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立憲デモクラシーの会「安倍晋三首相による改憲メッセージに対する見解」を読む

 今晩(2017年5月24日)配信した「メルマガ金原No.2822」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
立憲デモクラシーの会「安倍晋三首相による改憲メッセージに対する見解」を読む

 一昨日(5月22日)午後3時から、衆議院第二議員会館において、立憲デモクラシーの会が、「安倍晋三首相による改憲メッセージに対する見解」を発表するための緊急記者会見を行いました。
 記者会見には、山口二郎氏(立憲デモクラシーの会共同代表、法政大学教授・政治学)の他、長谷部恭男氏(早稲田大学教授・憲法学)、石川健治氏(東京大学教授・憲法学)、青井未帆氏(学習院大学教授・憲法学)、西谷修氏(立教大学特任教授・哲学)の各氏が出席しました。
 会見の動画を探しているのですが、見つけられていないので、以下には朝日新聞デジタルの記事を引用しておきます(動画は見つけ次第、ブログ版に追加で紹介します)。
 
朝日新聞デジタル 2017年5月22日22時43分
首相改憲発言は「憲法を軽んじる言辞」 学者らが批判

(抜粋引用開始)
 5月3日の安倍晋三首相の改憲メッセージをめぐり、法学などの専門家でつくる「立憲デモクラシーの会」は22日、東京都内で記者会見し、「改憲自体が目的であるかのように、憲法を軽んじる言辞を繰り返すことは、責任ある政治家のとるべき態度ではない」と批判する見解を発表した。
 安倍首相はメッセージで、憲法9条1項と2項を残し、自衛隊の存在を明記すると主張した。これに対し見解では、「自衛隊はすでに国民に広く受け入れられた存在で、憲法への明記に意味はない」と指摘。首相が改憲の理由に「自衛隊違憲」とする学者らの見方を挙げていることについて、「憲法学者を黙らせることが目的であれば憲法の私物化」と批判した。
(略)
 見解では、高等教育の無償化についても「高等教育を受ける権利を実質的に均等化するために必要なことは、憲法改正を経た無償化ではなく、給付型奨学金の充実などの具体的な政策」として、憲法改正の必要はないと主張している。(編集委員・豊秀一)
(引用終わり)
 
 立憲デモクラシーの会の「見解」をご紹介する前に、安倍晋三首相の「改憲メッセージ」とはどういうものだったか、簡単におさらいしておきましょう。
 「メッセージ」という以上は、まずはこのビデオメッセージを想起すべきでしょう。
 今年の5月3日に東京の砂防会館で開かれた「第19回 公開憲法フォーラム」(主催:民間憲法臨調、美しい日本の憲法をつくる国民の会)に安倍氏が寄せたビデオメッセージです。全部で9分ある、結構長いものです。
 
 
 文字起こしについては、以下の朝日新聞デジタルの記事をお読みください(一部引用します)。
 
朝日新聞デジタル 2017年5月3日15時09分
憲法改正「2020年に施行したい」 首相がメッセージ

(メッセージ全文から抜粋引用開始)
 ご来場の皆様、こんにちは。「自由民主党」総裁の安倍晋三です。
 憲法施行70年の節目の年に、「第19回公開憲法フォーラム」が盛大に開催されましたことに、まずもって、お慶(よろこ)びを申し上げます。憲法改正の早期実現に向けて、それぞれのお立場で、精力的に活動されている皆様に、心から敬意を表します。
(略)
 憲法は、国の未来、理想の姿を語るものです。私たち国会議員は、この国の未来像について、憲法改正の発議案を国民に提示するための、「具体的な議論」を始めなければならない、その時期に来ていると思います。
(略)
 例えば、憲法9条です。今日、災害救助を含め、命懸けで、24時間、365日、領土、領海、領空、日本人の命を守り抜く、その任務を果たしている自衛隊の姿に対して、国民の信頼は9割を超えています。しかし、多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊違憲とする議論が、今なお存在しています。「自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ」というのは、あまりにも無責任です。
 私は、少なくとも、私たちの世代の内に、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、「自衛隊違憲かもしれない」などの議論が生まれる余地をなくすべきである、と考えます。
 もちろん、9条の平和主義の理念については、未来に向けて、しっかりと、堅持していかなければなりません。そこで、「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」という考え方、これは、国民的な議論に値するのだろう、と思います。
 教育の問題。子どもたちこそ、我が国の未来であり、憲法において、国の未来の姿を議論する際、教育は極めて重要なテーマだと思います。誰もが生きがいを持って、その能力を存分に発揮できる「一億総活躍社会」を実現する上で、教育が果たすべき役割は極めて大きい。
 世代を超えた貧困の連鎖を断ち切り、経済状況にかかわらず、子どもたちが、それぞれの夢に向かって頑張ることができる、そうした日本でありたいと思っています。
 70年前、現行憲法の下で制度化された、小中学校9年間の義務教育制度、普通教育の無償化は、まさに、戦後の発展の大きな原動力となりました。
 70年の時を経て、社会も経済も大きく変化した現在、子どもたちがそれぞれの夢を追いかけるためには、高等教育についても、全ての国民に真に開かれたものとしなければならないと思います。これは、個人の問題にとどまりません。人材を育てることは、社会、経済の発展に、確実につながっていくものであります。
 これらの議論の他にも、この国の未来を見据えて議論していくべき課題は多々あるでしょう。
 私は、かねがね、半世紀ぶりに、夏季のオリンピック、パラリンピックが開催される2020年を、未来を見据えながら日本が新しく生まれ変わる大きなきっかけにすべきだと申し上げてきました。かつて、1964年の東京五輪を目指して、日本は、大きく生まれ変わりました。その際に得た自信が、その後、先進国へと急成長を遂げる原動力となりました。
 2020年もまた、日本人共通の大きな目標となっています。新しく生まれ変わった日本が、しっかりと動き出す年、2020年を、新しい憲法が施行される年にしたい、と強く願っています。私は、こうした形で国の未来を切り拓(ひら)いていきたいと考えています。
(略)
 憲法改正に向けて、ともに頑張りましょう。
(引用終わり)
 
 もう一つ、衆議院予算委員会(5月8日)において、民進党長妻昭氏から憲法改正についての考えを質され、「自民党総裁としての考え方は詳しく読売新聞に書いているので、熟読していただければいい」と答えたことで一躍注目を浴びることになった、5月3日付・読売新聞掲載の「首相インタビュー」(と読売の紙面には書いてあります)です。読売に掲載されたインタビュー(収録は4月26日)そのものは、ビデオメッセージの内容とほぼ同一内容です。私の手許にある読売新聞大阪本社発行の「13S」では、4面1ページを使ってインタビュー全文が掲載されています。それを長々と書き写す気にもならないので、1面に読売自体が「安倍首相インタビューのポイント」を囲みでまとめていますので、それを引用しておきます。
 
2017年5月3日 読売新聞(朝刊)
安倍首相インタビューのポイント
(引用開始)
憲法改正を実現し、東京五輪パラリンピックが開かれる2020年の施行を目指す
自民党の改正案を衆参両院の憲法審査会に速やかに提案できるよう、党内の検討を急がせたい
▽9条の1項、2項を残したまま、新たに自衛隊の存在を明記するよう議論を求める。
憲法において教育は極めて重要なテーマで、(教育無償化に関する)日本維新の会の提案を歓迎する。
(引用終わり) 
 
 それでは、立憲デモクラシーの会による「安倍晋三首相による改憲メッセージに対する見解」の全文をご紹介します。
 「憲法自衛隊」については様々な立場がありますから、安倍首相メッセージに反論するにしても、どういう立脚点からそれを行うかということについて、立憲デモクラシーの会の内部でも色々議論があったのではないかと推測します。そのようなことも想像しながら、お読みいただければと思います。
(引用開始)
 5月3日、安倍首相は憲法改正の具体的提案を行った。9条の1項2項を残したまま、自衛隊の存在を新たに憲法に明記し、さらに高等教育を無償化する提案で、2020年の施行を目指すとのことである。
 
 自衛隊はすでに国民に広く受け入れられた存在で、それを憲法に明記すること自体に意味はない。不必要な改正である。自衛隊違憲だと主張する憲法学者を黙らせることが目的だとすると、自分の腹の虫をおさめるための改憲であって、憲法の私物化に他ならない。
 他方、現状を追認するだけだから問題はないとも言えない。長年、歴代の政府が違憲だと言い続けてきた集団的自衛権の行使に、9条の条文を変えないまま解釈変更によって踏み込んだ安倍首相である。自衛隊の存在を憲法に明記すれば、今度は何が可能だと言い始めるか、予測は困難である。
 安倍首相は北朝鮮情勢の「緊迫」を奇貨として9条の「改正」を提案したのであろうが、たとえ日本が9条を廃止して平和主義をかなぐり捨てようとも、体制の維持そのものを目的とする北朝鮮核兵器やミサイルの開発を放棄することは期待できない。憲法による拘束を緩めれば、軍拡競争を推し進め、情勢をさらに悪化させるおそれさえある。国民の6割が手をつけることに反対している9条を変更する案としては、理由も必要性も不透明なお粗末な提案と言わざるを得ない。
 
 高等教育の無償化の提案も必要性が不明である。憲法の条文に高等教育は無償だと書いただけでは、無償化は実現しない。そのための財政措置が必要である。他方、財政措置が整いさえすれば、憲法を改正する必要はない。
 高等教育を受ける権利を実質的に均等化するために必要なことは、憲法改正を経た無償化ではなく、給付型奨学金の充実などの具体的な政策であることは、明らかである。
 
 何より問題なのは、理由も必要性も不透明な生焼けの改憲を提案し、批判を受けると「代案を示せ」と言い募る安倍首相の憲法に対する不真面目さである。改憲自体が目的であれば代案を出せということにもなろうが、改憲が自己目的であるはずがない。不要不急の改憲をしなければよいだけのことである。憲法の役割は、党派を超え世代を超えて守るべき政治の基本的な枠組みを示すことにある。簡単に変えられなくなっているのは、浅はかな考えで政治や社会の基本原則に手を付けるべきではないからであり、山積する喫緊の日常的政治課題に力を注ぐよう促すためである。日本政治の現状を見れば、最高権力者は、国家を「私物化」し、説明責任を放棄し、法の支配を蔑ろにしていると言わなければならない。そもそも憲法は権力者による恣意的な権力の行使を防ぐためにあるという立憲主義の原理をここで再確認する必要がある。このような状況で改憲自体が目的であるかのように、憲法を軽んじる言辞を繰り返すことは、責任ある政治家のとるべき態度ではない。
 
2017年5月22日
立憲デモクラシーの会
(引用終わり)