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司法に安保法制の違憲を訴える意義(8)~東京・差止請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告訴訟代理人による陳述

 今晩(2017年1月7日)配信した「メルマガ金原No.2684」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
司法に安保法制の違憲を訴える意義(8)~東京・差止請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告訴訟代理人による陳述

 昨年12月21日(水)午前10時30分から、東京地方裁判所103号法廷において、安保法制違憲・差止請求事件(原告52名)の第2回口頭弁論が開かれました。
 今回は、9月29日の第1回口頭弁論で陳述された被告・国の答弁書に対する原告の反論(準備書面(1))と平和的生存権の権利性・被侵害利益性についての具体的な主張(準備書面(2))が行われました。
 当日は、上記2本の準備書面の概要について、古川(こがわ)健三、黒岩哲彦両弁護士が法廷で陳述した他、お2人の原告、長崎原爆被害者で被団協事務局長の田中煕巳(てるみ)さんと元原発技師の小倉志郎さんが意見陳述されました。
 
 これまでの裁判資料や報告会で配布された資料(法廷での陳述用原稿など)は、「安保法制違憲訴訟の会」ホームページの「裁判資料」に(「国家賠償請求訴訟」「差止請求訴訟」に分けて)収録されています。
 
 今日は、原告訴訟代理人である古川弁護士と黒岩弁護士による陳述を全文ご紹介しようと思いますが、それに先立ち、本件差止請求訴訟の「請求の趣旨」及び被告・国の「請求の趣旨に対する答弁」をまずお読みください。
 
東京地方裁判所(民事第二部) 
平成28年(行ウ)第169号 安保法制違憲・差止請求事件
原告 志田陽子、石川徳信ほか(計52名)
被告 国

「訴状」から
請求の趣旨
1 内閣総理大臣は,自衛隊法76条1項2号に基づき自衛隊の全部又は一部を出動させてはならない。
2 防衛大臣は,重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律の実施に関し,
(1) 同法6条1項に基づき,自ら又は他に委任して,同法3条1項2号に規定する後方支援活動として,自衛隊に属する物品の提供を実施してはならない。
(2) 同法6条2項に基づき,防衛省の機関又は自衛隊の部隊等(自衛隊法8条に規定する部隊等をいう。以下同じ。)に命じて,同法3条1項2号に規定する後方支援活動として,自衛隊による役務の提供を実施させてはならない。
3 防衛大臣は,国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律の実施に関し,
(1) 同法7条1項に基づき,自ら又は他に委任して,同法3条1項2号に規定する協力支援活動として,自衛隊に属する物品の提供を実施してはならない。
(2) 同法7条2項に基づき,自衛隊の部隊等に命じて,同法3条1項2号に規定する協力支援活動として,自衛隊による役務の提供を実施させてはならない。
4 被告は,原告らそれぞれに対し,各金10万円及びこれに対する平成27年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は,被告の負担とする。
との判決並びに第4項につき仮執行の宣言を求める 
 
「答弁書」から
請求の趣旨に対する答弁
1 請求の趣旨第1項ないし第3項の請求に係る訴えをいずれも却下する
2 請求の趣旨第4項の請求をいずれも棄却する
3 訴訟費用は原告らの負担とする
との判決を求める。
 なお,請求の趣旨第4項につき仮執行の宣言を付することは相当でないが,仮にこれを付する場合には、
(1)担保を条件とする仮執行免脱宣言
(2)その執行開始日を判決が被告に送達された後14日を経過した時とすることを求める。
 
 当日は、午後1時から、参議院議員会館において報告集会が行われました。その動画がアップされていますので、併せてご紹介します。
 
2016年12月21日 『安保法制違憲訴訟差し止め請求訴訟』傍聴&報告集会(1時間35分)

冒頭~ あいさつ 寺井一弘弁護士
8分~ 古川(こがわ)健三弁護士 「準備書面(1)」について
15分~ 黒岩哲彦弁護士 「準備書面(2)」について、法廷でのマイク問題について、口頭弁論での原告意見陳述について
21分~ 原告・田中煕巳(てるみ)さん(長崎原爆被害者、被団協事務局長)
33分~ 原告・小倉志郎さん(元原発技師)
42分~ 原告・東京大空襲被災者
52分~ 原告・父が関東軍で悲惨な体験
58分~ 原告・船員(外洋航路)
1時間05分~ 福田護弁護士 差止訴訟の現状と今後
1時間17分~ 原告・志田陽子さん(憲法研究者・武蔵野美術大学教授)
1時間27分~ 原告・飯島滋明さん(憲法研究者・名古屋学院大学教授)
1時間33分~ 閉会 司会・杉浦ひとみ弁護士
 

 
1 本案前の答弁について
 被告は、本案前の答弁として、本件集団的自衛権の行使等の処分性を争い、訴えの却下を求めている。しかし、被告が処分性を否定する論拠とするのは1960 年代、70 年代頃までの古い議論である。平成16 年の行政事件訴訟法改正は「国民の権利利益のより実効的な救済」を目指すものであった。最高裁判所行政事件訴訟法改正前後から、処分性概念を拡大することによって、国民の実効的権利救済を図るスタンスを明確にしており、学説も概ねこれを好意的に評価している。
 本年12 月8 日、厚木基地航空機騒音訴訟の上告審判決が言い渡されているが、その原審である東京高裁判決は、自衛隊機の運航という事実行為が国民に騒音被害の受忍を強いているという観点から処分性を認め、最高裁も処分性についての判断を維持した。集団的自衛権の行使等は、国民を戦争に巻き込み、またはその危険に晒すことにより、国民の権利・利益を侵害する事実行為であり、自衛隊機の運航について処分性が認められるのと同一の構造により、処分性を肯定すべきである。
 さらに、集団的自衛権の行使等がなされた場合には、相当程度の確実さをもって武力攻撃事態等に発展する蓋然性が高く、武力攻撃事態等においてはいわゆる有事法制の実施により国民は多面的かつ強力な権利制限と義務付を受けることになる。それは原告らの生命・身体財産を根底から奪いかねないものであり、一旦集団的自衛権の行使等が行われた場合にはもはや取り返しのつかないことになる。したがって、集団的自衛権の行使等は十分個別具体的な権利侵害性を有するし、抗告訴訟としての差止め訴訟による救済の道を閉ざしてはならない。
 
2 被告の答弁態度について
 被告は、請求原因に対する認否において、違憲性の主張についての認否をことごとく避けている。すなわち、新安保法制法の違憲性についての主張、集団自衛権の行使の違憲性についての主張、新安保法制法の制定過程において立憲主義が否定され、国民の憲法改正決定権が侵害されているという主張、そして後方支援活動・協力支援活動の違憲性についての主張のいずれについても、「事実の主張ではなく、争点とも関連しないので、認否の要を認めない」として認否を明らかにしない。
 しかし、これらの明白かつ重大な憲法秩序の破壊こそが、原告らの具体的な権利を踏みにじり、原告らを不安と苦悩に陥れた根本的・直接的な原因である。これらが争点と関係しない、などというのは詭弁というほかはない。特に、国家賠償請求との関係では、侵害行為の態様と被侵害利益の種類や内容との相関において不法行為の違法性が判断されることになるのだから、憲法の破壊そのものが侵害行為を構成する本件で、違憲性の争点を回避して判断することはあり得ない。
 
3 憲法破壊の重大性について
 新安保法制法は、憲法が拠ってたつ基本原則である平和主義を、根本から破壊した。それも、閣議決定と法律の制定という方法によって。このことを、石川健治東京大学教授は、「クーデター」と呼んでいる。
 また、濱田邦夫元最高裁判所判事は、参議院平和安全法制委員会公聴会に公述人として出席し、集団的自衛権の行使が容認される根拠についての政府の説明に触れ、「法匪」という言葉を用いて厳しく非難した。新安保法制法は制定手続きにおいてもその内容においても著しく違憲性を帯びたものであることは、多数の憲法学者有識者が指摘するところである。
 私たちが戦後70年間の永きにわたり平和を享受し、平和の礎の上に基本的人権の尊重を受けることができたのは、まさに憲法が徹底した平和主義を謳い、私たちがこれまでそれを守ってきたからであった。その道は平坦ではなく、幾多の試練もあった。
 しかし、今ほど憲法が重大な危機に瀕しているときはない。激しい戦闘の現場である南スーダンへ、新安保法制法にもとづく駆けつけ警護任務が付与された陸上自衛隊の派遣が11月20日から始まっている。私たちは、憲法制定以来はじめて、自衛隊が積極的に日本の領域外で外国の戦争に参加し、加担しようとする国家意思に直面している。一旦銃弾が放たれたら、もはや後戻りはできない。原告らの権利侵害はもちろん、差止め請求との関係においても、憲法の破壊の重大性は、重大な損害を生じるおそれや原告適格の内容をなしている。
 被告は、違憲性の主張に対する認否を明らかにし、議論に応じなければならない。
                                        以上
 

 
1 原告らは、新安保法制法によって侵害される原告らの権利・法的利益として、第1に平和的生存権を主張するものであるが、これに対し、被告は、答弁書において、原告ら主張の被侵害利益は、いずれも具体的な法的利益ではなく、国家賠償法上保護された権利ないし法的利益の侵害をいうものでもないから、主張自体失当であると主張している。そこで、本準備書面では、平和的生存権の権利性・被侵害利益性について主張を補充するものである。
 平和的生存権は、平和のための世界的な努力(平和的生存権の根拠1)、憲法前文、9条、13条をはじめとする第3章の諸条項の憲法の規定(平和的生存権の根拠2)、憲法学説の研究の成果と裁判例(平和的生存権の根拠3)、平和を守るための動き(平和的生存権の根拠4)により、平和的生存権の具体的権利性・裁判規範性は認められる。
 
2 被告は答弁書で平和的生存権の具体的権利性・裁判規範性を否定する根拠として札幌高裁昭和51年8月5日判決から最高裁判所平成元年6月20日第三小法廷判決まであれこれの14の判決を引用している。しかしこれらの判決は時代遅れのものである。平成元年最高裁判所判決後に①自衛隊イラク派遣差止等請求事件の名古屋地裁判決(平成19年3月23日・いわゆる「田近判決」)②自衛隊イラク派遣差止等請求事件の名古屋高裁判決(平成20年4月17日・いわゆる「青山判決」)③自衛隊イラク派遣違憲確認等請求事件の岡山地裁判決(平成21年2月24日・いわゆる「近下判決」)が出されている。
 名古屋高裁判決・青山判決は確定判決であることは重要である。青山判決は「この平和的生存権は、局面に応じて自由権的、社会権的又は参政権的な態様をもって表れる複合的な権利ということができ、裁判所に対して保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求し得るという意味における具体的権利性が肯定される場合がある」としている。本件差止請求は、平和的生存権に基づき裁判所に対して保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求しているのである。
 「市民平和訴訟」平成8年5月10日東京地裁判決が、「政府は、憲法九条の命ずるところに従い、平和を維持するよう努め、国民の基本的人権を侵害抑圧する事態を生じさせることのないように努めるべき憲法上の責務を負うものということができ、この責務に反した結果、基本的人権について違法な侵害抑圧が具体的に生じるときは、この基本的人権の侵害を理由として裁判所に対して権利救済を求めることは可能といえよう。」と判示した点は軽視すべきでない。
 
3 平和的生存権は、憲法前文と9条及び第3章の人権規定から基本的人権の基底的権利として具体的権利性があり、裁判規範であること認められ、原告ら主張の平和的生存権不法行為法上の被侵害利益性があることも明らかである。新安保法制法の制定によって、前文及び憲法9条とこれらに依拠する平和的生存権は、平和主義そのものと一緒に破壊され、葬られようとしている。今般のように内閣と国会が暴走する場合、立憲民主主義の観点からこれを合法的に牽制するのは、司法の責務である。
 原告らは、違憲の新安保法制法による被侵害利益の第1に平和的生存権を主張するものである。裁判所は、憲法の要請と国民・市民の声に真摯に向き合い、平和的生存権を正面から認め、新安保法制法の違憲判断と原告らの被害の回復を宣言されることを強く要請するものである。
                                        以上
 

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2016年9月3日
東京・安保法制違憲訴訟(国賠請求)が始まりました(2016年9月2日)

※過去の安保法制違憲訴訟関連のブログ記事にリンクしています。
2016年9月6日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(1)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述
2016年9月10日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(2)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述

2016年10月4日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(3)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述
2016年10月5日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(4)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述
2016年12月9日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(5)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告代理人による意見陳述
2016年12月10日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(6)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告による意見陳述
2017年1月5日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(7)~寺井一弘弁護士(長崎国賠訴訟)と吉岡康祐弁護士(岡山国賠訴訟)の第1回口頭弁論における意見陳述