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選挙市民審議会の「選挙・政治制度改革に関する中間答申」(2017年1月24日)を読んで議論しよう

 今晩(2017年1月29日)配信した「メルマガ金原No.2707」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
選挙市民審議会の「選挙・政治制度改革に関する中間答申」(2017年1月24日)を読んで議論しよう

 「選挙」というのは、私たち普通の市民にとって、政治参加の最も重要な機会の1つですが、その「選挙」の仕組みを規定している法制度(公職選挙法を中心とした)が、相当におかしい、ということについて、多くの人が気がついていることと思います。
 衆議院議員選挙(選挙区)や都道府県知事選挙に立候補しようとすれば、300万円の供託金を納めねばならず、有効投票総数の10分の1の得票が得られなければ供託金を没収されるのは何故か?候補者が有権者のお宅を訪ねて自らの政見を述べて投票を依頼することがなぜ刑罰付きで禁止されなければならないのか?などなど、言い出せばきりがありません。
 しかし、選挙制度を「改正」しようとすれば、現行の選挙制度によって当選した議員で構成される国会で改正案を成立させなければなりません。議会で多数を得ている党派は、現行制度による「利点」を最も享受しているからこそ多数派になっているのですから、少し考えてみれば、選挙制度の「改正」が容易でないことはすぐに分かります。
 
 けれども、「難しい」と言って手をこまねいていては何も始まらないということで、様々なグループや個人が行動している中に、2014年11月から活動をスタートさせた「公正・平等な選挙改革にとりくむプロジェクト」(略称:とりプロ)というものがあります。
 「とりプロ」の設立趣旨や具体的な活動内容については、ホームページの中の「ABOUT(公正・平等な選挙改革にとりくむプロジェクトとは)」をご覧ください。
 私が特に注目したのは「公職選挙法改正までのロードマップ」を明示していることです。引用してみます。
 
公職選挙法改正までのロードマップ】
有識者23名による「選挙市民審議会」を2015年11月に発足させ、部分改正法案の元となる提言を練り上
げています。2017年1月に中間答申、2017年末に「第1期最終答申」を公表します。
※「選挙市民審議会」メンバーはこちら秋葉忠利広島市長は辞任されたようですが)
■同時に、国会議員・地方議員や文化人たちに対して、とりプロへの「趣旨賛同の輪」を広げます。
超党派の議員による「公職選挙法部分改正議員連盟」を設立し、選挙市民審議会の提言に基づく法案を
、一つずつ議員立法のかたちで法律にしていきます。2017年の通常国会には少なくとも一つの「公選法部分改正議連」を立ち上げる予定です。
 
 ここまでくると、立派なシンクタンクですね。
 そのロードマップ通り、去る1月24日(火)16時30分から、参議院議員会館101会議室で、選
挙市民審議会の第5回全体審議会が開催され、「選挙・政治制度改革に関する中間答申」が決議され、17時から、引き続き同じ会場で記者会見が行われました。IWJとUPLANによるアーカイブ動画をご紹介します。
 
 
【UPLAN】
20170124 UPLAN【記者会見】選挙市民審議会「選挙・政治制度改革に関する中間答申」(1時間22分)
 
 
 そこで、公表された「選挙・政治制度改革に関する中間答申」を読んでみたいということになるわけですが、全文を「とりプロ」ホームページの中の「議事録・レジメ資料シェルフ」からダウンロードすることができます。
 「中間答申」は、全部で5つの文書に別れており、その内容は、
  ① 表紙・前文・目次
  ② 骨子
  ③ 本文
  ④ 用語集
  ⑤ 選挙市民審議会の道のりとこれから
となっています。ちなみに③の本文は全部で52ページありますので、それはおいおい読んでいただくと
して、ここでは、「前文」の一部と「骨子」のみ引用させていただくことにしました。
 私もまだ「骨子」しか読んでいませんが、大体において賛同できる方向での提言だと思いました。ただ、「都道府県議会・政令市議会選挙を比例代表制に」については、既成政党と縁のない市民各層からの候補者擁立がやりにくくならないか?というような疑問が起きたりもしますが、それでも和歌山県議会に見られるような閉塞状況を打開する可能性を秘めているとは思います。
 この「中間答申」を素材に、いろいろと議論してみる機会を作るのが望ましいし、そのような市民の議
論の結果を、「最終答申」に出来るだけ反映してもらえればと思います。
 
(引用開始)
はじめに

中間答申の公表にあたって
 一昨年の11月30日、わたしたちは大いなる夢をもって、選挙から政治の未来をつくりだそうと決意し、「選挙市民審議会」を設立しました。
 わたしたちの夢とは、主権者の手によって日本における議会制民主主義を成熟させ、主権者がその実りを共有することです。
 わたしたちは、現在の選挙制度では公正・平等な選挙にならないと考えています。主権者の多数意見が国会の中で多数意見となっていません。少ない得票でも多くの議席が与えられ、しかも、膨大な死票が生まれるなど民意を正確に代表できていません。加えて、立候補や選挙運動も自由にできません。また、「迂回献金」による政策誘導は後を断ちません。
 議会制民主主義は成熟せずに、劣化しているのではないでしょうか。
 限られた人たちだけが選挙に携わり、多様な民意が政策・立法に反映されない結果、政治不信による投票棄権や白票を投じる行為など、負の循環が起こっています。このままでは日本の議会制民主主義は沈没してしまいます。
 そのように考えたわたしたちは、国会議員にお任せするのではなく、市民のイニシアチブによる選挙制度改革を進めようと、この一年間、3つの部会に分かれて、活発な議論を行ってきました。
(略)
 このたび、その一部について結論がまとまりましたので、ここにこれを「選挙・政治改革に関する中間答申」として公表します。公表の目的は、喫緊の課題である選挙制度改革の必要性を世間に広め、改革機運を盛り上げることにあります。批判も含め様々な仕方で、この中間答申を活用していただきたいと願っています。
 今後、選挙運動の完全自由化や公費負担の見直し、比例代表選挙を中心とする選挙制度への改革、首長選挙選挙管理委員会のあり方等のテーマについても引き続き検討を進め、1年後には結論を得て、「選挙・政治改革に関する最終答申」を公表する予定です。ぜひ、選挙市民審議会への傍聴やウエブサイトの注視をいただきますとともに、わが国の民主主義の成熟と真の実現のため、貴重なご意見等を多数お寄せいただきますよう、お願いいたします。
 
中間答申の公表に至るまで(略)

  選挙市民審議会 共同代表
  片木淳 只野雅人 三木由希子
  2017 年1月24日
 
公職選挙法改正提言骨子

1 選挙運動を自由に楽しく
 選挙運動は、わたしたち市民が候補者や政党の主張を知り、判断するための重要な手段です。これを合理的な理由なく規制することは、憲法の定める表現の自由罪刑法定主義に反するのみならず、国際人権規約等に定められた人類普遍の原理にも違反するものです。市民の政治への参加を促進し、民主主義と地
方自治の更なる発展、向上を図るため、現行の選挙運動規制は抜本的に改革すべきです。
 なお、資金の豊富な者が選挙で有利になることを防ぐため、政治資金と法定選挙運動費用の透明性を高
めるとともに、その規制の強化等についても見直しが必要です。
 項目ごとの内容は、要旨、次のとおりです。
 
1-1戸別訪問の自由化・・・本文1ページ
 戸別訪問は、選挙運動の基本的手段のひとつとして積極的に活用されるよう、これを全
面的に自由化すべきである。現行制度は、「買収、利害誘導等の温床になりやすい」こと等の弊害を理由
としている(最高裁判決)が、それらの犯罪等は別途、直接これを規制すれば足り、その「弊害論」の根拠とするところは説得力に極めて乏しい。欧米の先進諸国においても、戸別訪問を禁止している例はなく、早急にこれを自由化すべきである。
 
1-2 電子メールによる選挙運動の自由化・・・本文5ページ
 政治活動、選挙運動は、原則として誰でもが自由に参加できるしくみにすべきであり、「インターネッ
トを活用した電子メールをはじめウェブサイト、フェイスブック、ブログ、ツイッター等のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を活用した選挙運動を全面的に自由化」すべきであるが、その段階的な見直しとして原則すべての人が選挙運動として電子メールの送信ができるようにすべきである。
 
1-3 ローカル・マニフェスト頒布の自由化・・・本文 10 ページ
 それぞれの候補者の政策の方向性や考え方などを知り、政策選択による投票を促すため、「いかなる選挙においてもパンフレット・書籍、ビラ等の作成、頒布(配布)は自由にする」ことが抜本的な改正であるが、その段階的な見直しとして都道県議会議員及び市区町村議会議員など、自治体議会議員選挙におけるローカル・マニフェスト(ビラ)の頒布を可能にすべきである。
 
1-4 公開討論会の自由化と公営立会演説会の復活・・・本文 13 ページ
 選挙においては、候補者や政党が演説会等で自らの主張や公約を一方的に表明するだけでなく、市民も交えて互いに討論を行うことが必要である。そのための基本的手段であり、市民が面前で、あるいはインターネットの中継を通じて候補者や政党を比較できる公開討論会はこれを全面的に自由化するとともに、公営立会演説会(公開討論会)を復活すべきである。あわせて「公設民営」の公開討論会も検討すべきである。
 
1-5 18 歳未満者の選挙運動の自由化・・・本文 18 ページ
 18歳選挙権年齢の引き下げにより、市民性教育シチズンシップ教育)の必要性が指摘されその取組み
が進められつつある。若年者の投票行動、政治参加を促し、国政、自治体政策への関心を高め、政治、選挙の重要性の認識をより深めることが中長期的には民主主義を強化することになるものと考え、全ての人の政治活動、選挙運動を全面自由化すべきである。
 
2 政治参加のハードルを下げる
 民主主義は、わたしたちすべての市民が積極的にかかわり、一人ひとりがこれを実践していくべきもの
です。そこで、18 歳選挙権の実現を機に、市民性教育シチズンシップ教育)の重要性が再認識され、市民が自ら政治活動に参加するための能力を獲得し、政治活動を実践する場を保障することが課題となっています。このため、国政レベル、自治体レベルにおいて、政治参加のハードルを下げ、多様な市民が選挙や政治活動に自由にアクセスする機会を保障するため、高額な供託金制度を撤廃し、選挙運動期間(事前
運動の禁止)を廃止することがその手始めになります。
 項目ごとの内容は、要旨、次のとおりです。
 
2-1 供託金の廃止・・・本文 21 ページ  
 供託金に関しては戦前から減額あるいは廃止の議論が出されていたが、戦後も供託金制度は存続しているばかりか、消費者物価の伸び以上にその額が高騰している。しかも、現行の供託金額は国際的に比較しても極めて高額であり、最近においても与党自民党から見直し提言が出された。このような供託金制度は、高額の供託金を納める資力に乏しく、格差拡大・貧困・少子化・過疎などの深刻な問題に直面する非正規労働者、育児中の女性、高齢者、障害者等立候補の妨げになっている。より国民の生活実態に即した政策立案を可能とするため、
早急に供託金を廃止し、その資力にかかわらず、より多くの市民が立候補しやすくすべきである。
 
2-2 選挙運動期間の廃止―その方向性・・・本文 28 ページ
 選挙運動期間を定めず、事前運動の禁止規定の廃止を提案する。これにより、市民が自由に選挙運動に参加できるようになり、既存政党であれ、新政党であれ、政権党であれ、野党であれ、現職議員であれ、新人候補者であれ、それぞれが公正な機会を獲得し、自由な選挙運動が行えるようになる。これまで事前運動禁止により、新政党や新人議員候補者は、不利な条件を強いられてきた。さらに、法律での明文規定なしで行われてきた選挙運動と政治活動を区別する必要はなくなり、政治活動の自由が保障される。
 
3 身近な選挙を政策で選ぶ選挙に
 選挙制度は、国政の問題だけではありません。地方議会議員選挙制度も、さまざまな課題を抱えてい
ます。都市部の市区町村議会選挙では数十人の立候補者から一人だけを選ぶという困難さがあり、一方で、市町村議員選挙では全体傾向として無投票が増えています。都道府県議会選挙や政令市議会選挙は、選挙区に分かれていますが、1 人区から最大で17人区まで混在し、選挙区ごとの「一票の較差」も国政以上です。そして、根強い地方議会不要論もあります。地方議員や地方議会が何をしているのかわかりにくい原因は複数ありますが、一つは選挙が政策で選べる仕組みになっているとは言えないと考え、地方議会議
員選挙の制度改革を検討し、以下の項目を中間報告として取りまとめました。
 項目ごとの内容は、要旨、次のとおりです。
 
3-1 市区町村選挙に制限連記制導入・・・本文 31 ページ  
 現在、政令市を除く市区町村議会選挙は立候補者から一人を選んで投票する大選挙区非移譲式単記制を採っている。長く続けられている選挙制度であるが、高齢化、人口の偏在化の進展、市民ニーズ・社会課題の多様化などの社会状況の変化を受けて、従前の選挙制度を継続するだけでなく、議員をどのように選ぶかということも検討すべき状況にある。こうした問題意識のもとで、市区町村議会選挙(ただし政令指定都市を除く)について検討し、「制限連記制」の導入による、複数の候補者に投票できる選挙制度を提案する。連記しうる候補
数は、議員定数20名までは2名、同30名までは3名、同40名までは4名、同41名以上は5名までとする。これにより、有権者の投票に対する意識を高めて投票率を押し上げる。また、無所属候補者たちの政策ごとのグループ化および議員の多様化を促す。
 
3-2 都道府県議会・政令市議会選挙を比例代表制・・・本文 35 ページ
 現在の都道府県議会選挙は、単独の市の区域または複数の市町村を合わせた区域を選挙区として実施されているが、選挙区ごとの定数は1名から十数名までのばらつきがあり、小選挙区制と中選挙区制が混在するいびつな制度となっている。人口格差も国会以上に大きい。政令市議会についても、行政区を基準に選挙区を設けることが認められているため、都道府県議会と同様の問題が生じている。全都道府県または全市を一区とする比例代表制の選挙に改めることにより、選挙権の不平等は解消できる。また、政党が名簿を作成する際に、性別、年齢層、職業などに配慮した多様な人材を候補者として記載する動機となることも期待される。
 
4 民意が反映される国政選挙
 1990 年代初頭、政権交代と政権選択の実現を掲げ、政治改革が行われました。しかし、改革の狙いは実
現されておらず、多数党に議席が集中するなど、かえって、民意の反映が阻害されています。本当に投票したい候補者や政党がないと感じている有権者は少なくないでしょう。政治改革を促すきっかけとなった政治と金の問題も、解決していません。有権者にできるだけ多様な選択肢を提供し、本当の意味で民意が
反映された選挙制度を、衆議院参議院双方で実現する必要があります。
 項目ごとの内容は、要旨、次のとおりです。
 
4-1 衆議院選挙制度改正の方向性・・・本文 40 ページ 
 現行の小選挙区比例代表並立制は、小選挙区において選挙区間の「一票の較差」が依然として大きいこと、第1党が7割台の議席を獲得するのが常態化していること、大量の死票が発生していることなど、きわめて問題が多い。多様な民意の反映を選挙制度改革の基軸に置き、比例代表制を中心としながら、絶対多数代表制や大選挙区制も含め、多面的に検討する。さらに、政党の選択と人物の選択との兼ね合い、既存政党だけに有利とならない仕組みにも配慮する。その上で、法の下の平等や議院内閣制などの憲法上の原則を踏まえた、明確な理念をもった改革案をまとめることとする。
 
4-2 参議院選挙制度改正の方向性・・・本文 44 ページ 
 参議院選挙の選挙区間の「一票の較差」は衆議院以上に大きい。選挙区ごとの定数(1~6)のアンバランスも問題である。しかもその大部分が小選挙区であることにより、衆議院小選挙区と同様な問題を抱えている。また、都道府県を単位とする地域代表としての性格を認めるべきか、人物の選択をどこまで重視するかについても、検討が必要となる。そのためには、憲法の要請する二院制の存在意義や参議院の役割を明確にするとともに、各々の選挙制度との適切な関係を検討していくことが重要である。その検討結果を踏まえて、改革案をまとめることとする。
 
4-3 両院共通の選挙制度改正の方向性・・・本文 46 ページ
 両院の定数については、“身を切る”という側面からの削減論だけが叫ばれてきた。一方で、高すぎる
議員の歳費・政治活動経費や政党助成金などの議論については放置されてきた。議員定数は、諸外国の議会と比較して決して多くない。全国民の多様な民意を反映し、代表する国会として活動するためには、ど
の程度の定数が適切かという観点からの議論が求められる。削減ではなく増員もありうる。
 下院で193ヶ国中157位(列国議会同盟、2016年8月)という数字が示すように、女性議員の少なさも両院
共通の問題である。女性の政治進出を阻害する構造的要因や社会意識を変えるためにも、女性議員の増加が必要であり、選挙制度の工夫だけでなく、まずは政党に女性候補の擁立を促す仕組みづくりを検討する
 
5 透明で公正な政治活動

5-1 企業団体献金の全面禁止
・・・本文 48 ページ
 現行政治資金規正法で一部許容されている企業団体献金を全面的に禁止する。政治資金パーティーも含
めどのような形であれ企業団体献金を許容することは、選挙の際資力のある者が有利になることをもたらしている。また、企業団体による政策誘導が黙認される。企業団体内部構成員の政治参加も制約されうる。これらの課題を克服するために企業団体献金を全面禁止する。そもそも政党助成金導入の際に企業団体
献金を全面禁止するはずであったのだから。
(引用終わり)