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「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」第6回・石川健治東京大学教授「天皇と主権 信仰と規範のあいだ」のご紹介

 今晩(2017年5月5日)配信した「メルマガ金原No.2803」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」第6回・石川健治東京大学教授「天皇と主権 信仰と規範のあいだ」のご紹介

 昨年(2016年)10月から始まった「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」も、去る4月28日(金)、予定されていた6回の講座の最終回を迎え、2015年11月に行われた「立憲デモクラシー講座・第Ⅰ期」の第1回も担当した石川健治東京大学教授が、「天皇と主権 信仰と規範のあいだ」と題して講演されました(主催:立憲デモクラシーの会、共催:安全保障関連法の廃止を求める早稲田大学有志の会)

 いつものように、三輪祐児さん(UPLAN)による動画がYouTubeで公開されています。
 
20170428 UPLAN 石川健治天皇と主権 信仰と規範のあいだ」(1時間50分)


 私は、この動画を視聴するに際し、さながら石川教授の講義を受講する学生になった気分で、同教授のホワイトボードへの板書まではさすがに手が回りませんでしたが、パワーポイントで映し出されるボード
の記載だけでも書き写そうと試みました。
 結局、講義の半分くらいまで来たところで、それも挫折したのですが、せっかく書き写した部分をボツにするのも勿体ないので、残しておきます。
 
石川健治教授のパワーポイント資料から抜粋引用開始)
0.天皇の「御生前の御退位」
※2016年8月8日の天皇メッセージを引用
 
日本国憲法における「天皇位の急変」
1)天皇機関説-機関的地位
 -最高機関→「国事行為」専門の象徴職
   美濃部達吉(国体論不要/政体論のみ)
   佐々木惣一(国体とは「統治権の総覧者」の所在)
 -「統治権の総覧者」(旧4条)→統治権ゼロ(現4条)
   佐々木「国体は変更する」
 Vgl.「国権の最高機関としての国会」の位置づけ
   東京学派~政治的美称説
   京都学派~「統括機関」「総合調整機関」      
 
「象徴としての行為」というカテゴリー
1)戦後版天皇機関説(「国事行為」のみを行う「国家機関」としての象徴職)との対比
 現1条(日本国と日本国民統合の象徴)
 =日本国憲法がノミネートする「国家象徴」
 国旗・国歌ではなく「人間象徴」
  →機関的地位とは区別された象徴的地位の発生
2)機関的地位に論理的に先行する象徴的地位
 「神」格にかわる「象徴」格=現人神の代替的地位
3)機関的地位との対比における「象徴性の過剰」(黒田覚)
 
4条比較
天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ」
天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
○2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。」
摂政比較
「第17条 摂政ヲ置クハ皇室典範ノ定ムル所ニ依ル 2 摂政天皇ノ名ニ於テ大権ヲ行フ」
「第5条 皇室典範 の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。」

4)「公職としての天皇」(新99条)と「象徴的地位」(新1条)の乖離
 -国事行為において、「国家意思の形成に関与する」「自然意志をもった人間」は、「一般的・常時的
ではなく」「法規範の定めに基づいて」「個別的・随時的に」国家機関とみなされる。
 -「象徴としての地位」は、「憲法によって天皇の存在そのものに一般的・恒常的に認められた公的地位」であり、「その機能を発揮するために特別の行為を必要とするものでないため」、一切の代行がきかない。その負担から解放されるのは、現行の皇室典範によれば、唯一の皇位継承原因である「崩御」の場
合に限られる。
5)人間宣言憲法
 宮沢俊義:われわれ、実証主義的な法学者としてはもともと、神聖とか神格化という表現は、たんなる
形容詞としか考えないですからね。
 清宮四郎:不審というか、矛盾を感じましたね。天皇は現人神だから天皇なのであって、天皇が人間に
なったらこれはもう天皇ではなくなるわけですから。
 「現人神だから天皇」→「象徴から機関」
 「国家象徴(Staatssymbol)」・・・国旗・国歌ではなく「人間象徴」

1.国体
・わが国の天皇は、国会における主体的普遍我の自己表現なり。国家を離れて天皇なく、天皇を離れて国家はない。故にわが国の統治権は、主体的普遍我たる天皇をその主体とする。ここにわが国家の独自性が厳存する(尾高朝雄「京城帝国大学予科・法制」講義ノート1935年?「筆記・李恒寧」)。

憲法学者・筧克彦の「普遍我」~我々1人1人の根底に存し、なおかつ単数形の〈我〉であり、我々の悉皆と同時に存在しつつ、個我としての我々とは対立している。かかる「普遍我」の存在は、あらゆる個
人を網羅して、これらとその存在に前後なき、当初よりの事実である、とされる。
(引用終わり)

 正直、これだけ読んでも、その論旨を理解するのは非常に困難でしょうね。けれども、虚心に石川教授の講義に耳を傾ければ、どこまで理解が及んでいるかはさておいて、非常に知的好奇心を刺激されること
は間違いありません。
 ここでは、動画撮影者である三輪祐児さんの感想を、そのFacebookから引用させていただきましょう。
 
(引用開始)
天皇退位問題をどのように考えたらいいのか。
石川氏の講義は、天皇機関説を巡る論争や京城学派の議論史を軸に展開して最後にはノモス主権論と立憲
デモクラシーの会のあり方に至った。統合の象徴性と人間宣言が「人間象徴」という概念を生み退位問題を複雑にしている。更に国体論からは「部分と全体」という問題に言及する。古代のインド哲学者から最先端の素粒子理論家まで常に悩ませてきた「部分と全体」問題が退位問題の世界にも存在すると知って少し興奮した。最後にカール・シュミットのノモス論を経て導かれた「至高の規範としての矩」は、安倍政権を継続せしめている多数決の原理を否定するということで立憲デモクラシーの会の現在の姿にまで言及された。最も大事な天皇と信仰の問題は次回、島薗先生との議論に持ち越しということで、いまからもう
胸がどきどきしている。
講師も質問者もみんなものすごくアタマ良すぎてとてもじゃないがついていくのが大変だったが、終わっ
てみればとても心地よい脳の疲労感。自宅で三回くらい映像を見て復習すれば、私でも少しは退位問題を語れるようになるだろうか。 
(引用終わり)
 
 尾高朝雄のノモス主権論について学ぼうという者は、書肆心水というところが2014年に刊行した『天皇制の国民主権とノモス主権論 政治の究極は力か理念か』という著書(1954年に刊行された『国民主権天皇制』の実質的増補改訂版)を読むのが常道のようですが、これはなかなか手強そうですね
 天皇制の国民主権とノモス主権論――政治の究極は力か理念か


 なお、三輪さんも書かれているとおり、立憲デモクラシー講座第Ⅱ期には、第7回が追加されることになりました。
 
(引用開始)
当初全6回の予定でした立憲デモクラシー講座第2期ですが、好評につき、さらに昨今の様々な情勢を鑑み、第7回(追加)講座を開催することになりました。

第7回 2017年6月28日(水)18:30~20:30 (開場18:00)
※いつもの金曜日ではなく、水曜日の開催になりますのでご注意ください。

会場:早稲田大学早稲田キャンパス3号館301教室(定員285名)
講師:島薗進上智大学特任教授・宗教学)
     石川健治東京大学教授・憲法学)
 
今回はいつもと趣向を変えて、教育勅語や宗教をめぐって、お二人の対談をもとに進めます。
※入場無料・申込不要・先着順
※新しい情報は決まり次第、掲載させていただきます。
(引用終わり)
  
 この第7回も非常に楽しみですね。是非(三輪さんの動画で)受講したいと思います。

(弁護士・金原徹雄のブログから/立憲デモクラシー講座)
2015年11月15日
佐々木惣一が発見した「国民の存在権」(憲法13条)と自民党改憲案~石川健治東大教授の講義で学ぶ(11/13立憲デモクラシー講座 第1回)
2015年12月12日
山口二郎法政大学教授による「戦後70年目の日本政治」一応の総括~12/11立憲デモクラシー講座 第3回)
2016年1月8日
中野晃一上智大学教授による「グローバルな寡頭支配vs.立憲デモクラシー」~1/8立憲デモクラシー講座第4回)
2016年1月31日
杉田敦法政大学教授による「憲法9条の削除・改訂は必要か」~1/29立憲デモクラシー講座 第5回)
2016年3月28日
立憲デモクラシー講座第6回(3/4三浦まり上智大学教授)と第7回(3/18齋藤純一早稲田大学教授)のご紹
2016年4月11日
立憲デモクラシー講座第8回(4/8)「大震災と憲法―議員任期延長は必要か?(高見勝利氏)」のご紹介(付・『新憲法の解説』と緊急事態条項)
2016年4月25日
立憲デモクラシー講座第9回(4/22)「表現の自由の危機と改憲問題」(阪口正二郎一橋大学教授)」のご紹介(付・3/2「放送規制問題に関する見解」全文)
2016年5月15日
立憲デモクラシー講座第10回(5/13)「戦争化する世界と日本のゆくえ」(西谷修立教大学特任教授)のご紹介
2016年6月16日
立憲デモクラシー講座第11回(6/3石田英敬東京大学教授)と第12回(6/10岡野八代同志社大学大学院教授)のご紹介
2016年10月22日
「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」スタート~第1回・白藤博行専修大学教授「辺野古争訟から考える立憲地方自治」(10/21)のご紹介
2016年11月21日
「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」第2回・木村草太首都大学東京教授「泣いた赤鬼から考える辺野古訴訟」は視聴できないけれど
2016年12月17日
「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」第3回・五野井郁夫高千穂大学教授「政治的リアリズムと超国家主義:丸山眞男の国際政治思想から現代世界を読む」のご紹介
2017年1月16日
「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」第4回・山口二郎法政大学教授「民主主義と多数決」のご紹介
2017年3月11日
「立憲デモクラシー講座・第Ⅱ期」第5回・青井未帆学習院大学教授「裁判所の果たす役割~安保法制違憲国家賠償請求訴訟を題材に」のご紹介

(弁護士・金原徹雄のブログから/石川健治さん関連)
2015年6月8日
憲法学者の矜恃~佐藤幸治氏、樋口陽一氏、石川健治氏(6/6「立憲デモクラシーの会」シンポジウムにて
2016年1月25日
「立憲デモクラシーの会シンポジウムin岡山」(1/22)中継動画を視聴して今後の企画に期待する
2016年2月6日
立憲デモクラシーの会・公開シンポジウム「緊急事態条項は必要か」を視聴する
2016年5月2日
憲法記念日を前に~「憲法学者、石川健治・東大教授に聞く」(毎日新聞・特集ワイド)を読む
2016年5月3日
憲法記念日に石川健治氏(東大教授)の論考「9条 立憲主義のピース」(朝日新聞)を読む
2016年11月4日
ダブル講演(11/3)「混迷する南スーダンの情勢と自衛隊の派兵:栗田禎子氏」と「立憲主義の破壊と『戦後』の終わり:石川健治氏」を視聴する
石川健治氏講演の一部文字起こし
「本来、正式な手続を践まないで、憲法の大きな枠組みを動かしてしまうということがはたして可能かどうかというと、これは憲法の中からは出てこない訳ですね。憲法内在的には説明がつかない訳です。こういう場合は、法学的にどう言うかというと、広い意味では「革命」という風に言う訳ですね。その「革命」には、下からの「革命」と上からの「クーデター」がある、こういうことでありますので、これを当てはめますと、2014年7月1日の閣議決定というのは、これは「クーデター」に当たると、こういうことになります。そのようにして、「法的安定性」を破壊しようとして、「法の縛りから自由になりたい」という風に政府が考えたということなんですね。ちなみに、こういう形で議論したのは、「96条改正」という2013年の議論を浮かび上がらせるためでもあった訳です。2013年の政府のプログラムは、「憲法を国民に取り戻す」というような感じであった訳ですね。国民のためにやってんだということであった訳ですが、これも、96条という手続によって縛られている権力、この場合は憲法改正権という権力が、96条という根拠規定を破壊して自由になろうと、こういうことである訳ですので、これはまた破壊行為であって、広い意味では「革命」に当たる訳です。そしてこの場合は、憲法改正権を持ってるのは国民でありますので、厳密に言いますと、政治家が国民に対して「革命」をそそのかしている構図になってる、こういう格好であった訳です。国民はそそのかされなかったんですね。そこで、踵を返して、今度は独自に「クーデター」を行ったと、こういう風に説明すると、安倍政権の憲法に対する一貫した、恐るべき一貫した姿勢が浮かび上がってくるし、また、逆にですね、その時その時で行われたこと、例えば96条改正論、あるいは閣議決定による集団的自衛権の行使容認、それぞれ意味が浮かび上がってくるんではないかという風に考えて説明した。そして、そこでさし当たり問題になっているのは、「法的連続性」の破壊である訳で、その破壊行為、これでいいのかということな訳です。ただ、他方ではですね、「法的安定性」を維持するのが法律家の最低限の務めだということになりますと、「革命」や「クーデター」によって起こった法についても、いずれはそれ自体の「法的安定性」を守らなくてはいけない時がくる訳なんです。こんな法制度だけれども、せめてこれを守ることによって、国民を守らなければいけない、あるいは末端の公務員・自衛官を守らなければいけないということになる、その時がくる訳です。この時が、おそらく「クーデター」の成功、あるいは「革命」の成功ということになると、こう思う訳ですね。そして、いつ終わったことになるのか、これを判定するのは難しいんですけども、参議院選挙が一つの大きな節目になるだろうという風に考えまして、私も、本当はこういうのは苦手なんですけども、いろんなメディアに出てみたりですね、やってみた訳ですが、結果はご案内のとおりということで、一歩「成功」に近付いた、大きく「成功」に近付いたというのが現状であります。現在、違憲訴訟を提起する動きがありますので、おそらく最高裁で「合憲」だというようなことになれば、ここで「クーデター」は「完成」ということになって、これの「法的安定性」を守るということに、力を注ぐのが法律家の使命だと、こういうこ
とになります。」
(略)
「ここで言う法学的意味での「クーデター」が完成した場合には、むしろこの法制度を動かさないために、新しい「法的安定性」を維持するために、新たな努力を始めるということになってしまうだろうと、こ
ういうことになる訳です。ですから、いつになるか分かりません。それほど近くない将来だとは思いますが、皆さんと一緒に行動していた法律家の姿がいつの間にか消えてしまうという日がくるかもしれない。その時がおそらく「戦後」の終わりということになるんじゃないかと思われます。できるだけそれがこないように、今後も努力したいと思いますが、そういう問題だという風にまず考えていただきたいというのがまず第1点です。」
2017年1月3日
「BSフジLIVE プライムニュース」テキストアーカイブから識者の発言を読む~石川健治氏、伊勢﨑賢治氏など