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ダブル講演(11/3)「混迷する南スーダンの情勢と自衛隊の派兵:栗田禎子氏」と「立憲主義の破壊と『戦後』の終わり:石川健治氏」を視聴する

 今晩(2016年11月4日)配信した「メルマガ金原No.2620」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
ダブル講演(11/3)「混迷する南スーダンの情勢と自衛隊の派兵:栗田禎子氏」と「立憲主義の破壊と『戦後』の終わり:石川健治氏」を視聴する

 昨日の朝日新聞大阪本社(13版)の1面トップ記事は、「駆けつけ警護 付与へ 南スーダンPKO 15日に閣議決定」という見出しの下、「政府は、南スーダン国連平和維持活動(PKO)の派遣部隊に安全保障関連法に基づく新任務「駆けつけ警護」などを付与する方針を固めた。今月15日に閣議決定する考えを、複数の与党幹部に伝えた。昨年9月の同法成立後、海外での自衛隊任務が拡大する初めてのケースとなる。」という記事を掲げました。他社も同趣旨の報道を行っていることから、政府の方針は既に
固まっていると見るべきなのでしょう。
 けれども、自衛隊が交戦主体となり得る地域への派遣が憲法違反であることは、政治状況がどうあろう
と訴え続けなければなりません。

 3日前にも、改憲問題対策法律家6団体連絡会・立憲フォーラム共済による「南スーダン・PKO自衛隊派遣を考える院内集会」の動画をご紹介しましたが(「南スーダン・PKO自衛隊派遣を考える院内集会」(10/27)を視聴する~清水雅彦氏、谷山博史氏、柳澤協二氏/2016年11月1日)、今日は、昨日(11月3日)、「解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会」が開催した「憲法公布70年 秋の憲法集会」での栗田禎子千葉大学教授(歴史学)による講演「混迷する南スーダン情勢と自衛隊の派兵」を、やはり
UPLANの動画でご紹介します。

 また、この「憲法集会」は講演2本立となっており、後半は石川健治東京大学教授(憲法学)による「立憲主義の破壊と『戦後』の終わり」という、かなり刺激的な講演でした。
 
 それにしても、三輪祐児さんが主催されるUPLANにはお世話になりっぱなしです。何しろ、「この集会の動画を見てみたい」と思って探してみると、非常に高い確率で三輪さんが撮影してくださっているのです。三輪さんの身体は一つなのに、よくここまで、と感銘を受けます。おそらく、三輪さんの関心領域と私のそれとが相当に重なっているということもあるのでしょう。それに、最近は、動画の音声もすっきりと聴きやすくなっていますからますますありがたい。これからも、ずっとお世話になりそうです。
 
20161103 UPLAN 憲法公布70年 秋の憲法集会 栗田禎子:混迷する南スーダンの情勢と自衛隊の派兵 石川健治:立憲主義の破壊と「戦後」の終わり(2時間07分)
 

憲法公布70年 秋の憲法学習会
主催 解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会
日時 2016年11月3日(木・祝)午後2時~
会場 全日本韓国YMCAアジア青少年センターホール
 
冒頭~ 街中芝居「どうなるの?日本国憲法
8分~ 開会 司会 西原美香子氏(キリスト者平和ネット)
9分~ 主催者挨拶 高田 健氏(許すな!憲法改悪・市民連絡会)
 
19分~ 記録映画『高江-森が泣いている』(藤本幸久・影山あさ子監督作品)部分上映 
※完全版は9月10日完成。64分/森の映画社
※シアターセブン(大阪市十三)では11月11日(金)まで上映中
上映権付きDVD 1万円で発売中。
 
23分~ 政党からのメッセージ
 民進党
 日本共産党
 社会民主党
 沖縄の風
 
33分~ 講演「混迷する南スーダン情勢と自衛隊の派兵」
       栗田禎子(くりた・よしこ)千葉大学教授(歴史学
※動画末尾に栗田教授が用意されたレジュメが掲載されており、相当早口の同教授による講演内容をより良く理解するために、是非これに目を通した上で視聴していただきたいと思い、以下に引用させていただきました。
 
南スーダンの状況
 2011年に独立したが→内戦状態に(2013年12月~;2016年7月)
 独立後の新国家における権力と富をめぐる闘争;「部族戦争」へと発展
 大統領派と副大統領派(Armed Opposition)の戦闘(7月)の性格
 2015年8月「和平協定」破壊目的の政治闘争;「紛争当事者」の性格;「停戦合意?」
→「PKO5原則」は完全崩壊;2011年以来、いくつもの「異なるステージ」を通過し、「アクター
も入れ替わった」状態(=安保理決議も数次)
⇔派遣継続・「新任務付与」に固執する日本政府の姿勢
●日本の「PKO参加」問題をどう考えるか―政治的文脈の重要性
 「国連に協力するなら構わない」か?;政策の「方向性」を見定める
 「PKO法」(1992)成立の背景(←「湾岸戦争」後の海外派兵の動きのなかで) 自衛隊海外派
兵の突破口としての「PKO」;憲法9条破壊の迂回路
スーダン南スーダンの危機の「国際化」現象とアメリカのアフリカ戦略
 21世紀初頭からスーダン南スーダン問題への「国際社会」関与増大の傾向
 (「南スーダン独立」をめぐるさまざまな力のはたらき)
 背景:地政学的重要性(「アフリカの角」「湖水地帯諸国への道」);資源
 ←アメリカのアフリカ戦略(米「アフリカ軍」2008~)の中での位置づけ
 日本の「南スーダンPKO参加」「海賊対策」「ジブチ基地建設」等も連動をねらう動き
 アフリカに地歩を占めようとする「国際社会」の競争・対抗(米・欧・日、中国…)
 ←帝国主義の時代のアフリカ進出競争を彷彿(象徴としての「ファショダ事件」1898)
●銃弾は誰を撃ち抜くことになるか
 「敵」=大統領派?;元副大統領派?;南スーダン民衆?;「少年兵」?…
 ←日本政府はおそらくほとんど気にしていない
 自衛隊員の死傷;自衛隊員や日本人NGOの危険増大?←「敬意」「顕彰」の好機…
 真の標的:憲法の平和主義を葬り去ること
 =国民は命を弄ばれ、アメリカや軍需産業の利益のために動員・搾取されることに
★2015年8月和平協定でのとりきめ(ポストの分配)
 「南スーダン政府」(あるいは「SPLM」)53%(閣僚:10名)
 「Armed Opposition(武装野党)」(あるいは「SPLM-IO」)33%(10名)
 「元政治犯」7%(2名)
 「その他政党」7%(2名) 
 
1時間18分~ 講演「立憲主義の破壊と『戦後』の終わり」
          石川健治(いしかわ・けんじ)東京大学教授(憲法学)
※私が登録している某メーリングリストに、昨日のこの集会に参加した複数の弁護士の方から、石川教授の講演はきわめて「刺激的」だったという投稿がなされており、私も興味津々で視聴しました。
 石川教授はレジュメは用意されなかったようですが、講演の内容は概ね以下のようなパートに別れてい
ます。

1時間18分~ はじめに

 篠原一氏「現代史研究の深さと重さ-一欧州現代史研究者の立場から」(『世界』第132号、195
6年12月)の紹介~今日この場になぜ私が立っているのか
1時間26分~ 立憲主義の破壊と「戦後」の終わり
 このパートが、特に弁護士にとっては切実であり「刺激的」な部分です。
 そのうちのごく一部ですが、文字起こししてみます(1時間34分~)。
 
「本来、正式な手続を践まないで、憲法の大きな枠組みを動かしてしまうということがはたして可能かどうかというと、これは憲法の中からは出てこない訳ですね。憲法内在的には説明がつかない訳です。こういう場合は、法学的にどう言うかというと、広い意味では「革命」という風に言う訳ですね。その「革命」には、下からの「革命」と上からの「クーデター」がある、こういうことでありますので、これを当てはめますと、2014年7月1日の閣議決定というのは、これは「クーデター」に当たると、こういうことになります。そのようにして、「法的安定性」を破壊しようとして、「法の縛りから自由になりたい」という風に政府が考えたということなんですね。ちなみに、こういう形で議論したのは、「96条改正」という2013年の議論を浮かび上がらせるためでもあった訳です。2013年の政府のプログラムは、「憲法を国民に取り戻す」というような感じであった訳ですね。国民のためにやってんだということであった訳ですが、これも、96条という手続によって縛られている権力、この場合は憲法改正権という権力が、96条という根拠規定を破壊して自由になろうと、こういうことである訳ですので、これはまた破壊行為であって、広い意味では「革命」に当たる訳です。そしてこの場合は、憲法改正権を持ってるのは国民でありますので、厳密に言いますと、政治家が国民に対して「革命」をそそのかしている構図になってる、こういう格好であった訳です。国民はそそのかされなかったんですね。そこで、踵を返して、今度は独自に「クーデター」を行ったと、こういう風に説明すると、安倍政権の憲法に対する一貫した、恐るべき一貫した姿勢が浮かび上がってくるし、また、逆にですね、その時その時で行われたこと、例えば96条改正論、あるいは閣議決定による集団的自衛権の行使容認、それぞれ意味が浮かび上がってくるんではないかという風に考えて説明した。そして、そこでさし当たり問題になっているのは、「法的連続性」の破壊である訳で、その破壊行為、これでいいのかということな訳です。ただ、他方ではですね、「法的安定性」を維持するのが法律家の最低限の務めだということになりますと、「革命」や「クーデター」によって起こった法についても、いずれはそれ自体の「法的安定性」を守らなくてはいけない時がくる訳なんです。こんな法制度だけれども、せめてこれを守ることによって、国民を守らなければいけない、あるいは末端の公務員・自衛官を守らなければいけないということになる、その時がくる訳です。この時が、おそらく「クーデター」の成功、あるいは「革命」の成功ということになると、こう思う訳ですね。そして、いつ終わったことになるのか、これを判定するのは難しいんですけども、参議院選挙が一つの大きな節目になるだろうという風に考えまして、私も、本当はこういうのは苦手なんですけども、いろんなメディアに出てみたりですね、やってみた訳ですが、結果はご案内のとおりということで、一歩「成功」に近付いた、大きく「成功」に近付いたというのが現状であります。現在、違憲訴訟を提起する動きがありますので、おそらく最高裁で「合憲」だというようなことになれば、ここで「クーデター」は「完成」ということになって、これの「法的安定性」を守るということに、力を注ぐのが法律家の使命だと、こういうことになります。」
(略)
「ここで言う法学的意味での「クーデター」が完成した場合には、むしろこの法制度を動かさないために、新しい「法的安定性」を維持するために、新たな努力を始めるということになってしまうだろうと、こ
ういうことになる訳です。ですから、いつになるか分かりません。それほど近くない将来だとは思いますが、皆さんと一緒に行動していた法律家の姿がいつの間にか消えてしまうという日がくるかもしれない。その時がおそらく「戦後」の終わりということになるんじゃないかと思われます。できるだけそれがこないように、今後も努力したいと思いますが、そういう問題だという風にまず考えていただきたいというのがまず第1点です。」
 
 最高裁が安保法制を「合憲」と判断したとすれば、それが「クーデター」の「完成」になるということ自体は容易に理解できると思うのですが、仮にそうなった場合、安保法制合憲ということを前提として「法的安定性」を維持することが、弁護士などの法律家の使命となるという部分は分かりにくいかもしれませんね。
 
1時間40分~ 立憲主義と平和主義  
1時間59分~ ユートピア主義とリアリズム

 「平和主義」を憲法論的にどう位置付けるのかという問題について、石川教授の議論は非常に示唆に富むものだと思います。時間の制約で充分に語り切れていない憾みはありますが、以上の第2テーマ及び第3テーマを語られた部分も是非視聴してください。