建設に反対する民意には沿わないとしても、普天間飛行場その他の基地負担の軽減を求める民意に反するとは言えない。また、本件埋立事業によって設置される予定の本件新施設等は、普天間飛行場の施設の半分以下の面積であって、その設置予定地はキャンプ・シュワブの米軍使用水域内であることからすれば、本件埋立事業が被告の主張する地域振興開発の阻害要因とは言えない。
(3)結論
 そうすると、そもそも取り消すべき公益上の必要が取り消すことによる不利益に比べて明らかに優越し
ているとまでは認められず、本件承認処分の取消しは許されない。
 
6 「法令の規定に違反する場合」(地方自治法245条の7第1項)の意義および原告が行える是正の指示(同条項)の範囲」について
(1)「法令の規定に違反する場合」(地方自治法245条の7第1項)の意義について
 被告は、その違法が全国的な統一性、広域的な調整等の必要という観点から、看過しがたいことが明らかである場合をいうと主張するが、その根拠とする「一定の行政目的を実現するため」とは、是正の指示(同法245条1号へ)とは異なる、地方自治法が、国に対し、できる限り地方公共団体に対して行うことのないよう求めているいわゆる非定型的関与に関する規定である。被告の主張は、地方自治法上是正の指示とは明確に区別してその利用を制限すべきものとされた非定型的関与の規定を、是正の指示にも適用すべきであるという失当なものであることが明白である。
(2)原告が行える是正の指示の範囲について
 被告は、原告の所掌事務である「国土の総合的かつ体系的な利用、開発及び保全」(国土交通省設置法3条1項)の範囲に限られ、かつ、法の目的の範囲内に限られるところ、本件指示理由は、国土交通大臣の所掌している事務でなく、かつ、法の目的ではない、外交および防衛であるので、本件指示は国土交通大臣の権限を逸脱するとして、違法である旨主張する。しかし、そもそも、是正の要求の要件が「各大臣は、その担任する事務に関し、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき」(地方自治法245条の5第1項)と規定しているのに対比して、是正の指示の要件は、「各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき」(同法245条の7第1項)と定めている。これは、法定受託事務に関する是正の指示については自治事務に関する是正の要求よりも広く、都道府県が処理する法定受託事務に係る法令を所管する大臣であることだけが要件とされており、自らの担任する事務に関わるか否かに関係なく、法定受託事務の処理が違法であれば、是正の指示の発動が許される趣旨と解される。よって、この点において被告の主張に理由がないことは明らかである。

7 「本件新施設等建設の法律上の根拠および自治権の侵害の有無」について
(1)本件新施設等建設の法律上の根拠について
 本件新施設等は、日米安全保障条約および日米地位協定に基づくものであり、憲法41条に違反するとはいえず、さらに、本件新施設等が設置されるのはキャンプ・シュワブの使用水域内に本件埋立事業によって作り出される本件埋立地であって、その規模は、普天間飛行場の施設の半分以下の面積であり、かつ、普天間飛行場が返還されることに照らせば、本件新施設等建設が自治権侵害として憲法92条に反するとはいえない。
(2)自治権の侵害の有無について
 地方自治法および法により許容される限度の国の関与が当然に憲法92条に違反するとは言えないところ、本件指示が地方自治法および法により許容され、本件新施設等についての沖縄の地理的必然性がないとはいえないことに加え、本件新施設等が設置されるのはキャンプ・シュワブの使用水域内に本件埋立事業によって作り出される本件埋立地であって、その規模は、普天間飛行場の施設の半分以下の面積であり、かつ、普天間飛行場が返還されることに照らせば、沖縄県自治権制限・米軍による環境破壊や事件事故等によって本件指示が憲法92条に違反するとはいえない。
 
8 「知事が本件指示に従わないことは違法と言えるか」について
(1)相当の期間の経過について

 法定受託事務に関する是正の指示がなされた場合は、地方公共団体はそれに従う法的義務を負い、それに係る措置を講じるのに必要と認められる期間、すなわち、相当の期間を経過した後は、それをしない不作為は違法となる。地方公共団体からする審査申出期間、審査期間および出訴期間は国の提訴を制限する期間である。相当期間がいつまでであるかについて、本件では、従前の代執行訴訟と主たる争点が共通することになることに鑑みると、遅くとも本件指示についての国地方係争処理委員会の決定が通知された時点では、是正の指示の適法性を検討するのに要する期間は経過したというべきであり、その後に本件取消決定を取り消す措置を行うのに要する期間は長くとも1週間程度と認められるから、本件訴えが提起された時点では相当期間を経過していることは明らかであり、被告が本件指示に従わないことは不作為の違法に当たると言える。
(2)不作為の違法の意義について
 被告は、地方公共団体の長に国地方係争処理委員会への審査申出やその後の訴え提起の途が開かれているにもかかわらず、それぞれ相応の一定期間を経過してもそうした対応をしないなどの一連の経過に照らし、地方公共団体の長の対応に故意または看過しがたい瑕疵のあることが認められて初めて不作為の違法が認定できると解すべきであると指摘する。しかし、平成24年改正で提訴対象を是正の要求・指示に限定する一方、国地方係争処理委員会への申立てを前置しなかったのは、重要案件につき、いずれが正しいにせよ、国と地方公共団体の対立により、違法状態が長く続くことは好ましくなく、迅速に処理すべきとされたこと等に照らし、国地方係争処理委員会の手続を経ても、是正の指示が撤回されるなど被告の不作為が違法である状態が解消されなかった以上、被告において、前記のとおり、最終的な解決手段として用意された訴え提起を行うことにより、自らの違法状態を解消することが地方自治法の趣旨に沿うものである。
 さらに、被告は、国地方係争処理委員会の本件指示の適法性について判断せずに協議すべきであるとの決定を尊重して、国の関与の取消訴訟を提起しなかったものであり、被告の不作為が違法とはならないと主張する。しかし、本件指示の適法性について判断しなかったことについては、国地方係争処理委員会は行政内部における地方公共団体のための簡易迅速な救済手続でありその勧告にも拘束力が認められていないことから、是正の指示の適法性を判断しても、双方共にそれに従う意思がないのであれば、それを判断しても紛争を解決できない立場である。また、国や地方公共団体に対し訴訟によらずに協議により解決するよう求める決定をする権限はなく、もちろん国や地方公共団体にそれに従う義務もない。代執行訴訟での和解では国地方係争処理委員会の決定が被告に有利であろうと不利であろうと被告において本件指示の取消訴訟を提起し、両者間の協議はこれと並行して行うものとされたところ、国地方係争処理委員会の決定は和解において具体的には想定しない内容であったとはいえ、元々和解において決定内容には意味がないものとしており、実際の決定内容も少なくとも是正の指示の効力が維持されるというものに他ならないのであるから、被告は本件指示の取消訴訟を提起すべきであったのであり、それをしないために国が提起することとなった本件訴訟にも同和解の効力が及び、協議はこれと並行して行うべきものと解するのが相当である。なお、同和解は代執行訴訟において被告が不作為の違法確認訴訟の確定判決に従うと表明したことが前提とされているところ、被告は本件においてもその確定判決に従う旨を述べており、被告にも国にも錯誤はなく、同和解は有効に成立した。
 本件のようにそれ自体極めて重大な案件であり、しかも、国にとって防衛・外交上、県にとって、歴史的経緯を含めた基地問題という双方の意見が真っ向から対立して一歩も引かない問題に対しては、互譲の精神により双方にとって多少なりともましな解決策を合意することが本来は対等・協力の関係という地方自治法の精神から望ましいとは考えるが、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、前の和解成立から約5カ月が経過してもその糸口すら見出せない現状にあると認められるから、その可能性を肯定することは困難である。そうすると、前記のとおり、平成11年及び平成24年の地方自治法の改正の経緯から、本件訴訟に対して所定の手続きに沿って速やかに中立的で公平な審理・判断をすべき責務を負わされている裁判所としてはその責務を果たすほかないと思料するものである。
                                              以上
 

【関連法令】
地方自治法(昭和二十二年四月十七日法律第六十七号)
(是正の指示)
第二百四十五条の七
 各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。
 (略)
 (略)
 (略)
                                   
(国の関与に関する訴えの提起)
第二百五十一条の五
 第二百五十条の十三第一項又は第二項の規定による審査の申出をした普通地方公共団体の長その他の執行機関は、次の各号のいずれかに該当するときは、高等裁判所に対し、当該審査の申出の相手方となつた国の行政庁(国の関与があつた後又は申請等が行われた後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁)を被告として、訴えをもつて当該審査の申出に係る違法な国の関与の取消し又は当該審査の申出に係る国の不作為の違法の確認を求めることができる。ただし、違法な国の関与の取消しを求める訴えを提起する場合において、被告とすべき行政庁がないときは、当該訴えは、国を被告として提起しなければならない。
一 第二百五十条の十四第一項から第三項までの規定による委員会の審査の結果又は勧告に不服があるとき。
二 第二百五十条の十八第一項の規定による国の行政庁の措置に不服があるとき。
三 当該審査の申出をした日から九十日を経過しても、委員会が第二百五十条の十四第一項から第三項までの規定による審査又は勧告を行わないとき。
四 国の行政庁が第二百五十条の十八第一項の規定による措置を講じないとき。
 前項の訴えは、次に掲げる期間内に提起しなければならない。
一 前項第一号の場合は、第二百五十条の十四第一項から第三項までの規定による委員会の審査の結果又は勧告の内容の通知があつた日から三十日以内
二 前項第二号の場合は、第二百五十条の十八第一項の規定による委員会の通知があつた日から三十日以内
三 前項第三号の場合は、当該審査の申出をした日から九十日を経過した日から三十日以内
四 前項第四号の場合は、第二百五十条の十四第一項から第三項までの規定による委員会の勧告に示された期間を経過した日から三十日以内
 第一項の訴えは、当該普通地方公共団体の区域を管轄する高等裁判所の管轄に専属する。
 原告は、第一項の訴えを提起したときは、直ちに、文書により、その旨を被告に通知するとともに、
当該高等裁判所に対し、その通知をした日時、場所及び方法を通知しなければならない。
 当該高等裁判所は、第一項の訴えが提起されたときは、速やかに口頭弁論の期日を指定し、当事者を呼び出さなければならない。その期日は、同項の訴えの提起があつた日から十五日以内の日とする。
 第一項の訴えに係る高等裁判所の判決に対する上告の期間は、一週間とする。
 国の関与を取り消す判決は、関係行政機関に対しても効力を有する。
 第一項の訴えのうち違法な国の関与の取消しを求めるものについては、行政事件訴訟法第四十三条第一項 の規定にかかわらず、同法第八条第二項 、第十一条から第二十二条まで、第二十五条から第二十九条まで、第三十一条、第三十二条及び第三十四条の規定は、準用しない。
 第一項の訴えのうち国の不作為の違法の確認を求めるものについては、行政事件訴訟法第四十三条第三項 の規定にかかわらず、同法第四十条第二項 及び第四十一条第二項 の規定は、準用しない。
10 前各項に定めるもののほか、第一項の訴えについては、主張及び証拠の申出の時期の制限その他審理の促進に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
 
普通地方公共団体の不作為に関する国の訴えの提起)
第二百五十一条の七
 第二百四十五条の五第一項若しくは第四項の規定による是正の要求又は第二百四十五条の七第一項若しくは第四項の規定による指示を行つた各大臣は、次の各号のいずれかに該当するときは、高等裁判所に対し、当該是正の要求又は指示を受けた普通地方公共団体の不作為(是正の要求又は指示を受けた普通地方公共団体の行政庁が、相当の期間内に是正の要求に応じた措置又は指示に係る措置を講じなければならないにもかかわらず、これを講じないことをいう。以下この項、次条及び第二百五十二条の十七の四第三項において同じ。)に係る普通地方公共団体の行政庁(当該是正の要求又は指示があつた後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁)を被告として、訴えをもつて当該普通地方公共団体の不作為の違法の確認を求めることができる。
一 普通地方公共団体の長その他の執行機関が当該是正の要求又は指示に関する第二百五十条の十三第一項の規定による審査の申出をせず(審査の申出後に第二百五十条の十七第一項の規定により当該審査の申出が取り下げられた場合を含む。)、かつ、当該是正の要求に応じた措置又は指示に係る措置を講じないとき。
二 普通地方公共団体の長その他の執行機関が当該是正の要求又は指示に関する第二百五十条の十三第一項の規定による審査の申出をした場合において、次に掲げるとき。
イ 委員会が第二百五十条の十四第一項又は第二項の規定による審査の結果又は勧告の内容の通知をした場合において、当該普通地方公共団体の長その他の執行機関が第二百五十一条の五第一項の規定による当該是正の要求又は指示の取消しを求める訴えの提起をせず(訴えの提起後に当該訴えが取り下げられた場合を含む。ロにおいて同じ。)、かつ、当該是正の要求に応じた措置又は指示に係る措置を講じないとき。
ロ 委員会が当該審査の申出をした日から九十日を経過しても第二百五十条の十四第一項又は第二項の規定による審査又は勧告を行わない場合において、当該普通地方公共団体の長その他の執行機関が第二百五十一条の五第一項の規定による当該是正の要求又は指示の取消しを求める訴えの提起をせず、かつ、当該是正の要求に応じた措置又は指示に係る措置を講じないとき。
 前項の訴えは、次に掲げる期間が経過するまでは、提起することができない。
一 前項第一号の場合は、第二百五十条の十三第四項本文の期間
二 前項第二号イの場合は、第二百五十一条の五第二項第一号、第二号又は第四号に掲げる期間
三 前項第二号ロの場合は、第二百五十一条の五第二項第三号に掲げる期間
 第二百五十一条の五第三項から第六項までの規定は、第一項の訴えについて準用する。
 第一項の訴えについては、行政事件訴訟法第四十三条第三項 の規定にかかわらず、同法第四十条第二項 及び第四十一条第二項 の規定は、準用しない。
 前各項に定めるもののほか、第一項の訴えについては、主張及び証拠の申出の時期の制限その他審理の促進に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
 
公有水面埋立法(大正十年四月九日法律第五十七号)
第四条 都道府県知事ハ埋立ノ免許ノ出願左ノ各号ニ適合スト認ムル場合ヲ除クノ外埋立ノ免許ヲ為スコトヲ得ズ
一 国土利用上適正且合理的ナルコト
二 其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト
三 埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト
四 埋立地ノ用途ニ照シ公共施設ノ配置及規模ガ適正ナルコト
五 第二条第三項第四号ノ埋立ニ在リテハ出願人ガ公共団体其ノ他政令ヲ以テ定ムル者ナルコト並埋立地ノ処分方法及予定対価ノ額ガ適正ナルコト
六 出願人ガ其ノ埋立ヲ遂行スルニ足ル資力及信用ヲ有スルコト
 前項第四号及第五号ニ掲グル事項ニ付必要ナル技術的細目ハ国土交通省令ヲ以テ之ヲ定ム
 都道府県知事ハ埋立ニ関スル工事ノ施行区域内ニ於ケル公有水面ニ関シ権利ヲ有スル者アルトキハ第一項ノ規定ニ依ルノ外左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ非ザレバ埋立ノ免許ヲ為スコトヲ得ス
一 其ノ公有水面ニ関シ権利ヲ有スル者埋立ニ同意シタルトキ
二 其ノ埋立ニ因リテ生スル利益ノ程度カ損害ノ程度ヲ著シク超過スルトキ
三 其ノ埋立カ法令ニ依リ土地ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得ル事業ノ為必要ナルトキ
 

【2016年3月4日和解に関する文書】
(事件の表示)
福岡高等裁判所那覇支部 平成27年(行ケ)第3号
地方自治法第245条の8第3項の規定に基づく埋立承認処分取消処分取消命令請求事件
原告 国土交通大臣 石 井 啓 一
被告 沖縄県知事 翁 長 雄 志
及び
同支部 平成28年(行ケ)第1号
地方自治法第251条の5に基づく違法な国の関与の取消請求事件
原告 沖縄県知事 翁 長 雄 志
被告 国土交通大臣 石 井 啓 一
 
(和解勧告文)
(注記 和解手続は非公開で行われることにご留意いただき、本書面は当事者限りとしていただきたい。)
 現在は、沖縄対日本政府という対立の構図になっている。それは、その原因についてどちらがいい悪いという問題以前に、そうなってはいけないという意味で双方ともに反省すべきである。就中、平成11年地方自治法改正は、国と地方公共団体が、それぞれ独立の行政主体として役割を分担し、対等・協力の関係となることが期待されたものである。このことは法定受託事務の処理において特に求められるものである。同改正の精神にも反する状況になっている。
 本来あるべき姿としては、沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意して、米国に協力を求めるべきである。そうなれば、米国としても、大幅な改革を含めて積極的に協力をしようという契機となりうる。
 そのようにならず、今後も裁判で争うとすると、仮に本件訴訟で国が勝ったとしても、さらに今後、埋
立承認の撤回がされたり、設計変更に伴う変更承認が必要となうたりすることが予想され、延々と法廷闘争が続く可能性があり、それらでも勝ち続ける保証はない。むしろ、後者については、知事の広範な裁量が認められて敗訴するリスクは高い。仮に国が勝ち続けるにしても、工事が相当程度遅延するであろう。他方、県が勝ったとしても、辺野古移設が唯一の解決策だと主張する国がそれ以外の方法はありえないとして、普天間飛行場の返還を求めないとしたら、沖縄だけで米国と交渉して普天間飛行場の返還を実現できるとは思えない。
 そこで、以上の理由から、次のとおり和解案を2案提示する。まずは、A案 を検討し、否である場合にB案 を検討されたい。なおA案B案ともアウトラインを示したものであり、手直しの余地はあるので、前向きな提案があれば考慮する。
 A案 被告は埋立承認取消を取り消す。原告(国)は、新飛行場をその供用開始後30年以内に返還または軍民共用空港とすることを求める交渉を適切な時期に米国と開始する。返還等が実現した後は民間機用空港として国が運営する。原告(国)は、埋立工事及びその後の運用たおいて、周辺環境保全に最大限の努力をし、生じた損害については速やかに賠償することとする。国は、普天間飛行場の早期返還に一層努力し、返還までの間は、特段の事情変更がない限り、普天間爆音訴訟一審判決(那覇地裁沖縄支部平成24年(ワ)第290号等)の基準(コンター図w75区域及びw80区域居住者につきそれぞれw75は一日150円、w80は300円とするもの)に従って、任意に損害を賠償する。被告(県)は、原告(国)がこれらを遵守する限りにおいて埋立工事及びその後の運用に協力する。
 B案 原告は、本件訴訟を、沖縄防衛局長は原告に対する行政不服審査法に基づく審査請求をそれぞれ取り下げる。沖縄防衛局長は、埋立工事を直ちに中止する。原告と被告は違法確認訴訟判決まで円満解決に向けた協議を行う。被告と原告は、違法確認訴訟判決後は、直ちに判決の結果に従い、それに沿った手続を実施することを相互に確約する。
                                          以上 
 
(和解条項)
1 当庁平成27年(行ケ)第3号事件原告(以下「原告」という。)は同事件を、同平成28年(行ケ)第1号事件原告(以下「被告」という。)は同事件をそれぞれ取り下げ、各事件の被告は同取下げに同意する。
2 利害関係人沖縄防衛局長(以下「利害関係人」という。)は、被告に対する行政不服審査法に基づく審査請求(平成27年10月13日付け沖防第4514号)及び執行停止申立て(同第4515号)を取り下げる。利害関係人は、埋立工事を直ちに中止する。
3 原告は被告に対し、本件の埋立承認取消に対する地方自治法245条の7所定の是正の指示をし、被告は、これに不服があれば指示があった日から1週間以内に同法250条の13第1項所定の国地方係争処理委員会への審査申出を行う。
4 原告と被告は、同委員会に対し、迅速な審理判断がされるよう上申するとともに、両者は、同委員会が迅速な審理判断を行えるよう全面的に協力する。
5 同委員会が是正の指示を違法でないと判断した場合に、被告に不服があれば、被告は、審査結果の通知があった日から1週間以内に同法251条の5第1項1号所定の是正の指示の取消訴訟を提起する。
6 同委員会が是正の指示が違法であると判断した場合に、その勧告に定められた期間内に原告が勧告に応じた措置を取らないときは、被告は、その期間が経過した日から1週間以内に同法251条の5第1項4号所定の是正の指示の取消訴訟を提起する。
7 原告と被告は、是正の指示の取消訴訟の受訴裁判所が迅速な審理判断を行えるよう全面的に協力する。
8 原告及び利害関係人と被告は、是正の指示の取消訴訟判決確定まで普天間飛行場の返還及び本件埋立事業に関する円満解決に向けた協議を行う。
9 原告及び利害関係人と被告は、是正の指示の取消訴訟判決確定後は、直ちに、同判決に従い、同主文及びそれを導く理由の趣旨に沿った手続を実施するとともに、その後も同趣旨に従って互いに協力して誠実に対応することを相互に確約する。
10 訴訟費用及び和解費用は各自の負担とする。