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カジノ推進法案をめぐる和歌山の現状と読売新聞による徹底批判

 今晩(2016年12月8日)配信した「メルマガ金原No.2654」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
カジノ推進法案をめぐる和歌山の現状と読売新聞による徹底批判

 和歌山市民にとって「カジノ」が対岸の火事どころでなくなったことは、ようやく以下のような報道で明らかになってきました。
 
NHK 関西 NEWS WEB 12月07日 16時35分
カジノ含むIR和歌山市が検討

(抜粋引用開始)
 カジノを含むIR・統合型リゾート施設の整備を推進する法案が衆議院を通過し、7日、参議院本会議で審議入りした中、和歌山市候補地の選定作業や経済効果の試算を進めていて、IRの誘致を目指すか
どうか検討を急ぐことにしています。
 和歌山市は去年5月、カジノを含むIR・統合型リゾート施設に関するプロジェクトチームを作り、メ
リットやデメリットについて検討を進めてきました。
 これまでの議論では、候補地として、関西空港から車で30分程度で、高野山や白浜などの観光地にも
近い、市の南部の人工の島「マリーナシティ」や、北部の「コスモパーク加太」があがっています。
 「マリーナシティ」は22年前の世界リゾート博の会場で、現在はテーマパークやヨットハーバー、それにリゾートマンションなどがあり、「コスモパーク加太」は和歌山県が宅地として開発した大規模造成
地ですが、大部分は買い手が付いていません。
 また市のプロジェクトチームは、仮に施設への来場者が年間1000万人とすると経済効果は2000
億円にのぼり、2万人の雇用が生まれると試算しています。
 一方で、ギャンブル依存症の増加や青少年への悪影響なども懸念されるとして、ギャンブル広告の禁止
などの対策の効果も検討した上で、誘致を推進すべきかどうか判断する必要があるとしています。
 和歌山市はIR事業を手がける企業やほかの自治体の動向も見ながら、誘致を目指すかどうか検討を急
ぐことにしています。
(引用終わり)
 
 「知らなかった」と愕然としている和歌山市民も結構多いのではないでしょうか。「和歌山市は去年5月、カジノを含むIR・統合型リゾート施設に関するプロジェクトチームを作り、メリットやデメリットについて検討を進めてきました。」とありますが、そのプロジェクトチームによる研究レポートが、今年の4月27日に公表されていました。
 このレポートでは、「カジノによる悪影響」として、「韓国には17ヵ所のカジノがあり、自国民が入場できる江原ランドカジノのみ」「カジノ周辺には質屋が乱立し、高級腕時計や宝石類、中には車まで質に入れる人もいる」「「街にカジノ中毒者がいる」「子育てに向かない」などと一家で引っ越す人が相次ぎ、20年前は約2万5000人だった周辺の人口が、1万2000人に半減(2015.5.21 読売新聞)」というような記載もあり、必ずしも推進一辺倒でもないようですが、「友が島」「コスモパーク加太」「和歌山北港西防波堤」「まちなかエリア」「中央卸売市場」「マリーナシティ」などを候補地として具体的に検討しています・・・と知ったらびっくりする人もいるでしょう。
 「友が島」?冗談にしても悪い冗談だと思いませんか?
 
 また、昨日(12月7日)の毎日新聞「和歌山市世論調査 IR誘致52.7%賛成 市長「方針急いで決める」/和歌山」という記事にも驚きました。和歌山市「カジノを含むIR誘致について市民(満18歳以上)を対象に今年9~10月に世論調査を実施したところ、賛成派が52・7%(速報値)と半数を超えた。」というのですからね。
 これは、和歌山市が毎年行っている「市政世論調査」の一部であり、その平成28年度の概要が同市のホームページで公開されています。
 もっとも、平成27年度の「市政世論調査」には、IRについての質問項目はなかったようです。
 
 もともと、新聞のコラムで堂々とカジノ推進を宣言したり、Facebookにマカオ視察の報告を載せ、「「百聞は一見に如かず」一人でも多くの皆さんに現地を是非見てもらいたいと思います。」とまで主張する自民党衆議院議員がいたりはしたものの、ここまで行政が前のめりだったとは、私自身、うかつにも最近ようやく知った次第です。
 なにしろ、「カジノ/和歌山」でGoogle検索してトップでヒットするのは、和歌山県のホームページで
すからね。
 
 
 これによると、平成28年5月に和歌山県は、「特定複合観光施設区域への地方の選定を政府要望」あり、要望した「具体的な措置」が、
1 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法制度の早期整備を図ること
2 地方創生を実現するため、特定複合観光施設区域に「地方」を選定するよう明文化すること
3 和歌山県を特定複合観光施設区域に選定すること
というのです。
 
 国会議員から県までカジノ推進一辺倒とは、やれやれ(民進党岸本周平衆議院議員は党方針に従って本会議採決は退席したのでしょうが/twitterにもfacebookにも何とも書いていないけれど)。
 和歌山市はまだ態度未定とはいえ、IRに関するプロジェクトチームを作って鋭意調査を進めているのですから、知らぬは県民・市民ばかり、という情けなさ。
 まあ、知っている人はとっくに知っていたのでしょうが。
 
 ところで、IR法案(カジノ法案)、正式名称は「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案というもので、全23条という、比較的短めの法案です。
 私は、一つの関心をもって特定の条文を探しました。それは、この法案で「カジノ」をどのように定義
しているかを知りたかったのです。
 ところが、第二条の(定義)を読んで驚きましたね。
 
(定義)
第二条 この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設(別に法律で定めるところにより第十一条のカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る。以下同じ。)及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業
者が設置及び運営をするものをいう。
2 この法律において「特定複合観光施設区域」とは、特定複合観光施設を設置することができる区域として、別に法律で定めるところにより地方公共団体の申請に基づき国の認定を受けた区域
をいう。
 
 これによれば、「別に法律で定めるところ」を待たねば、解禁される「カジノ」の実体が不明ではないですか。この法案では「ご存知」のという前提で「カジノ施設」という用語が使われ、例えば第十条二号では「カジノ施設において用いられるチップその他の金銭の代替物」などという表現が出てきますが、ここでいう「カジノ」も「ご存知」のという以上の意味は読み取れません。
 議員立法とはこういうものかもしれませんが、技術的に非常にレベルの低い法案であり、法律の体をなしていないとさえ思います。
 
 和歌山県民、和歌山市民として、何とも情けない思いを禁じ得ませんが、最後は少しは力が出る話題で締めくくりましょう。
 それはカジノ法案推進勢力に対する読売新聞の「連続社説」による徹底批判です。
 正直、私が読売新聞の社説を読んで「よく書いてくれた」とか「元気をもらった」とかいう感想をいだ
く日が来ようとは思ってもいませんでしたが、これは紹介しない訳にはいかないでしょう。
 衆議院で審議入りした後の12月2日、本会議採決翌日の7日、そして党首討論の翌日の今日(8日)と、わずか1週間のあいだに社説で取り上げること3回、これは尋常ではありません。私は、ナベツネこと渡邉恒雄読売新聞グループ本社代表取締役主筆が、「徹底的にやれ」と論説室を叱咤しているのではないか
、などと勝手に想像しています。
 ことカジノ法案については、是非、読売新聞に頑張っていただきたいと思います。
 
読売新聞 社説 2016年12月2日(金)
カジノ法案審議 人の不幸を踏み台にするのか

(抜粋引用開始)
 カジノの合法化は、多くの重大な副作用が指摘されている。十分な審議もせずに採決するのは、国会の
責任放棄だ。
(略)
 自民党は、観光や地域経済の振興といったカジノ解禁の効用を強調している。しかし、海外でも、カジノが一時的なブームに終わったり、周辺の商業が衰退したりするなど、地域振興策としては失敗した例が
少なくない。
 そもそもカジノは、賭博客の負け分が収益の柱となる。ギャンブルにはまった人や外国人観光客らの“
散財”に期待し、他人の不幸や不運を踏み台にするような成長戦略は極めて不健全である。
 さらに問題なのは、自民党などがカジノの様々な「負の側面」に目をつぶり、その具体的な対策を政府
に丸投げしていることだ。
(略)
 カジノは、競馬など公営ギャンブルより賭け金が高額になりがちとされる。客が借金を負って犯罪に走
り、家族が崩壊するといった悲惨な例も生もう。こうした社会的コストは軽視できない。
 与野党がカジノの弊害について正面から議論すれば、法案を慎重に審議せざるを得ないだろう。

(引用終わり)
 
読売新聞 社説 2016年12月7日(水) 
カジノ法案可決 参院審議で問題点を洗い出せ

(抜粋引用開始)
 わずか約6時間の衆院審議で、様々な問題をはらむカジノを賭博の例外扱いにしようとする。あまりに
乱暴かつ無責任だと言うほかない。
 統合型リゾート(IR)整備推進法案が衆院本会議で、自民党日本維新の会などの賛成多数で可決、
参院に送付された。
(略)
 議員立法の法案は本来、丁寧に手続きを踏み、各党の幅広い合意形成を図るのが常道である。今回のよ
うに、強引に採決に持ち込む手法は、今後の国会運営にも禍根を残しかねない。
 公明党の対応にも疑問がある。山口代表や井上幹事長ら幹部は、慎重な審議の必要性を強調しながら、自民党などが主導する委員会運営を容認した。公明党が採決に反対すれば、自民党も再考せざるを得なか
ったのではないか。
 採決の際、公明党は自主投票にし、民進党は退席した。いずれも党内に賛成、反対の両論があり、一本
化できなかった。これだけ国民の関心が高い法案で党の方針を決められないのは異例である。
(略)
 カジノの合法化には、多くの課題が指摘されている。暴力団や海外の犯罪組織の関与や、ギャンブル依存症者による犯罪や自殺の増加、青少年への悪影響などだ。こうした深刻な副作用を伴う成長戦略は、明
らかに筋が悪い。
 カジノの経済効果についても、一定の観光客の増加や雇用創出を見込む民間試算の一方で、東アジアで
はカジノが乱立し、市場が飽和状態にあるとの厳しい見方がある。過剰な期待は禁物だろう。
 与野党は、対策や制度設計について政府に丸投げせず、自らが腰を据えて議論すべきだ。
(引用終わり)
 
読売新聞 社説 2016年12月8日(木)
党首討論 首相はカジノの説明を尽くせ

(抜粋引用開始)
 今国会初の党首討論が行われた。安倍首相と野党党首の論戦は、すれ違いが目立った。より建設的な議
論にするには双方の努力が欠かせない。
 民進党蓮舫代表は、統合型リゾート(IR)整備推進法案の衆院通過を取り上げた。「カジノは賭博
だ。勤労を怠り、副次的犯罪を誘発する」と訴え、約6時間の審議での採決を批判した。
 首相は「(政府が今後策定する)法案で、懸念にも具体的な答えを出していく」と応じた。自民党など
による拙速な衆院採決に関しては、「議員立法だから、国会が決めることだ」とかわした。
 ギャンブル依存症の増加や資金洗浄の恐れなど、カジノの弊害に対する国民の懸念は大きい。
 首相は以前、法案を作成した議員連盟の最高顧問を務めた。カジノを推進するなら、その経済効果や、
副作用の対策について、自ら丁寧に説明する責任がある。
(引用終わり)
 
 いっそ、来たるべき衆議院選挙、少なくとも和歌山では、「カジノ推進」か「カジノ反対」かを争点に設定してはどうですか?民進党さん、共産党さん。