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日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む

 今晩(2017年2月7日)配信した「メルマガ金原No.2716」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む

 昨日に引き続き、共謀罪シリーズをお届けします。
 今日は、日本弁護士連合会が発行して配布しているパンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連共謀罪に反対します!!―」をご紹介します。
 昨日ご紹介した月刊レファレンス(国立国会図書館)掲載論文「共謀罪をめぐる議論」でも説明されていたとおり、いわゆる共謀罪法案は、2003年から2005年にかけて3度国会に上程されながらいずれも廃案(最終は2009年7月の衆院解散により)となっていたのですが、日弁連のパンフレットも都度都度改訂され、現在の版は、2015年9月発行の五訂版です。
 当然、現在開会中の第193回国会(常会)に提出されると言われている「テロ等準備罪」法案には対応していません。そもそもまだ法案も確定・公表されていないのですから(閣議決定が必要でしょう)、六訂版を発行する訳にはいきません。ただし、法案が確定次第、間をおかずに六訂版を発行できるよう、日弁連共謀罪法案対策本部では、急ピッチで予定稿を準備中だと思います(単なる想像ですが)。
日弁連・共謀罪パンフレット ということで、現時点までの日弁連としての見解は、2012年4月に発表された「共謀罪の創設に反対する意見書」にまとめられており、その内容を市民向けに分かりやすくアピールするために発行されたのがパンフレット五訂版(2015年9月)ですから、間もなく六訂版に差し替えられるかもしれませんが、これまでの議論の結果を日弁連の立場から振り返るため、パンフレット五訂版全文をご紹介したいと思います。
 なお、日弁連ホームページには、「日弁連は共謀罪に反対します」という特設コーナーが設けられており、上記の意見書やパンフレットの他、共謀罪に関する法務省や外務省の見解に対する反論を含め、日弁連が公表した意見書、声明等が網羅されており、大いに参考になると思います。
 
パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)(PDFファイル4ページ)
(引用開始)
共謀罪とはなにか?
 共謀罪とは、具体的な犯罪について、2人以上の者が話し合って合意することだけで処罰することができる犯罪のことです。
 政府がこれまで提案していた共謀罪法案は、長期4年以上の懲役・禁固等を定める600を超える罪を対象とする広範なものです。
 
共謀罪の骨子】
① 長期4年以上の刑を定める犯罪について(合計で600以上)
② 団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの(組織犯罪集団の関与までは求められていない)
③ 遂行を共謀(合意)した者は
④ 原則として懲役2年以下の刑に処される。
⑤ 死刑、無期、長期10年以上の処罰が科せられた犯罪の共謀については懲役5年以下の刑に処される。
⑥ 犯罪の実行の着手より前に自首したときは、刑を減免される。
 
法案は条約締結に必要な範囲を越えています
 日本政府は、すでに締結した国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約が「重大な犯罪」について共謀罪を設けることなどを求めていることから、この条約を批准するために必要だとして、共謀罪法案を国会に提出しようとしていると報道されています。
 この条約は、もともとマフィアなど経済的利益を目的とする組織犯罪を対象にしていましたが、2001年の9・11のテロ事件を契機に、テロ対策のために利用しようという動きが出てきました。
 2020年の東京オリンピックパラリンピック開催に向けて、政府は、テロ対策として共謀罪制定が必要であると説明することが予想されます。しかし、この条約の本来の目的は、国際的な組織犯罪の防止ですから、テロ対策とは直接関係ありません。
 しかも、政府がこれまで提案してきた共謀罪の規定は、国際的な組織犯罪やテロ行為の共謀だけを対象とするのではなく、600を超える重大とはいえないものを含む犯罪を合意の段階で処罰しようとするものであり、市民の自由な生活を大きく脅かすおそれがあります。
(注)国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約:国連越境組織犯罪防止条約またはパレルモ条約とも呼ばれています。日弁連は、この条約が国境を越える組織犯罪への対処を求める条約であることから、「越境組織犯罪防止条約」と訳してきました。この条約はイタリアのパレルモで署名されたことから「パレルモ条約」と呼ばれることもあります。
 
既遂行為を処罰するのが日本国内の基本原則であり、それ以前の行為を処罰するのは例外
 犯罪は、人の内心で生まれ、共犯の場合は共犯者との合意を経て、準備され(「予備」段階)、実行に着手され(「未遂」段階)、そして、実行されて結果が生じます(「既遂」段階)。
 我が国の刑法は、「既遂」処罰を原則としています。法律で保護された利益(法益)を現実に侵害して、結果が発生した場合に処罰することとしているわけです。
 「未遂」は、特に法律で定められた場合に処罰されるのであり、例外的なものといえます。このように未遂を例外扱いし、刑罰の減軽を認めていることから、「罪を犯そうとす
る危険な意思」を処罰するのではなく、「法益侵害の危険性を発生させたこと」を処罰すると考えられています。
 「予備」の処罰は、未遂よりも更に例外的で、殺人・強盗・放火などの重大な犯罪に限って規定されています。現在、「予備」の一種である「共謀」の処罰は、いわば「危険な意思」の処罰といえますが、このような処罰の対象となっているのは、内乱の陰謀罪・私戦陰謀罪など極めて特別な場合に限られています。
 
一挙に600を超える共謀罪を新設するのは我が国の刑法の基本原則を否定
 このように我が国の国内法の基本原則は、「既遂」の処罰を原則とし、「未遂」は例外的、「予備」は更に例外的、「共謀」に至っては極めて特別な重大な法益侵害に関するものに限って処罰するというものです。
 しかし、共謀罪法案で一挙に新設して処罰しようとしている犯罪の数は600を超えています。この中には、窃盗罪の中の万引きや詐欺罪の中の釣り銭詐欺やキセル乗車などのように犯罪の態様としては決して重大とは言えないような犯罪も含まれます。建造物損壊罪のように、未遂も予備も処罰されていないのに、共謀罪だけが新設される犯罪もあるのです。
 これは、「未遂」「予備」「共謀」を例外とする我が国の刑法の原則に合致しません。国際的な組織犯罪の防止のために「重大な犯罪」について共謀罪を設けるという条約締結の目的からみても広すぎるでしょう。
 また、共謀罪の規定には別の弊害もあります。そもそも、人と人とが犯罪を遂行する合意をしたかどうか、合意の内容が犯罪にあたるかどうかの判断はたいへん難しいといえます。人と人との合意の有無は、その場にいない第三者から見て、すぐに分かるものではないからです。
 このように第三者から見て分かりにくい段階から処罰することにすると、捜査機関の判断によって恣意的な検挙が行われたり、日常的に市民のプライバシーに立ち入って監視するような捜査がなされるようになるかもしれません。これでは市民の人権に及ぼす弊害が余りにも大きいと考えられます。

(注)日本では、犯罪の法定刑の幅が非常に広いので、それほど重大ではない犯罪でも長期4年以上の懲役・禁固刑の犯罪として共謀罪の対象となってしまうのです。
 
市民運動団体や労働組合、会社などの団体の活動も処罰が可能に
 過去に国会に提出され、3度廃案となった政府の共謀罪法案では、「団体の活動」の共謀の処罰が可能でした。
 団体には、市民運動団体や労働組合、会社組織なども含まれます。例えば、労働団体が、ストライキをして、その際に工場のロックアウトを計画したりすれば、逮捕監禁罪の共謀罪が成立し得ることになります。
 そうすると、捜査機関が、市民運動団体や労働組合などについて、共謀罪の容疑があるとしてその構成員を検挙するなど、恣意的に運用される事態も予想されます。
 
共謀罪のために室内盗聴、潜入捜査等の新たな捜査手法が導入される可能性も
 共謀罪は、人と人とのコミュニケーションそのものが犯罪行為となるので、共謀罪を検挙し、立証するためには、通信傍受(盗聴)が有効と考えられることも予想されます。
 また、通信傍受に限らず、共謀罪を検挙・立証するために、会話傍受(室内盗聴)が導入されたり、警察官が組織の中に入って情報収集する潜入捜査などが導入されるおそれもあります。
 さらに、政府がこれまで提出していた共謀罪法案には、自首すれば自首した者の刑を減軽または免除する規定があり、警察の捜査の在り方が根本から変わる可能性もあります。
 
共謀罪法案がなくても条約は批准できます
 国境を越えた組織犯罪への対応は必要であり、本条約は早期に批准されるべきでしょう。先進国では、日本と大韓民国だけが批准していないのも事実です。
 この点、政府は、共謀罪法案を成立させなければ本条約を批准できないと説明してきましたが、そのようなことはありません。
 日弁連が調査した限りでは、この条約を批准した各国とも、その国の法制度で既に条約を満たしているとするか、多少の法整備をするなどして批准している国がほとんどです。つまり、各国の国内法の原則に合わせた立法がなされればよく、それは日本でも同じです。
 さらに、この条約については、共謀罪を制定することなく、条約の一部について留保をしたり、解釈宣言(自国による条約の解釈を示す一方的な宣言)をするなどの柔軟な対応によって、批准が可能であると考えられ、現にそのようにしている国もあります。
 日本には、すでに、重大な法益を侵害する犯罪などに、例外的に、陰謀罪が8、共謀罪が15、予備罪が40、準備罪が9存在しており、判例上も一定の要件を満たした場合に共謀共同正犯として犯罪に共謀した者を処罰することも認められています。それだけでなく、我が国においては、テロ関連条約のうち 「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約」を除く全てを批准しており、条約上の行為を国内法で犯罪と規定しており、そこでも未遂以前の段階から処罰できる体制が整っています。例えば、アメリカ合衆国では適法に銃を所持することが可能ですが、我が国では、銃砲刀剣類所持等取締法により、銃砲や刀剣の所持自体が厳しく規制されています。これらにより、実質的には、組織犯罪集団による重大な犯罪については、未遂以前に処罰することができ、条約の批准は十分に可能となっています。
 さらに600を超える共謀罪を新設する必要はないのです。
 
共謀罪法案の制定に反対します
 特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法)には、共謀罪法案を先取りする形で、既に3種類の共謀罪が規定されてしまいました。そして、2015年の通常国会以降、共謀罪法案がいつ国会に上程されてもおかしくない情勢にあります。
 日弁連は、共謀罪法案は、我が国の国内法の基本原則に反するものであり、捜査機関による恣意的な運用により、私たち市民の人権が脅かされるおそれがあると考えて、一貫して反対してきました。この条約の批准は必要ですが、600を越える共謀罪を新設する共謀罪法案が国会で可決されることがあってはなりません。
 市民の皆さんと一緒に、問題点の多い共謀罪法案の国会への制定には強く反対していきたいと思います。
 
共謀罪法案提出の経緯】
2002年 法制審議会で検討
2003年  3月 第156回通常国会に法案提出(廃案)
2004年  2月 第159回通常国会に法案再提出(継続)
2005年  8月 衆議院解散に伴い廃案
2005年10月 第163回特別国会に法案提出(継続)
2009年  7月 衆議院解散により廃案
 
日弁連の意見については、次の各意見書をご覧ください。
共謀罪新設に関する意見書(2006年(平成18年)9月14日)
 
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/060914.pdf
共謀罪の創設に反対する意見書(2012年(平成24年)4月13日)
 
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2012/opinion_120413_4.pdf
 
発行年月 2015年9月 (五訂版)
編集・発行者 日本弁護士連合会
〒100-0013 東京都千代田区霞が関1-1-3
TEL. 03-3580-9841(代表)
http://www.nichibenren.or.jp/
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む