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司法に安保法制の違憲を訴える意義(11)~東京・国家賠償請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告代理人による陳述

 今晩(2017年3月15日)配信した「メルマガ金原No.2752」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
司法に安保法制の違憲を訴える意義(11)~東京・国家賠償請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告代理人による陳述
 
東京地方裁判所(民事第一部) 
平成28年(ワ)第13525号 安保法制違憲・国家賠償請求事件
原告 堀尾輝久、辻仁美、菱山南帆子ほか454名
被告 国
 
(第2次提訴)
平成28年(ワ)第39438号 安保法制違憲・国家賠償請求事件(第2次)
原告 池田香代子ほか860名
被告 国
 
 昨年4月26日、東京地方裁判所に提訴された2件の安保法制違憲訴訟のうち、国家賠償請求訴訟について、同年9月2日、12月2日に続く第3回口頭弁論が、去る2017年3月3日(金)午前10時30分から、東京地裁103号法廷で開かれました。
 原告訴訟代理人3名による陳述(原告「準備書面(4)」~同「(6)」の概要をそれぞれ説明するもの)の他に、3名の原告による意見陳述が行われました。
 今日は、そのうち、原告代理人3名による陳述をご紹介します。
 伊藤真弁護士が「立法不法行為と新安保法制法制定過程の違法性」について(原告「準備書面(4)」)、橋本佳子弁護士が「憲法改正・決定権の侵害」について(原告「準備書面(5)」)、杉浦ひとみ弁護士が「被害論(2)」(原告「準備書面(6)」)について論じています。
 特に、前二者で論じられたところは、この安保法制違憲訴訟(国賠訴訟)の中核をなす論拠であり、法律家ならざる一般市民の方が、いきなり準備書面を読んでも理解が困難かもしれませんので、まず、以下の陳述書原稿をお読みいただき、報告集会での発言を視聴していただくことをお勧めします。
 いつものように、三輪祐児さん(UPLAN)撮影による記者会見と報告集会の動画がアップされています。
 
20170303 UPLAN【前集会・記者会見・報告集会】安保法制違憲訴訟国賠第3回期日(2時間23分)

冒頭~ 入廷前集会(東京地裁正門前)
21分~ 裁判終了後の記者会見
50分~ 報告集会(司会 杉浦ひとみ弁護士)
 51分~ あいさつ 寺井一弘弁護士
 1時間03分~ 伊藤 真弁護士
 1時間25分~ 橋本佳子弁護士
 1時間35分~ 杉浦ひとみ弁護士
 1時間38分~ 原告・田島 諦(たじま・たい)さん(作家)
 1時間44分~ 原告・飯田能生(いいだ・よしき)さん(元NHKチーフプロデューサー)
 1時間51分~ 原告・岡本達思(おかもと・たつし)さん(パレスチナ難民里親支援)
1時間57分~ 全国弁護団交流会・国家賠償訴訟の現状について 福田 護弁護士
2時間14分~ 飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)
2時間19分~ 杉浦ひとみ弁護士
 
 以下に、報告集会資料に掲載された3人の代理人による陳述をそのまま転載しますが、一点お断りしたいことがあります。それは、報告会資料では、参考のために準備書面目次を掲載しているのは伊藤真弁護士だけだったのですが、残るお2人についても、説明された準備書面の目次を掲載した方が理解がより深まると判断し、私の責任で追加させていただきました。
 
 最後に、報告集会での福田護弁護士からの報告で分かったことを2点追加します。
 1点目は、当初の第1次提訴(平成28年(ワ)第13525号)に、第2次提訴(平成28年(ワ)第39438号)が併合されたということ、そして2点目は、国が「準備書面(1)」を出してきたけれど、あいかわらず、原告による新安保法制法の違憲性についての主張、集団的自衛権の行使の違憲性についての主張、新安保法制法の制定過程において立憲主義が否定され、国民の憲法改正決定権が侵害されているという主張、そして後方支援活動・協力支援活動の違憲性についての主張のいずれについても、「事実の主張ではなく、争点とも関連しないので、認否の要を認めない」としていた答弁書での立場を変えず、「具体的権利性の不存在」「権利侵害の不存在」について強調しているということでした。
 私も、この被告「準備書面(1)」をざっと読みしました。全部で39頁ある準備書面のうち、「第1 いわゆる平和安全法制の概要」に17頁を費やしているものの、制定過程を国の立場から淡々と叙述したもので、わざわざ準備書面で書く必要もないようなものでした。
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 伊 藤  真
「立法不法行為と新安保法制法制定過程の違法性」について
※参照 原告「準備書面(4)」
 
準備書面目次(参考)
第1 新安保法制法の制定行為の違法性
1 昭和60年判決及び平成17年判決による判断枠組み
(1) 総論・昭和60年在宅投票制度廃止違憲訴訟上告審判決
(2) 平成17年在外邦人選挙権制限違憲訴訟上告審判決の論理
(3) 平成17年判決と昭和60年判決との関係について
(4) ハンセン病訴訟熊本地裁判決の考慮要素について
(5) 本件は国家賠償が認められるべき例外的な場合であること
(6) 立法不作為と立法行為(作為)の違法性の評価基準の違い
2 人権規範以外の憲法規範に違反する立法の制定行為の違法性
(1) 平成17年判決の射程
(2) 立法行為の違法性を判断する枠組み
(3) 平成27年判決の判断枠組み
(4) 新安保法制法制定の場合
3 改めて昭和60年判決の判断枠組みの意味
(1) 職務行為基準説の意味
(2) 新安保法制法の場合
4 憲法適合性の判断順序について
(1) 法規の憲法適合性を先に判断すべきこと
(2) 平成27年夫婦同姓規定合憲判決
(3) 平成27年再婚禁止期間違憲判決
(4) 原告の損害との関係
(5) 裁判所の職責
第2 憲法9条に関する憲法解釈の変遷の歴史的・具体的事実
1 クーデターともいえる憲法違反の閣議決定と新安保法制法の国会成立
2 憲法9条の解釈の変遷の歴史的・具体的事実
(1) 憲法制定時
(2) 朝鮮戦争サンフランシスコ平和条約
(3) 自衛隊創設から安保条約改訂
(4) ベトナム戦争と72年政府見解
(5) 78年ガイドライン
(6) 湾岸戦争
(7) 97年ガイドライン
(8) テロとの戦い
(9) 改憲論議と国民運動
(10) イラク戦争イラク特措法
(11) 2005年「日米同盟:未来のための変革と再編」
(12) 第2次安倍政権
3 クーデターと評される憲法破壊行為
第3 明白に違憲違法な憲法破壊の国会審議
1 国会審議の異常性、違法性
2 新聞記事
3 憲法審査会における憲法学者の指摘
4 6月4日以降の国会審議と世論
5 不十分な国会審議
(1) 衆議院における審議
(2) 国民運動
(3) 参議院における審議
(4) 参議院審議中の国民運動
(5) 山口繁元最高裁長官の発言
(6) 立法事実がないことが明らかになる
6 強行採決に至る経緯
(1) 野党の結束
(2) 国民運動
(3) 参考人質疑
(4) 公聴会と市民の声
(5) 採決強行前夜
(6) 世論調査
(7) いよいよ採決強行
(8) 本会議による「成立」
7 その後
8 結語
第4 新安保法制法による重大な権利侵害
1 はじめに
2 平和的生存権・人格権に対する侵害の明白性
(1) 集団的自衛権の行使による侵害
(2)「戦闘地域」での後方支援による侵害
(3) 国連平和維持活動(PKO)による侵害
(4) 結語
3 国会審議と新聞記事
(1) 国会審議の不十分さ
(2) 国会審議
(3) 新聞記事
(4) 結語
 
 本準備書面においては、国務大臣国会議員の新安保法制法制定過程における行動(閣議決定、法案提出、立法行為等)が国家賠償法上の違法性を満たしていることを主に論じる。まず第1に、違憲の内容の法律を立法する行為が、国家賠償法上の違法性を満たすための判断枠組みを論じ、第2に、これまでの憲法9条をめぐる政府の憲法解釈の変遷の事実を踏まえて、憲法9条の規範が形成されてきた経緯を概観しながら、新安保法制法の違憲性を明らかにする。
 なお、この新安保法制法の違憲性に関しては、理論面からの主張を別途準備書面で主張する。
 第3においては、新安保法制法の制定過程自体が、国務大臣国会議員の行動としての行為規範ないし職務義務に違反し違法であることを論じる。そして、第4において、新安保法制法が、原告らの権利、主に平和的生存権、人格権を明白に侵害するものであることを論じる。以上を通じて、新安保法制法制定行為の国家賠償法上の違法性を主張することとする。

1 立法不法行為の判断枠組み
 この点について、在宅投票制度に関する訴訟の最高裁判決(以下、「昭和60年判決」という。)は、「国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合」には、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けることを認めている。
 この判決を受けて、いわゆる在外邦人選挙権制限違憲訴訟上告審判決(以下、「平成17年判決」という。)において、最高裁は、「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合」に国家賠償法上の違法性が認められることを明らかにした。この判断枠組みは、その後、再婚禁止期間に関する最高裁大法廷平成27年12月16日判決(以下では「平成27年判決」という。)においても援用され、「法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず」という判断枠組みとして踏襲されている。
 これらの「憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合」とか「憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白」という表現は、昭和60年判決がいうところの「立法の内容が憲法の一義的な文言に違反している」場合の例示であり、立法内容が、憲法の人権規範に違反するときの判断枠組みとしてこのような表現になっているものと考えられる。また、仮に立法内容が人権規範以外の憲法規範に違反するときには、「憲法の規定に違反するものであることが明白な場合」という判断枠組みによって判断することが可能と考える。
 なぜなら、立法内容が、憲法13条のような人権規範に違反するときであろうが、憲法9条のように人権規範以外の憲法規範に違反するときであろうが、憲法規範に違反することが明白な内容の立法行為が許されるはずもなく、いずれも昭和60年判決がいうところの「立法の内容が憲法の一義的な文言に違反している」場合にあたるといえるからである。こうした立法行為によって、原告の「権利又は法律上保護される利益」(民法709条)が侵害されたのならば国家賠償法上の違法性が認められ、これによって生じた損害は、国家賠償として認められなければならない。
 さらに、国務大臣は、重大な違憲の疑義が生じているような法案を国会に提出する閣議決定に同意してはならないし、国会議員は、当該法案に、重大な違憲の疑義が生じている場合には、そうした違憲の疑いを払拭するべく審議を重ね、少なくとも国民の多くが違憲の疑いを持たない程度には法案の修正などによって対応するべき職務義務があるといえる。国務大臣国会議員憲法尊重擁護義務を負っているからである。
 そして、審議を通じて、なぜそのような法律が必要なのか、その立法事実を丁寧に検討し、当該立法の必要性、相当性を十分に明らかにすることで、国会議員として国民の疑問に誠実に応えるべきという国会議員としての行為規範がある。
 
2 新安保法制法の制定過程の違法性
 今回の新安保法制法の制定過程はどうであろうか。準備書面(4)第2、第3で詳述するように、憲法尊重擁護義務を負う国会議員として、国民に誠実な態度で立法行為を行ったとはとてもいえないものであった。
 立法内容に関して、憲法9条2項の交戦権否認、戦力不保持規定という一義的文言によって、解釈上、集団的自衛権の行使は認められず、海外での武力行使は許されないとされてきたものに、違反することは明白である。
 そして、準備書面(4)第2で論じるとおり、これまで歴代政府は、アメリカからの強い要請があっても、一貫して、憲法上、集団的自衛権の行使は認められず、海外での武力行使は許されないとしてきた。これは確立された憲法規範といってよいものであり、新安保法制法の制定はそれに違反するものである。
 しかも、元最高裁長官をはじめとして歴代法制局長官、元裁判官、日弁連憲法学者などの法律関係者のほとんどが、これら内閣、国会の行為が違憲であり、立憲主義に反すると反対していた。そこでは第3で述べるように国民・市民から大きな反対の声が絶え間なく上がっていた。
 こうした状況であるにもかかわらず、国民が納得するような立法事実を提示しての十分な審議もなされず、米軍支援法という本質を持った新安保法制法を強引に成立させた行為は、明らかに国会議員として遵守すべき行為規範に違反し、国会議員として負う職務義務違反であるといわざるをえない。これらは、内閣構成員である国務大臣の国会答弁などの行為にも該当する。
  新安保法制法の立法行為は、国家賠償法上、違法の評価を免れることはできない。
 
3 憲法判断の順序と裁判所の職責について
 平成27年再婚禁止期間違憲判決では、まず民法733条1項の憲法適合性を判断した上で、当該立法不作為の国家賠償法上の違法性の有無についての判断枠組みを提示してあてはめをし、国家賠償法上の違法の評価を受けるものではないとして請求を棄却しており、原告の損害については一切検討していない。このように最高裁も法規の憲法適合性の判断を先行させている。
 本事案もこれと同様に、新安保法制法の違憲性について先行させて判断をするべき事案である。
 安全保障政策における判断の誤りは国民の生命、自由、財産に甚大な損害を与え、取り返しのつかない結果を招来することになる。だからこそ、憲法は、こうした国家の安全保障政策に対して、憲法9条、前文の平和的生存権などの規定によって、多数派による政治的決定に制限を加えたのである。
 安全保障政策に関する国民の意思は多様である。具体的な安全保障政策の実現や外交交渉の内容などは政治部門の判断に委ねられているとしても、内閣、国会が最低限遵守しなければならない大きな枠組みは憲法によって規定されている。政策の当不当の判断ではなく、こうした大きな枠組みを逸脱した立法か否かの判断こそは司法の役割である。
 本件訴訟は、新安保法制法の安全保障政策上の当否の判断を裁判所に求めているのではない。
 あくまでも、新安保法制法が、憲法が許容している枠組みを逸脱しているか否かの判断を求めているだけである。にもかかわらず、この問題を政治の場で解決するべき問題であるとして、政治部門にその判断をゆだねてしまい、裁判所が憲法判断を避けることは決して許されることではない。
 アメリカでは、2017年2月、トランプ大統領のイスラム7ヶ国市民の入国を一時禁止した大統領令に対して、ワシントン州などの連邦地方裁判所がその執行を停止する判断を下し、司法が人権、憲法、民主主義の擁護者としての職責を果たしている。もちろん、連邦制などの日米の制度の違いはあるものの、アメリカ憲法を範として導入された日本の違憲審査制においても、司法が権力分立を維持し、政治部門の目に余る暴走を止めるため、その権限を正当に行使しなければならない場面は存在するのである。
 今がそのときと考える。
 この違憲の法律に基づいて、現実に南スーダン自衛隊が派遣され、原告らへの権利侵害がより高まっているのみならず、自衛隊員の生命等の侵害の危険も極めて高いものとなっている。
 今後も、この法律を放置することによって、原告らの重要な人権が侵害され続けるのみならず、自衛官を含む、原告以外の国民・市民の被害も拡大を続けることになる。こうして憲法規範そのものが毀損された状態が続き、さらに事態は悪化し続けるのである。
 裁判所が、今回の新安保法制法の違憲性についての判断を避け、自らその存在意義を否定するようなことがあってはならない。
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 橋 本 佳 子
憲法改正・決定権の侵害について
※参照 原告「準備書面(5)」
 
準備書面目次(参考)
第1 はじめに .
第2 憲法改正・決定権の法的性質
1 主権者である国民(人民)が国政のあり方を決定する最終的権限を有している
2 国民の有する憲法制定権から派生する憲法改正についての最終決定権である
3 国家のあり方を決める国民の政治への参加権(参政権)という性質も有する
4 憲法改正・決定権の権利内容
5 憲法改正・決定権の具体的権利性
第3 国民に憲法改正・決定権が認められる法的根拠
1 憲法前文の規定(前文第1段)の存在
2 憲法改正の手続規定(96条)の存在
3 公務員の憲法尊重養護義務規定(99条)の存在
第4 憲法改正が許されるための要件
1 明文改正における正当性要件
(1)多数の国民が憲法改正について強い要求を有しているといえること
(2)国会(衆・参両議院)において、正当に選挙された代表者によって、多くの国民の要求・意見を取り入れた討議が慎重かつ十分になされた後に憲法改正の発議がなされたものであること
(3)憲法の基本原理を根底から破壊する条項等の改正でないこと
2 非明文改正(憲法解釈の変更)における手続的要件
(1)政府によって長年にわたって確立した憲法解釈の変更でないこと
(2)憲法解釈の変更に依拠した法案上程の正当性について国会において合理的な説明がなされること
第5 内閣(政府)及び国会の憲法破壊行為による原告らを含む国民の憲法改正・決定権の侵害
1 硬性憲法下における憲法改正手続の有する意味
2 憲法9条の従来の政府解釈が有する規範的意味内容
(1)憲法9条集団的自衛権の行使に関する政府解釈
(2)集団的自衛権の行使が認められないことは確立した憲法規範
(3)確立した憲法規範の変更は憲法改正手続を経ずに行うことはできない
3 憲法改正手続の潜脱による憲法破壊行為
(1)96条の憲法改正手続の潜脱の経過
(2)憲法違反が露わになった南スーダンへの自衛隊派遣
(3)十分な情報提供の必要性と政府の情報隠蔽
(4)立憲主義・法の支配の破壊
4 被告の「憲法の条文を改正するものではない」との反論は許されない
第6 憲法改正・決定権の侵害による原告ら国民各人の被害内容
1 憲法改正・決定権の侵害とこれによる被害
2 原告らの被害の具体的内容
3 憲法改正・決定権及びその侵害の具体性・個別性
第7 結論
 
1 憲法改正・決定権について原告らの主張
 原告らは、国民各人は、国民主権及び民主主義の担い手として、憲法を最終的に決定する権利として憲法改正・決定権を有する、と主張し、集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定及び新安保法制法の制定が、96条の憲法改正手続を経ることなく、解釈で、憲法9条を実質的に改変してしまったことにより、原告ら国民各人の憲法改正・決定権を侵害されたと主張しています。
 
2 憲法改正・決定権の法的性質と具体的権利性
 主権者である国民が国政のあり方を最終的権限を有しており、憲法制定権は国民にあります。
 憲法制定権は、改正手続を経て憲法を改正する最終的決定権を含むものであります。これが、国民の憲法改正・決定権です。すでに憲法改正手続法が制定され、96条の国民投票権について具体的に定められています。国民各自が96条の手続に従って最終的な意思決定をする権利である憲法改正・決定権は明らかに具体的権利として保障されております。
 重要な憲法改正問題が生起していない間は、「憲法改正・決定権」は潜在しているにすぎません。しかし、重要な憲法改正問題が浮上した場合、確立した憲法規範が変更されようとしている場合は、国民にとっては、「自分たちの国民投票なしに憲法改正が行われることがあってならない」という「憲法改正・決定権」が具体的問題として浮上します。
 
3 明文改憲だけでなく確立した憲法規範の改変にも憲法改正手続を要する
 明文改憲だけではなく、すでに解釈として確立した憲法規範の内容を変更することも憲法の改正です。長年にわたる政府解釈が有権解釈として定着し、現に機能している場合は、明確性と安定性を備えた不文の憲法規範になっており、憲法として行政府・立法府の権力行使を制約し、立憲主義を支えてきたのです。
 従って、内閣及び国会が、解釈で、確立している憲法規範を変更することは、96条に定める憲法改正手続によって個々の国民の最終的意思を確認する手続を潜脱するものであり、許されません。
 
4 憲法改正手続の潜脱による憲法破壊行為
 憲法9条に関しては、「憲法上、個別的自衛権は認められるが、集団的自衛権は認められない」との解釈が、長年にわたって内閣法制局や歴代内閣によって表明され、政府解釈として定着し、不文の憲法規範として確立していました。その解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認することは、憲法規範を変更し、国の有り方、憲法秩序の基本を変更することであり、96条の改正手続なしに行うことは許されません。
 ところが、政府は、この政府解釈を変更して集団的自衛権の行使及び自衛隊の海外出動を容認する閣議決定を行い、新安保法制法を成立・施行しました。こうして重要な憲法問題として浮上したのであるから、閣議決定の時点で、96条の憲法改正手続きなしに進めることはできないはずであり、原告ら国民各人の「憲法改正・決定権」が具体化していたのです。
 実際に、圧倒的多数の憲法学者、歴代法制局長官、元最高裁長官らが9条違反との意見を表明し、多くの国民の反対表明が国会前を中心に全国各地で繰り広げられる歴史上まれにみる状況にあったのです。にもかかわらず、96条の改正手続を潜脱して9条の実質的改変を行ったのであり、原告ら国民の憲法改正・決定権を侵害したのです。
 
5 憲法改正・決定権の侵害による原告ら国民各人の被害内容
 原告らは、「9条があるから日本の平和が守られている」と思い、自らが最も誇りとする平和を守り通さければならないと強く決意し、これまでの人生を送ってきました。そのため多くの原告らは、違憲閣議決定直後から、国会前集会や地域の集会やデモなど、あらゆる場面で反対の声をあげてきました。
 ところが、違憲の新安保法制法の強行採決によって、戦争のできる憲法に実質的に改変されてしまい、現に南スーダンには、隠蔽されていた日報で明らかとなった戦闘地域に自衛隊が派遣されているのです。しかも稲田防衛大臣憲法上問題になるから「衝突」という言葉を使ったと憲法違反を自白しております。
 こうして原告らは、96条の改正手続を通じて自ら意見表明する機会を一切与えられないまま、意に反する受忍状態を強いられることになったのです。これ程理不尽なことはありません。
 憲法改正に関わる個人としての価値を根底から否定され、怒り、絶望感、さらには悲愴感などにさいなまれるに至ったのであり、原告らの精神的苦痛は図り知れません。
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 杉 浦 ひとみ
「準備書面( 6) 被害論2」について
※参照 原告「準備書面(6)」
 
準備書面目次(参考)
第1 はじめに
第2 原告らの被害
1 70余年前のアジア・太平洋戦争により被害を受けた原告ら
(1)戦争により被害を受けた原告らに共通する被害
(2)それぞれの被害者の実情
2 障害児教育に35年関わってきた原告●●●●の場合
(1)被害の概要............................................................................................12
(2)原告●●●●の被害(原告番号381)(甲D381)
3 海外での活動に携わる者の被害
(1)海外でNPOや個人で、海外の支援活動などに携わる者
(2)それぞれの被害の実情
4 信念や生き方を害された原告
(1)信念や生き方を害された原告らに共通する被害
(2)それぞれの被害の実情
5 テロが発生する高い蓋然性を持った危険に恐怖を感じその平穏な生活と精神を脅かされる原告ら
(1)現に米軍基地や自衛隊基地の周辺に居住している原告
(2)それぞれの被害の実情
 
1 原告らは、新安保法制法の成立によって平和的生存権、人格権、憲法改正・決定権を侵害されたと訴えています。そもそもこの裁判は、あれほど多くの学者が憲法違反だといったこの新安保法制法が成立させられ、多くの市民国民は「裁判所は人権の砦」「司法は違憲立法審査権がある」ということを小学校の頃から信頼してこの国で暮らしてきました。裁判所がこのような事態を、形式的な理由で早期打ち切り、知らぬ存ぜぬは許されないだろうというのが、原告らの主張の根底に横たわるものです。
 原告らは、この新安保法制によってどんな被害を受けているのだろう、私たち代理人は真摯に原告らの声に耳を傾けました。第1 回、第2回口頭弁論で原告らが陳述し代理人が法的に主張してきたように、その被害は法制度成立当時には思いもよらない程の大きな被害を受けていることが分かってきました。裁判所にもその事実や心情が正確に伝わっていますでしょうか。
 代理人が準備書面の概略をこうやって陳述している重要な要旨はそこにあります。先回被害論1 に続いて、概略を申し述べます。
 
2 戦争被害を受けた中で今回は、長崎の原爆被害者が負っている被害を何人か記載しました。
 原爆投下直後、小学生の原告は弟に覆いかぶさって爆風から弟を守り、その手を引いて約束の防空壕に逃れ身を守りました。買い出しに出ていた若い母は日見トンネルをとおり乳飲み子を背負い必死で子どもたちの元に戻りましたが、トンネル内で見たその様子は生涯何も語りませんでした。1 歳半で被爆した原告は、通った小学校に「原爆学級」があり被爆した子どもたちは実験材料にされたことを子ども心に気づいていました。友人を白血病でも失いました。他の原告は皮膚のめくれた被害者の様子が湯剥きトマトのようだと、トマトを見ることを今も苦痛に感じています。また、赤ちゃんを抱いたまま黒焦げになっていた女性の死骸、馬が半分黒焦げ半分は形を残している様子など、その心の中には忘れることのできない映像が、今も生々しくあり、戦争や人を殺し合うというこの法制と分かちがたく結びついているのです。
 障がい児への教育に生涯をささげてきた女性は、障がいのある子どもたちにこそ、この社会の中での光を教えられているといいます。そんな障がいを持つ子たちが、人を殺し殺されることを許す社会では真っ先にその命を奪われること、そうであっていいという意識がすでに巻き起こっていることを、過去の歴史の事実に照らして感じ、心を痛めています。
ある宗教家の原告は、信仰による心の平穏は社会の平和と一致しなければ意味はないと気づき、50 歳にして牧師になった方でした。今の国の動きは、まさに彼の信仰的心情を引き割くものであり、人格そのものを打ちのめすものです。
 基地周辺の住民である原告は、今もその爆音や大きな機体、空母の存在の威圧感を知っていることから、基地が狙われ巻き込まれることの恐怖がどれほどのものかは、すでに現実的に感じており、恐怖を感じています。
 また、今回の準備書面では、先の戦争中に、国を挙げて戦うために、子どもたちがどれほどゆがんだ価値観を押しつけられ、考える自由も考える意欲も力も奪われた状態にあったか、まさに人格を形成ずる段階で大きな侵害を与えられた事実を語る者が複数いました。新安保法制法の成立により、まさにこの心の侵害が始まっているのであり、過去被害を受けた者はその頃の喪失感、絶望感を蘇らせているのです。
 
3 裁判所には、この安保法制法及びこの法ができたこの社会が、国民にすでに与えている人権侵害と、今後人権侵害が起きているかさえも自覚できないような暗黒の社会になることを防ぐために、司法権をになう立場であることを自覚していただきたいという思いが各原告の主張に込められていることまでを読み取っていただきたく、準備書面を咀嚼して陳述しました。
 

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2016年9月3日
東京・安保法制違憲訴訟(国賠請求)が始まりました(2016年9月2日)
※過去の安保法制違憲訴訟関連のブログ記事にリンクしています。
2016年9月6日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(1)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述
2016年9月10日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(2)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述
2016年10月4日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(3)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述
2016年10月5日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(4)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述
2016年12月9日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(5)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告代理人による意見陳述
2016年12月10日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(6)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告による意見陳述
2017年1月5日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(7)~寺井一弘弁護士(長崎国賠訴訟)と吉岡康祐弁護士(岡山国賠訴訟)の第1回口頭弁論における意見陳述
2017年1月7日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(8)~東京・差止請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告訴訟代理人による陳述
2017年1月8日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(9)~東京・差止請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告(田中煕巳さんと小倉志郎さん)による意見陳述
2017年2月14日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(10)~東京「女の会」訴訟(第1回口頭弁論)における原告・原告代理人による意見陳述