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立憲デモクラシーの会「議会政治の劣化と解散問題に関する見解」(2016年12月12日)読む~付・「主要国議会の解散制度」(国立国会図書館)のご紹介

 今晩(2016年12月14日)配信した「メルマガ金原No.2660」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
立憲デモクラシーの会「議会政治の劣化と解散問題に関する見解」(2016年12月12日)読む~付・「主要国議会の解散制度」(国立国会図書館)のご紹介

 私が「メルマガ金原」で配信する記事は、その日のうちに私の2つのブログ、「弁護士・金原徹雄のブログ」「wakaben6888のブログ」に転載していますが、その際、それぞれの記事をカテゴライズしています。例えば、「原発」、「憲法」、「報道」などなど。
 ところで、ここ3日ほど、毎日「政治」と「声明」に分類する記事が続いています。偶然は偶然なのでしょうが、衆議院選挙に向けた野党協力といい(市民連合わかやま)、自衛隊南スーダンからの撤収といい(101人の憲法研究者)、カジノ解禁推進法反対といい(大阪弁護士会)、今の政権与党の暴政をこのまま放置しておくわけにはいかないというやむにやまれぬ思いから作成された「要請書」や「声明」であるというれっきとした共通点があるのです。
 
 今日ご紹介する「立憲デモクラシーの会」による「見解」も、同じ流れで公表されたものだと思いますが、とりわけ、同会ならではの、議会政治の劣化に対する根源的な批判が突きつけられており、大げさでなく、全ての国民に読んで欲しいと思い、微力ながら「拡散」に協力すべくご紹介することとしたものです。
 
議会政治の劣化と解散問題に関する見解
(引用開始)
 議会制民主主義における議会の役割は本来、特定の党派、特定の利害を超えた、国民全体に共通する中長期的利益を実現すること、ジャン-ジャック・ルソーのことばを借りるならば、「一般意思」を実現することにある。一般意思の追求など偽善的スローガンにすぎないとのシニカルな見方もあるかも知れない。しかし、政治から偽善を取り去れば、残るのはその場その場における特殊利益むき出しの権力闘争のみである。
 
 残念ながら、現在の政府・与党の振る舞いには、多様な利害、多様な見解を統合して、将来にわたる国民の利益を実現しようとする態度は見受けられない。それを装おうとする努力さえない。非現実的な適用事例を挙げるのみで、必要性も合理性も説明することなく、いわゆる安保関連法制を強行採決につぐ強行採決によって制定した昨年の通常国会での行動はその典型である。そうした振る舞いは、TPP関連法案、年金制度改革法案、カジノ法案の採決を、数々の懸念や疑問点にもかかわらず強行する近時の行動でも変わるところはない。数の力は、説明や説得の代わりにはならない。国会が各党派の議席数の登録と計算の場にすぎないのであれば、審議などはじめから無用のはずである。政権中枢から発出される数々の暴言・失言を含め、議会政治の劣化は、目を覆うしかない状況にある。
 
 数の力によって特定の党派、特定の見解を無理やりに実現しようとする現在の政府・与党の態度の背景には、与党によって有利な時機を選んで衆議院総選挙を施行する、長年にわたる政治慣行も控えている。この政治慣行は、その一つの帰結として、解散風を吹かせることで与党内部を引き締めるとともに、野党に脅しをかける力を政府に与えることにもなる。むき出しの権力闘争の手段である。小選挙区比例代表並立制の下での、政権中枢への権力の集中とあいまって、現在の政権は、選挙戦略で手に入れた両院の議席の多さを、世論での支持の広がりと見誤っているおそれもある。
 
 しばしば誤解されることがあるが、議院内閣制の下では必ず、行政権に自由な議会解散権があるわけではない。ドイツ基本法に典型的に見られるように、「議院内閣制の合理化」の一環として、憲法典によって解散権の行使を厳しく制約する国も多い。
 
 さらに、議院内閣制の母国であり、その典型例とされるイギリスでは、2011年9月15日成立した立法期固定法(The Fixed-term Parliaments Act 2011)により、次の選挙の期日を2015年5月7日と定めるとともに、その後の総選挙は、直近の総選挙から5年目の5月の最初の木曜日に施行することを原則とするにいたった。
 議院内閣制である以上は、内閣あるいは首相が自由に議会を解散できるという主張自体は、ますます説得力を失いつつある。政府与党が自らにとって最も有利な時期に総選挙を施行する党利に基づく解散権の行使は、もともと議会の解散が稀なフランスでは「イギリス流の解散 dissolution anglaise」と否定的に語られる。
 
 日本の議会政治がその本来の姿へ回帰するためには、長年にわたって疑われることのなかった解散権に関する慣行の是非も改めて検討の対象とする必要があろう。
 
  2016年12月12日
  立憲デモクラシーの会
(引用終わり)
 
 なお、上記の「見解」を公表するための記者会見が、12月12日(月)午後3時から、衆議院第二議員会館地下1階第7会議室で行われました。
 その開催を告知する文書で「立憲デモクラシーの会」は次のように述べています。
 
(引用開始)
このほど立憲デモクラシーの会では、下記の趣旨に基づく声明を発表する記者会見を開催いたします。
【趣旨】安倍晋三政権及び与党の最近の政治運営は、TPP条約及び関連法案、年金改革法案、IR整備推進法案の強行採決に現れている通り、乱暴を極めています。もはや、言論の府としての国会の機能は全く停止し、政府与党が提出する法案を自動的に成立させる機械のようなものに堕した感があります。このような議会民主主義の危機に対して、立憲デモクラシーの会として、批判の声明を発表し、あわせて、年明けにも想定される衆議院の解散に関して憲法学的な問題点も指摘したいと存じます。
(引用終わり)
 
 以下に記者会見の動画をご紹介します。
 衆議院解散権の所在、根拠条文、解散権を行使するための要件などは、必ずしも憲法の条文上明らかとは言えず、解釈及び慣行によって律されてきた側面が大きいのですが、「見解」でも言及されているとおり、議院内閣制の母国と言われる英国における新たな動向は、日本国憲法の解釈にも大きな示唆と影響を与えるものと思われます。
 そのような問題意識も持ちながら、会見での発言に耳を傾けていただければと思います。
 
1212緊急記者会見 立憲デモクラシーの会(57分)

冒頭~ 山口二郎氏(共同代表・法政大学教授・政治学)
5分~ 長谷部恭男氏(早稲田大学教授・憲法学)
9分~ 小森陽一氏(東京大学教授・日本文学)
13分~ 千葉眞氏(国際基督教大学特任教授・政治学)
22分~ 西谷修氏(立教大学特任教授・哲学)
37分~ 質疑応答
 
 冒頭発言が、最初の3人が各4分だったものが、あとのお2人、特に西谷修さんでぐんと長くなってしまいましたが、マイクを手に持って話してくれたからでしょうが、西谷さんの話が一番聴き取りやすかったし、内容的にも分かりやすかったと思います。1時間の記者会見を通しで聴くのはしんどいという方は、まず西谷さんの15分間のスピーチを聴かれてはどうでしょうか。
 
(参考文献)
 「立憲デモクラシーの会」の今回の「見解」をより深く理解するための好個の論文が、国立国会図書館発行の「調査と情報」第923号(2016年10月18日発行)に掲載されていますので、ご紹介します。
国立国会図書館 調査と情報―ISSUE BRIEF― NUMBER 923(2016.10.18.)
「主要国議会の解散制度」
 国立国会図書館 調査及び立法考査局政治議会課 高澤美有紀

(概要を引用開始)
● 議会の解散制度があるイギリス、イタリア、カナダ、ドイツ及びフランスについて、その制度及び実例を見ると、解散の要件の違いに伴い、解散が行われる頻度も国によって異なっている。
● ドイツ及び 2011 年議会期固定法制定後のイギリスでは、非常に制限的な要件の下で解散が可能となっている。大統領が解散権を有するイタリア及びフランスでは、制度上の要件はドイツやイギリスほど厳格ではないが、自由に解散を行うことは一般的とはなっていない。
● 議会の解散制度の在り方を比較検討するに当たっては、各国の立法府と行政府の関係の違い等に留意する必要がある。
(引用終わり)