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「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案」は憲法に違反していると思う

 今晩(2017年6月1日)配信した「メルマガ金原No.2830」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
天皇の退位等に関する皇室典範特例法案」は憲法に違反していると思う

 報道によれば、5月19日に衆議院に内閣が提出した「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案」が、本日(6月1日)、法案が付託された議院運営委員会で審議入りしたとのことです。審議入り、というか、明日には本会議で採決して参議院に送られる見込みということです。
 
日本経済新聞 2017/6/1 12:02
退位法案「将来の先例」 官房長官、一代ごとに特例法

(抜粋引用開始)
 天皇陛下の退位を実現する特例法案が1日午前、衆院議院運営委員会で審議入りした。菅義偉官房長官は特例法案について「天皇陛下の退位を実現するものであるが、将来の先例となり得る」との見解を表明した。将来の天皇が退位する場合、同様の特例法を制定すれば退位が可能になるとの認識を示したものだ。
 特例法は同日午後に衆院議運委で可決される。2日に衆院本会議で可決、参院に送付され、今国会で成立する見通しだ。
 菅氏は、天皇の意思を退位の要件とすることは天皇の政治関与を禁じる憲法4条に反するとして、恒久化ではなく、陛下一代限りの特例法が望ましいと説明。「女性宮家」創設の検討など皇位の安定継承策については「法施行後の具体的な検討に向けて適切に対応したい」と述べた。法施行前も含めて何らかの検討をする考えを示唆した。
 皇位継承のあり方を定めた皇室典範と特例法は「一体を成す」との付則規定を巡っては、皇位の継承を皇室典範で定めるとした憲法2条に「違反する疑義は生じない」と強調した。
 特例法案は退位日は特例法の施行日とし、施行日は公布から3年を超えない範囲で、皇室会議の意見を聴いて決めるとした。菅氏は施行日の決定に関して「改元などによる国民生活への影響を考慮しなければならない」と指摘。ただ施行日の努力目標を設けることは難しいとの認識を示した。
 退位後の呼称について「天皇」を含まない「上皇」とした理由を「歴史上、国民に定着している。象徴や権威の二重性を回避する観点からだ」と説明した。
(略)
 自民党茂木敏充氏、民進党馬淵澄夫氏、公明党北側一雄氏への答弁。衆院議運委は1日午後、女性宮家創設の検討を政府に求める付帯決議案も採決する。審議には大島理森川端達夫正副議長も出席した。
 共産党は特例法案の修正案を議運委理事会に提出した。修正案が否決された場合、政府案と付帯決議案に賛成する。
(引用終わり)
 
 審議の模様は、衆議院インターネット審議中継で確認できます。
 与野党手打ち済みの内容で、附帯決議を付した上で委員会採択が行われました。
 
 しかし、いかに与野党合意があろうとも、「これっておかしくないか?」とひとこと言っておきたいと思います。

 日本国憲法第2条は皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」と定めています。
 内閣及びこの法案に賛成した与野党各党は、特例法の附則第3条において、次のように定めているので問題ない(憲法違反にはあたらない)としているようです。
皇室典範の一部を次のように改正する。
  附則に次の一項を加える。
   この法律の特例として天皇の退位について定める天皇の退位等に関する皇室典範特例法(平成二十九年法律第▼▼▼号)は、この法律と一体を成すものである。」
 
 しかし、あくまで「特例法」は「特例法」であって、この法律によって退位できるのは、今上天皇(平成天皇)だけです。
 ここで、本日衆議院委員会を通過した法案の本文及び附則の一部を読んでおきましょう。
 
第一九三回 閣第六六号
天皇の退位等に関する皇室典範特例法案

 
(趣旨)
第一条 この法律は、天皇陛下が、昭和六十四年一月七日の御即位以来二十八年を超える長期にわたり、国事行為のほか、全国各地への御訪問、被災地のお見舞いをはじめとする象徴としての公的な御活動に精励してこられた中、八十三歳と御高齢になられ、今後これらの御活動を天皇として自ら続けられることが困難となることを深く案じておられること、これに対し、国民は、御高齢に至るまでこれらの御活動に精励されている天皇陛下を深く敬愛し、この天皇陛下お気持ちを理解し、これに共感していること、さらに、皇嗣である皇太子殿下は、五十七歳となられ、これまで国事行為の臨時代行等の御公務に長期にわたり精勤されておられることという現下の状況に鑑み、皇室典範(昭和二十二年法律第三号)第四条の規定の特例として、天皇陛下の退位及び皇嗣の即位を実現するとともに、天皇陛下の退位後の地位その他の退位に伴い必要となる事項を定めるものとする。
 (天皇の退位及び皇嗣の即位)
第二条 天皇は、この法律の施行の日限り、退位し、皇嗣が、直ちに即位する。
 (上皇
第三条 前条の規定により退位した天皇は、上皇とする。
2 上皇の敬称は、陛下とする。
3 上皇の身分に関する事項の登録、喪儀及び陵墓については、天皇の例による。
4 上皇に関しては、前二項に規定する事項を除き、皇室典範(第二条、第二十八条第二項及び第三項並びに第三十条第二項を除く。)に定める事項については、皇族の例による。
 (上皇后)
第四条 上皇の后は、上皇后とする。
2 上皇后に関しては、皇室典範に定める事項については、皇太后の例による。
 (皇位継承後の皇嗣)
第五条 第二条の規定による皇位の継承に伴い皇嗣となった皇族に関しては、皇室典範に定める事項については、皇太子の例による。
   附 則
 (施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、第一条並びに次項、次条、附則第八条及び附則第九条の規定は公布の日から、附則第十条及び第十一条の規定はこの法律の施行の日の翌日から施行する。
2 前項の政令を定めるに当たっては、内閣総理大臣は、あらかじめ、皇室会議の意見を聴かなければならない。
 (この法律の失効)
第二条 この法律は、この法律の施行の日以前に皇室典範第四条の規定による皇位の継承があったときは、その効力を失う。
 (皇室典範の一部改正)
第三条 皇室典範の一部を次のように改正する。
  附則に次の一項を加える。
   この法律の特例として天皇の退位について定める天皇の退位等に関する皇室典範特例法(平成二十九年法律第▼▼▼号)は、この法律と一体を成すものである。
第四条~第十一条 省略
 
 第1条は経過を説明する事実上の前文なので、実質的な条文は第2条から始まりますが、第2条の「天皇」とは今上天皇のことであり、「皇嗣」とは現在の皇太子のことです。第3条の「上皇」とは、今上天皇の退位後の称号であり、第4条の「上皇后」とは、現在の美智子皇后今上天皇退位後における称号のことです。第5条の「第二条の規定による皇位の継承に伴い皇嗣となった皇族」とは秋篠宮のことです。
 つまり、特例法とはそういうことです。
 いくら、菅官房長官が、「将来の先例となり得る」と答弁したところで、「皇室典範と一体を成す」はずの今回の特例法を次の退位には絶対に適用できません。つまり、退位を実現しようとすれば、その都度、新たな特例法を作らねばならないということになります。形の上だけ特例法が皇室典範と「一体を成すものである」などという一文を附則に書き込んだところで、憲法第2条が「皇位は、・・・国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」とした規定の趣旨がそれで満たされるとは到底考えられません。
 憲法が、わざわざ「国会の議決した皇室典範の定めるところにより」と規定したのは、皇位継承の原因、順序などの最も基本的な事項は、国民の代表である国会が衆議の上明確な基準を皇室典範で定め、具体的な皇位継承は、皇室典範があらかじめ定めた基準に準拠して行われなければならないという趣旨からのはずです。
 しかるに、死亡(崩御)による皇位継承を本則としながら、特例法を作れば生前退位も「認められるかもしれない」というような不安定な皇位継承憲法が想定しているとはとても思えません。
 やはり、この特例法案は日本国憲法第2条に違反すると思います。
 
 昨年の12月に、朝日新聞が木村草太氏の見解を「特例法、違憲の疑い残る」として紹介しましたが(有料記事なのでリンクしません)、他の憲法研究者の皆さんは、どう考えておられるのでしょうか?どこかがアンケートをやって欲しいけど、野党も全部賛成しているし、どこもやらないだろうなあ。
 
 なお、この法案の附則を子細に眺めていると、他にも色々考えるところがあります。
 附則に、「上皇」や「上皇后」などが出てくれば、もちろん、現在の今上天皇美智子皇后のことであり、様々な規定も、全て特定の人物にしか適用がなく、将来、同じような立場になった者にそのまま適用されることはありません(特例法ですから当たり前です)。
 たとえば、附則第7条は、「第二条の規定により皇位の継承があった場合において皇室経済法第七条の規定により皇位とともに皇嗣が受けた物については、贈与税を課さない。」とあるのは、「今回の」皇位継承にしか適用はなく、もしも将来新たな生前退位に基づく皇位継承があったとしても、(結論は同じになるにしても)この規定は適用できません。
 また、附則第十一条では、退位後の宮内庁における職制を改める必要があるため、様々な規定を置いていますが、これは「恒久法」である「宮内庁法」の一部改正なのです。特例法に基づく一代限りの皇位継承に対応するための職制の整備を恒久法の改正で行わざるを得ないという、不思議と言えば不思議、みっともないと言えばみっともない、今回の特例法の無理が集約されたのがこの宮内庁法の一部改正でしょう。
 
 あと、この特例法の第2条から第5条までの、どこを読んでも、生前退位についての「天皇の意思」は要件とされていません。第1条の前文に、それは臭わしていますけどね。結論ありきの特例法ですからこういうことになっているのですが、皇室典範に「生前退位」を制度として書き込むとすれば(憲法はそれを要求していると思います)、天皇の自発的意思であることをどう制度的に保障するかについての規定が是非とも必要になるでしょう。
 
時事ドットコム(2017/06/01-16:51)
付帯決議全文=天皇退位

(引用開始)
 1日に衆院議院運営委員会で可決された退位特例法案の付帯決議全文は次の通り。
一 政府は、安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について、皇族方のご年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題であることに鑑み、本法施行後速やかに、皇族方のご事情等を踏まえ、全体として整合性が取れるよう検討を行い、その結果を、速やかに国会に報告すること。
二 一の報告を受けた場合においては、国会は、安定的な皇位継承を確保するための方策について、「立法府の総意」が取りまとめられるよう検討を行うものとすること。
三 政府は、本法施行に伴い元号を改める場合においては、改元に伴って国民生活に支障が生ずることがないようにするとともに、本法施行に関連するその他の各般の措置の実施に当たっては、広く国民の理解が得られるものとなるよう、万全の配慮を行うこと。
(引用終わり)

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2012年3月19日(2013年2月24日に再配信)
3/11天皇陛下の「おことば」とマスコミ報道
2013年4月4日
「主権回復の日」式典と天皇陛下
2013年10月30日
五日市憲法草案を称えた皇后陛下の“憲法観”
2014年1月6日
天皇陛下の“日本国憲法観”(付・「陛下」という敬称について) 
2014年1月14日
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