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和歌山弁護士会「いわゆる「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める会長声明」(2017年2月27日)と和歌山でのカジノ誘致の動き

 今晩(2017年2月27日)配信した「メルマガ金原No.2736」を配信します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
和歌山弁護士会「いわゆる「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める会長声明」(2017年2月27日)と和歌山でのカジノ誘致の動き

 本日(2017年2月27日)、和歌山弁護士会は、「いわゆる「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める会長声明」を発表し、関係機関に執行しました。
 既に2月14日の常議員会で承認されたという話は聞いていましたが、執行の準備のために公表が遅くなったものです。2月15日に和歌山市が発表した外国人専用カジノ誘致の方針について会長声明が言及していないのはそのためです。
 この会長声明を読んでいただく前に、カジノ解禁推進法(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律)の問題点を指摘したり、和歌山県和歌山市のカジノ誘致方針についての説明を読んでいただこうかとも思ったのですが、私の癖で、つい前置きが長くなり過ぎる恐れが十分にあるため、まず先に和歌山弁護士会「会長声明」を読んでいただこうと思います。

(引用開始)
  いわゆる「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める会長声明
 
 平成28年12月15日、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)が成立した。同法は、カジノを含む統合型リゾート(IR)の設置を推進することが観光及び地域経済の振興に寄与するとの理解をもとに、一定の条件の下でカジノを合法化するものである。
 しかしながら、法案審議の段階から当会が指摘しているとおり、同法には多くの問題点がある。これらをあらためて確認すると、次のとおりである。
 
1 ギャンブル依存症の拡大、多重債務問題及び青少年への悪影響
 我が国ではもともとギャンブル依存者の割合が高く(2013年の厚生労働省調査によれば、成人男性で約8.8%、同女性で約1.8%)、カジノの解禁はこれに拍車をかけるとともに、多重債務の新たな要因となる可能性がある。また、同法の施行によって、観光地にカジノが存在することとなると、ギャンブルに対する青少年の抵抗感が薄れ、健全な育成を阻害するおそれがある。
2 暴力団の関与及びマネー・ロンダリングの問題
 暴力団が新たな資金源としてカジノへの関与を企図することは、容易に想定されるところである。また、カジノがマネー・ロンダリングの道具として利用されるおそれも否定できない。
 
 このような懸念を払拭することなく、わずか2週間(衆議院委員会ではわずか6時間)という短い審議時間で成立した同法には、内容・審議のあり方の両面で問題があるといわざるを得ない。
 また、各紙報道によれば、和歌山県は、カジノを含むIRを積極的に誘致する姿勢を示している。しかし、建設候補地とされる和歌山市の市民に対し同市が実施したアンケート調査(平成29年1月実施、対象者571名、回答率約76%)によれば、「和歌山市にIRを誘致することになればどう思うか」との質問に対して、「反対」「どちらかといえば反対」は合わせて47.8%となっており、「賛成」「どちらかといえば賛成」の41.6%を上回った(なお、同市が昨年おこなったアンケート結果からは、反対意見は2.9ポイント増加し、賛成意見は2.7ポイント減少した)。
 建設候補地の自治体の住民がこのような意思を示したことは、カジノ設置に対する国民の不安のあらわれであるといえる。
 よって、当会は、「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める。
 
  2017年(平成29年)2月27日
                        和歌山弁護士会         
                          会長 藤 井 幹 雄

(引用終わり)
 
 なお、付言すると、和歌山弁護士会は、2014年10月10日にも、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明」を発出していました。
 
 そこで、カジノ解禁推進法です。
 2016年12月15日の衆議院本会議で可決・成立し(参議院で一部修正があったため)、同月26日に公布(及び一部を除いて即日施行)された「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」を、推進派は「IR推進法」と呼び、反対派は概ね「カジノ解禁法」あるいは「カジノ解禁推進法」と略称するようです。
 とりあえず、総務省の法令データベースに掲載された条文にリンクしておきます。ただし、普通に法令名だけでGoogle検索しても、なかなかこの法律自体がヒットせず、法令名の後ろに(平成二十八年十二月二十六日法律第百十五号)をつけて検索したところ、ようやく以下のサイトにたどり着きました。
 
 
 そんなに長いものではありませんので、とにかく目を通されることをお勧めします。
 法律家の目から見ると、この法律の異様な点は数々ありますが、特に第4条の規定に注目してください。
 
(国の責務)
第四条 国は、前条の基本理念にのっとり、特定複合観光施設区域の整備を推進する責務を有する。
 
 「国」が、「整備を推進する責務を有する」とされる「特定複合観光施設区域」とは何かは第2条に書かれています。
 
(定義)
第二条 この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設(別に法律で定めるところにより第十一条のカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る。以下同じ。)及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業者が設置及び運営をするものをいう。
2 この法律において「特定複合観光施設区域」とは、特定複合観光施設を設置することができる区域として、別に法律で定めるところにより地方公共団体の申請に基づき国の認定を受けた区域をいう。
 
 つまり、民間事業者が設置及び運営するカジノ施設を中核とする特定複合観光施設として、地方公共団体の申請に基づいて国が認定した区域の「整備を推進する責務」が国に有るとまで規定しているのです。そして、法整備等だけではなく、「整備を推進する」ために予算措置が必要となれば、当然国費を投入することが予定されているのですよね。ということは、民間事業者の設置・運営するカジノが収益を上げるために、認定区域の整備に国費を投入することも国の責務だと言っているのですよ。知ってました?
 
 パチンコ、パチスロは別として、これまで法律で例外的に許容されてきた賭博行為は、「公営ギャンブル」と称されるとおり、その施行主体は「都道府県」「一定の市町村」に限られていました(例外は日本中央競馬会)。
 以下、その根拠条文を示しておきます。
 
競馬法(昭和二十三年七月十三日法律第百五十八号) ※競馬
(競馬の施行)
第一条の二 日本中央競馬会又は都道府県は、この法律により、競馬を行うことができる。
2 次の各号のいずれかに該当する市町村(特別区を含む。以下同じ。)で、その財政上の特別の必要を考慮して総務大臣農林水産大臣と協議して指定するもの(以下「指定市町村」という。)は、その指定のあつた日から、その特別の必要がやむ時期としてその指定に付した期限が到来する日までの間に限り、この法律により、競馬を行うことができる。
一 著しく災害を受けた市町村
二 その区域内に地方競馬場が存在する市町村
3~6 略
 
自転車競技法(昭和二十三年八月一日法律第二百九号) ※競輪
(競輪の施行)
第一条 都道府県及び人口、財政等を勘案して総務大臣が指定する市町村(以下「指定市町村」という。)は、自転車その他の機械の改良及び輸出の振興、機械工業の合理化並びに体育事業その他の公益の増進を目的とする事業の振興に寄与するとともに、地方財政の健全化を図るため、この法律により、自転車競走を行うことができる。
2~5 略
 
小型自動車競走法(昭和二十五年五月二十七日法律第二百八号) ※オートレース
小型自動車競走の施行)
第三条 都道府県並びに京都市大阪市横浜市、神戸市、名古屋市、都のすべての特別区の組織する組合及びその区域内に小型自動車競走場が存在する市町村(以下「小型自動車競走施行者」という。)は、その議会の議決を経て、この法律により、小型自動車競走を行うことができる。
2 略
 
モーターボート競走法(昭和二十六年六月十八日法律第二百四十二号) ※競艇
(競走の施行)
第二条 都道府県及び人口、財政等を考慮して総務大臣が指定する市町村(以下「施行者」という。)は、その議会の議決を経て、この法律の規定により、モーターボート競走(以下「競走」という。)を行うことができる。
2~5 略
 
 ここで刑法の賭博罪を思い出しておきましょう。この罰則規定は、今でもれっきとした効力を有しており、実際に検挙もされているのですよ。
 
刑法(明治四十年四月二十四日法律第四十五号)
  
第二十三章 賭博及び富くじに関する罪
(賭博)
第百八十五条 賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
(常習賭博及び賭博場開張等図利)
第百八十六条 常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。
2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
富くじ発売等)
第百八十七条 略
 
 カジノを例にあげれば、カジノ解禁推進法がないと仮定すると、カジノへ行ってルーレットやバカラに金(チップ)を賭けた客は単純賭博罪(刑法185条)、カジノの経営者やその従業員は賭博場開張等図利罪(とばくじょうかいちょうとうとりざい)ということになるはずです(同法186条2項)。
 それを一定の要件の下に合法化し(ここで「利権」が発生します)、その整備を国の責務とする根拠は一体何でしょうか?
 法律には、「特定複合観光施設区域の整備の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものである」(カジノ解禁推進法1条)とされていますが、それを本気で信じる人がいるのでしょうかね。
 なお、このうちの「財政の改善」が、一体どの組織の「財政の改善」に役立つというのか?立地自治体なのか、それとも国なのか、この条文を読んだだけでは不明です。いかに議員立法とはいえ、いい加減なものです。
 この法律の第2章第3節には、以下のような規定がありますので、「国及び地方公共団体」の「財政の改善」に役立つということなのでしょうが、一言「嘘でしょう」と申し上げておきます。
 仮にある程度の収入が国や地方公共団体にもたらされたとしても、それは、賭博場開帳者(カジノを設置運営する民間事業者)から、賭博(メイン収入はこれでしょう)利用者からの上がりの一部を納付させたり(後記12条)、利用者から定額の入場料を徴収したり(13条)することによって得られるものであって、実態は、国や地方公共団体が、民間事業者が運営する賭博からのおこぼれをにあずかるということに他なりません。
 私は、そんなことは金輪際いやですけどね。
 
特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(平成二十八年十二月二十六日法律第百十五号)
(納付金)
第十二条 国及び地方公共団体は、別に法律で定めるところにより、カジノ施設の設置及び運営をする者から納付金を徴収することができるものとする。
(入場料)
十三条 国及び地方公共団体は、別に法律で定めるところにより、カジノ施設の入場者から入場料を徴収することができるものとする。 
 
 いずれにせよ、カジノ解禁推進法は、先にご紹介した第4条(国は、前条の基本理念にのっとり、特定複合観光施設区域の整備を推進する責務を有する。)に続き、第5条で以下のように規定し、今後のカジノ推進のスケジュールを指示しています。
 
(法制上の措置等)
第五条 政府は、次章の規定に基づき、特定複合観光施設区域の整備の推進を行うものとし、このために必要な措置を講ずるものとする。この場合において、必要となる法制上の措置については、この法律の施行後一年以内を目途として講じなければならない。
 
 つまり、同法第二章(特定複合観光施設区域の整備の推進に関し基本となる事項)に基づき、具体的なカジノ推進に必要な法整備を、2017年12月中(施行後1年以内)をめどとして行うこととされているのですが、逆に言えば、この法整備がなされない限り、カジノ解禁推進法だけでは、カジノは開業できないのです。
 日本にカジノは要らないと考える人は、まず当面、この特定複合観光施設区域整備法案(というような名称になるでしょう)の成立を何としても阻止しなければなりませんし、来たるべき衆議院議員総選挙における重要争点に位置付けることも必須でしょう。
 
 以上は、国の施策についての対応ですが、個々の地方では、カジノ誘致の方針を打ち出した自治体における反対運動に力を入れなければなりません(カジノ解禁推進法第2条2項参照)。
 ということで、私の地元の和歌山です。
 和歌山県が、かねてからカジノ推進の方針を掲げていることは、先頃のメルマガ(ブログ)でご紹介したとおりです(カジノ推進法案をめぐる和歌山の現状と読売新聞による徹底批判/2016年12月8日)。
 以下に、平成28年5月に和歌山県「特定複合観光施設区域への地方の選定を政府要望」した「具体的な措置」を再掲します。

(引用開始)
1 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法制度の早期整備を図ること
2 地方創生を実現するため、特定複合観光施設区域に「地方」を選定するよう明文化すること
3 和歌山県を特定複合観光施設区域に選定すること
(引用終わり)
 
 そして、態度未定であった和歌山市も、複数の市民団体からの強い反対の申し入れにもかかわらず、以下のように誘致の方針を明らかにしました。
 
2月15日 市長記者会見(平成 29 年 2 月 15 日(水)14 時 30 分~)
市長発表事項 【統合型リゾート(IR)の誘致について~カジノ施設を外国人専用としたハイクラスの「和歌山型 IR」の実現に向けた取組を進めます~】

(引用開始)
 
皆さんこんにちは。明日定例会見の予定だったのですが、今日急きょ会見させていただきます。和歌山市では統合型リゾートについてこれまで検討してきました。いろんな観点から検討を進めてきましたが、カジノについては外国人専用とするハイクラスな和歌山型のIRというのをこれから誘致を目指して取り組んでいきたいというふうに思っています。資料にも書かせていただいていますが、和歌山市は非常にきれいな海岸線、また国立公園等もあります。そうした海岸線だとかマリンスポーツ、海洋レジャー、海洋型のリゾート地でもありますし、また和歌山城を始めとする歴史・文化にもあふれています。そうした和歌山ならではの個性を活かしたようなIR、和歌山型IRの誘致を進めていきたいと思っています。
 次のページ見ていただいたらと思います。和歌山市は、もちろんですけども関西国際空港に非常に近接しています。この関空に近接するという利点を活かして、紀伊半島にはいろんな観光資源があります。そこにも書いていますけど、パンダまた高野山那智の滝また奈良。非常に紀伊半島には観光資源が豊かですので、そうした紀伊半島の観光資源を活かした国際競争力の高い拠点となるような和歌山型のIRを進めていきたいと思っています。
 それでそこに3点目ということで書いていますが、もちろんホテル、国際会議場、コンベンション、レジャー施設など、さまざまな施設を誘致していきたいと思っています。子どもから大人まで楽しめるような楽しいIR、統合型リゾートというのを進めます。ただし、カジノ施設については日本人の入場を制限して外国人専用とするような形で誘致を進めていきたいと思っています。今後については和歌山型のIRの実現を目指して、県とも連携協力してIRを活用したような全体の観光振興ビジョンというのを検討していって、誘致に向けた取り組みというのを進めていきたいというふうに考えています。発表は以上でございます。よろしくお願いします。
(引用終わり)
 
 上記の尾花正啓(おばな・まさひろ)和歌山市長の会見で言及されている「資料」というのは多分これでしょう。
 「資料」といっても、要するに和歌山県下の観光地の写真をコラージュしただけのもので(東大寺大仏の写真もありますが)、これでどうして「外国人専用カジノ」が必要なのか、わけがわかりません。
 担当部局も本当は「やりたくない」のかもしれない、などと想像してしまう「資料」です。
 
 先ほども書きましたが、来たるべき衆議院議員総選挙では、カジノ解禁推進法成立の旗を振った議員を必ず落選させることを目標に(和歌山でも全国でも)頑張らねばと思います。